「夢」


明け方に熟睡していたのだろうか、こんな夢を見て、目覚めてもしばらくぼーっとしていた。
 ・・・・・・
結構おそい時間の、銀座と思われる広いレストランバーに、前の会社で親しくしていた気のおけな
い仲間達が集まり、奥まった方の席に座って、“さあ、ゆっくり飲もうよ”なんて気勢をあげている。
“腹減ったなあ、とりあえず生でいいよな”と、気が短かかったが指示は的確だった元上司のIさんが
怒鳴っている。“ああいいですよ、お願いします。
ちょっとトイレに行ってきますから”、こちらも大声で返事する。

だが行こうと思って歩き始めて、ふと気が付くと、なんと上半身が裸のまんまではないか。
椅子の下に背広やYシャツそしてネクタイや下着が散乱している。こりゃ困ったなあと、
ちょっと離れたテーブルに行き、そこで着ようと思うのだが、散乱した物が絡み合って、なかなか着れない。
だんだん焦れば焦るほど、もっと絡んできて途方にくれるが、奥の方を見ると、みんな
もうビールを飲んで騒いでいる。

まるで僕がいるのを忘れているかのように。

するとその離れたテーブル席の前に座っていた人が、“お元気ですか”と、にっこり笑って僕に声をかけてきた。
あわてて顔を上げてびっくりした。
その人は前の会社の会長だった人で、事実上のオーナーだった人だ。
“ええ、まあなんとかやっています”とか言ってごまかすが、
幸いなことに、会長はどうも僕の裸姿にまだ気がついていない様子。
とにかく早く着なきゃとますますあわてふためくが、やっぱり着れない。

“じゃあ、またこんど会おうな”、と丁度僕のうしろの席で飲んでいた一行が、腰を上げて賑やかに
帰り支度を始めた。そのうちの一人が、会長に“ご無沙汰しております”と挨拶しているので、
誰だろうと振り向くと、なんと大学時代の親友ではないか。
僕が“なんだNじゃないか”と言うと、
彼はようやく僕に気が付いたのか、“おおFか、どうしたの裸になんかなって”と上半身を見て怪訝
そうな顔をしている。さらに帰ろうとする一行を見ると、なんだ皆大学時代のサークルの仲間じゃないか。
SもUもKもHもみんないるではないか。
よく見ると、52才の時、癌で急逝したMもいる。
なんだか遠慮がちにみんなの後ろにいて顔だけ出して、にこにこしている。

みんなもにこにこしている。

“どうしたの今日は、この間みんなで久しぶりに会ったばかりじゃないか、
それにさ、Nはうちの会長をなんで知っているの?会社も業界も違うのに”と、
僕一人がさかんに声を張り上げている。

いつのまにか学友達も帰り、気が付かないうちに会長もいなくなっていた。

奥の方の席では、もう大分飲んでいるのか、みんな大声で言い合っている。
こんどの新組織のことか、ゴルフのスコアのことか、もう辞めてしまった人のことか、よく聞き取れないが、
とにかく陽気に騒ぎまくっている。


僕は焦らないでゆっくり着てから、みんなのところへ行こうとするのだが、やっぱり着れない。
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 2001年11月28日 晴れた日がつづく               藤原 忠


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