読書記録

1999(平成11)年7月〜12月



<凡例>
冊数タイトル出版社
読了日著者初版
評価 コメント

<ジャンル分け>
理工系 人文系 文学 社会・実用書 未分類

No. 74
1999/12/30
狐罠 講談社
北森 鴻 1997/05/25

よくここまで調べて書き込んだと思う。
『田紳遊楽』 の、池に浸けておいて時代を出すというのは、序の口に過ぎない。

この高いクオリティを味わった後では、最近の「お宝」という言葉の軽薄さが、 いよいよ鼻についてくる。

 
No. 73
1999/12/26
Harry Potter and the Philosopher's Stone
ハリー・ポッターと賢者の石
静山社
J. K. Rowling 1999/12/08

原書の表紙のイラストを見て、ヤングアダルトなのかジュブナイルなのか区別がつかず、
2月、7月、11月と、出張の度に書店で眺めては見送っていた。
今回、日本語訳が出て、迷ったあげく買ってみた。

ファンタジー系としては、久々のヒット。
『ゲド戦記』から説教臭を取り除いたような、あるいは、『果てしない物語』の生硬さ
(というか叙述のしつこさ)を取り除いたような感じ。
パディントン駅、キングズ・クロス駅等の実在の固有名詞もよい。

 
No. 72
1999/12/25
花の下にて春死なむ 講談社
北森 鴻 1998/11/15

まるでノンフィクションのようなリアリティ。
それも、社会派の実事件に即した生々しいものではなく、ある俳人の生涯を追った伝記とか、
ある地方の風物を描写した紀行文とか、そのようなタイプのリアリティ。
『終の棲み家』など、空想のみによって創られたものとは、とても思えない。
「香菜里屋」も、高円寺近辺か、玉川線の渋谷よりのあたりを探すと、本当にありそうな気がする。

タイトルは春だが、最終章の『魚の交わり』は、ちょうど今と季節が重なる。
このタイミングで読めたことがうれしい。作品のラストから引用、

あと数日で、今年が終りますね

 
No. 71
1999/12/22
花ごよみ 講談社学術文庫
杉本 秀太郎 1994/09/10

いろいろな花を題材にした俳句・短歌・詩について、著者の記憶の赴くまま書き綴った本。
花によって1頁にも満たないものから、複数頁に渡るものまで様々であり、
それにより著者の関心の度合いがよくわかる。

 
No. 70
1999/12/19
アインシュタインとファインマンの理論を学ぶ本 相対性理論と量子電磁力学入門 工学社
竹内 薫 1994/10/10

レイアウトがよい。とにかく見やすい。
数学で、同じようなレベルのものを、同じようなページ数で、なおかつ、わかりやすく、
と云われても、とてもできそうもない。
ページ数はこの1.5倍ぐらいあってもいいような気がするが、
このぐらいが、集中して一気に読み切れる限界かも知れない。

 
No. 69
1999/12/15
Der Kleine Grenzverkehr
一杯の珈琲から
創元推理文庫 508-3
Erich Kaestner
エーリヒ・ケストナー
1975/03/26

巻末の紹介文を引用する。

音楽の都ザルツブルクでひと夏を過ごそうち国境の近くのドイツ側の町に宿をとったゲオルク。
為替管理の制約ゆえにオーストリア側で一文無しの生活を強いられる。
そんなある日、コーヒー代も払えず困った彼は、居あわせた美女に助けを求めた……。

タイトルのとおり一杯のコーヒーから始まる物語。
目次だけ眺めると、最後の「別れ」「帰宅」が気になる。

 
No. 68
1999/12/12
不安な童話 ノン・ノベル
恩田 陸 1994/12/01

この人は「海辺」「母親」に対するトラウマでもあるのだろうか。
(ちょうどドラゴンクエストで「父親」を特別視しているように)。

 
No. 67
1999/12/11
メビウス・レター 講談社
北森 鴻 1998/01/25

入り組んでいる構成故に、どうやって作ったかよくわかる。
「驚愕の」という程ではないと思うが、なかなか面白かった。

 
No. 66
1999/12/10
Die Verschwundene Muniatur
消え失せた密画
創元推理文庫 508-1
Erich Kaestner
エーリヒ・ケストナー
1970/02/13

巻末の紹介文を引用する。

デンマークの都コペンハーゲンで時価60万クローネの高価な密画が巧妙な盗難にかかった。
好人物の肉屋の親方キュルツが、ふとしたことから大犯罪の渦中にまきこまれ、
猪突猛進の大活躍がはじまった。
作者ケストナーが、ユーモア犯罪小説と銘うった、
まるであと味のよいブドウ酒のようにしゃれた香りと余韻を残す、ミステリの逸品である。

創元推理文庫では『雪の中の三人男』よりも先に出ているが、書かれた年代はこちらの方が後。
どちらかが好きな人なら、どちらも気に入ると思う。
レストランでのすりかわりがミステリーらしいか。

 
No. 65
1999/12/05
球形の季節 新潮文庫
恩田 陸 1999/02/01

前半に比べて後半がこれでは物足りない。タイトルの意味もわからない。
しかし、この作者の作品だと思えば、気にならない。
それは、この作者なら別の場所で違う形で、続編を展開してくれるからである。

 
No. 64
1999/12/02
Drei Maenner Im Schnee
雪の中の三人男
創元推理文庫 508-2
Erich Kaestner
エーリヒ・ケストナー
1971/11/26

巻末の紹介文を引用する。

貧乏人に変装しておしのび旅行を始めた百万長者の枢密顧問官。
ところがとんでもない誤解が生じてドンチャン騒ぎが続発。
貧乏人に変装した百万長者と百万長者に間違われた失業青年をめぐって、
グランドホテルの従業員とお客の織りなす人生模様。
ケストナーの魔法の鏡に映った、
赤ん坊のような雪の中の三人男を描く会心の諷刺ユーモア編。

品のいいドタバタ。自然と次が気になるような展開。やはり古典だと思う。
こういう感じのものを読んだことがあるとは思うが、思い出せない。
(今、思い出した。 『まやかしの風景画』 のような読後感)。
エダルトがうっとりするのがよくわかる。『まるごと……』でも好きな作家としてあげていたし。

 
No. 63
1999/11/26
とらわれびと 講談社ノベルス
浦賀 和宏 1999/10/05

100頁程読んで、作者が仕掛けた罠(時制の不一致)に気付く。
そのあとは何がなんだかわからない。

ただ、全体に前回よりレベルが落ちたような気がする。
誰も真似できないようなものを構築できるのだから、底の浅い皮肉は止めて欲しいと思う。

 
No. 62
1999/11/22
Projects in Scientific Computation
サイエンス・プログラミング より進んだ科学計算へのアプローチ
シュプリンガー・フェアラーク東京
R. E. Crandall
R.E.クランドール
1998/08/21

同著者の Mathematica :理工系ツールとしての』 及び、 Mathematica 計算の愉しみ』 の Power up version。この手の話題について、ここまで掘り下げて書かれている本は他にない。 訳さえよければ文句なし。

これだけの課題を解決している著者をして「難しい」と云わしめる以下の問題は、
それ故すごみがある。

紙をぐしゃぐしゃに丸めたとき、元の紙の面積と出来上がった球の半径は、
経験的に一定の関係式が成り立つ。
この紙をぐしゃぐしゃにして球を作る過程をモデル化せよ。
3次元的に重ならないで密着していく連続的な変化)

 
No. 61
1999/11/21
Tales from Shakespeare
シェイクスピア物語(ルビ訳)
講談社ルビー・ブックス
Charles & Mary Lamb
ラム
1999/08/05

『Tales from Shakespeare』から11編を抜粋。本文の主な単語にルビがふってある。
注の形式だと思考の流れが中断されるが、ルビだとその場でわかるので理解の妨げにならない。
これで読んでいると単語力が多少付くかも知れない。

 
No. 60
1999/11/17
中世シチリア王国 講談社現代新書
高山 博 1999/09/20

西暦1000〜1200頃の約200年に渡るシチリア王国の歴史。『海の都の物語』を小ぶりにしたような感じ

 
No. 59
1999/10/27
三月は深き紅の淵を 講談社
恩田 陸 1997/07/07

1章、2章はひじょうによい。
3章は、何故、この作品に含まれているのか理解できなかった。タイトルの意味もわからない。
4章の、小説の書き出しのパターンをいろいろひねり出す部分は、なかなか刺激的である。
あのように、いろいろ自分でも書いてみたくなる。
1作書き切るのは大変だが、あのように、断片の集積、特に出だしの部分の集積というのは、
後の可能性を内包しているようで、読んでいて、期待が湧き起こってくる。
(今度、やってみるか)

 
No. 58
1999/10/26
道 ― ジェルソミーナ ― 私立探偵飛鳥井の事件簿 集英社文庫
笠井 潔 1999/10/25

これを読んだ後、ふと思い付いたこと。
何かの解説で誰かが勘違いした指摘をすると思うので、ここで先手を打って、先に書いておく。

笠井潔の小説の主人公は、孤独を好んでいる訳ではない。また、他者を拒んでいる訳でもない
(特に、この『道』では、死別した奥さんの発言があるから、「何故、かくも孤独に満たされているのか」というような 勘違いした指摘をする人が多いと思う。)

まず、明らかに孤独でない証拠に、矢吹駆にはパートナーがいるし、別に突き放してもいない。ただ相手にしていないだけで ある。また、飛鳥井も個人営業ではあるものの、同業者仲間はいるし、何よりも、探偵業という、赤の他人を相手にした商売をしている。

要するに彼らは、自分に興味の無い話題に参加していないだけなのである。
これは、趣味の合わない、波長の合わない相手とは、会話をしない、ということにも通じる。
これらは、現象としては孤立して見えるので、彼らが孤独であるかのように見えるが、
彼ら自身はその状態を孤独と思っている訳ではなく、かつ、孤独を好んでいる訳でもない。

これは、何よりも、私が彼らと同じ性格で、かつ、日々、同じような状況に陥る傾向が高いから、よくわかる

 
No. 57
1999/10/15
11文字の殺人 光文社文庫
東野 圭吾 1990/12/20

宮部みゆきのあとがき「常に闘いながら自主独立を保ち、闘うことによって「個」を維持し続ける」登場人物、
という評は当たっている。

 
No. 56
1999/10/14
宿命 講談社文庫
東野 圭吾 1993/07/05

人から借りてすぐカバーをかけてしまったので、途中までタイトルがわからないまま読んでいた。
あとからタイトルを見て合点が行った。しかし、最後の1行までは思い付かなかった。

『放課後』と雰囲気は違うが、やはり「ほろにがさ」という点では共通している。

 
No. 55
1999/10/11
The Last Slice of Rainbow and other stories
ぬすまれた夢
くもん出版
Joan Aiken
ジョーン・エイキン
1992/09/12

短篇童話集。井辻朱美訳と、マーガレット・ウォルティーの「さけぶ髪の毛」のイラストにひかれて
衝動的に借りたが、正直に云うと期待はずれ。

 
No. 54
1999/10/06
夢幻巡礼 講談社ノベルス
西澤 保彦 1999/09/05

「神麻嗣子シリーズ」と云いつつ、出てくるのは能解匡緒のみ。しかも推理にはほとんど参加していない。
(そもそも謎が解決していない)。これまでのシリーズと雰囲気が違うが、どちらを取るかと云われれば、
こちらを取る。

 
No. 53
1999/09/29
Rules for Revolutionaries
神のごとく創造し、奴隷のごとく働け!
ダイヤモンド社
Guy Kawasaki
ガイ・カワサキ
1999/07/15

タイトルのとおりビジネス書。普通なら絶対手に取ることはなく、しかも背表紙が視界にさえ入らないたぐいの本。
たまたま小さい書店だったので平積みの表紙が目に入り、かつ訳者が小田嶋 隆だったので読む気になった。

原文の内容は訳者の文ほどシニカルではないが、行儀の良い教訓のみで終始していないところがよい。

 
No. 52
1999/09/28
Tales from Shakespeare
シェイクスピア物語
新潮文庫
Charles & Mary Lamb
ラム
1952/07/20

今回『冬物語』を始めて読んで知ったのだが、シェイクスピアは天才的なミステリ作家である。
考えてみると、テンペストの魔法も、真夏の夜の夢の媚薬も、ロミオとジュリエットの仮死に至る薬も、
ベニスの商人のきっかり1ポンドの肉も、とにかくその発想が尋常でない。
これら全て、神話的・魔術的ガジェットを、妙に論理的に扱っているところが普通でない。

 
No. 51
1999/09/27
8時だヨ!全員集合 伝説 双葉社
居作 昌果 1999

当時の舞台セットが挿し絵として描かれている。それを見ているとものすごく懐かしく感じる。
子供の頃、一度公開放送に行ってみたいと思っていたが、実際に東京に来てからはそういう気持ちも忘れていて、
番組の終わる間近の頃は視聴率もかなり落ちていたが、それでも続けられていたから、まさか終わるとは思わず、
だからビデオにも撮っていない。

こういう単刀直入に面白い番組を、今もやって欲しい。子供のために見せるのではなく、自分が見たい。
(それにしても、今の週末の 19:00〜の番組は、異常につまらない(この時間帯だけに限らないが)。
 各局とも一様につまらないので、どこかが一人勝ちになるという事態が起らず、それで自然淘汰も起らないのだろう。)

 
No. 50
1999/09/23
人形式モナリザ 講談社ノベルス
森 博嗣 1999/09/05

中盤、小鳥遊練無が一瞬だけ輝く。
このシリーズの主人公は、この人にすべきである。

第一刷は、目次に誤植あり。
それともこれは叙述ミステリなのか?

 
No. 49
1999/09/20
ディオニシオスの耳 徳間書店
湯川 薫 1999

『ペンローズのねじれた四次元』の竹内 薫が書いたミステリー。
冒頭の vision が美しい。

だから、謎解きの部分はいらない。

 
No. 48
1999/09/19
三匹の猿 私立探偵飛鳥井の事件簿 講談社文庫
笠井 潔 1999/08/15

本当に探偵が出てきて、地道に調査して、順に解決していく。
突然天啓が降りてきて全てを悟ってしまう、というようなことはない。
ひたすら地味な話だが、それでも面白い。

 
No. 47
1999/09/18
メフィスト 小説現代9月増刊号 小説現代
  1999/09/14

森博嗣、西澤保彦、京極夏彦、島田荘司、綾辻行人、…… 以下錚々たる顔ぶれ。
一話完結と連載が混在している。最初、連載の「最終回」という文字を見て、
結末を知らないまま宙ぶらりんにならなくて済むと思ったが、よくよく考えてみると、
単行本化された時の楽しみがなくなる。現に、北村薫の『盤上の敵』は最近単行本が出た。

法月綸太郎は、あいかわらずやってくれる。

島田荘司もやってくれた。
(以下、たぶんネタばれにはならないと思いますが、念のためフォントの色を変えました。)
しかし、どうせなら部屋をもう少し大き目にして、ピーター・フランクルのような探偵を出して、
普通に並べると全部入りきらないが、少しずつ斜めにして入れていくと、1・2枚余計に入る、
というトリックにするとやりすぎか?

恩田陸がやはりよい。しかし、今回結末を読んでしまった。
『三月は深き紅の淵を』を読んでみたい。

 
No. 46
1999/09/16
The Cambridge Quintet: A Work of Scientific Speculation (原書) ABACAS
John L. Casti 1998

1949年6月のある晩、C. P. Snow の招きに応じ、Turing、Wittgenstein、Haldane、Schroedinger、が一堂に会し、
Turing machine の話をきっかけに、機械が思考できるか、そもそも思考とは何か、
他者が自分と同じように考える能力を持っているということを、何をもって判断するか、等を語り合う、
『饗宴』 の現代版。

全体に薄い。掘り下げが浅い。Wittgenstein が精彩に欠ける。

日本語版のタイトル 『ケンブリッジ・クインテット』 は最悪。
新潮クレストのシリーズで 『偶然の音楽』 『旅の終わりの音楽』 が出ているので、
その手の話かと思ってしまう。ちゃんと邦題を付けて欲しい。
例えば、原文からあまり逸脱しないで付けるなら、

ケンブリッジの5人衆 〜 現代版 科学と知の『饗宴』
というような感じ。

 
No. 45
1999/09/02
はじめての哲学史 強く深く考えるために 有斐閣アルマ
竹田 青嗣・西 研[編] 1998/06/20

哲学の通史の本はよくあるが、この本の場合、古代と現代がちゃんと同じ物量で書かれている。 そこが類書と異なる。

いろいろ抜けている部分もある。例えばピコ・デラ・ミランドラとかあの時代の話。
それからプラグマティズムがごっそり抜けている。
高校の時、現代哲学の三潮流は、実存主義とプラグマティズムと教わったが、あれは哲学ではなかったのか?

「高校の時」というのは20年ちょっと前の話だが、その時点でも、少し古くなっていた捉え方だと思う。
今なら、言語と構造と現象、ということになるだろう。
このコメントが古く感じられる時代が来るのが楽しみである。

 
No. 44
1999/08/25
ななつのこ 創元推理文庫
加納 朋子 1999/08/20

ミステリー的にはそれほど大きな出来事は起きないが、それでも、日常生活の中で、
ささやかな出来事と、それに対する解決が与えられる。
犯罪が起きなければ話として成立しない大多数のミステリーに対するアンチテーゼ。

伏線としては、究極の形ではないのか?

 
No. 43
1999/08/22
散歩者の夢想 ランティエ叢書
埴谷 雄高 1997/12/28

「冥府の旅 姿なき司祭」がおもしろい。
共産圏を旅していると似たような経験をするが、
その結果、このような文章として残るのであれば、十分というか、多少はおつりが来る。

 
No. 42
1999/08/17
ペンローズのねじれた四次元 時空をつくるツイスターの不思議 講談社ブルーバックス
竹内 薫 1999/07/20

肝心のツイスターの説明はほとんどないが、ペンローズの業績がいろいろわかりやすく書かれている。

 
No. 41
1999/08/16
A World of Words - 英語にみる言葉の宇宙 洋販出版
Peter Milward 1998/07/20

海外出張の前は、英語をしゃべるための筋肉を慣らすために、英語の本を音読するようにしている。 そのための本。
しかし、英文中に日本語が多くて読みにくかった。

 
No. 40
1999/08/16
本陣殺人事件 角川文庫
横溝 正史 1973/04/30

「史上初、日本家屋での密室」という惹句にひかれて読んだが……。

一時期、横溝正史をいろいろ読んだ時期があった。
それは特に興味があった訳ではなく、寮の廊下に大量に捨ててあったので、
単なる貧乏性から、思わず拾ってしまったに過ぎない。
その時読んで受けた印象はほとんど忘れていたが、今回思い出した。

現代のパズラー本格物は、一応写実主義リアリズムの体裁をとるから、
殺人事件についてはまず「凶悪犯罪」という冠詞がつき、次に「異常な事件」と続く。
つまり「世間に数ある犯罪の一つ」として、まず認識される。

ところが横溝正史の場合は、まず「世にも恐ろしい」で始まり、この描写がいつまで経っても変化しない。
この「恐ろしい」は、無残な殺され方をしている、という点にあり、そういうことをする殺人犯の存在が恐い、
というふうには向いていない。まるで超自然的な原因で死んでしまったかのようである。
要するに伝奇物語の体裁をとっている。警察も一応出てくるが、描写が薄く、ほとんど記号に過ぎない。
探偵役の推理も、ほとんど説得力がない。
この辺に、途轍もない違和感と未熟さと古さを感じる。

今後、二度と読まないだろう。

 
No. 39
1999/08/10
A Midsummer Night's Dream , The Tempest
夏の夜の夢・あらし
新潮文庫
William Shakespeare
シェイクスピア
1971/07/30

ちょっとプロスペロ付いたので、久しぶりに読みたくなって買った。
最初に読んだのは中学の時で、その時は小説に比べて薄い感じがしたが、
今回あらためて読んでみると、語彙の豊かさ(豊富という訳ではないが、的確に選ばれている感じ)
を感じた。

たまたま出張帰りの飛行機で『恋に落ちたシェークスピア』をやっていた。
こちらもおすすめ(単刀直入によい)。

 
No. 38
1999/08/10
史上最強のオタク座談会 (1) 封印 音楽専科社
岡田 斗司夫/田中 公平/山本 弘 1999/08/05

新幹線の中で読んでいて、P.56の「ピーチボーイ」のところで思わず声を出して笑ったら、
隣に座っていた女の子に気持ち悪るがられた。

本文中では名前は伏せられているが、その人の声(シャアの声)の留守電を聞いてみたい。

私は今、外出中だ。
外出中だと言っている!
みたいな。

 
No. 37
1999/08/06
頭蓋骨の中の楽園 講談社ノベルス
浦賀 和宏 1999/04/05

浦賀 和宏の小説を読んでいると何故か疲れる。今回、その理由を考えてみたが、
原因は多分、小説の語り手がほとんど推理をしないで、降りかかってくる出来事に対して、
ただ悩むだけで、ぜんぜん出来事の核心に迫っていない点にあると思う。

そもそも発生する出来事が、推理小説的な事件というよりは、普段新聞で見るような刑事事件に
近いレベルで、謎も何もない。そのような出来事が複数発生する。
しかし、関わっている人物が共通しているから、単なる偶然とも思えない。
偶然ではないにしても、あまりにも関係が希薄すぎるので、関連が見えない。
いったい、何がどうなっているのだろう……。

『季節の模型』がなかなかよい。こちらの方が遥かに、詩的に私的だ。
この短篇集を本当に読んでみたい。

 
No. 36
1999/07/25
大密室 新潮社
  1999/06/30

収録作品は以下のとおり。

  • 壷中庵殺人事件有栖川 有栖
  • ある映画の記憶恩田 陸
  • 不帰屋北森 鴻
  • 揃いすぎ倉知 淳
  • ミハスの落日貫井 徳郎
  • 使用中法月 綸太郎
  • 人形の館の館山口 雅也

収穫は、恩田陸北森鴻
恩田陸の方は、悲しさと寂しさと不安が混ぜ合わさった、子供の頃によく味わうような、
あの感覚が淡く漂ってくる雰囲気がいい。
あるきっかけで、自分の記憶が全然違うものを指していたことに気づく、というのもいい。
北森鴻の方は、稗田礼二郎のフィールドノート or 宗像教授伝奇考、という感じで、
長編でも短編でもいいから、もっといろいろ読みたい気がする。

なかなかいい作品が揃っている短篇集で、これだけ揃えたなら、あとはやはり、
西澤保彦の作品もなんか入れてくれ、という気になってくる。

 
No. 35
1999/07/15
そして二人だけになった 新潮社
森 博嗣 1999/06/20

久しぶりに面白かった。
で、最近のものを面白く感じなかった理由、今回面白いと感じた理由を考えてみた。
それは、たぶん、舞台設定にあるのではないかと思う。
以下長くなるので、先に結論を書くが、今回の作品は、ここ数回に比べて、
単刀直入な奇抜な舞台設定があり、それ故、記憶に残りやすかった、ということが云えると思う。

密室物(というか本格物)の本質はその見た目非日常性にある。
この見た目と非日常性は両方そろっている必要があり、どちらか片方だけでは意味がない。
例えば、

密室を構成する第一の目的は、自殺に見せかけることにある。
だが、ここには凶器が残っており、他殺であることは明らかである。

何故、犯人はわざわざ苦労して密室を構成したのか。
何か理由があったのか。
それとも、意図せず密室が構成されてしまい、そこに解決の糸口があるのか。
という趣旨のセリフを、いろいろなミステリーの序盤の部分で何回も読んだ。
しかし、それがどういう理由だったのか、今思い出そうとしても思い出せない。
それは、そもそも自分の記憶力に問題があるのは確かだが、
一方、少なくとも1名の読者は、そんなことを気にしていない、事実は残る。
そして、これは、私だけではないと思う。

要するに読者は(少なくとも私は)そんなことは望んでいない。

例えば、

コンクリートで囲まれた、隠し部屋も隠し通路も窓もない部屋があって、
床は天井からの進入も不可能で、その部屋への通路は1本しかなくて、
しかも過去15年間にわたって24時間ビデオで監視されていて、尚かつその記録も残っている。
そういう部屋に一人で軟禁されていた人物が他殺死体で中から出てきた。
とか、 矢吹駆であれば、事件そのものは現象学的直感で直接本質を見抜いてしまうから、
犯人とかトリックとかそんなものはどうでもよくて(ついでに云うなら、宿敵もどうでもよい)、
犯人との哲学的論争の方が遥かに重要であったり、とか、

高田崇史であれば、巻末の曼荼羅図式とか、
浦賀和宏であれば、SFなのかミステリなのか私小説なのか青春小説なのか
純文学なのか辻褄があっているのかどこかで破綻しているのか、
とにかくなんでもかんでもごった煮の、あの世界とか、
島田荘司綾辻行人であれば、あの大技とか、そういうのが欲しい。

今回の作品にはそれがあった。
逆に、ここ数作にはそれがなかった。
それは作者が、そのような要素を排除しようと意識しているからであり、
それは、ことあるごとに本人が公言している。

しかし、前にも書いたが、本人がやりたいことと、読者が望んでいることはそもそも違うのである。
自分のやりたいことをやる、という心情は理解できるが、
その結果生まれたものが、私の(読者の)嗜好には合致していない、という事実は否定できない。

 
No. 34
1999/07/10
Recetas contra las pesadillas
夢魔のレシピ - 眠れぬ夜のための断片集
工作舎
Remedios Varo
レメディオス・バロ
1999/05/20

できれば絵の部分だけカラーにして欲しい。

プロジェクト1

テーブルの上に忘れられたコップ
廃墟すら消えそうで、砂漠の砂がすべてを侵略していく。
コップから奇跡の水があふれ、小川に広がっていく。

今、帯のところを見て気がついたが、10/21〜11/28に神奈川県立近代美術館でバロ展をやるようである。
今度は絶対見に行きたい。

(『夢魔のレシピ』の詳細は、 工作舎のこちらのページ から見ることができます)

 
No. 33
1999/07/08
聖書と終末論 小沢書店
小川 国夫 1998/09/15

小川国夫は約20年前に共同訳聖書の翻訳に携わった。
訳の文章を作家としての目で見てもらいたい、かつ、キリスト教に関する素養のある人
ということで、彼が選ばれた。
ということは、逆に云うと、今の聖書の文章は小川国夫の文体で書かれている訳である。
彼の独特の言葉使い、例えば、

預言はどうか……、廃れるだろう。
言葉は……、これも終わるだろう。
知識は……、これもまた消え去ろう。
という、ほとんど詩のような文体で今の聖書が書かれているのだ、と思うと面白い。

 
No. 32
1999/07/04
Imagined Worlds
科学の未来を語る
三田出版会
Freeman Dyson
フリーマン・ダイソン
1998/03/10

掃天観測の話は面白い。彼が夢想していたことが、だんだん現実になってくる。
ずばりDyson sphereについて書かれている本の日本語訳はないのか?

 
No. 31
1999/07/02
L'isola del giorno prima
前日島
文藝春秋
Umberto Eco
ウンベルト・エーコ
1999/06/01

英語訳で読んだとき、話の流れがつかみきれなかったが、今回、日本語訳で読んでみて、
何故理解できなかったか、よくわかった。前2作よりは落ちる。
ただし、この名詞の洪水。もう一度、英訳を眺めたくなる。
そして、原書が欲しい(前2作の原書版は持っているので)。



読書記録 1999
(平成11年)1月〜6月
『枕草子*砂の本』 読書記録 2000
(平成12年)1月〜6月

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三島 久典