2002年03月

図書室の海(恩田陸) クビキリサイクル-青色サヴァンと戯言遣い-(西尾維新)
魔女と竜の子どもたち(上領彩) 湾岸リベンジャー(戸梶圭太)
キャピタルダンス(井上尚登) タイムスリップ森鴎外(鯨統一郎)
『クロック城』殺人事件(北山猛邦) デッド・ウォーター(永瀬隼介)
レイクサイド(東野圭吾) アウトリミット(戸梶圭太)
あかんべえ(宮部みゆき) メインディッシュ(北森鴻)
死の教訓(ジェフリー・ディーヴァー) 聯愁殺(西澤保彦)
<<前の月へ次の月へ>>

図書室の海

著者恩田陸
出版(判型)新潮社
出版年月2002.2
ISBN(価格)4-10-397104-5(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★

書き下ろし2編を含む短編集。初出は雑誌だったり、アンソロジーだったり。多分アンソロジーに入っていたやつは、こうして取り出して読んでしまうと、いまいち雰囲気にのれないのでしょうか。最初の数編はかなりいまいちな印象。でも著者が「長編の予告として書いた」という2編は続きが読みたい!。この著者、最初の数ページで、物語世界を面白く見せて読者を盛り上げるという意味ではうまいと思うんですよね。『上と外』とか正にそうでしたし。それにもっとうまいオチをつけられれば「名作」になると思うのに。どちらかというと、『夜のピクニック』を読みたいな。どこかに連載されてたりするのですか?『六番目の小夜子』の番外編がラスト。「鍵」だけを渡すサヨコのお話。これは『六番目の小夜子』を読んでないと意味がわからないかもしれません。一番のお気に入りは「動く都市の年代記」である「オデュッセイア」でした。いずれにせよ、恩田陸が好きな人向け。

先頭へ

クビキリサイクル-青色サヴァンと戯言遣い-

著者西尾維新
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.2
ISBN(価格)4-06-182233-0(\980)【amazon】【bk1
評価★★★★

絶海の孤島に住む財閥令嬢。そこに「幽閉」状態になっている彼女の趣味は、あらゆる分野の天才を招くこと。工学の天才・玖渚友もその招待客の一人。玖渚の友人である僕(いーちゃん)も、彼女にくっついてその孤島に行くことになったが、そこで待っていたのは、首なし死体とエキセントリックな人々だった。

天才5人と幽閉された令嬢の孤島での数奇な数日。最初、イラストとあらすじに「ちょっと危険なメフィスト賞か」と思ってたのですが、これが意外と面白かったですね。天才たちのキャラクターも笑えましたし、ミステリも破綻せずにちゃんと落ち着くところに落ち着きましたし。主人公たちを取り巻く謎にも興味がわきます。3作目まで既に刊行スケジュール決定済みとかどこかに書いてありましたが、結構楽しみかも。

はさまってたメフィスト賞受賞者しおりを見てて、いろいろ言われながらも、実はメフィスト賞ってすごいんじゃないかと思う今日この頃。きっと乱歩賞よりも書きつづけてる人多い気が。古処誠二とか、殊能将之とか、もちろん黒田研二さんもそうですし。第1回は森博嗣ですし。というわけで、今月発売されるというメフィスト賞も「またメフィスト賞だよ」とか文句言いつつ読んでしまうであろうかたぎりなのでした。

先頭へ

魔女と竜の子どもたち

著者上領彩
出版(判型)角川ビーンズ文庫
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-04-441305-3(\419)【amazon】【bk1
評価★★★

自称「親戚の子」と、ちょっと抜けてる森君のお話第2弾。森と親友の島原は、教育実習生としてある学校に行くことになったが、そこにはなんと魔女が。その魔女に魅入られてしまった島原は行方不明となってしまう。森と双子はどうする?

教生って制度、そう言えばありましたね。すっかり忘れてましたよ。あれって、よく考えたら学生の間に、実際の現場で働くことができるわけで、今流行りのインターンシップのようなものですよね。まあそんなことはどうでもよくて、そんな教生先の学校で魔女に取り込まれてしまう騒動のお話。この双子は、結局森君をどうしてしまうんでしょうね。。。先が気になるのですが。

先頭へ

湾岸リベンジャー

著者戸梶圭太
出版(判型)祥伝社
出版年月2001.7
ISBN(価格)4-396-63192-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

妻が事故で死んだ。大規模な高速事故に巻き込まれるという突然の死だった。呆然と日々を過ごす野島のところに、「ある人に会ってほしい」という使いがくる。同じ事故で孫を失ったその人は、事故の原因が走り屋の無謀な運転にあったと言い、復讐を申し出る。

こうしてあらすじ書いてみると、かなりまともですね。。。実際半分くらいまでは本当に復讐に燃える大富豪と、絶望の中で復讐を誓うサラリーマンの闘いだったのに、急激に世界が崩れていつもの戸梶ワールドに。いや、嫌いじゃないですけど。そこには復讐に対する善悪の判断もなく、かつ復讐の手段に際限は無く、そしていきつくところは・・・。奇妙なノリで突進するようなジェットコースターストーリー。ある意味爽快な復讐劇です。すかっとしたい方におすすめ。

先頭へ

キャピタルダンス

著者井上尚登
出版(判型)角川書店
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-04-873363-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

「ビル・ゲイツを振った女」という冠詞ついた女性起業家・林青。2度の失敗を乗り越え、3度目の正直として立ち上げた会社は、タコボールという最強のサーチエンジンを商売にする会社だった。しかし、2度の失敗を「経営者としてマイナス」と判断する日本のベンチャーキャピタルは資金を提供してくれない。立ち上げれば間違いなく利益があがるはずなのに・・・がけっぷちに立たされた起業家物語。

私がインターネットを始めたときは、まだYahoo!Japanはありませんでした。その公開株に1億の値がついたとき、あの頃株を買っておけば・・・と思った人は私ばかりではないはず。その年の長者番付には、ネット株長者とでも言うような人たちが沢山いたことも記憶に新しいところです。あの頃はネットはやはりバブルだったのでしょう。しかし社会もアホではありません。数年経って熱が冷めた頃、「ネットは利益をあげない」ことが浸透しはじめると、ネット株はあっという間に下落してしまいました。そんなネットの暴騰と急激な冷却の中で翻弄される、起業家とそれを取り巻く企業買収のお話。ちょっと話が拡散気味なところが気にはなるのですが、こういう元気な人たちの、アイデアを絞りあって前へ進んでいこう、っていう話は楽しいですね。私も何かしてみたいなあという気分にさせられる本でした。

インターネットが市民権を得て、だんだんネットの性格も変わりつつあります。一部のヘビーユーザーが集まって、「パソコンを繋げたら、ファイル交換も楽にできるね、やってみようか」という草創期は過ぎて、社会の中のひとつの仕組みとして浸透し、ユーザーも様々、人も集まるようになってきました。最初のネットバブルは本当にバブルでしたけど、これからこの仕組みを上手く取り入れたサービスっていうのは成長するんじゃないかなあ。再びネット株が過熱する日がやってくるのでしょうか。そしてそれと共に、日本も不景気を抜け出せるでしょうか。

先頭へ

タイムスリップ森鴎外

著者鯨統一郎
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-06-182236-5(\780)【amazon】【bk1
評価★★★☆

1922年、何者かに殺害されそうになった森鴎外は、なんと気づくと80年後の渋谷道玄坂にいた。女子高生麓麗(ふもと・うらら)に助けられた森鴎外は、元の世界に帰る方法を探ろうとするが、そのとき大正・昭和初期の文壇の、奇妙な現象を発見する。

森鴎外なら、確かに道玄坂にタイムスリップしちゃっても、なんとか適応して生きていけそうな気が。というか、当時の文壇の人々って、博識な上に、ある意味時代の最先端を行ってた人が多いわけで、どの人でも、無くなってしまったものを嘆くよりも、新しいものを少しでも多く吸収してしまおうと考える人のほうが多いような気がします。1000円札を見た鴎外が「金之助君がどうしてお札に・・・」と言うシーンは大爆笑。確かに当時の人が見たら、この人がこんなに評価が高いなんて、とか、何でこいつの銅像がとか、いろいろあるんでしょうね。ただ、鴎外がタイムスリップする、という設定までは面白かったのですが、この謎とき部分はどうなんでしょう・・・うーん。実在の人物を出すからこそ、もう少し現実感が欲しかったような。おーなるほど!本当にありそう。って言える部分がはっきり言ってゼロ。証拠も甘い。もうちょっと頑張れ。

先頭へ

『クロック城』殺人事件

著者北山猛邦
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-06-182239-X(\800)【amazon】【bk1
評価★★★

もうすぐ滅びようとしている世界。誰もがやる気をなくし、世界は荒れ放題となっていた。開店休業状態の探偵社を開いている南は、ある少女の訪問を受ける。『クロック城』から来たという彼女は、不思議なクロック城の謎を解いて欲しいという。

まさに滅びようとし、警察までもが機能麻痺状態の世界にした意味はどこにあるんだろうなあ、と最後まで不思議に思っていたり。しかも逆にその設定が、些細な謎解きを真剣にする探偵というストーリーに全く合ってないし。そしてこの謎解き・・・。あまりにもあからさまな伏線に(そういうのは「伏線」とは言わないですね)、うーん、違うかなと思いつつ読んでいたら、そのまま事件は落ち着いてしまったのでした。無理矢理搾り出したトリックの斬新さに狂喜乱舞して、それを吟味するのを忘れてしまった、というような印象。「ゲシュタルトの欠片」あたりまでは面白かったので、せっかくならそのままファンタジー的な味付けで最後までいけばよかったのに。

先頭へ

デッド・ウォーター

著者永瀬隼介
出版(判型)文藝春秋
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-16-320820-8(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

5人の女性を強姦し殺害した穂積。今は最高裁での裁定で死刑の判定が下るのを待って東京拘置所に収監されている。その彼に目をつけたフリーライターの加瀬は、このドキュメントでなんとかして上への階段への第一歩を踏み出したい。穂積の隣の独房には中国残留孤児の村越が収監されていた。

うーん、うまくあらすじが書けない。なるほど、あらすじが書いてなかったのは、あらすじが書けなかったからなのかも。残忍な強姦殺人犯で、死刑を全く怖がっていないように見える穂積。その穂積をネタにした記事でのしあがろうとする加瀬の奮闘と、残留孤児2世の村越亮輔と、その友人の物語が平行し、その交点に事件が起こる、というありがちと言えばありがちなストーリー。著者は元々ライターだそうで、多分記事にはできないことや、見聞きしたことに対する様々な意見を小説にしようとしたのかな。あちこちに主張的な記述があって、なんとなくそう思ったのですが、それならもう少し最後に言いたいことが収束するようなストーリーにして欲しかったかも。それぞれのエピソードは読めるものだったので、余計に残留孤児の話と、死刑問題とがそれほどかみ合わないのが残念。

先頭へ

レイクサイド

著者東野圭吾
出版(判型)実業之日本社
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-408-53413-7(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

子どもたちの中学受験のため、4家族がある別荘で勉強合宿を行っていた。乗り気ではなかった並木だったが、仕事を片付け、他の人々と合流する。ところが、そこでとんでもない事件が起こる。妻が人を殺してしまったのだ。しかし他の家族は、事件隠蔽を提案する。

もう少し事件隠蔽のドキドキ感があってもよかったかもしれませんが、それでも中篇のミステリとしてはまとまりがあってよかったですね。妻が殺したのは自分の愛人。でも他の家族は隠蔽工作に真剣に取り組んでくれる。微妙な違和感を感じつつも、隠蔽工作に乗る並木は、何故何故?がめぐりめぐって、ある真相にたどり着くわけですが・・・。さて、帯にあるように「あなたは”真相”にたどりつける」でしょうか。なかなかおすすめ。

先頭へ

アウトリミット

著者戸梶圭太
出版(判型)徳間書店
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-19-861491-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ケチなこそ泥を捕まえにいくだけのはずだった。ところがそのドジなこそ泥が何故か銃を持ち、しかも3000万円と引き換え可能なメモリーカードを持っていたことが井川の人生は大きく変貌していく。引き換えのタイムリミットは19時。警察官であることを辞めた井川は、3000万円を目指して突進する。

相変わらず転げだしたら止まらない戸梶節。警察官でありながら、警察からなんとか逃げようと四苦八苦する井川の哀しくもおかしい逃走劇。タイムリミットは近づくし、しかも隅田川花火大会の日。滅茶苦茶になりながらも今回はそこそこ普通に収束しました。この辺りから読むと、戸梶に入りやすいかもしれないですよ。

先頭へ

あかんべえ

著者宮部みゆき
出版(判型)PHP研究所
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-569-62077-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★★

賄い屋の高田屋を一代で大きくしてきた主人の夢は、賄いではなく、料理屋を開くことだった。弟子でもあり、息子のように思ってきた太一郎にその夢を託し、太一郎はふね屋を開業する。ところがそのふね屋ではとんでもない騒動が。なんとお化けが出ると言うのだ。

子どもが出てくる宮部の小説が、私は大好きです。この小説もそのひとつ。おりんという太一郎の娘が大活躍。ふね屋についているお化けたちと心を通じあわせ、何故彼らがそこにいるのかを突き止めようとするお話。やっぱり社会派っぽい最近の小説よりも、こういうエンターテイメントに徹した小説のほうがいいなあ。久々に初期の雰囲気に戻った感じがして、非常に嬉しい1冊でした。椰子の実通信でもちょこっと書いたのですが、雰囲気が宮崎アニメっぽいんですよね。冒険の要素があって、少女と少年が出てきて、その少女はお化けが見える。そういうのって宮崎駿が映画にしそうな感じじゃないですか。なんとなく読みながら、宮崎アニメの画像が思い浮かんだのですが、アニメで映画にしないかしら。これ。それほど複雑ではなく、しかも観客を惹き込める要素も沢山あってアニメにするとぴったりな感じがしますけど。超おすすめ。

先頭へ

メインディッシュ

著者北森鴻
出版(判型)集英社文庫
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-08-747424-0(\629)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

「紅神楽」という劇団を主宰し、自らが看板女優である紅林ユリエは、ある日男性を拾った。そのまま同居人となり、劇団仲間に「ミケさん」と言われる彼は、料理の達人。皆を招いて食事会をする傍ら、様々な事件の謎解きをする連作短編集。

いいなあ、こういう小説。こまごまと出てくるいろんな事件や謎や問題を鮮やかに解決するそれぞれの作品も面白いんですけれども、全体を流れるミケさんの謎も楽しめて2重においしいコース小説。出てくる料理も美味しそうなんですけど(結局それかい>自分)。特に「バレンタイン・チャーハン」は私でもいけそう。次は北森鴻さん、「ミケさんのレシピ集」でも作っては。もちろん小説としておすすめ。

先頭へ

死の教訓

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)講談社文庫
出版年月2002.3
ISBN(価格)(上)4-06-273400-1(\667)【amazon】【bk1
(下)4-06-273420-1(\667)【amazon】【bk1
評価★★★☆

暴行を受けた女子大生の死体が池のほとりで発見された。しかも捜査主任のビル・コードは、その女子大生に事件直前に会っていたのだ。カルトの仕業なのか、それとも・・・。戦慄する町に、続けて第2の事件が起きる。

ディーヴァーは、『静寂の叫び』で一躍人気作家の仲間入りをした作家ですが、こういう「途中で大ブレイクする作家」って日本でも多いですよね。真保裕一しかり、大沢在昌しかり(反論もあるかも?)。そういう作家って、元々うまいのだと思うのです。ただ、売り方に問題があったり、それ以上に「売れる面白さ」ではなかったりして、大ブレイクには至らない。この作品にも大ブレイク寸前の面白さはあるとは思うのです。『静寂の叫び』では耳の聞こえない人々が沢山出てくるのですが、この作品も学習障害児というハンディを背負った子どもが出てきたりと、ディーヴァーの得意とするような設定も満載。ただ、難があるとすれば、今のように最初から最後までノンストップのスピード感、ドキドキハラハラのどんでん返しといった仕掛けが、いまいち地味であること。すっとストーリーに入っていけるうまさはあっても、最後までひきつけて離さない、というほどの魅力ではない、といった中途半端なところ。そこそこ面白い、とはいえますが、おすすめ、とまではいかないといった感じですね。なんだか遠回りな感想になってしまいましたが、そんなところ。

先頭へ

聯愁殺

著者西澤保彦
出版(判型)原書房
出版年月2002.3
ISBN(価格)4-562-03491-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

見ず知らずの男に襲われた一礼比梢絵(いちろい・こずえ)。すぐに犯人の名前は判明するのだが、犯人は逃走したままつかまらない。何故自分は襲われたのか・・・全く分からずに苦悩の日々を過ごす梢絵。事件から四年後。男の動機を判明させるため、梢絵は捜査に携わっていた刑事を介して「恋謎会」に調査を依頼する。そして出てきた真相は・・・。

どこをとってもネタバレになりそうな伏線だらけの作品。うまいなあ。そして単純に謎解きでは終わらない。ここへとつなげていくところが、非常に西澤作品らしいのです。元々この作品は、某作品を焼きなおしたときに落ちてしまったエッセンスを入れたかったそうなのですが、なるほど西澤氏っていうのは「こういう作品を書く人なんだよなあ」と、見直した気分。ここをどうみるかで好悪が分かれるような気もするのですが、西澤作品だから「よし」としようと思う私でした。おすすめ。

先頭へ