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[ 雫・痕 設定原画集 を見てない方はご遠慮下さい ]

ロロロの初音ちゃん

 それは、初音ちゃんの部屋で神経衰弱をしている時
だった。
「あー、また負けた。初音ちゃんは強いなぁ」
「そ、そうかなぁ…」
 初音ちゃんはそう言うと、はにかむように照れて、
俯いた。
 その時だった。

「あれ? 初音ちゃんの髪の毛、なんか寝癖がついて
るよ」
「え?」
 初音ちゃんが顔をあげる。
「ほら、いつもより頭の上がピョコンとなっている」
「え? 本当に!? た、大変だ〜!!」
 初音ちゃんは、すくっと立ち上がって、部屋をうろ
うろし始めた。
「は、初音ちゃん、そんなに驚かなくても…」
「ち、違うの! お、お兄ちゃん、実はこの髪の毛、
妖怪アンテナになってるの!」
「はぁ?」
 俺は我ながら間抜けな声をあげた。
「私の身に危険が迫ると、ピョコンとなって危険を知
らせてくれるの! だからなにか危険が迫ってるの!」
 半分涙目である。
 俺はその話を聞いて、正直『そんな馬鹿な…』と思
った。しかし、他ならぬ初音ちゃんのことだ。嘘なん
かつくはずはない。ということは、本当に身の危険が
迫っているということだろうか。
「初音ちゃん、とにかく落ちついて。その『危険』っ
て何なのか、わかるかい?」
「ご、ごめんなさい、お兄ちゃん。何が迫っているか
までは、わからないの。でも、すぐ側に迫っているの
はわかるの。だって、髪の毛のピョコン度が益々…」
 初音ちゃんの頭を見てみる。
 確かに、さっきより勢いよくピョコンとなっている。
「あ、あ、あ、も、もうそこまできてるぅぅ! も、
もうだめ〜!!!!」
 初音ちゃんは断末魔の悲鳴を上げる。
「初音ちゃん、しっかりして!! 俺がついてる!」
「耕一お兄ちゃぁぁぁん!!」

 その時だった。
 部屋のドアがガチャリと音をたてた。
 そして、そのドアから出てきたのは…。

「初音、御飯ですよ〜」
 出てきたのは、千鶴さんだった。
 俺は初音ちゃんの顔を見た。
「お、おかしいなぁ。確かに危険を感じたんだけど…」
 初音ちゃんは、申し訳なさそうな顔をする。
 う〜ん、やっぱりただの寝癖だったんじゃ…
「あっ、耕一さん。ここにいらしたんですか? 御飯
の用意できましたよ。今日は上手くできたんですよ」
 ああ、もうそんな時間か。
 …え? 上手くでき…た?
「あ、あの千鶴さん。上手くできたってのは?」
「ええ、今日は梓は部活で遅くなるそうで、私が夕食
を作ったんです」
 げげっ! 初音ちゃんの身に迫っている危険って、
まさか千鶴さんの手料理のこと!?
「今日は本当に上手く出来たんですぅ」
 ニコニコ。
 千鶴さんは、天使のような笑顔でそう言ったが、俺
には悪魔の微笑みにしか見えなかった。
 初音ちゃんを見る。既に諦めたように肩を落として
いる。

 その夜、俺は初音ちゃんの妖怪アンテナの正確さを
嫌と言うほど味わうのだった。


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