ポートランド日記                                     スズキメディア

9月19日(水)──50日目


 7時11分のバスで、PCC(ポートランドコミュニティカレッジ)へ。一度ダウンタウンに出て、44番のバスに乗り換えるので、50分くらいかかる。8時過ぎに着いたので、試験を受けるカレッジセンターの中のカフェで、コーヒーとサンドイッチで朝食。コミュニティカレッジというのは、日本なら短大に当たるものだから(厳密に言うと違うが)、こじんまりとまとまっている。

 テストの開始は9時だが、15分前か20分前に来てくださいと言われていたので、そのくらいに行って部屋の前のソファーに坐っていると、だんだん人が増えてくる。15分くらい前に、係りの人が「アポイントのない人は?」と呼びかけて、その人たちには順番のカードを渡し始めた。
 僕は昨日電話をしたからアポイントメントは取れたはずと思っていたら、中に呼び込まれてパスポートを見せたら、「電話ではアポイントは取れない」と言われた。でも、受付をあとに回されただけで、テストは受けることができた。

 受験した人は、日本人は僕だけ。もしいたとしても日系の人だ。アフリカ系アメリカ人も多いし、お年寄りもいる。みんなの様子を見ていると、英語はけっこう普通に話せるようだ。何でノンネイティブランゲージなんだろうと思っていたが、最後にあったENNLについての説明を聞いてようやくわかってきた。

 大学だから、僕みたいにちょっとだけ授業を受けてみたいという人ではなくて、卒業して資格を取りたいという人が来ている(当たり前だ)。しかし、英語のクラスは振り分けのテストがあるから、母国語ではない人で、高校生レベル、つまり語学力が大学レベルに達していない人は、大学の英語の授業が受けられないことになる。
 それでは英語の単位が取れないので、英語が母国語でない人のために、特別にクラスが設けられているということらしい。僕の英語力で聞いた話と、推測から考えたことだが、もしENNLで勉強することになったら、誰かに詳しく聞いてみよう。
 だから、僕のような学生は想定していないわけで、こんなところに紛れ込んでしまって大丈夫かなという気もするが、日本人が全然いない(今のところ)というのも面白そうだ。アメリカの大学で勉強するのはもちろん初めてだし、どういうことになるか、やれるところまでやってみよう。

 久しぶりの英語のテストは大変だった。僕はTOEFLとかTOEICも受けたことがないので、テストは、大学卒業以来20年ぶりだ。
 試験は、ライティング(書く)とリスニング(聞く)とリーディング(読む)の3つに分かれている。
 最初は、英作文(ライティング)。「自分がハワイにいると仮定して、想像で知り合いに手紙を書く」というもの。ハワイ以外の州や国でもかまわない。誰かが、「ポートランドでもいいのか」と聞いて「イエス」だったので、僕も「今ポートランドに来ていて、奥さん(実際は一緒に来ているが)に手紙を書く」という設定にした。
 想像といっても、そういう具体的な話題のほうがすらすらと書ける。用紙の裏までびっしり書けたが、内容のある話が書けたかどうかよくわからない。隣の人も、裏までびっしり書いていた。
 英作文の試験というのは、時制が間違っていないか、単語の間違いがないか、文法上の間違いがないか、それに、高度な表現をしているかがポイントじゃないかと思うが、どこまで出来たかよくわからない。

 二番目は、リスニング(聞き取り)のテスト。テキストを渡されて、テープを聞きながら、マークシートに答えを記入していく。TOEFLとか英語のテストではお馴染みのの形式だろうが、僕は初めてだ。
 全部で75問が4つに分かれていて、最初は、掲載されている写真の正しい説明を4つの中から選ぶ。それほど難しい英文ではないので、わからない単語が出てこない限り大体答えられた。次は、4つの英文から今読んだ英文はどれかを選ぶ。日本人なら難しくない。
 その次は、4台の車と、通りの名前と、スーパーマーケット、ペットショップなどの建物が記されている地図を使った問題。テープからは、「次の角を右に曲がると○○の店がある」というような車の中での会話が流れる。それを聞いて、4つのうちどの車が当てはまるか答える。会話自体は難しくないのだが、左へ曲がるとかのほかに、北へ進むとか、方角に関する会話も出てくるので、混乱してしまう。
 最後は一番難しくて、3人の高校生(男2女1)と養護教諭(スクールナース)が出てきて、その会話を聞いたあと、質問に答えるというもの。男子生徒のどちらかが昨日腹痛で寝られなくて、もうひとりがインフルエンザらしいが、男二人の区別がうまくつかない。女の子は、バスケットの試合を前にして、足をけがしたらしいが、やはり細かいところがよくわからない。英文は一度しか流れないから集中しないといけない。時間がたつと、だんだん集中力がとぎれてくる。

 でも、何とか終わって、三番目は、リーディング(読み取り)のテスト。40分間。テキストを読んで75の質問に答えていく。これはたぶん3つに分かれていた(このころは、そろそろ頭がオーバーヒートしてきて集中できず何だかわからなくなり始めていた)。
 最初は、英語の質問の答えを4つの中から選ぶというもの。わからない単語に引っかからない限りそれほど難しくない。次は、絵に描かれている内容を正しく示しているものを、4つの英文から選ぶ。これが一番簡単だった。
 最後は、10センテンスくらいからなる短い文章の問題。各センテンスに空欄があり、4つの単語からひとつを選んで埋める。そのあと、文章の内容についての質問に答える。文章は3つだったが、だんだん難しくなる。
 英文のレベルとしては、中三から高一くらいで、決して難しくはないのだが、わからない単語があるので、全体の意味がどうもいまいちつかめない。なんとかこじつけながら答えていったが、どのくらい正解したかどうか不安だ。

 テストは2時間休みなく続いているから、このころは頭の中は引っかき回された状態。集中が切れて、簡単な英文の意味をとるのにもけっこう苦労する。
 それに、テスト監督のジョンさんのしゃべり方が早い。誰かから、「もう少しゆっくり」と声が飛んだが、「リスニングのテストはもっと早い」と言って取り合ってくれない。3つのテストが終わるまで休憩は全くなしトイレにもいけないし、大変だ。
 何とかテストはこなしたけれど、いったい何点取れただろう。60点?、70点? 発表は金曜日で一時半にもう一度PCCに行く。そこで、ENNLのどのクラスを取ったらいいか、カウンセリングもあるそうだ。せっかくテストを受けたのだから、英語を3か月勉強しようと本気で思い始めている(最初は場所と時間が合えばという感じだったが、今は多少遠くたってという気になっている)。
 英語は高校の時にあきらめたので、もはや四五歳になって英語を勉強することになろうとは思わなかった。

 そのあと、ENLにクラスについて説明があった。パンフレットを読んでいたら、学生はまず最初に、アドミッション(入学手続)が必要らしい。僕は取りあえずテストを受けに来ただけ。何もしていない。聞いてみたら、「アドミッションオフィスに行って、アドミッションしてこい」という。
 また、一からやり直しかと思ったが、オフィスに行ってみたら、パスポートなど見せずに、書類に住所などを書き込んだだけで、学生のID番号がもらえた。これで、めでたくPCCの学生になったらしい。手続きすれば、図書館やコンピューターラボで使えるIDカードも作ってもらえるようだ。

 いろいろあって疲れたが、12時35分のバスで帰る。途中で、昼食に、パイオニアコートハウススクエアで、立ち食いのブリトーを買ったが(前から一度食べてみようと思っていた)、この間のタコスほどおいしくなかった。カウンターにトマト系のソースが20数個並んでいるが、どれをかけていいかわからない。取りあえずかけてみたのは甘すぎた。

 寮の部屋に帰るとさすがに疲れていた。でも、ジムで運動したあとのような心地よい疲労感だ(ちょっとカッコつけすぎ)。普段も原稿を書くのにも頭は使っているのだけど、英語は使うところが違うようだ。

 今夜は、Cが参加しているプログラムのメンバーの懇親会。偶然、日曜日に行ったケネディスクールが会場だ。6時15分にキャシーさんが車で迎えに来てくれる。
 今日は、日曜日とは違い、高速に乗らず下の道で行ったので、渋滞することもなくすぐに着いた。ケネディスクールは、昔小学校だっただそうだ。「ここに来るとその頃を思い出しますか?」とキャシーさんに尋ねると、「そうね」と返ってきた。彼女が通った小学校は古いところだったけど、途中で新しいところへも行ったと言っていた。「インテグレーション」といって、いろんな人種の人が融和するように、子どもたちを違う地域の学校に通うようにした制度で、僕も話だけは聞いたことがある。

 懇親会はレストランで、僕らは、一時間半くらいいて、キャシーさんに送ってもらって帰った。人がいっぱいいて、わんわんと響いているところで、英語を聞くのは辛い。ビールを飲んでいい気持ちになってくると、もう英語なんていいやという気になってくる。少人数の集まりなら、向こうもこちらのつたない英語を一生懸命聞いてくれるからいいが、今日のように大人数だとなかなかコミュニケーションがとれない。
 僕など、「どうせ今日だけのお付き合いだから」と思って少し引いてしまうが、Cはこれからもプログラムでいろんな人と接するので、知り合いになるいい機会だったのかもしれない。
 キャシーさんは、「ガーデン・バーガー」というのを頼んで、「知っていますか?」と聞いて、少し食べささせてくれた。その名のとおり、ガーデン(畑)で穫れる物で作ったバーガーで、大豆がベースでいろんな野菜が入っている。見たところハンバーガーと変わらないが、ひつこくなくておいしい。
 どこでもあるわけではないようだが、今度機会があったら、頼んでみよう。


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