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The Ice Curtain 永久凍土の400万カラット


The Ice Curtain


いくら働いても給料が支払われないのに業を煮やし、シベリア、ミルニーのダイヤモンド鉱山でストライキが計画されますが、ストライキ参加者が運転する鉱石運搬トラックのガソリンタンクに火が放たれ大爆発がおこります。この長期給料未払い状況を解決すべく、モスクワへとでかけた代議員ヴォルスキーが、会談直後その会場、高級倶楽部エキパージュの駐車場で射殺されます。グレゴリー・ノビクと一緒に会談にいどむはずだったのですが、ノビクは、父親が昔録音したレコードを買いに寄ったため、会談に参加しそこねたのでした。ヴォルスキーのあだを討つため、ノベクは彼の役割を引き継ぎ、大統領のお墨付き得て、現状把握の

為に事件の発端になったミルニーのダイヤモンド鉱山に乗り込むのですが...。

「シベリアン・ライト」のヒーロー、グレゴリー・ノビク再登場。今度は石油ではなくダイアモンド業界、鉱山が舞台。そもそも、モスクワに一緒にでかけたヴォルスキー、前作でノビクを村長にしたてあげた本人でした。前作でノビクの運転手だったチュチンと共に、再度巨悪への挑戦を展開します。テンポのよさに、読み始めたら止まらず、一気に読んでしまいました。

今回も、現代ロシア事情、シベリア史、ハイテクスリラーを一冊にしたような本。Amazon.comでは、前回の作品より評価が高いようですが、それも納得。
「シベリアン・ライト」を褒めるネルソン・デミルの文章が裏表紙にあります。"Great writing and wonderful reading."こうなると次作が楽しみです。

(2002.5.25記)

待つこと6年?文春文庫から翻訳が出ました。「永久凍土の400万カラット」(2008.1.11記)
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Siberian Light 凍土の牙


Siberian Light

はじめて読んだロビン・ホワイトの本です。シベリアの寒村マルコヴォで、石油会社アメルルスの闇世界手配を取り仕切っていた有力者、アンドレイ・リシコフが自宅で殺害されます。アメルルスは、Siberian Light原油採掘が業務の、ロシアとアメリカの合弁企業です。中近東産原油に硫黄分の少ないArabian Lightというのがありますが、そのロシア版がSiberian Light(=題名)ということでしょうか? 知らせを聞いて駆けつけた警察官二名も殺害されます。
飛行機事故で愛妻を亡くし16歳の一人娘ガリーナと暮らしている、この寒村の村長グリゴリー・ノビクが登場します。本来は地質学者ですが、正義感の強さがあだとなり、めぐりめぐって現職にあるのです。正義感が強い行政機関の長として、ノビクは二名の警官の死を無視することができません。怪しい女性が夜中に出入りをしていたという証言もあります。ノビクは現場で、証拠品らしき物を発見します。

殺人事件調査は村長の仕事ではないからと、漁師というあだ名をもつ元KGBの残忍なカズニンが捜査を始めます。それでも頑固なノビクは、自分なりの調査を勝手に進めます。現場にあったものを鍵に、アメルルスの石油採掘現場、ツングースカに足をのばします。そこは、愛妻ににた面影のシベリア虎保護活動家のアンナ・ベレフスカヤの基地でもあるのです。
ノビクは、難しい年頃の娘ガリーナを町で見かけて叱りますが、その後ガリーナは消えてしまいます。アメルルスのヘリコプターパイロット、デッカーについていってしまったのです。
後は、是非ともご自分でお読み下さい。

ノビクの運転手でシベリア抑留経験者のチュチンや、ノビクを村長にしたてあげた高官のヴォルスキー、検察官グローモフ、父親の盲目バイオリニスト、タデウシ等々、多彩な脇役も揃っています。「ゴーリキーパーク」の現代版という言い方をする向きもあるようです。こちらのほうが、とにかく生きがいいようです。

現代ロシア事情、シベリア史、自然ガイド、ハイテクスリラーを一冊にしたような読み得な本です。ロシアの卑語猥語も満載。ロシア語をご存じであれば、それなりの復習になり?、ご存じでなければ、学校では余り習わない単語、表現が勉強ができます。(現地では決して発音されないようお願いしたい表現もあるのでご注意を)
「つまらなかったら著者にかわって本代金を返します」と言いたいくらいのおもしろさ。睡眠不足になること請け合いです。魅力的なヒーロー、ヒロインの組み合わせで、ダイハードのような映画が作れそうに思えます。

表紙画像は英国(ペンギン)版。アメリカ版は表紙の色あいが異なります。

(1998.12.16記)

同じようにロシアを舞台にしたミステリーとしては、主にモスクワを舞台に繰り広げられるMonstrumも、お勧めです。

(1999.1.6記)

同じ寒いところでも、ヨーロッパよりの地域を描いたArchangelは、もっとおすすめです。

(1999.5.24追記)

Amazon.co.jpで、洋書を購入することができます。

「凍土の牙」という題で文春文庫に邦訳があるのを知りませんでした。

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Typhoon


Typhoon

「K19」というハリソン・フォード主演映画があります。1961年原子炉メルトダウン事故を起こしたロシア潜水艦にまつわる実話を元にしたものでした。感動したのですが、いささかあっけない気もしたものです。考えて見れば、著者は、よくにた事件?についての本、Hostile Water(「敵対水域」という題名で文春文庫になっています)の共著者。
これはフィクションですが、読み始めたら面白くて止まりません。漫画か映画でまた見たいくらい。
あっけなく読み終わってしまったので、未読の著作を早速amazon.comに纏め注文。
冷戦終結に伴い、原潜廃棄の為にアメリカが莫大な金額を支払ったにもかかわらず、ロシアは廃棄せずに残した巨大な原子力潜水艦をこっそり中国に転売しょうとします。ムルマンスクからベーリング海峡を越え、はるばる中国に潜水艦を回送しようとするロシア側と、迎えようとしている中国海軍、それを妨害しようとするアメリカ海軍の、手に汗握る戦いが展開されます。アメリカの潜水艦ポートランドでロシア語通信傍受を行うのが、何と初めて乗船した女性士官。女性が載ったことから、次々と事件が起こります。
読了して現実世界を見れば、侵略戦争遂行中の帝国が本書のような戦略を進める可能性などなく、あり得ない夢物語ではありますけれど。本物のどこかの大統領や情けない首相と違って、双方の艦長も、アメリカ海軍司令官も、フィクション上は実に立派で魅力的に描かれています。本当ならグリーンビル-えひめ丸のような事件など起きたはずがありません。
漫画「沈黙の艦隊」アメリカ版?

(2003.4.3記)

我々も原潜廃棄の為に大金を払っているのを失念しておりました。

(2003.7.11)


The Angle of Attack

 

The Flight from Winter's Shadow

 

The Last High Ground

 

The Sword of Orion

Tyhoonの面白さに他の作品もと探してみて、翻訳されている本が二冊あることが分かりました。いずれも絶版のようです。The Sword of Orionと、The Flight from Winter's Shadow。
The Sword of Orionは『狙われたロシアの核』ISBN4-576-94170-4、矢島京子訳、1994二見文庫刊。
The Flight from Winter's Shadowは『ステルス機密航路』ISBN4-334-76069-4 北代晋一訳、1992光文社刊。
前者は、アフガニスタンから撤退しようとしていたロシア軍から盗まれた核弾頭を巡るミステリー。
なにやら、先年行われた洞窟を対象にしたデージカッター攻撃の紙上演習のような趣。
後者は、秘密裏に開発されているステルスのテスト飛行にまつわるミステリー。
いずれも核兵器がテーマ(Winter's Shadowというのは「核の冬」と絡んでいるようです。)

翻訳がない本にThe Angle of AttackThe Last High Groundがありました。いずれも新本なくamazon.comで古書を注文。

AngleofAttack

 

Last high ground

The Angle of Attackは、イラクの兵器破壊を狙うため、アメリカとロシア(厳密にはリトアニア)の兵器研究者獲得を巡るお話。アメリカ人学者は照準装置を、ロシアの学者は兵器本体の開発に成功しているのです。両方の成果を組み合わせれば超強力な兵器システムが完成するというわけです。著者の趣味でしょうが、学者二人の趣味が偶然一致するアクロバット飛行の話が頻繁に出て、武器飛行機オタク本に思えたりも。結局はよくできたミステリー。どうして翻訳が出ないのか不思議なくらい。「イラクによる大量破壊兵器の使用を未然に防ぐ」というのがそもそも話の始まり。何だかどこかで聞いたような?
こちらは、used bookを購入してでも読む価値はありそうです。
それに対して、The Last High Groundは全く別物。読み始めてすぐ翻訳が出ない理由がわかりました。
日本人読者に読まれることを想定したら、決して書けないミステリー。舞台構成に辟易して、読む勢いがつきませんでした。恐らく日本語訳永久に出ないでしょう。used bookをわざわざ購入するにも及ばないように思えます。

何でも製造コストの安い国で製造するのが時代の流れだが、飛行機製造産業は最後の優位産業(The Last High Ground)なので、製造原価が安いからといって外国製造に出して、失業者を増やすなどもっての他、という前書きがあります。まさに飛行機も武器兵器も、更に両方を組み合わせた事業=戦争も、確かにお国の主力産業。

日本の暴力団体が、被爆者団体をも隠れ蓑に使い、ボーイング社を乗っ取ろうとする企みに対し、日本の警察官と主人公ブライアン・マックヘンリーとが協力して戦うというお話。
原爆投下に使われた爆撃機エノラゲイが、再登場します。
1995年に予定されていたスミソニアン博物館原爆展示企画が中止になった記事を見聞きした記憶があります。主としてアメリカ国内の退役軍人の反対運動が原因だったようです。あの一件ををヒントにして書かれたのでしょうか。宗主国の「足を踏みつけている側は、踏まれている側の痛みは分からない。」の典型。劣化ウラン弾の濫用の背後の心理が伺えるような。

原爆博物館土産見学もどうぞ! こんなショットグラスでウイスキーを飲んで美味しいと感じる人がいるのでしょうか! グラスに模型としてつけられているファットマン(デブ?)、リトルボーイ(セガレ?)は、ご承知の通り、それぞれ長崎、広島に投下された「原子爆弾」のコード名です。 毎日新聞記事原爆投下とイラク もどうぞ。「拒絶された原爆展 - 歴史の中のエノラ・ゲイ」マーティン・ハーウィット著 みすず書房刊や、「戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在」藤原帰一 講談社現代新書もお勧め。新スミソニアン博物館で、エノラ・ゲイ展示中。今回も当然「被害」についての展示は皆無です。

この本以降、いくら面白い本を書いても、この著者の本は日本語訳が出なくなったのでは、と勝手に妄想も。まさか、そんなことはないでしょうけれど。
余談ながら、主人公が『ステルス機密航路』と同じであったことに、読み終わってから気が付きました。意外や、二人は結婚していたのです。

(2003.5.7記)


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