「素人が買える 限界の株価を考える安さん」 (歯痒末説 ver2.1)

 安さんは IPI[総合生産性指標」の株式投資への応用を考える過程で、3社の株屋(証券会

社)の調査部門の人から 話しを聞いたことがあります。結局は どこへ行っても、意図を説明する

と 鼻で嗤うような顔で、適当にあしらわれて オシマイでした。 安さんは 株式について、「株式

の大衆化」などと 調子の良いことを言うからには、もう少し 安さん程度の素人にも判る、「株式

投資を行う場合の 基準になる考え方」をオオヤケに示すべきだと思っています。玄人が「素人

に株価は判ラナイヨ と言い、反面で 株式投資は自己責任で」と言うならば、素人に株式投資を

勧めるべきではない と考えます。                       《末説一覧へもどる》

 

 安さんが一番気になるのは 株価の変動より「水準」です。安さんは 株価の変動は、売買する

人の 「株価の水準の見方」で起る結果だと見ています。一般大衆が 平易に参考にできる参考

図書として、日本経済新聞社発行の 日経文庫の「株価の見方(35版)」を見て見ましょう。ここ

にはまず 「株を買う」ことで得られる3つの権利、つまり 株を買う理由として 次の3つを挙げてい

ます。@株主総会に出て 会社の経営に参加する権利、A会社の 収益分配に参加する権利、

B会社が解散する時に 財産の分配にあずかる権利、ここまではは 良く判りますネ。

 

 この内 @は方法についての権利ですから、問題は ABの目的についての権利になります。

Aの権利は 「配当を もらう権利」ですから、その配当をもらうのに 他の方法(例えば 安さんが

考えるなら銀行預金)では、イクラの投資(元本)が要るかと考え 比較して トクな投資を選びま

す。これは 株式投資に限らず、企業が 自社の経済活動を考える場合の、「経済」つまり 選択・

交換・(再生産のための)配分の活動と同じですから、基本的には 納得できます。ここでBは

最悪の場合でも、これだけ残るという Aの意思決定時に肚を括る条件になります。

 

 ただここで気になるのは この日経文庫にしてからが、「配当からみた株式価値(p35)」の項目

で 個別企業の時系列(時間の流れ)の損得や 他企業との比較を説明するだけで、競争的・背

反的に存在する 「銀行との比較に触れていない」ことです。それはまるで 少しでも 「銀行」とい

う言葉を出したくない人が書いているのではないかと ヒガみたくなるくらいです。これは別の頁で

日本の株価についての 次のような記述と比べてみるとハッキリします。


 (p42)ただ、現在の配当利回りは 平均で1%にも満たず、配当金を目当てに投資する人は

そう多くはありません。投資家の大半が値上がり益狙いだといっても 過言ではないでしょう。つ

まり、株式投資のリターンは 配当プラス値上がり益ということになります。

 

 (p43)株式に投資してもうかるかどうかは 運任せといった印象がありますが、株式投資は決し

て博打ではありません。先の資本還元論を じっくり吟味していただければわかるように、株価が

上昇するかどうかは、おおむね利益の伸びと関わっています。高い 投資収益率を得ようと思え

ば、利益が大きく伸びる株式に 投資する必要があるわけです。逆にいえば、投資収益率は 利

益の成長率に規定されるのです。

 

 (p74)一方で、底流として 金融機関や事業会社などの法人投資が進行していきました。い

わゆる持ち合いです。法人投資は 取引関係の強化を狙いとしたものだけに、配当利回りなど

通常の投資採算に合わなくても、どんどん 買っていきました。これが日本の株価を 世界的なレ

ベルでみた場合に割高な水準に引き上げ、結果として、個人投資家の投資行動を ますます短

期の値上がり益狙い目的的なものとしました。

 

 (p129)しかし、利回りという 株価尺度は、1958年の後半、平均利回りが1年定期預金の金

利を下回るようになってから あまり重視されなくなりました。株式投資は リスクが大きいため、預

金のような安全・確実な運用対象に比べて “利回り”が高くなる筈です。その利回りが 預金金

利さえ下回ったのでは、株価を判断するモノサシとして 意味がないという考え方です。この現象

〜一般に 利回り革命ともいわれました〜は、直接には 株価が企業の成長を織り込んだことが

背景です。

 

 (p131)1985年に入って東証1部上場全銘柄の 予想1株当たり利益ではじいた株価収益

率は30倍台に乗せました。さらに、80年代後半のバブル経済と その崩壊を経る中で、PER

(株価収益率)100倍という 異常な状況になりました。米国株の平均株価収益率が 10倍から

20倍にとどまっているのに比べると、その水準の高さが わかるでしょう。これでは 将来の増配

を見越すといっても、どの程度の株価収益率まで 買えるのか、メドがつかめません。(中略)株

価収益率も かっての利回りのような運命をたどりつつあるといえそうです。


 以上から 共通して読み取れるのは、次の 3点です。

 @ 全部が定性的な(比率や傾向の)話で、定量的な「水準(額や基準)論が無い」こと。

 A 今後も 「預金(銀行)金利より、株式の(配当)利回りが 下回る見通し」であること。

 B 結果として 「現在の 株価では、売り買いを行い続けなければ ウマ味が出ない」こと。

 

 これは 大変なことです。手の平の厚いオヤジが 煙管の火玉を転がすように、マスタベーショ

ンを教わったお猿のように、「火は消すな」「死ぬまで続けろ」なんてことが 素人に出来るもので

しょうか。抜粋の2番目の 「資本還元論」というのは、株価=[配当/平均利回り(標準利回り)]で

「擬制資本」としての株価の価値を表わす考え方です。前記の 「気になること」は、この時にどう

して 平均や標準の(あるいは 期待する)利回りという掴みにくいものと比較し、明確に 契約条

件として示されている、「預金(銀行)金利と比較しないのか」 という疑問だったのです。

 

 実際には 悪気はないのかもしれません。株式が 非論理的に上がり続けるという現実があり、

それを 何とか説明するには、ここで銀行との比較を出しては ブチ毀しになるのでしょう。同じ項

目の中の 配当割引モデルも、株価に影響を与える 配当の原資の重要性の指摘に終わってい

ます。とすれば結局 論点は、(p40の)「資本還元率は 別の言葉で言えば、期待収益率に なり

ます。つまり、投資家がその株式に投資することからどの程度の収益(配当プラス値上がり益)を

期待しているかを示しているのです」というところにありそうです。

 

 「株式投資のリターン」では 「配当プラス値上がり益」の項で、前記の内容を 改めて式の形に

していることからも、その 論点の置き方が判ります。

 投資収益率(%)=[ {配当金+(期末の株価−期初の株価)}/期初の株価 ]

 しかし上記の式(p40の言葉)には、決定的な 欠陥があります。それは 率の形になると見にく

くなるのですが、「株価水準を設定するのに その値上がり額を導入している」 ことです。別の言

い方をすれば 「今 買える株価は、将来の 値上がりによって決まる」、つまり 「そのまた将来の

株価は と聞かれたら、その先の 株価で決まる」と答える訳です。

 

 これは 典型的な循環論法(ニワトリとタマゴ)で、安さんのような 実業の世界で育った人間に

は、まさに 虚業の論理としか思えません。「批判には 代案を出せ」とシツケられた安さんの案は

後に述べますが、ここではまず 「なぜ 現状が、素人が手を出せる情況にないと 安さんが思うの

か」を知って貰いたいのです。前記の日経文庫の 「株価の見方」には、なお 「こんな現状でも

株をヤルならば」の前提の上ならば、「ポートフォリオ」や 「経験的な株価予測の方法」など、役

に立つ いろいろの方法が紹介されています。

 

 しかしシツコイようですが これらの方法の本質は、今まで述べた「配当無視で 値上がり益を

追求する」場合の 経験則から言えることで、もし この条件が変わるならば、全く別の経験則が

蓄積し始めることでしょう。だから 「株価の見方(p44)」にも、「株式投資の 収益に配当の占め

る割合は、6.8%(93年)です。この割合は バブル期に比べれば上がっていますが、日本の株

式投資は値上がり益頼みの不安定な状態にあることを示しているといえます」と述べ、「株式は

長く保有すれば 必ず上がる」という 「右肩上がりの神話」も崩れた格好だと言い、「右肩上がり

の 事例数値」を示した上で 「今後もそれがあてはまるかどうかが 保証の限りではありません」

と注記しています。

 

 安さんの見方からすれば 「比較水準ナシ」では「保証の限りで無い」のは当然のことで、配当

無視で 値上がり益だけを追い掛けていれば、有限の 経済循環の中では、「上がる可能性が減

って [対象(玉)企業の 経営活動を含めて]下がる可能性が増えてくるのを、肌で 感じます。専

門家はこれをどう説明 あるいは反論してくれるのでしょうか?。安さんは 経済を、インフレ気味

(モノ不足気味)の気配に 引っ張られて成長するものだと思っていますから、長期の 株式の保

有による値上がりは、現状では その名目成長の数値が限界で、やがては何らかの形で 「配当

基準の(資本還元論での)株価に収斂せざるをえなくなる筈だと考えています。

 

 丁度 ここまで入力したとき、山一の廃業申請が 報じられました。テレビを見ていると その大き

な要因の一つは 「飛ばし」だったと言っています。これも 安さん流に言えば、配当基準の株価

なら あるいは預金(銀行)金利との比較があれば、引き受け企業の内部監査で ヤリタイと思っ

てもデキナイことなのにと、その虚業性の意地キタナサと非効率に 呆れるばかりです。安さん

は「投機というものを認めない」というのではありません。投機に衣を着せて 安全でオイシイモノ

のように、大衆の前に誇大宣伝したり 見せびらかすなと言いたいのです。

 

 それではイヨイヨ 安さんの 「素人が買える 株価」案の話です。安さんも一応 経営コンサルタ

ントですから、「素人が」と言っても それが企業の資金調達の障害になったり、企業経営の尺度

と 矛盾するものであってはなりません。結論から言えば それは、「些論」の本論に述べた「基本

投入費原理」と その指標の「IPI(総合生産性指標)」を使って、配当基準の資本還元論で 預

金(銀行)金利との比較を行い、株式か預金かの 意思決定を行えばよいのです。素人が と言

いましたが当然に、これは企業が 株式を保有する場合にも使えます。

 

 基本投入費原理を 具体的に企業の経営に適用した場合、「経営資本利益率」は次のように

表わすことが出来ます。


 経営資本利益率 = 基本投入(費)率 × 付加価値利益率 × 総合生産性指標(IPI)

     @          A          B            C


 ここで 各項目の内容は次の通りです。

  @ : 経営資本利益率 = 営業(経常)利益率 / 経営資本

  A : 基本投入(費)率 = 基本投入費(設備費+労務費) / 経営資本

  B : 付加価値利益率 = 営業(経常)利益率 / 付加価値

  C : 総合生産性指標(IPI) = 付加価値 / 基本投入費(設備費+労務費)

                               《末説3.1経営資本へもどる》

 この 各項目は、公刊・または市販の 財務諸表や経営指標等の資料で、ベンチマーキングが

可能です。つまり 容易かつ公正に、「比較的に依存できる精度を持った 客観的な係数」が 入

手できるということです。特に IPIは、規模や業種を超えて 共通的な「経営の健全性を表わす水

準」があり、その水準は 例えば、3.0以上なら ムリ無くベースアップできる余裕があり、2.5なら

原価ベース、1.8なら企業経営を止めない理由を探せ、という具合です。

 

 [基本的な考え方] : 「配当基準で買える 限界の株価」を 求めるには、まず「擬制資本(“配当

から 資本還元で評価した資本額”ですが、ここでは“今 買おうとしている株価×発行総株数の

資本額”」が 「機能資本(実際に 生産等に使われる資本額)」であったら?と考えてみます。

 具体的には その対象企業の 株式(擬制資本)総額を、「設備費」・「基本投入費(設備費+

労務費)」・「経営資本」のどれと見るのが妥当か を吟味し、「その妥当な見方での 基本投入費

を算出して、産出付加価値を除した商が 3.0以上なら買えると判断します。

 

 実際の簿価は 償却で崩れていたり、補修・改造等の影響で多くの場合 機能的な変更があり

ます。基本投入費原理の相関は 再所得価格の設備費の場合に最も相関度が高く、財務諸表

からの数値でも 充分使用に耐えるだけの相関があります。また配当性向は 1株当たりの[=配当

/利益]ですから、基本投入費(設備費+労務費)と 産出付加価値に高度の相関があり、革新

の中で 労務費を設備費に置き換える時の交換比が「1」であることから、付加価値創出の貢献

度は[=設備費/(設備費+労務費)=機械化係数=1−労働貢献度]になります。

 

 基本投入費原理によれば (実際の配分は別として 相関の良い配分方法は)「資本を使った

比率で付加価値を配分し その配分額からそれぞれの側の経費を控除して、設備側と労働側

の 利益を算出することです。従って 試算に当たっては、(実際の配分は 経営者の判断になり

ますが)機械化係数で付加価値を配分し 規模・業種態様別のベンチマーキングによる経費率

分を控除して利益を算出することに決めておけば、株式投資をする企業間の 経営力の比較を

行うことが出来ます。

 

 実際に買うのが この水準とカケ離れた数値であっても、IPI=3.0から逆算した「基本投入費基

準の (「適正」とまでは 言わないが)危険度の低い目標株価」を算出し続けるだけでも、個人や

財テクの得意でない(しかし やむを得ず株式を買わざるをえない)企業のケガが少なくなると考

えています。この方法によれば いわゆる相場というモノは、株価の妥当性を検討した後に 内容

の解析の形で行うことになります。

 業績相場も金融相場も 「まず価格の妥当性を検討してから」というのが、素人にお勧めする

姿勢です。そういう態勢になれば 結果数値ですが、イールド・スプレッドと言われる 「長期金利

と株の益利回り(株価収益率の逆数を 100倍した数値)の差」や、証券会社系列の研究機関が

公表し始めた レーティング(株価格付け)なども有効に使えるのです。  《末説一覧へもどる》

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