1998年9月28日 ホーチミンとミトー(メコン・デルタ)

昨晩早く寝たので、朝6時に目が覚める。日本では考えられない時間だ。

 ベランダに出てタバコを吸いながら通りを眺める。するとバイクや自転車に乗った白いアオザイ姿の子がたくさんいる。なるほど通学時間なのだ。イ君の姿も見えたので下に降り、カフェ・ダーを飲む。イ君の友達の一人に日本語が話せる人がいたのでしばらく話す。彼は28歳で来年結婚するそうだ。ベトナムでは仕事を持っていないと結婚がなかなか難しいという。昼間はホテルの受付をし、夜は学校で日本語を学んでいるという。もう英語はマスターしたそうだ。ベトナムで手っ取り早く小金を稼ごうと思えば当然外国人相手の商売を選ぶことになる。だから語学を身につけることはとても重要だ。シクロの運転手でも、英語や日本語が少しでも話せる人はそうでない人とは稼ぎ全然違うはずだ。

 イ君のバイクの後ろに乗り、今日はベトナム航空にリコンファームのため9時頃に電話をしなければならないが今はまだ7時35分なので開いていないだろうというと、おもむろにバイクを走らせベトナム航空のオフィスの前に止める。7時40分。オフィスは7時半からの営業だった。確かに電話ではトラブった時に不安なのでありがたい。小さい事務所に入りさっそく確認すると、30日3時のホーチミン発ハノイ行きの予約は入っていませんとのこと。しかし受付の女性がかたかたキーを叩き4時半発に予約を入れてくれた。プリントアウトされた新しい予定表を貰い安堵。

 さて、ミトーへ出発だ。街道を西へ西へとひた走る。ホーチミン市内から出るとトラックやバスが急に増えてくる。市内には規制があるからあまり見かけないのだ。ちなみに市内の制限速度はバイクの場合30kmだそうだ。確かにそれ以上出せる状態ではない。次第に排気ガスが濃くなってくる。街道脇の店で彼が僕と自分用にマスクを買ってくれる。マドラスチェックのファンシーなやつだ。さらに進んで今度はフランスパンのサンドイッチを二人分買う。30分ぐらい走りガソリンスタンドに寄る。そこでついでにサンドイッチを食べる。再びしばらく走ると突然アスファルトがなくなった。彼によるとお金がないから敷けないとのこと。

 排気ガスより何より砂塵がものすごい。スピードもあまり出せない。道には暗黙のルールがあり、自転車やリヤカーならぬフロントカーにバイクをくっつけた運搬車などの遅いものが右端を走り、次にバイクが走り一番内側をトラックやバス、乗用車が走る。対向車がこない限り道路のすべてを使い速いものが遅いものを抜いていく。追い抜くときは基本的に左側(つまり内側)からクラクションを鳴らしながら抜く。対向車が来たときには全体に速度が落ちる。途中からまた舗装された道路になり(市内からはずっと一本道で一度もまがらなかった)、速度が上がる。といっても6、70kmだせればいいほうだ。

 日差しが強いがノーヘルなのでとても気持ちがいい。橋を越え、ミトー入り。メコン川畔のお店にバイクをあずけ、茶店でカフェ・ダーを飲む。ここのカフェ・ダーはキチンとベトナムらしいフィルター使用だが市内の庶民的なお店では別の容器に入れた抽出済みの珈琲がほとんどになっていた。合理化は常に微妙な細部を犠牲にしてしまう。外国人客用のお店ならたいていフィルターを使っているだろうがもちろん値段は高めだ。

 さて珈琲が滴るのを眺めているとメコン・デルタを案内してくれる兄弟に紹介される。二人とも英語がうまい。この辺の地図を見せられながらコースを教えて貰う。だだっぴろいメコンを向こう岸まで渡りそこから二つの細い支流に入り最後にココナツ島に寄って戻ってくる、というものだった。料金は5時間で25ドル。高いと思う。でも一応イ君と案内一人とボートの運転手一人の貸しきりなので仕方がない。シン・カフェなどの大きなツアー用の船では入れないような細いところもいくからと言われた。でも、シン・カフェのツアーでも似たのがあるんじゃなかったっけ?こういうときには一人だと割高になってしまうのは致し方ない。

 5メートルくらいのエンジン付きの船に乗り込み出発。雨がどっと降ってきたが2、3分ですぐに止む。この辺の天気の変わり方は速い。細い支流には時々小さな屋根付きの船が止まっている。その船のすぐ脇の岸に大小5つくらいの靴が並んでいる。彼らはその小さな船に住んでいるのだとガイドは言う。二つ目の支流にはいる。このあたりに電気が通ったのは3年前のことだそうだ。時々木々の隙間からヤシ葺きの家が見える。小さな橋もあり、思ったより往来がある。

 奥へ進むと右側に船を止め上陸する。観光客用の食事どころだ。いくつかのテーブルに観光客がいる。日本人らしき人もいた。4人で席に着く。最初に運ばれてきたのは紅茶とペットボトルに入った天然らしき蜂蜜。紅茶に蜂蜜を入れライムを絞って飲む。なかなかおいしいが、日本でもよく飲むのでめずらしくはない。ガイドたちはお酒が好きなのでワインに蜂蜜を入れたのを飲んでいた。
食事は、山盛りのフルーツと大きいエレファント・イヤーフィッシュで10万ドン。千円。もちろん彼らの飲むお酒代も含まれている。そんなにおなかもすいていないし半分でよかったのだが、頼んでしまう。象耳魚は、よく本で見ていた。丸ごと揚げたその姿はとてもおいしそうには見えなかった。が、ライスペーパーに野菜をたくさんのせその魚の身をのせて巻き、ニュクマムにつけて食べると意外においしかった。だがやはりフルーツも魚も少し食べただけでおなかがいっぱいだ。

 つるしてくれたハンモックに寝そべる。彼らが僕が食べ残した魚をおいしそうに食べているのを眺める。机の下では3匹の犬がおこぼれを待つ。少し昼寝するといいと言われるがイスに置いてある現金の入った鞄が気になり眠れない。決して盗んだりしなそうだが。

 食べ終えて船に戻る途中土産物屋が2軒ある。どちらもココナツで作ったお椀やお箸や灰皿、スノーボールなどで少しも欲しいものがなく何も買わない。その土産物屋の赤ちゃんを写真に撮ると、イ君が自分用にタバコを土産物屋から買ってくれと言う。値段を聞くと昨日買ったときよりも高いので断ると、ガイドさんがしょうがないという感じでお金を払った。帰りにココナツキャンディーの工場を見るかといわれたが興味がないから断った。

 ココナツ島に寄る。ヤシ教の跡地を見るために入場料払う。値段は忘れたが50円ぐらいだったと思う。ヤシ教のバカ殿の話をガイドさんから聞く。バカで小柄で孤独な男の話。彼が作らせた様々な建造物などを見るが陳腐でくだらない。彼もStupidといって笑っていた。

 さて、船で元の岸へ戻りながらメコン川をぼーっと眺めているとガイドさんが彼と運転手に気持ちでいいからチップをくれと言ってきた。二人分として4ドルだけ渡した。

 

 帰りは道もすいていて休憩は1回だけで市内に着いた 。だいたい片道2時間半。髪の毛はごわごわだ。

 市内に着いてからは、昨日夕飯を食べた小汚いが安くてうまい店に連れていかれる。出されたおしぼりで顔や手を拭うと、すぐにまっ茶色になった。店は、かなり繁盛しておりベトナム人で埋まっている。昨日は日曜日だったので客が少なかったのだと聞く。昨日は魚介類や鶏肉を攻めたので今日は牛肉系にする。牛肉を細く切り炒めたものを食べる。これまたうまい。肉入りのフォーもおいしい。今日もBGIビール5本。昨日の夜、ホテルの窓からキンキンコンコンとリズミカルに金属の棒をならしている子供が何人か見えたが、彼らはいったい何のためにならしているのかとイ君にたずねると、それはフォーやミーなどの出前取りだという。お腹がすいたら彼らを呼び止めれば食べ物を持ってきてくれるそうだ。イ君の英語がかなり下手なせいもあり、こういう話がきちんとできるとそれだけでとても楽しくなる。

 ホテルに戻り、腕時計をはずしたときはじめてかなり日焼けをしていることに気づいた。顔も赤い。 眠い。