2002年10月

あなたの魂に安らぎあれ(神林長平) 祈りの海(グレッグ・イーガン)
聖なる黒夜(柴田よしき) ハードボイルドエッグ(荻原浩)
あしたのロボット(瀬名秀明)
<<前の月へ次の月へ>>

あなたの魂に安らぎあれ

著者神林長平
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1986.3
ISBN(価格)4-15-030215-4(\640)【amazon】【bk1
評価★★★★

核戦争後の放射能で、地球を捨てて火星に移住せざるを得なかった人間。人間たちは、地下のシェルターに住み、人間そっくりのアンドロイド(アンチ)が地上で都市を作っていた。しかし、地下での生活は人間を疲弊させ、アンチへの反発で一触即発の状態。アンチの間でもエンズビル思想がはびこりはじめていた。

「何故人間は生きているのか」を問いかけるSF。人間を作った神は、何のために人間を生かしているのか。そんなことを考えたくなるラスト。退廃的な雰囲気が、今の日本を彷彿とさせますね。この本自体はバブルの時代に描かれたもので、逆にその辺りが新鮮だったのでしょうか。今のこんな世の中では、人間の存在理由に疑問符がもたれるのは当たり前のような雰囲気になっていて、このストーリーは少々痛い。全体としては考えさせられることもあり、ストーリーもなかなか面白く楽しめたのですが、ただ、私のようにSFを読みなれてない人間には非常に唐突に「自分が作ったこの世界」の中に入れ、と言われた感じで、最後まで感情移入できなかったのが感動も薄かった原因かもしれません。うーん、あと15年早く読んでいれば、自分の年齢的にも、世相的にももっと感動できたかと思うのですが。

先頭へ

祈りの海

著者グレッグ・イーガン
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2000.12
ISBN(価格)4-15-011337-8(\840)【amazon】【bk1
評価★★★★

SF短編集。特にいろいろな人を渡り歩く「意識」を描いた「貸金庫」がお気に入り。こういう設定って、宮部みゆき辺りが使いそうな話で、非常に面白く読めました。が、短編なのがやはり残念。この設定のまま長編だったら★5つだったかもなあ。他にも、子供が欲しい男が、未来の装置である「キューティ」を手に入れる「キューティ」、過去に日記を送信できる世界を描いた「百光年ダイアリー」など、どちらかというと(私が思う)SF的でない作品のほうがすんなり入れました。「キューティ」や「百光年ダイアリー」などは、ホラー的な要素もあったり。これだけの量の短編が入っていると、同じ著者でもいろいろな作品が読めるものですね。それともこの著者の引き出しが多いのでしょうか。

先頭へ

聖なる黒夜

著者柴田よしき
出版(判型)角川書店
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-04-873411-3(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

婦女暴行未遂で麻生が逮捕した大学院生・山内練。いつもメソメソしていた彼のことなどすっかり忘れていたが、突然の麻生の前に現われた山内練は、新宿で最も恐れられるヤクザ・韮崎の手先となっていた。韮崎殺害事件を捜査する一方で、山内のことが気になる麻生だったが。

この人お得意の過去のしがらみ満載ストーリー。山内も麻生もRIKOシリーズのサブメインキャラクタで、ファンも多い登場人物ですが、RIKOシリーズを読んでいる方なら、番外編として楽しめることは請け合いです。が、長い!なんて長いんだ。連載モノですから仕方ありませんが、もう少し絞ってもよかったのでは・・・。ものすごく複雑怪奇な人物関係の中に、なんとなくこうなるだろうなあという線が見えてきて、ラストではおーすごい、ここまで繋がっちゃうわけ?と、ある意味感動もありましたが、盛り込みすぎの印象は拭えません。この番外編が、この後のRIKOシリーズにどう繋がっていくのか、あるいはいかないのか、によって、評価が分かれるところかも。ただ、ラストの大団円に向かう辺りは一気読みでしたし、あまりの哀しい結末にうるうるしましたが・・・。RIKOシリーズを含むハードボイルド柴田ファンの方にはおすすめ。

先頭へ

ハードボイルドエッグ

著者荻原浩
出版(判型)双葉文庫
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-575-50845-4(\695)【amazon】【bk1
評価★★★★

マーロウに憧れ、その一心で、何の見通しもなく探偵をはじめてしまった私。しかし、依頼は逃げてしまった動物探しばかり。ダイナマイトボディの美人秘書を雇おうと、動物探しのポスターと共に秘書募集の案内を出すが・・・

こういうの好きだなー。笑いがオヤジくさくも面白いんです。イグアナ探したり、犬を探したり。内容的にはどってことな話なのに、マーロウに心酔する私が、あまりにマーロウを気取るばかりに笑えます。美人秘書を雇おうとして、一人秘書を雇うのですが・・・さてその結末はいかに。ラストは思ったとおりでしたが、楽しませていただきました。息抜きにおすすめ。

先頭へ

あしたのロボット

著者瀬名秀明
出版(判型)文藝春秋
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-16-321310-4(\1667)【amazon】【bk1
評価★★★★

二足歩行ロボットが現れ、そして家庭へとロボットが浸透し始める21世紀。そんなロボットたちに対する人々の戸惑いや、関わりの変化を描いた連作短編集。

私はロボットというとアトムではなくドラえもんなのですが、ああいうロボットって、よく考えると「何に使うの?」と言えなくもないですね。家の間取りを解析して、掃除をしてくれるロボットが、ようやく家庭でも手に入るような値段になったそうですが、きっと私たちが生きている間にできるロボットというのは、そういうお掃除ロボットみたいな、洗濯機が全自動になったとか、パソコンが高性能になったとかいうのの延長線上にあるんじゃないかと思うのです。だから、ロボットに心は必要ないし、人間の命令を理解する必要はあっても(音声認識じゃなくても、ボタンでもいいですよね)、それに曖昧な返事を返す必要もないわけです。というか、掃除ロボットに「面倒くさいから嫌」とか「手伝って」とか言われたら、それこそ嫌なわけで。

そもそもアトムやドラえもんの必要性を考えると、そういう心を持つロボットというのは、今後も作られるかどうか。もしその必要性があるとするならば、子供の頃に見た「夢のような未来」を実現したということだけなんじゃないか。

この本を読んで、そんなことを考えたのでした。SFというより心とは、知性とは、そしてロボットとは何なのかを哲学的に考えるような小説でした。おすすめ。

先頭へ