[ 0013 ]

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綾香の正体

「決して、そんな理由じゃないんです! 私はただ、
追いつきたいんです! 近づきたいんです! あの人
に! 綾香さんに!」
「綾香に追いつく…?」
「はい!」
 葵ちゃんは、真っ直ぐな目で大きく頷いた。
「…小さい頃からずっと、綾香さんは、私の宿敵だっ
たんです。もともと空手を習い始めたのだって、きっ
かけは綾香さんでした。小学校の頃、あの人にいじめ
られて、仕返すするため同じ道場に入ることを決めた
んです」
「それは…初耳だわ」


双子の性

「同じ道場にいた頃、綾香さんって、手を伸ばしたら
届く距離にいても、道着を着て、構えをとった瞬間、
どこか遠く離れた存在になってしまう人でした。それ
は単純に、私とあの人の実力の差だったと思います。
綾香さんには適わないっていう気持ちが、そんな印象
を与えてたんだと思います。だから私、いつも稽古を
しながら、綾香さんに近づきたい、少しでも追いつき
たいって、そればかり考えてました」
「葵…」

「私、ずっと、あの人に追いつこう、近づこうって、
頑張ってきたんです。でも去年、綾香さんは、絶対に
追いつけない場所に、行ってしまった…」
「人間界を去って、大霊会に乗り換えたってことね」
「はい…」
「だから葵も、あの子を追っかけて、同じ舞台に立ち
たいっていうの?」
「はい…」

 知らなかった。
 来栖川姉妹は、二人ともソッチ系の趣味があったん
だぁ。


閉じることなくまん丸い

「それよりも、私がなにをなめてるって?」
 坂下がオレを睨んで言った。
 うっ。
 その鋭い眼光に、うかつにもオレは、ちょっとだけ
怯んでしまった。
 さすが空手をやってるだけのことはあるぜ。
 魚のような眼光だ。
「……どういう意味?」
 う〜む、格闘技をやっているだけあって、他人の心
も読めるのか!?


そんなこと、ウブなオレには……

「それよりも、私がなにをなめてるって?」
 坂下がオレを睨んで言った。
 うっ。
 その鋭い眼光に、うかつにもオレは、ちょっとだけ
怯んでしまった。
 さすが空手をやってるだけのことはあるぜ。
 獣のような眼光だ。
「ねえ、なにをなめてるって?」

「え?」
 ポッ!
 オレの頬が真っ赤に染まる。

「ななななっ! 何を想像してるぅ!!」

 いやその……。


好き好き好き好き好き好き♪ 葵ちゃん

「だったらお前は、葵ちゃんが毎日どれだけ努力して
るか、一度でも見たことあんのかよ?」
「……」
「この子がいつも、どんなに一生懸命練習してるか、
お前は見たことあんのかよ!?」
「……」

「武道の精神を忘れた格闘技なんて、ただの喧嘩だ?
ああ、たしかにそうかもしれねえさ。だがな、この子
がその精神を忘れてるって決めつけるのは、おかしい
んじゃねえのか? 強くなりたいって気持ち、努力と
根性、この子のはどれをとっても一級品だぜ。まさに
『とんちんかんちん、一休さん』って感じだ」

 ゲシッ!

 坂下はオレのハイブローなギャグにおそれをなした
のか、オレの頬をぶんなぐった。

 これだから、洒落がわからない女ってのは……。


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