ポートランド日記                                     スズキメディア

9月28日(金)──59日目


 今日はPCCで3回目のスピーキングの授業。
 まず、前回渡した、「How to Give Your First Speech」(初めてのスピーチ)という資料を元に、スピーチの仕方の解説。やはり、早口の先生の話を理解するのは大変。特に、この資料はさぼって読んでこなかったので、わからないところが多い。それでも、3回目なので、だいぶ先生の話し方にも慣れてきた。
 こちらに来るまではわからなかったが、英語の話し方や発音はみんな違うので(考えてみると当たり前)、初めて会う人の話はどうしても聞き取りにくい。何度か会っていると、だんだん話していることがわかるようになってくる。英語の話し方のの癖みたいなものが、わかってくるのだろうか。

 そのあと、「prompt speech」(即席のスピーチ)というのをやった。5分間準備をして、1分のスピーチをするというもの。テーマは、「future plan」(将来の計画)または「I like / dont't like Portland」(ポートランドの好きなところ嫌いなところ)。
 5分たって、順番に指名されて、前に出てスピーチをする。この間は、一緒に組んだ人の紹介という短い話をしたが、その場で話すのと、前に出て話すのは全然違う。時間がなくなって僕まで回ってこなかったが、名前が呼ばれるたびにドキドキした。
 今日発表しなかった人は、月曜日また別のテーマで「prompt speech」(即席のスピーチ)をやるそうだ。水曜日には、最初の5分間のスピーチのアウトライン(概略)を提出しないといけない。

 授業が始まってすぐに、どんどん人前で話をさせるのは、人前で話すことへの抵抗感をまず最初になくしてしまうためのものだそうだ。これを、「Icebreak Speech」という。つまり、氷を割るように抵抗感をなくしちゃうというわけだ。
 僕が中学高校の頃には、英語の授業で、話すこと聞くことはほとんどしなかった。これでは、英語のスピーキングとリスニングができるわけがない。それに、国語の授業でも、人前での話し方なんてあまり習わなかった。中学の時に弁論大会というのがあって、候補者を決めるのに、全員スピーチをさせられたけど、あれは、単に原稿を読むもの。
 今習っているスピーチは、「アウトラインを書いたものを見るだけで原稿を暗記してはいけない」、「話すときは聞き手を見る」とか、「どういうふうに聞き手の注目を引きつけるか」、といったことが前提になる。日本の弁論とは全然違う。
 こうした教育を受けているアメリカ人だから、自分の考えを持ったり、人前で意見を述べたりするのに、抵抗がないのだろう。当時多発テロ事件のあとの番組で、スタジオに集まった高校生や大学生が、意見をしっかりと述べているのに感心したが、今の日本の中学高校ではこうした教育はしているのだろうか。

 授業の初めには、先生が、みんなが録音してきたカセットテープを集めた(昨日一生懸命録音した)。来週、どんな評価がもらえるか楽しみだ。

 授業の初めには、日本の学生向けと言って、用紙を渡された。日本語を勉強したい人のためのチューター(教師)の募集で、10月8日の3時から説明会がある。ボランティアだから、お金がもらえるわけではないが、英語力は問わないとある。自分の英語の上達のためにやってもいいらしい。
 どんな人が日本語の勉強をしたいと思っているのかも興味があるし、説明会に出てみようと思った。

 Cは今日は、保健婦の人と回ったときに知り合った日本人のお母さん(マナミさん、子どもは3歳)と一緒に、オレゴン科学産業博物館(OMSI)に行った。こちらの地域看護の状況などを、実際に住んでいる人から聞くためだ。日本人なら、細かいところまで詳しく聞くことができる。
 マナミさんは、兄弟がこちらの会社に来ていた時に、ポートランドに遊びに来て、今の旦那さん(アメリカ人)と知り合って、こちらに移り住んだ。今は旦那さんの両親と一緒に住んでいるそうだ。アメリカでは同居することはほとんどないらしい。

 昼食は、OHSUのカフェテリアで、鶏肉を揚げたものにマッシュポテト、量が少なそうだったので、フィッシュアンドチップスも頼んだ。こちらの揚げ物は、いわゆる唐揚げ、日本のカツのように、パン粉を付けて揚げる物は見かけない。パン粉自体もスーパーにもほとんど売っていなくて、ようやく見つけたら、「パン粉」と日本語で書いてあるものだった。
 こちらでは、時間と値段と、実物を見て注文できるので、カフェテリア(トレイを持って、順にスープ、サラダ、メインディッシュなどを自分で取ったり頼んだりして、最後にレジで会計するシステムの食堂)で食べることが多いが、OHSUのカフェテリアは、中でも味に気を配っていると思う。時々はずれもあるが、下手なレストランよりおいしいかもしれない。

 スーパーでビールを買ったときのこと。6本入りのパックを持っていったのだが、1本抜いて買っていった人がいて、5本しか入っていなかった。「1本ないけれど」と言われて、あわてて「I will get it」(取ってきます)と告げて、取りに行った。この「I will get it」はほとんど頭で考えずに口から出てきた。少しは英語に慣れてきたのかもしれない。
 この日記では、英語で行われたやりとりも含めて全部会話は日本語で書かれているが、これは、なぜかというと、実際には日本語でしか覚えていないから。その日のいろんなことを思い出して日記に書き留めるとき、僕の頭の中では、アメリカ人も日本語で話している。
 人の話をメモするとき、日本語で書き取るように、記憶はすべて日本語なのだ。これが英語なれば本物だろうけど、この歳だからたぶんならないと思う。よく、「英語の寝言をいう」「英語の夢を見る」というけど、それと同じことかもしれない。


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