読書記録

1998(平成10)年1月〜6月



<凡例>
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読了日著者初版
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<ジャンル分け>
理工系 人文系 文学 社会・実用書 未分類

No. 40
1998/06/28
首都消失 下 ハルキ文庫
小松 左京 1998/05/18

昔、道新の切り抜きで途中まで読んだままだったので、今回、『虚無回廊』の興奮の勢いで買った。
この切り抜きは、うちの母親が、

道新の連載小説で話題になった作品は多いので(『岸辺のアルバム』『ドン松五郎の生活』他)、
ゆえに、これも話題になるであろう、
という仮定のもとに、後からまとめ読みするために保存していたものである。

前に読んだ時は、研究所の一室で、ホームバーからカルバドスを取り出したところまでだったが、
今回、全体を通して読んで、それは、上の半分より前の部分であることがわかった。

冒頭の、どうも災害か異常が起きているようなので、自衛隊に救援を要請したいが、

  • 都道府県知事は防衛庁に要請できるだけで、 出動命令を出せるのは、防衛庁長官、または、内閣総理大臣のみ。
  • 緊急時、要請を待たずに命令できるのは、長官またはその指定する者のみ。
等の議論は、まるで、阪神大震災の発生当初の「何故、自衛隊を派遣できないのか」という議論を思い起こさせる。
『日本沈没』で、災害の発生状況をシミュレートして、
『首都消失』で、その際の法的根拠に基づく政治的対処方法を提示していたにもかかわらず、
結局、これらの警鐘を役立てることができなかった、ということか。

本文中に現れる近未来のテクノロジーは、今の目で見ると、別にあたりまえのように見えるが、
清水義範が解説で述べているように、この小説が書かれた昭和58年当時は、これらの技術はほとんど形を成していなかった。
あらためて、その先見の明を思い知らされる。

その小松左京の見識を以ってしても、ソ連の崩壊を見抜くことはできなかった。

 
No. 39
1998/06/25
首都消失 上 ハルキ文庫
小松 左京 1998/05/18
 
 
No. 38
1998/06/21
プロフェッショナルインターネット オーム社
力武 健次 1998/04/22

なかなか含蓄のある本。入門書ではないが、専門書とも少し毛色が違う。
熟練者同士が意見交換をしたら、こういう感じになるのではないか。

 
No. 37
1998/06/14
銀河英雄伝説[10]落日篇 徳間文庫
田中 芳樹 1998/06/15

何人かの主役クラスの役者が去った今、これ以上過去の残照に頼って物語を続けても空しいだけである。
だからせめて、残った者たちがよりよく暮らせるような状況にしたい。
 …… という思いがあったのかどうかは知らないが、ともかく、物語は終わった。

 
No. 36
1998/06/06
来るべき作家たち 海外作家の仕事場1998 新潮社
新潮クレスト・ブックス特別編集 1998

現代アメリカ純文学集。
こういう本を眺めていると、ペーパーバックの現代アメリカ短篇集のようなのを読みたくなってくる。
高層マンションのフローリングの部屋で、都会の喧騒を眺めながら。
当然、部屋の中でも靴は履いたまま。
(日本でフローリングといっても、日本くささを脱しきれないのは、これが原因だと思う。
 あくまで、向こうのスタイルを求めるなら、部屋の中でも靴は脱がない。
 それから、ところかまわず座る
 電車で席がなかったら、直接床に座るし、書店の立ち読みも、床に座って読む。
 このとき、絶対あぐらはかかないこと
 (これをやると、「Oh, Japanese style !」とか云って真似される。
  また、彼らはあぐらをかくとき、必ず、手で印を切りたがる。))

この「新潮クレスト・ブックス」は、すでに何冊か出ている。
ああいうのは、やはりソフトカバーというのだろうか。
以下の作品の抄録がある。

  • 『キス』キャスリン・ハリソン
  • 『フィエスタ、1980』ジュノ・ディアス
  • 『偶然の音楽』ポール・オースター
  • 『穴掘り公爵』ミック・ジャクソン
  • 『旅の終わりの音楽』エリック・フォスネス・ハンセン

 
No. 35
1998/05/30
「更級日記」を旅しよう 古典を歩く 5 講談社文庫
杉本 苑子 1998/04/15

このシリーズもデフォルト買いかも知れない。
古典文学に描かれている場所を実際に辿った旅行記&エッセイのシリーズの1冊。
更級日記は、前半が千葉から京都に移るまでの旅行記なので、このシリーズの趣旨とも合っている。
こういう感じの旅をしてみたい、というのは、誰しも思うところである。
有名な寺だけでなく、都内の一見歴史のなさそうな公園についても、丹念に調べあげているところは、さすがである。

 
No. 34
1998/05/24
イーハトーブ乱入記 − 僕の宮沢賢治体験 ちくま新書
ますむらひろし 1998/05/20

ますむらひろしの本が活字で読める、とあればデフォルト買いである。
最初は、ますむらひろしの宮沢作品に対する思いを語ったエッセイ集だと思って読み始めた。

しかし、読み進めていくにしたがって、とんでもないことが明らかになってくる。
この本は、まさしく、宮沢賢治の研究書、しかも超一級の研究書である。

ただでさえ宮沢賢治の作品に対して過剰な思い入れを持っている者が、その作品の完全映像化を企てたとする。
普通の研究者が活字を読み、頭で考える、というレベルではない。
漫画家が、セリフの一つもおろそかにせず、原作に完全に即した形で視覚化しようというのである。
当然、原作ではあいまいな部分もある。
それさえも一つの絵として固定しようとして、原作を徹底的に検証した場合、いったい何が見えてくるか。
かつて、これ程までに一つの作品を深く読み込んだ人がいただろうか。

この本を読んで、ますむらひろしとは、ヒデヨシテンプラパンツを併せ持つ人物である、ということがよくわかった。

最後に気になる言葉を一つ。

確かに僕は猫をかくときは気持ちが入るが、人間を描こうとするとどうも気持ちが入らない。
心理学的にいえば、心のどこかに傷がついているのだろうが、僕にはどうしようもない。

 
No. 33
1998/05/21
たまご猫 ハヤカワ文庫JA
皆川 博子 1998/01/31版

私が行き付けの書評コーナーで、最近、皆川博子づいていて、かつ、

中井英夫へのオマージュ
とまで書いてあったので、そこまで云うなら、と思って買った。
表題作を読んでみた印象では、中井英夫の『銃器店へ』のような感じ。
それ以上に、梶井基次郎の『檸檬』のような作品、という印象を受けた。

これ程凄い小説が、これまで隠れていたとは!
平明な文体でありながら、詩のように選び抜かれた言葉達。
日常が少しずつ歪んでいって、登場人物の屈折した側面が次第に表に現れてくる恐ろしさ。
で、あらためて本の表紙を見ると、これが何と、よりにもよって、ハヤカワJAシリーズとして出ている、という事実。
本当によくぞ出会った、という感じがする。
梶井基次郎 or 中井英夫 or それ以上か。

 
No. 32
1998/05/16
虚無回廊 II 徳間文庫
小松 左京 1991/11/15

(長くなったので、こちらに移しました。)

 
No. 31
1998/05/14
虚無回廊 I 徳間文庫
小松 左京 1991/11/15
 
 
No. 30
1998/05/12
むかし・あけぼの 下 ― 小説枕草子 ― 角川文庫
田辺 聖子 1986/06/25

(長くなったので、こちらに移しました。)

 
No. 29
1998/05/07
むかし・あけぼの 上 ― 小説枕草子 ― 角川文庫
田辺 聖子 1986/06/25
 
 
No. 28
1998/05/05
この一冊で「聖書」がわかる 三笠書房
白取 春彦 1998/01/10

これは思わぬ収穫。
「知的生きかた文庫」という、いかにも「サラリーマン向け教養速効一夜漬けマニュアル」風のシリーズのなかに、
このような傑作が隠されていたとは。

何が傑作かというと、この本に書かれているのが「ムー」的な聖書の読解ではなく、紛れも無い信仰への手引きだからである。
これを読むと「神を信じる」という時の「信じる」という言葉を、我々がいかに誤解していたか、よくわかる。

この本を読んだ今なら、

  • ゲーテ『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』の中の「美しき魂の告白」
  • ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の中の「大審問官」
を理解できるような気がする。

 
No. 27
1998/04/28
井上靖シルクロード詩集 NHKライブラリ
井上 靖 1998/03/20

新作ではないが、井上靖で詩集といえば、デフォルト買いである。
今でこそ新潮文庫から『井上靖 全詩集』が出ているが、私が高校の頃は『北国』ぐらいしか手に入らなかった。
だから図書館で『地中海』を見つけた時などは、借りてきて全部筆写した。
『天平の甍』に出てくる、ひたすら写経を続ける僧侶(業行)を意識しながら。
西域の写真以上に、手書きの原稿とか、書斎とかが、いかにも小説家という雰囲気を醸し出していてよい。

 
No. 26
1998/04/27
5000 B.C. and Other Philosophical Fantasies
哲学ファンタジー
丸善株式会社
Raymond Smullyan
レイモンド・スマリヤン
1995/04/15

『サイエンス』の「数学ゲーム」のコーナーの読者ならおなじみ、スマリヤンの近作。
出た時は、あるなあ、と思っていたが、今回、古本屋で見つけて衝動買いした。

これはちょっと収穫。
論理パズル的な内容を想定していたのだが、実際は完全な哲学書で、しかも、
存在、認識、心身問題、夢か現実か、死の恐怖はどこから来るか、等の問題を、
アメリカ人的な、合理的で明快な論理で、みごとに切り開いていく。

 
No. 25
1998/04/22日
東大オタキングゼミ 自由国民社
岡田 斗司夫 1998/04/15
デフォルト買い。
インターネットでオープンにされている情報の方が濃いので、少し物足りない感じがした。
 
No. 24
1998/04/21
図解でわかる サーバのすべて 日本実業出版社
小泉 修 1997/12/20

仕事用。勉強になるし、役に立つ。
今年の1月の時点でこれを読んでいたら、1〜3月の仕事がかなりやりやすかったのではないか、とつくずく思った。

 
No. 23
1998/04/13
幻惑密室 講談社ノベルス
西澤 保彦 1998/01/07

買うか買うまいか結構悩み、かつ、どうせなら古本で、と思って何件かまわったが、
そういう時間や金(移動費)自体が無駄なので、今回買うことにした。

で、神麻嗣子がもっと活躍するのかと思ったが、そうでもなかった。
ちょっとこの結末はひきょうという気がする。

 
No. 22
1998/04/12
Jonathan and the space whale and other stories
ジョナサンと宇宙クジラ
ハヤカワ文庫
Robert F. Young
ロバート・F・ヤング
1977/06/15

古本屋で見つけて衝動買い。
年刊SF傑作選2で『たんぽぽ娘』を読んだときの感動は忘れられない。
ダニエル・キース以上に人気があってもいいのではないか。

『リトル・ドッグ・ゴーン』が、ほろっとくる。
「女神さまっ」のシュレジンガーホエールは、表題作からの連想か。

 
No. 21
1998/04/07
今はもうない 講談社ノベルス
森 博嗣 1998/04/05

とりあえず、デフォルト買い。
最近疲れていて読書欲が湧かないので、暖めないですぐに読んでしまうか。

これだけのネタでここまで引っ張るか、と思ったら、最後に思わぬ仕掛けがあった。
気が付いたら、巻末のリストの量もかなり増えている。

ところで、犀川助教授は最近あんまり問題解決に寄与していないのではないか。

 
No. 20
1998/04/03
マジメな話 ― 岡田斗司夫 世紀末・対談 アスペクト
岡田 斗司夫 1998/04/11

基本的にデフォルト買い。

対談集。できれば、以下の組み合わせも見てみたい。

  • 堺屋太一 vs 小室直樹
  • 小林よしのり vs 大槻ケンヂ
  • 岸田秀 vs 宮台真司
(しかし、これでは普通の対談か。)

去年後半のホームページ更新のペースダウンも、躁鬱以上に、本書の最後に書かれている理由によるものであることが、よくわかった。 この分だと、次に、現在SPA連載中の「人生の取説」が本になって、それで打ち止め、ということになりそうである。
読者としての今の心境は、

カンジェヌマンの真意を知ったポタリア
といったところか。

 
No. 19
1998/03/27
覇者の一手 NHKライブラリ
河口 俊彦 1998/03/20

かつて『将棋マガジン』が発刊されたとき「対局日誌」のコーナーがずいぶん話題になった。
それはこれまでの感戦記と完全に一線を画するもので、プロの視点から書かれており、
充分に抑制された表現でありながら、対局の様子がいきいきと伝わってくる、
まさに名文と呼ぶにふさわしいものだった。
内部の者には違いないが、これほどの文章を書く「川口篤」とはいったい何者なのか、ずいぶん詮索された。
著者が河口5段(当時)であることが知られるようになるまで、結構間があったように覚えている。

本書の主役は羽生。
4段から7冠王までの、向かうところ敵なし、の状態が活写されている。

 
No. 18
1998/03/21
問題群 ― 哲学の贈りもの ― 岩波新書
中村 雄二郎 1988/11/21

最近品薄の一冊。
哲学史・思想史としても読める。

また目次を抜粋しておこう。

  1. ≪ロゴス嫌いは人間最大の不幸である≫
  2. <トピカ><共通感覚><賢慮>の回路
  3. ≪五大にみな響きあり≫あるいは<汎リズム論>
  4. <方法的懐疑>と<普遍数学>の夢
  5. ≪悪とは関係の解体である≫
  6. ≪真なるものはつくられたものであり、つくられたものは真なるものである≫
  7. <視覚>の批判と<因果律>への問い
  8. <制度>的世界と<主人と奴隷>の逆転
  9. ≪神は死んだ≫から<神々の再生>へ
  10. <純粋経験>から<場所>と<行為的直観>へ
  11. ≪技術とは手段ではなく、露わに発く仕方である≫
  12. ≪想像力とはイメージの囚われからの解放である≫
  13. ≪言語の限界が世界の限界である≫
  14. <自己>と<他者>のパラドックス

 
No. 17
1998/03/17
[特集]コンピュータ・ネットワークと法 有斐閣
ジュリスト No.1117 8月1−15日号 1997 1997/08/15

これまでジュリストなど触ったこともなかったが、テーマにひかれて買ってあった。
今回読んでみて意外と読みやすいということがわかった。

「悪とは関係の解体である」というスピノザの言葉があるが、
今回ジュリストを読んでわかったことは「法とは、関係の規定である」ということ。

 
No. 16
1998/03/08
銀河英雄伝説[9]回天編 徳間文庫
田中 芳樹 1998/03/15

本来、損なわれるべきではない者の死と、新たな生命の誕生。
いよいよ、あと1巻を残すのみとなった。

 
No. 15
1998/03/04
決定版 金融ビッグバン 毎日新聞社
週刊エコノミスト 臨時増刊7・7 1997/07/07
 
 
No. 14
1998/03/01
よみがえれ日本経済 読売新聞社
This is 読売 3月臨時増刊 1998/03/02

以前このジャンルの仕事に携わったことがあるので、このような話題にはなんとなく興味がある。
読売の方はさすがにわかりやすい。
特に「最新経済用語142」が出ているだけでも、入門書として持っておく価値はある。

別に全ての者にとって必要、という訳ではない。
しかし、別に無くともよい、と言い切れないところが、 この手の情報の、恒常的な需要を支えているように思える。

  • 男性サラリーマンにとっての経済・財務・法律に関する知識
  • 女性にとっての、ダイエット・エステ情報
  • (男女を問わず)英会話・語学
等。

だから、この頁を読んでいるPC・インターネットの初心者には、教えてあげたい。

  • PCソフトの使い方、Webの見方、等は、わざわざ本を買って覚える程、 奥の深いものではない
    (あなたは、ビデオの予約の仕方、電話の留守録の仕方を調べるために、
     わざわざ、取説以外の一般書籍を買いましたか?)
  • 別に知らないからといって、時代に取り残されることもない。
    そもそも「時代から取り残される」というような状態は存在しない。
    (あなたは、自分にとって不必要なものを、
     必要であるかのように、まわりから思い込まされていませんか?)

 
No. 13
1998/02/20
夏のレプリカ 講談社ノベルス
森 博嗣 1998/01/07
『幻惑の死と使途』
 
No. 12
1998/02/20
幻惑の死と使途 講談社ノベルス
森 博嗣 1997/10/05

「幻惑」は奇数章のみ、「夏レプ」は偶数章のみ、から成り立っている。
泡坂妻夫 『生者と死者』 のような趣向本。
それを知った瞬間から、これは、両方がそろったところで、章順に読もうと思った。

わざわざ分けて出版されるということは、どちらを先に読んでもネタばれはないはずである。
逆に云うなら、両方を順に読んでも、より有効な情報は得られず、かえって多すぎる情報の中で混乱してしまうのだろう。その混乱の中に身を置いてみたいと思った。

そして、この読みというか読み方は正しかったと思う。
両方の作品の印象が、それぞれ補い合うような形になったから。
買ってから4ヶ月手を付けないでおいた甲斐はあった。

このような読み方をするときのテクニックとして、

2冊の本を上下逆さまにして、背中あわせにしてカバーを被せて、
ミロラド・パヴィチ 『風の裏側』 のような1冊の本にしてしまう。
というのは有効だと思う。特に、持ち歩く時は、このやり方が最適である。
多少分厚くなるが、 『コズミック』『ジョーカー』 を思えば、何ということはない。

最後に、私と同じ名字の院生へ。
ちゃんと勉強しろよ。それからもっと超然としていてくれ。君は未来のキシマ先生になるんだから。
(意味不明)

 
No. 11
1998/02/16
線型代数入門 東京図書
有馬 哲 1974/09/05

学生の頃、線型代数はあまりまじめに勉強しなかった。
最近なんとなく気になり、本屋でいい教科書を見つけたので買ってきた、という訳である。

私にとって、線型代数とは「代数」というよりも「幾何」のイメージが強い。

「環上の加群」に対応する概念としての「体上のベクトル空間」
という捉えかたをした一瞬だけ、多少は代数っぽく見える。
この本も、序盤でそのことについて触れており、いわゆる図形としてのベクトルには
あまり触れないようにしている。そういうところが、すごく波長が合う。
とにかくおすすめの教科書である。

ところで、ふと気付いたが、何も今新刊で買わなくても、あと数日もすれば、
家の近所の、元住吉・日吉・綱島の古本屋に、この手の本が大量に出まわるのではないのか。

 
No. 10
1998/02/14
愛の詩人ゲーテ ヨーロッパ的知性の再発見 日本放送出版協会
小塩 節 1998/01/01

角川文庫『ミニヨン』初版 昭和28年7月10日、が私にとってはゲーテとの出会いだった。
これは『ウィルヘルム・マイステルの修業時代』の中からミニヨンに関するエピソードを軸として、
関 泰祐がまとめたもので、この中でミニヨンが歌う「君知るやかの国を、……」の一節、

君知るや、かの山と雲の桟道を
騾馬は霧の中に道をもとめ
洞穴に龍の古き族棲まひ
そばだてる岩の上に瀧の懸かれる

この一節に、yes の『relayer』のジャケットが重なり、そしてそれに続く、
そを知るや君
 かなたへ、かなたへ
で、完全にとりことなってしまった。
それ以来、ゲーテの作品は書簡集とか日記を除いてほとんど読んでしまったので、
新しい本が出たとしても、自分にとって新しい情報というのはないのだが、
それでも、ゲーテの名の冠せられていると、とりあえず手にとってしまう。
上記ミニヨンの歌は、今でも、万年筆のインクを入れたとき、必ず筆写することにしている。

「NHK人間大学」テキスト。
毎週木曜、午後10:45〜11:15 の放送。3/26 までやっている。興味のある方はどうぞ。

 
No. 9
1998/02/02
パラサイト・イヴ 角川書店
瀬名 秀明 1995/04/30

多分20年前なら、

該博な専門知識に裏付けられた医学ハードSF
というキャッチフレーズで売り出され、SF以外のジャンルでは話題にもならなかったに違いない。
映画版のキャッチフレーズ『戦慄のバイオホラー』というのは、まさにネーミングの勝利である。

内容とは関係ないが、東北大薬学部の横の林の中を通って川内亀岡に抜ける近道がある。 これが一種の一方向関数で、降りるのは簡単だが、この道を通って登るのは難しい。 林の中の分かれ道を、降りる時は低い方を選べばよいが、登る時は判断基準がなく、 何本目が右か左かを覚えておくしかないからである。
理系の学部は青葉山の上にあるので、東北の学生にとってバイクは必需品だが、 これは雪が降ったりすると使えなくなる。そして、期末の試験の日に限って雪が降ったりする。 そういう時は歩くしかないが、そもそもバイクを使うようになってから、 普通に歩いて間に合う時間に起きれるような体ではなくなっている。そこで、

  • 遠いが確実な道を行くか(ただし何分かは遅刻)
  • うろ覚えの近道を記憶を頼りに登るか(運よく辿り着けば何分かの余裕)
という究極の選択を迫られることになる……。

 
No. 8
1998/01/26
絵草紙 源氏物語 角川文庫
田辺聖子 文/岡田嘉夫 絵 1984/01/10

古本屋で偶然、美しい本を見つけた。
源氏物語の各章段のダイジェストに、 岡田嘉夫氏の浮世絵がふんだんに盛り込まれていて、
眺めているだけで、幽玄の世界に引き込まれる。

光源氏の生涯を中心に、「桐壷」から「幻」までを扱っている。
最終章「雲隠」は、田辺聖子氏のオリジナルか。

源氏物語を通して読むのは今回が初めて。
季節感、風景、心の移り変わり等の描写には、かなり惹かれるものを感じる。
是非とも原文で読んでみたくなった。

 
No. 7
1998/01/22
図解・わかる電子回路 基礎からDOS/V活用まで ブルーバックス
加藤 肇/見城尚志/高橋 久 1995/09/20

正直云って電気系にはまったく無知であり、それでこの本をなんとなく衝動買いしたが、 さっぱりわからなかった。
最後に「完読おめでとう」という著者からの言葉があるが、なんだか申し訳ない感じがする。

実は『数学者の密室』をブルーバックスから出してもらえないか、と密かに期待していたりする。

 
No. 6
1998/01/13
ヒューマンサイエンス 5 現代文化のポテンシャル 中山書店
石井威望/小林 登/清水 博/村上陽一郎 1984/10/25

シリーズ完結。 各巻の目次をこちらに示した。

 
No. 5
1998/01/12
銀河英雄伝説[8]乱離編 徳間文庫
田中 芳樹 1998/01/15

ついに出た(出てしまった)第8巻。
そして、銀河は一人の英雄の死を迎える。

第9巻以降の内容はよく知らない。
しかし、もうどうでもいいような気もする。

 
No. 4
1998/01/10
本格ミステリー館 角川文庫
島田荘司/綾辻行人 1997/12/25

議論が微妙に噛み合わないのが残念でならない。

できれば、こういう企画を毎年やってほしい。
評論家による書評もいらないし、読者投票によるベストテンもいらない。
インターネットを通じて、趣味を共有するコミュニティから、 より速く的確な情報を入手できる現在において、あと不足しているのは、 このような作家自身の生の声のみである。 それさえも、いまや容易に手に入れられるようになってきている。

 
No. 3
1998/01/09
ヒューマンサイエンス 4 ハイテクノロジーと未来社会 中山書店
石井威望/小林 登/清水 博/村上陽一郎 1984/10/25

この巻に関しては、かなりあたりはずれがあった。
特に当時進行中のプロジェクト(第5世代コンピュータ)について、 その後の結果を見ている今となっては、大山鳴動して、といった感が強い。

 
No. 2
1998/01/07
占星術殺人事件 講談社文庫
島田 荘司 1978/07/15

冒頭の手記のところで、少し挫折しそうになるが、 これを通り抜けると驚異が待っているので、投げ出してはいけない。

  • ドストエフスキー『罪と罰』の冒頭、母親からの饒舌で退屈な手紙
  • カミュ『異邦人』の冒頭の主人公ならずとも、うざったい気分になってくるあの描写
それらと同じ。
まさに「奇想、天を衝く」大技一本。

 
No. 1
1998/01/02
日本古典入門 講談社学術文庫
池田 亀鑑 1976/06/30

紹介されている作品は、

古事記、万葉集、古今和歌集、竹取物語、伊勢物語、蜻蛉日記
宇津保物語、枕草子、源氏物語、今昔物語集、堤中納言物語
更級日記、新古今和歌集、平家物語、徒然草
西鶴、近松、芭蕉、蕪村、雨月物語、里見八犬伝
の21作。
この21作の選び方については、いろいろ異論がある。
(例えば、平安〜鎌倉が多い割に、室町〜江戸が極端に手薄とか、
 歴史物(日本書記、大鏡等)が収録されていないとか、
 土佐日記、方丈記等、大物も結構抜けているとか、
 勅撰集だけで章を興した方がいいのではないか、とか。)
しかし、まあ、まとまっているし、全編を通じて著者の主張に貫かれている。
網羅的な通史を求めるなら、他の本を見ればよい。



読書記録 1997
(平成9年)7月〜12月
『枕草子*砂の本』 読書記録 1998
(平成10年)7月〜12月

E-mail : kc2h-msm@asahi-net.or.jp
三島 久典