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優雅なランチ

「――う〜ん…」
 うららかな陽射しを浴びながら、オレは思いっきり
背伸びする。
 だけど…。
 たまには、こんなふうにのんびりと、ひとりで飯を
食うのもいいかもな〜。
 そんなことを考えながら、カフェオレのストローで
花壇の花の蜜を吸っていると…。

「あ、先輩!」
 偶然そこに現れたのは、葵ちゃんではないか。
 手には、お弁当を持っている。
「先輩、ひとりでお食事ですか?」

 ……葵ちゃんのそういう変な冷静さは、一体どこか
ら来るんだろう。


だって私も食べたいもん

「そういえば、先輩は、いつもパンなんですか?」
 葵ちゃんが訊いてきた。
「…ああ。オレんちって、両親共働きだから、母親も
忙しくてさ。いつも、食堂かパンなんだ」
「…そうなんですか。だけど、毎日パンばかりだと、
体力つきませんよ?」
「う〜ん。だろうなあ…。たまには、愛情のこもった
うまい弁当ってのも、食べたいなあ〜」
 オレは哀れみを誘うような声で言った。
「せんぱい…」

「パンは、もう、飽きたよなあ〜」
「…あっ、あの、じゃあ、もし、私でよろしければ、
今度――」
「弁当作ってきてくれるか!?」
「いえ、――愛情のこもったうまい弁当を食べようか
なぁ、って思って」

 強引なオチだな。


適材適所

「…よく考えたら、私、お料理とか、あまり得意じゃ
ないんでした」
 葵ちゃんは、あははと笑った。
「…なんだよ〜、ひさしぶりに愛情のこもった弁当が
食べれるかと思ったのに〜」
「あっ、なんなら、神岸あかりさんに…」
「……なぜそれを知ってる?」


ちっぽけなプライドォ?

「…よく考えたら、私、お料理とか、あまり得意じゃ
ないんでした」
 葵ちゃんは、あははと笑った。
「…なんだよ〜、ひさしぶりに愛情のこもったミート
煎餅が食べれるかと思ったのに〜」
「いえ、そこまでは酷くないです」
 葵ちゃんは困った顔をする。

 ふと後ろに視線を感じると、マルチが涙目でこっち
をじっと見ていた。


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