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夜の惨劇 イン 柏木家

「!」
 俺は、廊下の奥に人が倒れているのを発見した。
 それは間違いなく、初音ちゃんと楓ちゃんだった。
 俺はふたりの側に屈み込んだ。
「初音ちゃん!」
 俺は初音ちゃんの肩を抱いて上体を起こした。
「…うっ、…うっ、…お兄…ちゃん」
 初音ちゃんは、嗚咽の交じったか細い声をあげた。
「いったい、何があったんだ!?」
 そう訊ねても、初音ちゃんは震えながら俺の胸に顔
を埋めて泣きじゃくるばかりで、何も応えてはくれな
かった。
「…お兄…ちゃん…お兄ちゃん…」
 可哀想に、すっかり怯えてしまった初音ちゃんは、
必死に俺にしがみつき、離れようとしなかった。

「…耕一…さん」
 楓ちゃんが、囁くように俺の名前を呼んだ。
 キュッと唇を締め辛そうな顔で、ヨロヨロと上体
を起こした。
 俺は、そんな楓ちゃんの肩を、ぎゅっと強く抱いて
支えた。

「…耕一さん」
 そのとき楓ちゃんは、弱々しくも必死な目で、俺に
何かを訴えた。
「…姉さんが…千鶴姉さんが…」
「千鶴さんが…どうしたって?」
 俺が訊ねると、楓ちゃんはゆっくり視線を横にずら
した。
 俺も、それを目で追っていく。
 そこには…

「!」
 俺は息を飲んだ。
 人が、壁に背もたれるように倒れていた。
 それは、千鶴さんだった。
 千鶴さんのエプロンが赤く染まっていた。
 ケチャップだ。
 よく見れば、これまで点々と廊下の床に続いていた
ケチャップは、彼女のもとへ行き着いている。
「…ち、千鶴さん?」
 俺は、囁きかけるように声を掛けた。
 その瞬間、閉じていた千鶴さんの目がゆっくりと開いた。
「…こ、耕一…さ…ん?」
 い、生きてる。
 俺はホッと胸を撫でおろした。
「千鶴さん! だ、大丈夫ですか? いったいなにがあった
んですか!?」
「…………お」
「お?」
「お料理、失敗しちゃった。てへへっ!」
「…」

 一体どんな風に失敗しればこうなるのだろう? しかし、
料理を失敗しただけで、楓ちゃんと初音ちゃんをダウンさせ
るとは… やはりおそるべし、『柏木千鶴』!!!(笑)


エスパー☆千鶴 その壱

 納骨までの四十九日間、うち一週間くらいはせめて
側にいてやるかとやって来たものの、日中は特にする
こともなく、暇で暇でしょうがないのが現状だった。
 自宅なら『初音ちゃん、萌えぇぇ〜』とパンツ一丁
で、ゴロゴロと転がればいいのだが、やはりここでは
そういうわけにもいかない。

「自宅でそんなことを…。不健康です! 耕一さん」
「げっ、ち、千鶴さん!」
 ふと気付くと、千鶴さんが俺の横に立っていた。
 どうやら、また俺の心を読まれていたようだ。


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