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Monstrum


Monstrum

Donald James著
Villard Random House
1997年
ペーパーバックは1999年刊 6$)
定価$24.95
437ページ
ISBN0-679-45770-4

現在ではなく、2015年のロシアが舞台です。右派とアナーキスト間の内戦後、右派が政権を掌握しています。大統領には、外見をよくするため、純真な文学者ロマノフが据えられますが、実権は副大統領である秘密警察のトップ、レオニード・コバが握っています。この政府は、敗北したアナーキストたちも、出頭して降伏さえすれば許す、という人道的対応をすることになっています。

極北の都市、ムルマンスクの警部コンスタンチン・ヴァジムが、モスクワに転勤してきます。ただの物取りくらいしか担当したことのない彼が、クラスナヤ・プレスニャの新職場、第13区署にいってみると、なんと連続殺人犯モンストルムの担当になっています。現在、国際見本市会場や、高級ホテルがあるクラスナヤ・プレスニャ地区は、内戦後、乞食、浮浪者、売春婦がうごめく危険地帯と化しており、そこで若い女性が切り刻まれて殺されるのです。被害者は皆、子宮が摘出されています。人々が、この変態連続殺人犯につけたあだながモンストルム、つまり書名です。

主人公は、仕事上で問題をおこし、ムルマンスクには居られなくなり、僻地ノリリスクに転勤となるところを、友人ロイ・ロルキンによって救われ、整形手術を受けた後、モスクワ務めとなったのです。警察とは全く別の重要な仕事もするのです。そちらの仕事のためにこそ、モスクワに転勤になったのです。主人公、けっして敏腕警部とはいえず、むしろ純朴、無能です。職場には、部下のドロンスキーが飼っている猫がいますが、名前がなんとV.I.レーニン。

彼は、当然、現政権を握っている右派支持ですが、妻は有名なアナーキスト女性師団の美人師団長ジュリア・ペトローヴナ。現在彼女は逃亡中。彼の幼なじみのロイ・ロルキンは、チェーカーつまり秘密警察の幹部です。そこで、彼女をなんとしても見つけだそうとコンスタンチンを執拗につけ回します。政治的な意見対立から、彼女が息子ミーシャをつれて彼のもとを去った後も、コンスタンチンが、この苛烈な性格の妻ジュリアを綿々と愛し続けているためです。

警察に、妖艶な美女イマジェン・シェパード博士がアメリカのアムネスティ代表としてあらわれます。署にアムネスティの臨時事務所が設けられたためです。モンストルム被害者の死体解剖を担当するのが、これまた魅力的、情熱的な女医ナターリヤ・カルローヴァ。ナターリヤ・カルローヴァは、一時イマジェン・シェパードの元で働いたことがあるのですが、二人の仲はなぜか非常に険悪です。主人公、この二人の美女からも迫られるというモテモテ男なのです。

馴染み深いモスクワ市内の地下鉄駅周辺の情景や、スターリン、ベリヤたちの悪行の歴史がからんで物語は進みます。めまぐるしい展開のおかげで、読み始めたらとまりません。

1905年駅や、バリカードナヤ、キエフ駅等、地下鉄駅名が頻繁にでてくるので、ロシア、モスクワの基礎的な地理をご存知の方が、よりおもしろいかもしれません。
本書をよみながら、思わずモスクワ地下鉄Webを見たり、モスクワ百科事典をながめたりしてしまいました。

美人師団長ユリア・ペトローヴナの描写に、つい60年安保、あるいは70年代日本の学生運動家たちの姿を連想しました。

シベリアの自然と、ロシアの歴史を編み込んだミステリー、Siberian Lightと、内戦後の都市情景とロシアの歴史を編み込んだ本書は好一対。

と書き込んだのは1999/2/27頃のような記憶がありますが、面白い本は翻訳がすぐにでるもののようです。
「ロシア、2015年」という題名で、扶桑社から翻訳が、なんと1998/2/28日にでています。上下、各720円。日本語を読むに限ります。
新潮文庫からも、同じ著者による本の翻訳『裏切りの紋章』がでているそうです。これから読んでみたいと思っています。

(1999/3/5記)

本の画像、あるいはAmazon.comをクリックして、本書を直接購入することもできます。


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