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一芸

「…は? 掃除好き? オレが?」
「はい」
 おいおい、なに言ってんだよ。
「…んなわけねーだろ。オレは、掃除なんてちっとも
好きじゃねーぞ。面倒くせーだけだ」

「そうなんですか? だって、いきなり一緒にお掃除
なさりたいなんていわれるもので、てっきりわたし、
お掃除が好きなのかと…」
「……」
 しばらく無言で口を開いてから、オレは、
「ファイヤー! マルチー!」
 火を吐きながら言った。

 うわー、オレって一体!?


きっかけさえあれば…

「オレはべつに、掃除が好きだから一緒にやってたわ
けじゃねーんだぞ。ひとりで掃除してるマルチと仲良
くなるチャンスだったから、手伝ってやったんだ」
「…えっ? …手込めにするって。この私をですか?」
 きょとんとした顔で訊くマルチ。
「いや、そこまでは言ってないぞ」
 オレは首を振った。


オレがツッコミで、マルチがボケで…

「本来なら、ロボットであるわたしのほうがお手伝い
しなきゃいけない立場なのにっーーー。もう、これで
2回目の迷惑ですーーーーっ!」
 そういうと、マルチは『すみません、すみません』
とペコペコ頭を下げ始めた。

「おいおい、んな大袈裟な。いいじゃねーか。オレが
勝手にやったことなんだから」
「…でも」
「ま、このオレが通りかかって、ラッキーだったな、
程度に思っときゃいいんだよ」
「…ミッキー?」
「ラッキー!」
「…ウッキー?」
 ペシッ!!
「あっ…」


久々の出動

「いや、じつは、オレは悪いヤツなんだ」
「え?」
 マルチは『?』と苦笑する。
「じつはオレは、地球を征服しにきた悪い宇宙人なん
だ」
「え? ま、まさか!?」
「とにかく悪い宇宙人なんだ」
「きゃー、助けて! アストラバスターズ〜!!」
「いや、そうじゃなくて…」


拭きたてのフキフキ

「わたし、あなたみたいな親切な方にお会いしたの、
生まれて初めてです」
「…や、やめろよぉ。…だいたい、マルチ、お前って
生まれてどのくらいになるんだ?」
「はい、2週間になります」
「なんだ、まだ生まれたてのホヤホヤじゃないか」
「はい、ホヤホヤです」
「…ってことは、まだ新城沙織ちゃんみたいなもんか」
「それは、『フキフキ』です」
「…ってことは、まだ柏木楓ちゃん、みたいなもんか」
「それは、『ふるふる』です」
「…ってことは、まだ来栖川先輩みたいなもんか」
「それは、『コクコク』です」
「…ってことは…」
「もういいです」


ツルペタ

「わたし、あなたみたいな親切な方にお会いしたの、
生まれて初めてです」
「…や、やめろよぉ。…だいたい、マルチ、お前って
生まれてどのくらいになるんだ?」
「はい、2週間になります」
「なんだ、まだ生まれたてのホヤホヤじゃないか」
「はい、ホヤホヤです」
「…ってことは、まだ赤ちゃんみたいにツルツルで、
ペッタンってことか」
「え? …そ、そうかもしれません」
 マルチはポッと赤くなった。


人違い

「いない?」
「はい。みなさんお忙しいそうで、先に帰られました」
 なんだよ。
 ロボットだからって、みんなに掃除を押しつけられ
ちまったのか。

  B、ま、がんばれよ。

「ふーん。大変だな。…ま、がんばれよ」
 オレは、ポンと頭を叩いて言った。
「わたしを叩いても、神経衰弱は勝てませんよ」
 しゃきっとした口調でそう答えると、マルチは再び
掃除に戻った。
 オレはちょっと寂しくなった。


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