一人日本西遊記


その11 3日め(非一人旅的空間の巻 博多)

 「ここが博多とですかー・・・」
 怪しいヘンテコ博多弁もどきを呻きつつ、モテナイ独身エトランゼはついに博多の地を踏んだ。
 僕の人生初の本格的九州上陸にあたって、何万の熱烈な博多市民の歓迎パレードが・・・など当然あるわけは無い。
 只歓迎パレードこそ無いが、街は折しも「博多どんたく」の最中で、かなり活気づいているようであった。
 
 とりあえず、まずはとにかくホテルに向かうことにする。

 ホテルはJRでは無く西鉄の駅の近くで、JR博多駅からはちょっと距離がある。
 いつもの僕だったら歩いていってしまうが、今日は今までの修行電車の件もあり疲労気味だったので、タクシーを使用しホテルに向かうことにする。

 ここでど肝を抜かれたが、なぜかタクシーの運ちゃんが短距離ながら結構飛ばすのである。途中カーブでちょっとしたGが感じられた程である。

 ホテルに到着。ここは昨日までのビジネスホテルとは違い本格的なシティホテルである。外人も見受けられる。設備も細かいところがちゃんとしていて、さすが都会のホテルじゃん、と思う。
 実際は西鉄の薬院という駅が一番近いが天神駅にも近く、歩いていける距離である。
 部屋にチェックインするが、とりあえず街をグルっと回ろうと思い、すぐ外出することにする。

 先程、今日はちょうど「博多どんたく」の最中と述べたが、これがモテナイ独身エトランゼ的には実は失敗であった。
 街へ出たはいいものの、どこも人だらけで、東京都心部の駅などでのラッシュ時のような不快感が蘇ってくる。

 モテナイ独身エトランゼの一人旅には、それ相応の場所があるもんである。
 博多みたいな都会は、やはり友人なんかと連れ立って、夜の町へでも徘徊するといった方式でめぐる方が良いと思われる。
 一人旅には、あまり向いてないかもしれない。実際博多はもう十分都会的で、賑やかさは東京などとあまり変わらない。

 何か行列が繰り出していたようであるが、近くで見ることもできず、遠くから「なんかあったみたいねー」という感じで眺める。
 祭りの屋台の店が公園などには出店しており、それはそれで良い雰囲気は醸し出している。

 中州あたりに辿り着く。この辺は日本でも有数の歓楽街であり、怪しげな店の看板も見受けられる。
 モテナイ独身エトランゼもつい引き込まれそうな誘惑にかられるが、その時いきなり、呼び込みのオニイチャンに声をかけられた。
 中州の紹介のホームページ等に、「中州に行ったら絶対呼び込みに捕まってはいけない」とあったので僕もひたすら、勘弁して下さいと断りながら歩いていく。僕が道を曲がったらようやくあきらめてくれた。
 オニイチャン側からすると、僕のような旅行者風は、人間を「カモ類」か「非カモ類」に分類するとしたら、絶好の「カモ類」に分類されたであろうと推測される。よっぽどマヌケ面してたんだろうな、いかんいかん、と反省。
 また呼び込みにつかまりそうだったので、中州探索はこの辺で切り上げて、また他の市街部探索を続ける。
 この手の店はやはり、最初から目処をつけて予約をしておいて、行くときは、そこを目指して一目散にいくのが良いと思われる。

 当初博多に来たら「とんこつラーメン」と思っていて店を探そうとしたが、確実な情報を仕入れていなかったので路頭に迷う。仕方ないので一旦博多駅に出る。どんたくの狂騒とはうってかわって、祇園から博多駅まで通じている地下道は全然人がいなくてシーンとしており、何とも不思議な雰囲気であった。ちょっとしたミステリーゾーン?的な雰囲気を醸し出していた。

 博多駅には来たものの駅では埒があかないので、また結局地下鉄で天神へ戻ることにした。どうも無駄が多い。
 近辺で適当にラーメン屋をあたるがどこも人が満杯。
 ある店で1席空いていたので、ようやく座れたと思い、座ってノホホンとしていたら、隣のオッサンがおもむろにこっちを向き直り「ここ来ますけど」と言ったので、赤面しつつスゴスゴと引き下がっていかざるを得なかった。店員も多忙で手が離せず、迷いこんできた僕をチェックできなかったようであるが、とりあえず自分の連れ合いの席なら、こっちが座る前に気付けよ!と心の中で隣のオッサンに逆切れする。

 まあ、きっとどこかあるだろうと軽く考えつつ探している内に、時間ばかりが過ぎていき、だんだん中心部から遠ざかってしまい、その内あまり店等の無い住宅地域に入ってしまった。

 空はもう暗い。なぜか、疲労感と焦燥感だけが残る。くそーど・ん・た・く・め〜〜、と無罪のどんたくに罪をきせようとするモテナイ独身エトランゼであった。
 この手の店はやはり、最初から目処をつけて、地図などで場所を確認しておき、行くときは、そこを目指して一目散にいくのが良いと思われる。
 今日はどうも反省点が多い。

 ここでモテナイ独身エトランゼは、止む無く方針変更を行うことにした。
 「とんこつラーメン」はあきらめ「何はともあれ食料摂取」に方針のレベルを下げることにした。
 そういえば、ガイドブックに薬院付近にも隠れた名店らしきものがある、と書いてあったのを思い出し、燈台元暗しと、ホテルのある薬院近辺に向かってスタコラ歩いていく。

 薬院駅付近に着く。この辺は東京の環七沿線などの雰囲気に似ている。ここも東京とあまり変わらない。十分都会である。
 ラーメン屋の看板があったので、やっと見つけたと思い近づくと、なぜか休日休業。
 どうも今日はやっぱり何かおかしいようである。妨害魔神の徹底攻勢を受けているかようである。

 結局駅からちょっといったところに、中華料理屋の「李」という店があったのでそこに入ることにした。
 入ると、なぜかアベックだらけ。ここでまたも浮きまくるモテナイ独身エトランゼの図。
 ま、関係なかとよ、とヘンテコ博多弁で思いつつ、王道のチャーハン&餃子を注文。

 この店はいわゆる一般的な中華料理屋というのでは無く、店員も中国人の、本格的な中華料理屋のようである。
 どうも餃子が売りらしく、水餃子などいくつか種類がある。
 確かに一人もんは、僕一人であったが、そんなに居心地の悪い雰囲気というわけでも無かった。
 結構ガヤガヤしていて、店は奥の方に更に広いスペースがあり、いかにも中国の大衆料理店という感じである。
 隣に座ったサラリーマンが僕の使用していた灰皿を一緒に使ってもいいかと気さくに尋ねてきたので、問題無い旨を伝え使用してもらう。寂しいモテナイ独身エトランゼは、こんなちょっとしたやりとりでも、なぜか旅先での人間的な暖かみを感じ、ちょっと嬉しくなる。普段東京にいる時は見知らぬ男性を毛嫌いする僕であるが、旅先で精神レベルが上がっていたのかなんなのか、とにかく東京では感じ難い想いかもしれない、とふと思う。

 肝心の味の方であるが、これは文句は無かった。逆に餃子などは量が多すぎて、最後の方は腹一杯になったが、無論残さず食べた。
 紆余曲折の揚げ句「とんこつラーメン」は食べられなかったが、結果としてこの店でも良かったかな、と今ではそう感じている。
 後で知ったが、この店は某テレビでも紹介された人気店だったようである。

 ようやく空腹感も満たされたので、ホテルの風呂でも入って寝るべかと、ホテルへリターンする。

 帰ってテレビをつけると、BSでMISIAのライブをやっていた。もう既に後半に突入していた。
 「えっ?、ウソー!」
 途中からはちゃんと見たのであるが、今日放映すると事前に知っていたら、ビデオの予約録画しておいたのにー、MISIAはただでさへテレビ出演が少ないので、このライブは貴重だったのにー、とひとしきり悔しがる(後にこの放送と同じ内容のDVDが発売され、モテナイ独身エトランゼの欲求不満は解消されこの時のトラウマは癒されることとなる)。

 MISIAのライブが終わったので、このホテルの売りの屋上階の展望風呂に行くことにする。
 コインランドリーもあるというので、ついでに洗濯物も持っていく。
 そういえば、旅行に出てからは、天気も良かったが、気温もこの時期にしては高かったので結構汗で汚れてしまった衣服もあるのである。

 エレベーターに搭乗すると、同乗した男性が、僕が自分の部屋から持ってきたバスタオルを見て「あれ?やっぱりそれいるんですか?」と尋ねてきた。
 今までの少ない経験からであるが、大抵こういったホテル内に共同浴場を持っているところはシャンプー・石鹸は浴場に備え付けのものがあるが、タオル類は各自部屋のものを使用しなくてはいけない場合が多い。
 とりあえずその旨を男性に説明するが、モテナイ独身エトランゼとしては多少自信が無さげである。
 そんな訳でタオルは自分で持ってきてしまったが、こういう都会のホテルだとタオルは持参の必要が無いのではないか?とも思えてきてしまう。

 13階の展望風呂に着くと、入り口に受け付けのオッサンがいたので、先程のエレベーターの男性はタオルの件を受付のオッサンに確認していた。結局どうやら僕の考えで合っていたようで、ひとまずホッとする。
 モテナイ独身エトランゼの一人旅では、しばしば自信を失いオドオドし、オドオドオジサンに成り下がる局面に遭遇する。

 受け付けのオッサンに部屋の鍵を渡し、かわりに番号札をもらって入場する。
 風呂はやはり、結構人がいて賑わっていた。それ程広くは無い。
 確かに眺めはそこそこ良かったが、感動という程でも無かった。

 コインランドリーの方は2台あって、どちらも先客がいた。しかもあろうことか使用し始めたばかりであった。
 こりゃまた後でこなくちゃな・・・とちょっとブルーになる。

 とりあえず風呂だけ済ませ部屋に戻り、その後時間を見計らって、また13階に行く。
 受け付けのオッサンには、ランドリー使用の旨をつげると、そのままスルーで入れてくれた。今度は洗濯機は空いていたのでとりあえず一安心。でもまた乾燥機の時などにもここへこなくちゃなと思うと、そ〜と〜(相当)面倒くさい。

 昨日まで泊まったホテルはひっそりしていたが、さすがにここは都会型ホテルともあり宿泊客が往来している姿を良く見掛ける。
 中には若い女の子の湯上がりの浴衣姿なんかもいて、エレベーターで一緒になったりする。湯上がり桜色の肌が美しく旅情(欲情?)をかきたてる。女性客は結構多い。いや女性客の方が頻繁にすら見かけるほどである。
 これならコインランドリーの行き来も「まんざらでは無し」、となぜかここで急に姿勢が前向きに転じてくる。

 最終的にランドリー系の作業が全部片がついたのは、夜の11時を過ぎてからだった。
 その時間でも展望浴場には結構人がいた。人気があった。

 これで3日目も無事終了だが、なぜかもう1週間くらいは旅に出ているように感ずる。
 思えば益田を発ってからチグハグと反省の多い一日ではあったが、ま、こういう日も中にはあろう。

続く。

●上記レポートを読む場合の推奨BGM
                  キリンジ:「ニュータウン」(「ペーパードライヴァーズミュージック」収録) 


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