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『文学賞メッタ斬り!』、PARCO出版より3月18日刊。(→amazon | bk1)。ISBN:4-89194-682-2
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』、早川書房海外SFノヴェルズより4月中旬刊行予定。(→amazon | bk1)。ISBN:4-15-208553-3
●シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon
新・新・大森なんでも伝言板開設しました。
4月1日『メッタ斬り!』トークショー開催予定

【3月1日(月)】


 寝かせてあった「最後のウィネベーゴ」翻訳テキストを直して送信。基本的には一人称ハードボイルド文体だろうと思うんだけど、コニー・ウィリスだといまいちハードボイルドにならない。まあ、いやになるほどうまい小説なんだけど。テクノロジー予測的な部分に全然説得力がない欠点もコニー・ウィリスらしい。

 五輪最終予選、バーレーン×日本をTV観戦。フル代表につられたように出来が悪かったけど、最後の10分にパワープレーで是が非でも点をとりにいく姿勢をはっきり見せたのはよかったんじゃないですか。しかしあれで負けてたらクソミソに言われただろうな。30番の人はけっこう怖い。
 問題はバーレーンが日本との戦い方の立派な見本を最初に見せてしまったこと。まあレバノンとUAE相手の試合は大丈夫な気もするが。だからといってバーレーンがUAEに勝つとは限らないしなあ。

 またしても柳下様経由で14日のバーレーン戦は手配済みなんですが、その試合が天王山になるような気も。



【3月2日(火)】


 つづいてコニー・ウィリス特集用の「白亜紀後期にて」を仕上げて送信。こちらは「リアルト・ホテルで」系列の科学者コメディ。たまたま両方とも絶滅ネタですね。でも傾向は正反対。「ウィネベーゴ」で泣いて「白亜紀後期」で笑ってください。

『クウガ』を最後まで見終わったんでぼちぼち『アギト』を見てるんだけど、芝居がつらくてなかなか見てられません。井上敏樹脚本が肌に合わないのかも。『クウガ』でも荒川稔久脚本回のほうが明らかに面白い気がしたからなあ。



【3月3日(水)】


 ラストリファラーから「たまとわ」経由で、中俣暁生さんの「陸這記」。しばらく読んでないうちに新人類の話に。
 前回の日記でオレが『東京アリス』に触れて、「同世代の人間」と書いたときに漠然と頭にあったのはたぶん「新人類世代」。
 大学を卒業して東京で暮らしはじめたころ、瞬間的にめちゃくちゃハマったのが、《週刊本》で出た中森明夫・田口賢司・野々村文宏の鼎談集『卒業』。「ヘーゲル大好き。松本伊代」で有名。いま本がどこにあるかわかんないので、該当箇所が引用されてる「ARTIFACT」にリンクしておきます。
 加野瀬氏は、「新人類といわれた人たちの当時の文章の恥ずかしさ」という文脈で紹介してるんだけど、当時からこれは明らかにギャグだった。「伊代ちゃんも大好きなんだよ、ヘーゲルが」とか、(少なくとも同世代の読者である大森にとっては)大笑いのネタだったわけで、それはキラー通りでアンタンシテがどうしたこうしたっていう序文から一貫してました。爆笑オンエアバトルで妙に濃いおたくネタやってるような感じ?

 それはともかく、この『卒業』に強く影響された大森は、暗いSFおたくはもう流行らない、これからは明るいSFおたくだよね。とか思って、会社のオアシスで親指シフトキーボードを叩き、《新少年》っていう地下出版(笑)限定配布コピー誌の創刊号に「新少年宣言」って文章を書いたんでした。たぶん今となってはたぶんめちゃくちゃ恥ずかしい文章だと思いますが、その頃は表だって「SF大好き」と言うことが重要。みたいな気分だったのである。
 もしかするとこれは関西ファンダムから東京ファンダムにやってきたばかりの時期だったというのが微妙に影響してるかも。
 考えてみると、現役のSF作家・SF翻訳者はいわゆる「新人類世代」(1960年ごろ生まれ?)が中心を占めてるのに、SFの文脈で「新人類」が語られることがほとんどないのは、それが東京ローカルな流行で、関西圏にはほとんど関係ない話だったからかもしれない。

 まあしかし、この当時、ヘーゲルと松本伊代が並列されるっていうのは新鮮だったわけで、新人類世代的な気分の一時的高揚とともに、《小説奇想天外》の「海外SF問題相談室」だの『ザップ・ガン』の解説だのをぶっ書いて、各所で顰蹙を買ったりしてたらしいんだけど、まあ若いうちはそういう態度も必要なんじゃないかと。認めたくないものだな以下略的な気分もありますが、そこが出発点になってるんだからしょうがない。



【3月4日(木)】


 コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』(→amazon | bk1)のプリントアウト校正中。早川書房の眼光紙背に徹するベテラン校正者&ベテラン編集者コンビがみっちり見てくれてるんで大いに助かりますが、こう長いと読むだけでもたいへん。『航路』をしのぐ大量の引用も頭が痛い。ていうか、画面校正の時間も含めると、訳文の入力にかかった時間をはるかにオーバーして校正しているような気が。いつになったら終わるんだろう。いいかげん終わらせないと本が出ないんだけど。



【3月5日(金)】


 virtual avenueの無料掲示板が消えたあと、どうしようかと思ってたんですが、結局めんどくさくなって、「ネタバレ禁止青山掲示板」の移転先と同じkent parkでレンタルして、新・新・大森なんでも伝言板を開設しました。『メッタ斬り』ネタもそちらでどうぞ。
『航路』ネタバレ板のほうは、コニー・ウィリス専用掲示板になる予定。

 徳間文芸賞受賞パーティ@東京會舘ローズルーム。いつもぐらいの人出だが、芥川賞・ 直木賞のあとでは異様に空いているように見えたり。
 山岸真と会ったら、開口一番、
「『クウガ』より『アギト』のほうが面白いなんて言うのはミステリの人だけです!」
 と力説される。いや、『アギト』を10話ぐらい見た範囲では、わたしも『クウガ』のほうがはるかにいいと思いますが、そんな力いっぱい言わなくても(その後、新・新・大森なんでも伝言板 で、小林泰三からも同様の発言が(笑)。『クウガ』より『アギト』が面白いと一言いうだけでSFおたくがどんどん釣れるのか?)。
 あとはロバート・リード『地球間ハイウェイ』(伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫SF)の訳者あとがきについてとか。あと、タニス・リー『バイティング・ザ・サン』(環早苗訳/産業編集センター/本体価格\1,280)はなんでこんなに安いのかとか。出てること全然知らなくてあわててbk1で注文して買ったんですが、これってオレが高校の頃に原書で最後まで読んだほとんど最初の本なんだよな。訳書はわりと最近になって出た合本版の全訳なんだけど、もともとはDon't Bite the Sun と Drinking Saphire Wine っていう、DAWのたいへん薄いペーパーバックだった。それがたまたま高知の本屋に入ってて、このぐらい薄ければ読めるだろうと思って読んだんですね。いや懐しい。この頃のリーはBirthgraveでデビューした新進SF作家だったんでした。もう30年近く昔だもんなあ。いやはや。
 ステープルドンの『最後にして最初の人類』(浜口稔訳/国書刊行会/本体価格\2,800)も、『スターメイカー』再刊に続いてとうとう出ちゃったし、今月はたいへんです。

 あ、ちなみにコニー・ウィリス『リメイク』が復刊してます。持ってない人はこの機会にぜひ。しかしどうせなら『わが愛しき娘たちよ』を復刊してほしかったなあ。



【3月6日(土)】


 高田馬場ルノワールでSFの例会。今日はなんだか人が多い。芳林堂に寄ったら、SF人妻とその夫の人がいて、文遊社の《鈴木いづみコレクション》の第二期というか、《鈴木いづみセカンド・コレクション》がスタートしているという事実を教えられる。あわてて買ったのがその第一弾、『ぜったい退屈』。表題作は《SFアドベンチャー》に載った遺作。「カラッポがいっぱいの世界」と並ぶ晩年の傑作ですね。その他、「朝日のようにさわやかに」「離婚裁判」「煙が目にしみる」「想い出のシーサイド・クラブ」「わすれない」というラインナップ。これで主要作品はほぼ単行本化されたわけですか。すばらしい。

 ところで鈴木いづみと言えば、いまから十年以上前、《本の雑誌》1992年5月号の「旧刊十二番勝負」という企画で原稿を頼まれて、鈴木いづみ『恋のサイケデリック!』を紹介したことがある(html化してなかったことに気がついたので、いまftpしておきます→「旧刊十二番勝負その五 鈴木いづみ『恋のサイケデリック!』」)。
 この原稿がきっかけになって、その後、文遊社で出た《鈴木いづみコレクション》の『恋のサイケデリック』に解説を書くという栄誉を与えられたんだけど、このときいちばん驚いたのは、この《本の雑誌》が出た直後に、中森明夫氏が《SPA!》のコラムで鈴木いづみをとりあげて、「鈴木いづみアンコール!大森望さんへの手紙」という文章を書いたこと。いま考えるとそんなに不思議はないけど、当時はめちゃめちゃ意外だった。だいたい鈴木いづみって、「忘れられたSF作家」だと思ってたし。そういえばこれって中森文化新聞の頃ですかね。
 というわけで妙に話がつながるのだった。



【3月7日(日)】


『犬』の校正地獄はまだまだつづく。



【3月8日(月)】


 まだまだまだつづく校正。でもなんとか終わりが見えてきた。

 タニグチリウイチ「裏日本工業新聞」を読んでて、「「増補改訂版」として出された「押井守の世界」(徳間書店、2200円)」に自分の昔の原稿が載っていることをはじめて知る。というか、そんなのが出たことも知らなかったんですが、『イノセンス 押井守の世界 Persona』ってやつですか。
 雑誌の再刊(買い切りの原稿)について再使用料が発生するかどうかは微妙な問題なんだけど(ふつうは一回のみの掲載権を独占的に売り渡すって解釈だと思う)、せめてひとこと連絡があってもいいんじゃないですか。だいたいこれ、雑誌コードなのかどうか知らないけど、もとのやつの体裁はムックだし。つーか、せめて見本誌ぐらいは送ってきてほしい。増刷だから関係ないってこと? でもタイトルも違うしなあ。一瞬、内容証明でも送ってやろうかと思いました。
 まあしかし、タニグチリウイチも書いてるけど、10年はひと昔どころじゃないね。
 コンピュータはまだまだ家電並みに使いやすいとはいえないし、だれでもインターネットで遊べる状況にはほど遠いにしても、多少の努力と投資さえ惜しまなければテクノロジーはすでに個人の手の中にある。技術的に見れば、Prologue21でミスチルの新曲をリクエストするのも、プレイステーションで新作ソフトを遊ぶのもそれとおなじ。むしろ技術が成熟すればするほど、ユーザーの目からは見えなくなってゆく。そして、「フィロソマ」の3Dグラフィックがいくらかっこよくても、そこに未来のビジョンがあるわけではないのと同様に、ぼくらを包囲するハイテクの山は現在進行形の道具でしかない。
とか書いてて、もはや笑うしかない。
 
 しかしけっきょく、世界を変えたのは大きなテクノロジーではなく小さなテクノロジーだった。ウォークマンやパーソナルコンピュータや通信カラオケが個人レベルで浸透し、生活環境をじょじょに変革する。大きなテクノロジーの幻想にしがみつく情報スーパーハイウェイ構想のウソっぽさをよそに、「ふつうの電話でできること」が文化の枠組みを変えてゆく。そして気がつくと、ぼくらの生活はいつのまにか、かつて未来的だったはずのもので埋めつくされている。「指先に情報を」というマイクロソフトのスローガンが現実のものになったいま、かわるべき新しい未来はない。将来という名の、永遠につづく現在があるだけだ。」
みたいな話からサイバーパンクへ持っていって、
「テクノロジーを使いこなすことについての物語を、テクノロジーを使いこなすことによって映像化したのが「GHOST IN THE SHELL」だともいえる。テクノロジーの善悪を語るのは徒労だし、テクノロジーによる変化をおそれてもしかたがない。テクノロジーには善も悪もなく、変化は静かに否応なくやってくる。問題は「どう変わるか」だ。そして、もはや未来が存在しない以上、ぼくたちはいますぐ、自分がどう変わりたいかについて考えはじめなければならない。そのことだけを語る「GHOST IN THE SHELL」は、まぎれもなく現在の映画なのである。
と締めるあたりの書きっぷりは、上のほうで書いた1980年代スタイルをもろ引きずってますね。いやはや。ここまで来るともはや他人の原稿なんでどうでもいいけど。うーん。



【3月9日(火)】


 ようやく『犬』のプリントアウト校正終了。最初から最後まで紙でびっちり読み直したわけですが、いやあ、面白いわ、これ。自分で訳しといて自分で噴き出しそうになるもんな、ところどころ。
「魂はみずからの社会を選ぶ以下略」とかでウィリスのユーモア感覚に重大な疑念を覚えた人がひょっとしたらいるかもしれませんが、ぜひ『犬』を読んでください。最後まで読んでもくすりとも笑えなかったという人がもしいたら、訳者がお代を返金はいたしませんが、深く陳謝しますんで。

 15:00、恵比寿ガーデンプレイス・タワー20階のエキサイト本社で、エキサイト・ブックスの「文学賞メッタ斬り!」インタビュー。
 インタビュアーはクローバー・ブックスの平林享子さん。いきなり『アートマニア』第2号「池松江美⇔辛酸なめ子 相互セラピー」をいただいて恐縮ですが、しかしこれはすごいね。いやもうたいへんな特集です。辛酸なめ子の水着カラーグラビア6ページにアタマクラクラ。池松さんとは同じltokyo仲間だった当時、一、二度、顔を合わせてるんですが(最初の頃は桝山さん主催で親睦会とかやってた)、いやまさか辛酸なめ子でこんなことになってしまうとは。
 クローバーブックスは、平林さんが信用金庫で借金してひとりで立ち上げた会社なんですが、《アートマニア》はなかなか売れなくて苦労してるらしいので、辛酸なめ子ファンは是非買ってあげてください。1500円。
 bk1で扱ってもらうにはどうしたらいいでしょうかと相談されたんだけど、ISBNついてないとたぶん無理だよねえ。

 というわけで、トヨザキ社長と二人並んで平林さんにインタビューされたんですが、どう考えても平林さんのほうが飛ばしまくってました。「壊れた自動販売機みたいな人なんですよ。ボタン押してないものばっかりガラガラ出てきて止まらなくて……」とか、秀逸すぎる人物評の嵐。おっとりしたしゃべりかたおよび楚々とした容姿と、おそるべき毒舌とのギャップが素晴らしい。

『メッタ斬り!』の予約はamazonでも順調に伸びてるみたいですが、アライユキコさん@カエルブンゲイのつくった『メッタ斬り!』公式サイトがオープン。本文の一部抜粋が読めます。

 あと、4月1日の『メッタ斬り!』トークショー@青山ブックセンター本店カルチャーサロンの告知も出ました。終了後は宴会の予定もあるので、物見高い編集者とか業界人とかは適当に連絡してください。

 エキサイトブックスのインタビューは4月1日掲載予定。しかし、ここのインタビュー・コーナーの「今月の人」って、いま載ってるのが柳下毅一郎で、そのちょい前には山形浩生も(笑)。いくらなんでも偏りすぎてないかそれは(笑)。
 なお、エキサイトブックスでは、3月18日の発売に合わせて、『柴田元幸インタラクティヴ』の文学賞版みたいなのもはじめるらしい。システム的にはWEB本の雑誌「読書相談室」みたいなもんですね。文学賞相談室?

 インタビュー終了後、日本推理作家協会事務局に赴き、協会賞の予選会。ほとんど一瞬でなごやかに終了し、あとは出前の寿司が届くのを待ちながら、馳星周理事とサッカー話とか。あ、林真理子の直木賞選評の話もしました。

 夜は週刊文春に頼まれた中冨信夫『日本の衛星はなぜ落ちるのか』書評。どうせなら『国産ロケットはなぜ落ちるのか』のほうがいいんじゃないですか――と婉曲に主張したんだけど、担当編集者の指名タイトルなので覆らず。いや、これはこれである意味、書評はしやすい本だしね。光文社ペーパーバックスを読んだのは初めてですが、あまりにも読みにくい。ヨコ組はともかく、この英語混じり表記っていったいなんの意味があるの? 謎すぎる。いちいち英訳に突っ込んでしまう罠。



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