1998年9月29日 ホーチミンとクチ・トンネル

9時にホテルの前に待ち合わせなのに昨日の疲れが残っていたせいか目覚ましを止め2度寝をしてしまい8時45分に起きる。急いで支度をし、下に降りる。

右がイ君
 また今日もホテルの前でカフェー・ダー。こうして騒がしい通りでカフェ・ダーを飲みながらイ君やその友達たちと話をしている時間は楽しい。バイクにまたがりクチへ向かう。昨日と異なり今日は細い田舎道だ。バスやトラックが通れる幅ではない。途中で食事。ソーセージのようなものと牛肉の入ったフォーを食べる。おいしい。
ここは彼がおごってくれた。途中小学校などをのぞく。通り沿いには平屋づくりの民家がつづく。時々お店が並ぶにぎやかな小さな村もある。たくさんのライスペーパーを日干ししている地域も通る。おそらくバスツアーだとこういう道は通らないと思う。道が狭いのだ。


 クチ・トンネルに着くと(1時間くらい)、近くの茶屋へ。オーストラリア人旅行者がいた。イ君はここで待っているという。受付でチケットを買い一室へ案内される。トンネル内部の断面模型とテレビのある部屋だ。案内人に日本人であることを確認され、日本語のビデオを見る。はじめは私一人しかいなかったが、しばらくすると日本人のオッサン5人のツアー客が入ってきた。ビデオの内容は、トンネルを掘っている様子や米軍の戦車を撃墜して活躍した兵士にスポットを当てたりした戦争当時のモノクロフィルムのドキュメントだ。敵が近くにおらずトンネルを掘る作業をしているときなどは意外にも和やかな雰囲気だ。戦争再現フィルムの常でカット割りが細かく、リアリティーはない。15分間ぐらい。

 その後のトンネルや罠などはそのツアー客たちと一緒に見ることになった。そのツアーには日本語が話せるベトナム人の案内人が一緒だったので説明を日本語で聞けてラッキーだね、と私についた案内人に言われる。そこから先はどのガイドブックにも載っているもので落とし穴の罠やトンネルだ。観光客用に拡げられたトンネルを30mほど潜ったが身をかがめながらの移動はやはりかなりしんどい。すぐに汗だくだ。一通り見た後、半地下になっている作戦会議室でホクホクにふかしたタロイモを食べる。塩をつけるのだが、これもとてもおいしかった。お茶も出た。こうした地下での炊事で出る煙も米軍に発見されないように離れた地点に無数の小さな穴を作りそこに導いて少しずつ放出するのだ。クチ・トンネルの観光地はここの他にもう一カ所ある。私が見た方は簡易版の方だ。全部を見て1時間ほどで先ほどの茶屋へ。

 茶屋の親子の食事を眺めながら休む。帰りはほとんどノンストップでホーチミンへ。ちょうど学校が終わる時間だったらしく道は帰宅中の子供たちでいっぱいだった。途中でお墓を見る。ベトナムでは一人につきお墓が一つなのでたくさん必要なのだそうだ。イ君はトゥームという単語を知らないので、死人のホテルと言う。

 

 さすがに昨日今日でバイクに数時間乗りっぱなしでお尻が少し痛くなった。イ君が営業トークの時に利用する感謝状や写真を送ってきた日本人は、バイクの後ろでは常にたちっぱなしだったのでお尻が痛いとは一度も言わなかったそうだ。

 

 さて午後は市内でショッピング。オールド・マーケットと呼ばれるところに行くが、子供服と生活雑貨、電気器具などが目につく、が何も買わない。ファミコンやプレステなどはよく見かけるが、売っているゲームがたいてい10in1などの海賊版だ。

 次にヤン・シン市場。彼はこの市場のことをアメリカン・マーケットと呼んでいた。なるほど米軍グッズを取り扱う店が多い。入ってすぐジッポー屋に声をかけられるが無視して奥へ入っていく。しばらく散策し、別の米軍流出品屋のウィンドウを見る。ここの女性の店員さんは英語も話せないようで物静かだ。おみやげ用にジッポーを買おうと見せて貰う。しばらく眺めていると旦那とおぼしき人が戻ってきた。彼は少し英語が分かるようだ。コピーのジッポーとそうでないジッポーを見比べさせる。コピーの方はあまりにもお粗末な出来で、他の商品を引き立てるために作ったかのようだ。オリジナルらしきジッポーも、偽物かもしれないとも思ったが特にジッポーにこだわりもないし知識もないので見た目が気に入ったものを2つ選ぶ。汚れに味が入りすぎていてわざと汚したように見えなくもない。1個12ドルだという。それでも日本で買うよりはかなり安いのだろうが、一応値切って2個で15ドルにして貰う。

 入り口で待っていたイ君に次はどこに行こうと言うとベン・タイン市場があるがあそこは、あまりいい市場ではなくなったという。娼婦やスリだらけだそうだ。まあもう市場は満喫したので別に行かなくてもいいやと思った。ふと思い出したのが動物園だ。さっそく連れていって貰う。

 チケットを買う。100円。動植物園と呼ばれているが植物園の方は修復中で見ることができない。中にはいるとかなり寂しげだ。広々としているのに人が少ないのだ。右手にはフン・ブーン廟、左手には歴史博物館。フン・ブーン廟の前では4,5人の若者が玉けりをして遊んでいる。とてものどかだ。蓮の葉が浮いた風情のある池の真ん中に鎮座し、その風情をすべて飲み込む。肝心の動物たちは珍しいものはいないが近くでのんびり見ることができる。豹の唸り声を聞いていると木陰から真っ黒い豹が走ってこちらに近づいてきた、と思ったら黒い犬だった。自分の庭のようにかけずり回っていた。あちこちにあるベンチではベトナム人のカップルがいちゃいちゃしている。1時間ほど見て回った。

 お腹がすいたのでイ君に夕食に連れていって貰う。いろんな店を知りたいので今度は違う店にして欲しいと言ったが、また昨日おとといと同じ店に連れて行かれそうになるのでバイクを止めて貰い説明する。anotherの意味が分からないらしいので、絵に描いて身振りも交えて何とか説明する。確かに何度も行ったお店の人とは顔なじみになったけれど、彼女たちは英語が分からないしイ君の通訳ではかなり基本的なコミュニケーションしかとれないのでちょっと飽きてしまったのだ。ようやく違う店に連れていってもらえた。

 この店はやや大きく、壁が白いせいか明るく感じる。外国人用にメニューがある。高いところなのかと思ったがメニュー一つが100円から350円だ。種類も豊富だ。メニューに日本人客が書きこんだとおぼしきコメントがありがたい。麺が別に付いたシーフード鍋を注文する。ガスコンロが運ばれてくる。運ばれてきた鍋は期待に添うものだった。小鉢に麺を入れそこに具だくさんの鍋料理をスープごとかけ、最後に恒例の香草をちぎって載せ好みに応じて調味料を入れて食べる。こういう作業はほとんどイ君がやってくれる。彼はこういった細かい親切を一緒にいる間ずっとやってくれるので感謝している。箸をすすめているとまた、いろいろな売り子たちがやってくる。宝くじ、ライター、落花生などのつまみ類。そのつまみ屋の女の子が私たち二人を見て笑った。昨日おとといと行ったお店にも来ていた子だったのだ。イ君が申し訳なさそうにベトナム語で事情を説明する。彼女から笹の葉でくるまれたものを一つ買う。20円。煮込んだ豚肉のようなものだった。脂身が多いのでサラミに似た味だ。これもうまい。今度は別の女の子からガムを買う。この店も7時を過ぎると地元の客でにぎわってきた。彼の案内してくれるお店は間違いがない(お店の名前は忘れた)。途中彼の古くからの友人3人と席を同じくする。残念ながら3人とも英語は全く話せない。私がイ君に習った乾杯のかけ声「ヨォ!」と言うと場が和んだ。ガイドブックには乾杯は「シン・ナン・コック」と書かれていたが堅苦しい表現なのか皆「ヨォ!」と言っていた。お勘定。予想通りおごることになったが5人分で800円ぐらい。

 8時15分にホテルに戻る。明日はハノイ行きの飛行機が4時半なので午前中は土産物を買う時間に当て、余裕を持って2時半にホテルの前でイ君と待ち合わせ、空港までバイクで送って貰うことにした。荷物はいつも持ち歩いているウエストバックの他に国際線機内持ち込み規格サイズのバッグが一つだ。バイクで平気なのかと思ったが問題ないという。タンソンニャット空港までは2、30分だ。

 ベッドでうたた寝するが9時に目が覚める。ファングーラオ、ブイ・ヴィエン、チャンブンダオ通りをぶらぶらする。この辺一体はほとんどが観光客向けなのでさほど面白いとは思わなかった。観光客は想像してたよりもずっと少ない。何よりも日本人が少ないのには驚いた。この晩に見かけた日本人は10人ぐらいだ。