1998年9月27日 ホーチミン

結局昨夜は2時まで眠れなかった。目覚ましを6時半にセットしていたが2度寝して8時に目が覚める。体調は万全。

 不安を解消すべくフロントへ行き、預けていたものを一旦返して貰う。見ると預けたものは紙でできた袋に入っており口はホチキスで閉じてあった。手はつけませんよというわけだ。一応階段を上りながら紙袋を開けて中を確認。全部揃っている。だがやはり現金は自分で持っていた方がいいと思い、昨日買った絵本の中に挟み部屋に置いておく大きい鞄の底に入れ南京錠をかけた。パスポートとエア・チケットは再びフロントに預ける。するとボーイが今日はどこへ行くんだと聞いてくるのでチョロンへ行くつもりだと答える。じゃあバイクタクシーを紹介してやるよ歩くと結構あるから、という。一度断ったが安いといわれ、どのみちその辺でバイクタクシーを拾うつもりだったので片道だけお願いすることにした。

 ホテルの前で待っていたのは昨日のイ君だった。お互い苦笑いをし、2ケツする。1日中か半日かと聞いてくるのでチョロンまででいいよというと、当然「Why?」となる。自分でいろいろ歩き回りたいんだというと、歩きじゃあんまり動けないし結局シクロかバイクタクシーを使うことになるよ、ともっともなことを言う。移動は俺に任せてその後自由に歩けばいいじゃないか、途中でだっていくらでも止まってやるからというようなことを言う。しばらく考えたが確かに一人で歩き回るのもいいが地元の彼と一緒の方が多少はホーチミンを深く知ることができそうだと思い、その日1日のつもりでOKした。

 とりあえずのどが渇いたのでホテルのそばのリン・カフェでカフェ・ダーを飲む。このカフェは地元の若い客しかいない。店内はビーチに置くようなイスが2つずつ整然と並べられすべてが通りに向けられており、英語の最近の歌謡曲が大きい音で流れている。店員の女の子も比較的あか抜けた感じ。チョロンへ行く前にまずは近場の市内観光をすることにする。

 まずはサイゴン川のほとりへ。街に川があるととても気持ちがいい。川沿いは地元の人たちのデートスポットらしい。対岸には日本のメーカーの看板が並んでいる。次に中央郵便局へ。この郵便局は1886年フランス統治時代からのものでヨーロッパの駅舎のような趣のある建物だ。すぐそばのマリア教会を眺め、戦争証跡博物館へ行く。彼は門のところで待っている。中に入ると戦車や戦闘機などがお出迎え。建物の中には当時の武器や写真など。建物も展示の仕方もお粗末

 

 

 

 

 

 次に向かったのは玉皇上帝寺。中に入るととてもゆったりしていて休むのにちょうどいい。このお寺ではたくさんの亀や魚を飼っている。

 

 

 お昼になりフォーが食べたいというとお店に連れていってくれる。彼の知り合いの店というのは数件あるようだが、この店は特に知り合いではなさそうだ。よくマージンをもらえる知り合いの店に連れて行かれるという話を読んだが、彼の連れていってくれる店では二人でおなかいっぱい食べてビール5本を飲んでも400円以下だ。これでマージンが入る余裕があるのだろうか。単に知り合いなのかもしれない。

 次は歴史博物館。原始時代からの展示だ。館内はがらがらで数人ベトナム人らしき人がいるくらいだ。あまり展示に興味が向かないのでそうそうに後にする。すると突然の激しい雨。バイクに備え付けてあった合羽を彼が着る。その合羽の裾はバイク用に長くなっているので後部座席に座り、潜り込む。彼の背中しか見えない状態だ。これから彼の家にもう一つ合羽を取りに行く。彼の家はブイ・ヴィエン通りのすぐ近くだった。

 
 細い路地を入っていく。奥はかなり入り組んでいて車はとても通れない。彼の家は他の多くのベトナム人の家と同様1階の道に面した側には壁がない当然ドアもない。奥と手前の二間に家族がたくさんいる。1階に寝るところがなさそうなので2階も彼の家なのだろう。彼は結婚しており7歳の男の子が一人いる。1時間ほどソファに座り雨がやむのを待つ。家族は恥ずかしがりやで奥の部屋に入ってテレビを見ている。彼の母親がスポンジケーキのようなものをその場で焼いてくれてごちそうになる。暖かくてとてもおいしい。飲み物にサトウキビジュースのようなものもいただくがこれはほんとに砂糖水のようでそんなにおいしくなかった。


 雨がやまないので借りた合羽を着てチョロンへ向かう。だがバイクで走っている間に止み、一転強烈な日差し。チョロンというのは中国系の地区の俗称なので明確な区画はない。だいたいビン・タイ市場周辺のことを指す。彼は外で待っているという。子供たちにすられないようにしろと警告してくれる。

 建物の中は暗い。細々とした商品がびっしりと並んでいる。店員たちは店の前に小さなイスを出して談笑していたり、食事をとっている。中庭に面した裏側には客はほとんどおらず昼寝をしている人も多い。お客さんよりも店員さんの方が目に留まる。午前中の方が活気があるのだろう。暇そうな店員たちは私がカメラを手にしながら通ると物珍しそうにジロジロ見る。


 いよいよ本で読んで楽しみにしていたビン・タイ市場の裏側へ。やはりもう午後のせいかすごい活気というわけではなかったが、店の物資を運ぶ人たちの移動が激しい。臭いがずんずん入ってくる。ものすごく汚い。が、居心地が悪いわけではい。しかし全く入り込めない。

 


 1時間ほど見て回りイ君のところへ戻り、ホーチミンで最も古い寺ティエン・ハウ寺へ。広東出身の華僑によって建てられたのだという。螺旋状の線香が煙を漂わせている。ビン・タイ市場と同じように周りを柱廊が囲い中庭部分にだけ光が射し込むようになっている。そこに漂う線香の煙が差し込む光りで照らし出され日陰になっている場所からその様子を眺めると独特の雰囲気を醸し出して見える。

 お寺から出るとイ君が私を見て疲れているという。確かにそうかもしれないのでチェー屋に連れていって貰う。チェーとは様々なフルーツを入れたかき氷みたいなものだ。普段は道ばたでおばさんがお店を展開しているのだが、今日はたまたま見かけない。あるのはタバコ屋、宝くじ屋、カフェ・ダー屋などばかりなのできちんとした店に行くことにする。日本人の女の子が二人いた。チェーを2つ注文する。好きなものをトッピングして作るのだが、よくわからないので彼に任せる。私の方のはいろいろ詰め込まれ、ミルクも入ったものだが彼の方は種類も少なくミルクも入っていない。彼のも飲ませて貰ったがさっぱりしていておいしかった。

 しばらくするとどっと雨が降ってきた。雨宿りのためかお店も客で埋まった。しばらく彼と話をする。彼の英語は僕より下手で、おそ松くんのイヤミのように自分のことをmeという。僕が何かを指さしてこれの名前はなんだと聞くと。すべてMy nameで答える。JapaneseがGermenyとしか聞こえずそれがわかるまで行き違いがよくあった。

 テーブル上に勝手に置かれた「らくがん」の中にカスタードクリームのようなものが入ったお菓子を摘む。甘いものばかりで口直しがしたいと思っていると、お茶が急須で出てきた。それをさっきの氷が残っているコップに注ぐのだ。たいていの店のテーブルやイスはプラスチックでできたおもちゃみたいなすごく小さいものだ。食事中に出たゴミはすべて床に捨てる。客がいなくなった後に掃くのだ。

 1時間半待っても止む様子がないのでビニールをかぶって夕飯を食べに行く。ビヤホイというベトナム独特のビールがある。ビールを水で薄めたようなもので少し甘いらしい。それを飲みたいと彼に言うが97年まではよく飲んだがそれ以降は作りが雑になり雨水が混じっていてベトナム人でもおなかを壊すことがあるからあまり勧めないと言う。嘘か本当かはわからない。ビヤホイを飲んでいるベトナム人を見かけたから、単に彼がふつうのビールを飲みたかっただけかもしれない。何せ二人の食事の時は僕が支払うのだから。

 ファングーラオ通りの彼の知り合いの店へ行く。地元客しかいない店だ。壁にはマルボロの文字はないもののあのカウボーイのでかいポスターが貼ってある。BGIという銘柄のビールを飲む。BGIは小瓶5本を飲むと1缶サービスがついてくるしTigerビールなどよりも安い。イ君はお酒に強く10本ぐらい飲んでも何ともないそうだ。ほとんど彼が飲むのでいつもビールを頼むときはこのお得なBGIにした。ニウという名前の蛤によく似たものを食べる。焼きたてでそれに塩とこしょうを混ぜたようなものをつけて食べる。こうしてお店で食べたり飲んでいるとピーナッツ売りや宝くじ、タバコやライターなどの行商人がなんどもやってくる。ホッ・ヴィット・ロンという孵化寸前のアヒルのゆで卵があるというので挑戦する。彼の分と二つ頼む。まずスプーンで卵の上部を割る。開いた口から中のスープを飲む。コクがあっておいしい。サザエの壺焼きから臭みをとったような感じだ。いよいよスプーンで中を食べるのだが私の選んだ方は孵化が進みすぎておりハズレのようだ。もう毛がかなり生えている。すると彼が交換してくれる。明らかに頭蓋骨と思われるパーツを丸ごと食べる。まだそれほど堅くないのでこれもかなりおいしかった。

 その後再びリン・カフェに行きカフェ・ダーを飲み彼はまたビールを飲んでいる。彼の親切さが気に入ったので明日はメコン・デルタに連れていって貰うことにした。あさってはクチ・トンネルへ。彼には1日8ドル、3日で24ドルで商談成立。

 ホテルに戻りフロントで鍵を貰うと明日はどこへ行くんだと聞いてくるのでメコンと答えるとじゃあ13ドルだねと言って領収書を書き始めるので、すでに彼に3日分払ったというと不思議な顔をしながらOKという。上の部屋に戻りベランダから下の通りを見ると予想通りさっきのフロントマンと彼が話している。多少もめているようだ。荷物を整理しているとふと30日のハノイ行きの飛行機のリコンファームをまだしていないことに気が付く。ガイドブックを見ると72時間前までにと書いてある。もう過ぎている。

 今日もまた不安を抱えつつシャワーを浴びて眠る。