【10月1日(木)】

 やっと更新されたSFオンラインを読む。大会のとき見なかった、「日本SFの現状(SFセミナー名古屋出張版)」が載っててラッキー。というか、生で見てなくてよかったかも。

 まあ日本SFの現状を肯定的にとらえる人はいてもいいんだけど、レッテルにこだわらないんなら、ほっとけばいいじゃん。オレはSFらしいSFがもっと読みたいし、現状には全然満足してない。SFと謳わないSFは、どっか無理してるのがほとんどなわけでしょ。だからこそ、「中身はモロに堂々とSFというものを」出したいなんて発言が出てくるんじゃないの。

「サブジャンルとかメインジャンルという言い方自体がおかしい」と言ってる一方で、「底辺がどんどん広がっていくというのはあるけれど、コアの部分が増加しているわけではない」とか言ってるわけでしょ。「底辺」とかいう言葉遣いするくらいなら、まだしも「サブジャンル」って言うほうがましだと思うけど。

「プロパーSFという言い方には意味がない」と言い、「主流文学の作家でもミステリー系の作家でも、自分が面白いと思ったSFを書いた作家はプロパー作家とまったく同じ扱いで、同列に並んでいます」と星敬は発言するわけだが、「日本SF 1988−97」では、明らかにプロパー作家かどうかの線引きがある。筒井康隆が書けば『文学部唯野教授』 も『フェミニズム殺人事件』もSFなんでしょ。

 作品ごとに評価するというのなら、きちんとその作業をやってほしい。ひかわ玲子、菅浩江、山本弘、井上祐美子 狩野あざみ……とSFファンダム出身作家なら(オレの目から見て)とうていSFと呼びがたいものまで拾うけど、そうじゃない作家のヤングアダルトはほとんど無視でしょ。ヤングアダルト系ファンタジーもSFだっていうなら、いちばん落とせないのは氷室冴子と小野不由美だろうに。だから、「ヤングアダルトは量が多すぎて知り合いの新刊しか読めないのであとは知りません」と言ってくれればいいんだよね。オレだってそれに近い状態だからさ。

「ジュニア小説の作家として大成していく作家もいるのだけれど、中にはチャレンジしてみませんかとアプローチをかけてみれば、大バケしてくる作家もかなりいると思うんだ。そういった意味ではあそこもちゃんと見ていないと、損をするかなと。損をするというのは、読者として損をする」

 みたいな言い方は、ヤングアダルトに名誉白人の称号を与えてその一部をSFに回収しようとするSF者の独善の典型でしょう。だったらいっそU-kiさんみたいに、「ライトノベルは基本的に子供だまし」という先入観で押し通すほうがまし。

 オレは、ヤングアダルトのSFが「ヤングアダルトである」という留保条件抜きで「SF」になってるとは思わない。どうしたって容れ物の制約はある。

 ただし、今や留保条件がつくのは、新潮社や角川の四六判書き下ろしでもおなじこと。レッテルが「ミステリー」や「ホラー」なら、そのレッテルに対する配慮がある程度までなされているわけで、笠井潔の言う「冠つきSF」にならざるを得ない。つまり、「堂々とSF」が事実上存在しなくなったいま、ヤングアダルトレーベルから出るSFの重要度がオレの中で相対的に高まっているという事情はある。だいいちヤングアダルト以外じゃ、宇宙SFって荒巻義雄のアレだけだもんな。

「ここ何年かの話をさせてもらうなら、じつはSFと名乗ってはいなくて主流文学やエンターテインメントやミステリーや、冒険小説の皮をかぶってはいるけれど、ほとんどSFである。特にここ最近出てくる主流文学系の新人賞をとった作品はほとんどみんなSFです」

 とか言われても、この十年の推薦リストに『黒い家』(サイコサスペンス)だの『神々の山嶺』(山岳冒険小説)だのを入れてる人の発言では、「それはなんでもSFに見えてるだけなんじゃないの」って気がしちゃうわけですよ。それじゃこないだのダ・カーポの、「「従来のミステリーの枠」を越えた作品がどんどんミステリーから出てきてる」ってのといっしょ。

 いや、オレが面白いと思うものがSFだって人はそれでいいんだけど、それでSFの出版点数が千点越えたとか、豊作だとか言われても同意する気にはなれないっす。


【10月2日(金)】

 3時、早川書房でSFインターセクションの高野史緒インタビュー。『ヴァスラフ』の話がメインで一時間ぐらい。ニジンスキーというと、青池保子の絵が自動的に浮かんでくる人間なんですが、サイバーダンス・バレエな世界はけっこうハマるかも。

 家に帰ったら、ちょうど「彼氏彼女の事情」のBパートがはじまるところ。録画予約してあったんで、終わったあとAパートにもどって見直したんですが、フミヤのオープニングはどうなったの? また途中からなんだっけ。

 内容的には予想通りっていうか、ギャグセンスではやっぱり最盛期のこどちゃには勝てないんだけど、第一回としては悪くない仕上がり。月野と花野はよかったな。

 カレカノって、原作は最初の4話ぐらいでやりたいことやっちゃって、あとはふつうの学園ドラマになってしまうので、後半をどうもたせるかが勝負かも。セリフとかほとんどいじってないのは「ラブ&ポップ」といっしょだけど、演出もかなりストレートでしたね。まあ、「マサルさん」のあとではすべてふつうに見えてしまうってとこもあるんだけど。

 はたしてカレカノは大地丙太郎を越えるのか。ってことで、まだしばらく見るでしょう。


【10月3日(土)】

 3時、新宿プラザで「プライベート・ライアン」。二週めなのに満員。最近、やたら劇場が混んでる気がするんですが、気のせいでしょうか。

 冒頭30分のノルマンディー上陸作戦は無敵。なにがやりたいんだかあまりにも中途半端でダメすぎるシナリオも、戦闘シーンで救われている。でも3時間は長すぎ。

 映画終わってから馬場に出てユタ。後輩のひとによると堺三保は「くんほう様」だそうである。肉を食べると不滅のSF魂が宿るらしい。宿りたくないけど。

 家に帰ったら、山形浩生ページがたいへんなことになってました。「alt.culture 原稿」ページね。山形らしいと言えばらしいが、それにしてもなあ。ちなみにPVGOっていうのは、Present Value of Growth Opportunitiesらしい。それならオレはゼロだな(笑)

 でも、「あなたたちは SF ファンダムを捨てたくせに」っていうのは違うと思った。


【10月4日(日)】

 ぼちぼちまた《本の雑誌》の締切なので、朝からひたすらSFを読む。

 紆余曲折のあげくようやく出版されたニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』を読む。ピザ配達お兄ちゃんとバイク便少女のバディ物。思わず声を出して笑っちゃったギャグがいくつか。日本のTVアニメ原作に最適な感じ。サムライ・フィクション成分もちゃんとあるし。これはもう90年代サイバーパンクの最高峰だね。

 ギブスンとの違いは、黄金時代系のSFネタが入ってるとこだけど、処理の仕方はまるで山田正紀。ディテールすっとばしてイメージ説明のみ。したがってリアリティは全然ないのだが、それを中心にプロットがまわってるわけじゃない――というか、表面上はたしかにそのアイデアが軸になってるんだけど、ほとんど狂言まわしで、小説の力点が置かれてない。ナデシコのSF設定みたいなもんですね。

 伝統的なサイエンスフィクションに敬意を払うフリをしつつ、じつは全然そういうものを信じてない感じが非常に好き。ハマる。ウォルター・ジョン・ウィリアムズに必要だったのはこのセンスでしょう。

 中盤のストーリーテリングが下手すぎるのが難点だが、ディテールがこれだけ面白ければオレ的にはオッケー。いまんとこ今年のベストワン。The Diamond Ageが楽しみ。

 ファインタックの三冊めは、ほとんど自虐的ハードボイルド。というか、ハードボイルドの世界では死滅したパターンですね。次々に襲いかかる絶望的状況の中で苦闘する主人公。勝手にやってろっていうか。一冊目のときはギャグだと思って大笑いしながら読んでたけど、いいかげんうんざり。話の構造は『星界の戦旗2』とおんなじなんだけど、分量は3倍だし。


【10月5日(月)】

 ひさしぶりにエグザスで泳ぎつつ、ホーガン『量子宇宙干渉機』を読む。昔と違って、お話の前提に関する議論がまったくないので(「多世界ってもんがあると思いねえ。それが相互に干渉するから『量子宇宙干渉機』だ」「多世界ってのは干渉するもんなんですかい?」「あたりまえだ。干渉しなきゃ量子宇宙干渉機にならない」とか)、はいはいそうですかと思いながら読むしか。しかし政府側の人ってああいうこと考えないと思うんですが。

 宮部みゆき『クロスファイア』(カッパノベルズ近刊)のゲラを読む。『鳩笛草』に入ってる「燔祭」(念力放火の話)の長編版後日譚。超能力者とヴィジランティズムの問題は、グールドの「ジャンパー」でも検討されてましたが、こちらはもっと徹底してます。

『屍鬼』が『呪われた町』と対決してるとすれば、これは『ファイアスターター』と対決する話。今年の日本SFベスト5には入りそう。

 日記オフに参加表明したので、「日本Web日記学会(仮称)」に入会すべく、過去に日記について書いた文章をまとめました。昔のばっかりだけど。

 ついでに前回分から、日記本文その他のレイアウトを全面的に変更。森太郎の助言を入れて行間を空け、思想的まちがいに目をつぶってblockquoteタグで余白をつくることに。

 あと、ネットアイのアクセスランキングにも登録してみました。自分でcgi動かすより簡単かも。


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