ポートランド日記                                     スズキメディア

10月8日(月)──69日目


 スピーキングのクラスは、今日からいよいよインフォメーションスピーチが始まる。昨日一応原稿は仕上げて一回だけ読んできたが、練習不足で自信は全然ない。10時半くらいに大学に着いたので、図書館で原稿を読み直しながら少し手直しした。
 スピーチは、「次は誰々」とそのつど指名されるのかと思ったら、先生が最初に黒板に今日発表する5人名前を書き出した。今日は僕はスピーチなし。早く終わったほうが気が楽と言うこともあるが、ひとまずほっとした。
 今日は、スピーチを聞くだけでいいので、気が楽だ。

 全員用紙を渡されて、それぞれのスピーカーについて、導入部の引きつけ方、論旨の展開の仕方、結論の持って行き方、それに、話すときの態度、声の大きさ、聴衆を引きつけたか、原稿を読むのではなく話せたかなどの、チェック項目をチェクして、感想を書いて提出する(無記名)。
 聞きながら、チェックもするので、なかなか忙しく、ともすると話を聞き逃してしまう。日本人(このクラスは15人中7人が日本人)のスピーチは発音も聞きやすいが、他の国の人は聞き取りが難しい。

 今日の5人のスピーカーのトピックは、「コンピューターの歴史」「中華料理」「関西空港」「関西の漁業」「友だち」。5人いても、トピックは重ならないものだ。一番笑いを誘い、受けていたのは、「中華料理」で、日本人の19歳の男の子で、日本で中華料理店でバイトをしたときの体験をもとに、中華料理について話をした。食べ物の話というのは、誰にも理解しやすいし、学生には3人の中国人もいるので、受けやすいテーマだ。しかも、実体験に基づいているので面白い。
 「関西の漁業」の話も、自分が魚を捕るのを手伝った話で、実際の体験に基づいた話は面白い。こうしてみんなの話を聞いていると、日本でも、日本語のスピーチの授業があると面白いし、有意義だろうと思った。
 スピーチの(訳語としては、演説も弁論も談話もしっくりこない、いい言葉はないだろうか。「スピーチ」の適切な日本語がないところが、日本におけるスピーチ教育の遅れを示しているとも言える。

 発音などの話し方、論旨の運び方なども重要だが、トピックの選び方で、受けるかどうか半ば決まってしまうようなところもある。僕の選んだ「サタデー・マーケット」は、ポートランドのことだし、みんな興味はあると思うが、さて、どうなるだろう。
 五人終わったあと、先生の講評。今日の授業はそれだけで、早めに終わった。

 今日は三時からカンバーセーションパートナーの説明会があるので、それまで時間がある。バスで大学に来るときに、大学の向かいにあるレストランが気になっていた。どんなところか行ってみたら、地中海料理の店で昼はビュッフェ(発音はバッフェに近い)をやっている(ビュッフェは日本で言えばバイキング)。店の名前は、KOLBEH(発音はわからない)。6.99ドルで食べ放題というのは、安い。
 12時くらいなのでまだ客は数人だったが、入ってみた。地中海料理といっても、ギリシア、トルコ、中近東の感じ。シシカバブとか、ピタとかで、スープもいろんな香辛料が入っていて不思議な味付け(でもおいしい)。どれもおしくて、なるべく少しずつ食べるようにしたが、出ているも全部試してみることはできなかったので、また来ることにしよう。チップを1ドル置いても、8ドル(960円)だから、これだけいろいろ食べられておいしければ、言うことない。

 カンバーセーションパートナーの説明会に集まっていたのは、三〇人くらいいたが、僕以外はすべて女性。多様気まずいが辛抱する。
 PCCはオレゴン州の中では、二番目に日本語教育が充実しているのだそうだ。二年間のコミュニティカレッジとしては、もちろん一番。現在、三〇〇人くらいが勉強していて、一年生と二年生のクラスの他に、もう少し日本語が話せる人のための文化にポイントを置いたクラスがある。
 授業は、とにかく日本語に慣れるということを基本に置いて進めるそうだ。授業中は、一部の英語で質問していい時間を除いては生徒の英語は禁止。それでも、ひとクラス25人と人数が多くて、なかなか日本語で話す機会がなかったり、日本語で話しても間違いを直してくれる人がいないことがあるので、カンバーセーションパートナーという仕組みを作っている。僕のほうも、日本語を学んでいる人には興味があるし、自分自身の英語の勉強にもなる。

 日本語を教える上での話で面白かったのは、例えば、「私は日本人です」の助詞の「は」を主語(サブジェクト)を示すものとしてではなく、トピック(そのときの話題)を示す「は」として教えること。
 なぜかというと、日本語では、しばしば主語が落ちるが、(普通に話しているときは「昨日泳ぎに行きました」のように「私は」は落ちる)、最初から「私は」を主語として説明すると、「なぜ主語がなくなるの?」とアメリカ人は混乱してしまう(英語では、日本語のように主語がなくなることはない)。それで、「は」はトピックを示すと教えて、トピックが話し手にとって周知の場合には落ちることがあると教える。
 もちろん、文法的には、「私は」は主語だから、最終的には、そういう文法的知識も学ぶが、それはずいぶん先のことになる。
 こんなふうに日本語を客観的に考えたことがなかったので、面白かった。
 説明のあと、都合のいい時間をすりあわせて、カンバセーションパートナーを決めていった。僕は、水曜日と金曜日の九時から、アンディさんとゾラさんという二年生の人とやることになった。あとは、彼らからのメールを待って、待合せの打合せをする。

 大学の帰りに、郵便局に寄るがコロンバスデーで休みだった。大学はコロンバスデーなんかの休日では休まないが、郵便局はしっかり休む。日本とはずいぶんシステムが違うなと思う。


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