2003年09月

鳥人計画(東野圭吾) さよなら(森青花)
鬼流殺生祭(貫井徳郎) せちやん(川端裕人)
光ってみえるもの、あれは(川上弘美) まひるの月を追いかけて(恩田陸)
被告A(折原一) ヨリックの饗宴(五條瑛)
月に吠えろ!-萩原朔太郎の事件簿-(鯨統一郎) 紫苑の絆(谷甲州)
LAST(石田衣良)
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鳥人計画

著者東野圭吾
出版(判型)角川文庫
出版年月2003.8
ISBN(価格)4-04-371801-2(\552)【amazon】【bk1
評価★★★☆

日本ジャンプ界のエースとして期待をされていた楡井が毒殺された。捜査が行き詰まりかけたときに、ある人物を犯人として名指しした密告状が届いた。彼は本当に犯人なのか、そして密告者は一体誰なのか。

設定が見事ですね。警察、犯人、そして密告者。それぞれの思惑と、決着はどうなるの?と思わせる展開は、この著者ならではと言えると思います。が、一押しが足りなかったような気も。ラストも思っていたような雰囲気でしたし。面白く読めますが、超おすすめまではいかないという感じです。

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さよなら

著者森青花
出版(判型)角川書店
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-04-873477-6(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

95歳ひとりぐらし。たまに集会所に碁を打ちに行く以外に趣味もなし。そんなひいじいはある日、自宅で孤独死した。ふと気づくと自分の亡骸を見下ろしていたひいじい。体は死んだが、こころがこの世に残ってしまったのだ。自由にあちこちを行き来できる「こころ」のみになったひいじいは、死の直前に会って自分になついてくれた、ひ孫のところへ飛んでいってみる。

せつない話でした。息子と折り合いが悪く、一人暮らしのひいじい。その息子も息子と折り合いが悪く、ほとんど行き来のない夫婦二人ぐらし。ありがちと言えばありがちな核家族の環境で起こる孤独死と、それにまつわるギャグちっくなドタバタ劇。最初から最後までしめっぽくしないでブラックな笑いを加えたことで、かえってラストのせつなさが際だっていたように思います。ひいじいは無事成仏できるのか?ギャグに見せて、実は高齢化社会に向かう日本にあっては、考えさせられる話でもあったかなーという感じです。

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鬼流殺生祭

著者貫井徳郎
出版(判型)講談社文庫
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-06-273456-7(\695)【amazon】【bk1
評価★★★☆

維新のフランスから帰ってきた友人・武知正純が、本家の葬儀の直後、その屋敷で殺された。家の中の者は正純の寝ていた部屋に近づけず、また屋敷の外から侵入された形跡もない。殺害状況も不可能ならば、動機も不明。九条惟親が事件解決を依頼されるが・・・。

この設定を活かした結末に、なるほど、とは思えましたが、こういう探偵小説系って、自分の心理的な問題で、読んで面白いときと、それほどでもないときとの差が激しいんですよね。残念ながら、今は探偵小説渇望期ではなかったようで、それほどハマって読めなかったのが残念です。蘊蓄あり、名家の探偵という面白さもありで、探偵小説好きの方は、はまれる要素は満載だと思います。探偵好きな方におすすめ。

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せちやん

著者川端裕人
出版(判型)講談社
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-06-211966-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

学校の裏山の中に突如パラボナアンテナが現れた。それを設置した摂知庵の住人、せちあんと仲良くなった僕ら三人組は、せちあんの話す地球外知的生命体探索、そして宇宙が奏でる音楽に魅せられた。大人になってそんなことを忘れてしまっていた僕だったが、ふとしたことから、ふたたび故郷と裏山を訪れることになる。

なんとなく映画『コンタクト』を思い出しました。地球外生命体を探索するという試みは結構真剣に行われていながらも、微妙に「キワモノ」的扱いですよね。夢はあるけど、あくまで夢、っていうレベル。多分タイムトラベルと良い勝負なのでは。少し前にはスクリーンセーバーの仕組みで、あちこちのネットに繋がっているパソコンの余っている処理能力を借りて電波解析をするのが話題になっていましたが、やはり宇宙は広いですね、いまだ地球外生命体の痕跡って発見されてないんですよね。でも、映画『コンタクト』の軸になるセリフにもあるように「宇宙は広いのだから、我々だけではもったいない」。確かにそうですよね。人間のような知的生命体が発生する確率は非常に低いのだとは思いますが、この広い宇宙で我々だけ、というのはちょっと考えただけでも「ありえなさそう」と思えるのでは。

そんなSETIに様々な形でハマった男の子3人の成長物語。この著者の割に、少し哀しい雰囲気でした。宇宙が好きな方は共感できて楽しめるかも。

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光ってみえるもの、あれは

著者川上弘美
出版(判型)中央公論社
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-12-003442-9(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★

未婚の母と、元気な祖母。そして僕。ちょっと世間とは違った3人家族で育った僕と、その友人たちの成長物語。

この著者の本を読むのは2冊目ですが、前の本でも感じた違和感はこの本でも健在でした。多分彼女の感性についていけないんだと思います。「ふつう」とはかなりズレた江戸翠の、家族に対するいらだちとか、彼女に対する焦燥感とか、世間の中での孤独感とか、16歳らしい描写は共感するところでもあるのですが、でもどこか頭で考えた共感という感じで、実は本質のところで納得できてないというか、「あ、そうそう、そうだよね」という共感ではないという感じです。ちょっと鋭い感性を持った高校生ぐらいが読むとハマるんじゃないかなという気がします。またもう少し女性的な感覚を持った人だと、共感の方向が違うかもしれませんので、そういう人におすすめしたいところです。

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まひるの月を追いかけて

著者恩田陸
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-16-322170-0(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

ほとんど会ったことのない腹違いの兄の彼女から、突然奈良行きを提案された。奈良に取材旅行に行った兄と連絡が取れなくなったという。気乗りしないままついていくことになった靜だったが

上の本と違って、彼女の本は逆に「そうそう、そうだよね」という共感に満ちているのです。世間一般の「女の子」が苦手で、かつ彼女たちが当たり前にすることができなくて、彼女たちのように群れるのさえダメで、ちょっとズレた感じを持っている、そんな感覚ってものすごく共感できますね。しかもこの本、私の好きな奈良を旅する話なんです。どこも行ったことのある場所なので、そういう意味でも感覚を共有できる楽しさがありました。本とは関係ないですけど、奈良おすすめ。久しぶりに行ってみたくなりました。物語としては淡々としたものでしたが、そういう意味で★4つ。

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被告A

著者折原一
出版(判型)早川書房
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-15-208511-8(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

杉並区で起きた連続殺人事件は、犯行現場にトランプを置いていくという特徴から、犯人はジョーカーとあだ名されていた。ようやく逮捕された容疑者が自白を始めた。しかし、裁判では一転冤罪を主張する。刑事に自白を強要されたというのだ。一方で、ジョーカーの犯罪はまたしても起きていた。息子を誘拐された母親は、ジョーカーに振り回される。逮捕された彼は本当に犯人なのか。

微妙。読んだ時期によっては絶賛するような作品かもしれませんが、今はこの手の本を手放しで面白いと思える心境ではなかったようです。ラストは確かに良くできてると言えるかもしれませんが、少々唐突な気がしましたし、あらすじを読んで期待していたものを超えるものではなかったのが残念です。途中は一体どこへ落ち着くのかと気になったんですけどね。。。

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ヨリックの饗宴

著者五條瑛
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-16-322150-6(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

兄がいなくなって7年が経った。彼の暴力にさらされていた兄の家族はようやく平穏を取り戻し、兄嫁も再婚することになった。しかし一体兄は何故いなくなったのか、と考えていたとき、突然ある女が現れ告げた。「お兄さんにヨリックが会いたがっている」と。

前に何かの本の感想で書いたように思うのですが、陰謀話は巨大すぎるとしらけてしまうと思うのです。それがこの話は面白かった。その最大の要因はストーリーテリングの巧さだと思うんですね。情報を小出しにして、次にどうなるのか、あるいはその謎は何なのか、読者に期待させる書き方、すごいですね。今回はシリーズとは関係なかった(多分)ために、「この人誰だっけ?」というひっかかりが無かったのも面白かったと素直に思えた一因かも(笑)。

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月に吠えろ!-萩原朔太郎の事件簿-

著者鯨統一郎
出版(判型)トクマノベルス
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-19-850609-4(\819)【amazon】【bk1
評価★★★☆

萩原朔太郎が著した詩集『月に吠える』。私、室生犀星は、この詩のいくつかは、あれらの事件が無ければ作られなかったことを知っている。そして、あれらの事件は、萩原朔太郎がいなければ、解決しなかったことを知っている。

萩原朔太郎が活躍する連作短編集。大正時代というのは、短いながらも日本の歴史の近代史の中で面白い位置にある時代なんじゃないかと思います。ここに出てくる有名人たちもみんな大正の空気で育った人たちだし、『青鞜』の人たちのような女性たちも表に出てくる時代で、かつ大正デモクラシーのような風潮がある、なんとなくその後に来る暗い昭和時代と比べて、明るいイメージがあるのです。ミステリーとしてはまあまあかなと思ったのですが、そんな雰囲気が読める朔太郎の生活ぶりが(彼の性格も笑えましたが)よかったです。朔太郎の詩自体が好きな方には、別の感慨があるかも。かなりこじつけっぽいものもありましたが。。。

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紫苑の絆

著者谷甲州
出版(判型)幻冬舎
出版年月2003.9
ISBN(価格)(上)4-344-00386-1(\1900)【amazon】【bk1
(下)4-344-00387-X(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

鍬形が消えた。かつての恋人であり、今は鍬形の許嫁である綾乃からそう言われ、松濤は捜索を求められた。複雑な気持ちで依頼を受けた松濤だったが、それは思っていた以上に困難な調査となる。

なーがーいー。長さが気にならない本もありますが、この本無駄に長い。最初の目的を忘れてしまいそう(というか、忘れてしまった)。ちっとばかし「もういいよ」、と思ってしまった私は我慢が足りないでしょうか。主人公は次々襲ってくる困難に立ち向かって、それを克服したと思ったら、また次ぎの困難が・・・というジェットコースターノベルの典型ではあるのですが、そういうのって、もって400ページくらいだと思うんです。この本、上下段2分冊で約900ページ。。。だれます。しかも同じような困難が襲ってくるので、いいかげん飽きる。「なんだ、まだ君そこにいたの」、という気分。ハードカバーではあまりおすすめしないかも。読みずらいという本ではないですし、1個1個のエピソードはそこそこ面白かったので、文庫で6分冊くらいにして、1ヶ月毎刊行とかにすれば、もっと面白く読めるかもしれません。お、今自分で書いててナイスアイディア!と思った。どうでしょう>幻冬舎さん(しかも1冊700円に設定すれば、そのほうがハードカバー2冊より高くなるという特典付き(笑))。そうそう、版元が幻冬舎なので、文庫落ちは早ければ1年。待てる人は待つほうをおすすめ。

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LAST

著者石田衣良
出版(判型)講談社
出版年月2003.9
ISBN(価格)4-06-212050-X(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

「もう終わってる」状態の人々を描いた連作短編集。そこに救いは全くなく、本当に何もかも終わりを描いたくらーい本です。多分著者にすると新境地とかいう感じなのでしょうけれども、こうして1冊の本にしてしまうと暗いだけで何が言いたかったのかよくわからない、という作品集でした。不況不況と言われて長いですが、こういう人たちはどうしてお金を借りてしまうのでしょう。返すあてもない(あるいはあてが外れる可能性のある)金を借りて、結局首が回らなくなり、債権が闇に売られて借金取りに追いかけられるという、あまりに陳腐な話って案外ごろごろと転がっていますが、それでもどうして金を借りてしまうのか、そこが不思議です。そうそう、何かの宣伝で、「固定費にこだわっていませんか?」というのがありますが、きっと家計にもいえるはず。それって絶対にそれだけ必要なの?ってものからまずは削減しないと。借金しなくちゃできない生活は、元々身の丈に合ってないと思うのです。某消費者金融で「パソコンを借金して買う」宣伝してますが、20万そこそこのパソコンを買えない(=余裕の無い)家計で、パソコンが本当に必要なのか、そこから考えたほうがいいと思うのは私だけでしょうか。別の消費者金融の「犬を買う」だってそうです。犬なんて、それを食料にでもしない限り、要らないものの筆頭だと思うのですが。しかもどちらもランニングコストについて全く言及されてません(まあ貸したいのだからあたりまえか)。借金をしようと思う方、この本を読んでも、借金しますか?借金してる方にはかなりイタイ話かも。

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