一人日本西遊記


その3 1日め(思へば遠くへ来たもんだの巻 湯田温泉到着)

 

 広島に到着。ここからは「ひかり」に乗り換え小郡まで行く。
僕自身にとっては、ここから西は未知なる土地になるので、気分も新鮮な感じになる。いわば一人西遊記である。

 しばらくしてすぐに「ひかり」が到着。ゴールデンウイーク中ということを考慮し、短い区間だが指定席をとってしまった。これは失敗であった。
広島あたりになると、自由席もそれほど混んでいなかった。
指定席もガラガラだったが、なぜか、僕の席の隣席だけ、ドッカリと若い男性が座っていた。
他は空いてるのに!
これはこの手の列車では良くありがちなことである。
指定席の落とし穴にはまってしまった!。他に広々した席がいっぱい空いてるのに、なまじ「指定」してしまったばかりに、あまり気乗りのしない席に座らざるを得なくなる。「指定」が裏目に出まくった。こうなるとわかってたら、「指定」なんてしなかったのに〜。

 若者は、と見ると僕の席まで足を伸ばしたりして、僕の席を利用して好き放題しまくっている。
すっかり羽伸ばし状態である。
おそらくもう広島も過ぎたし、これから僕がそこに座ってくるとは夢にも思っているのでは無かろう。
僕ももうすぐに小郡だし、今更若者の隣に割り入って座る気は全くおきない。

 結局僕は他の空いてる席にコッソリ座る。
小郡までは40分程なので、指定席をとった意味があまり無かった。無念!。今時のハヤリ言葉で言うと「い〜みな〜いじゃ〜ん」である。

 そして小郡に到着。天気は良い。
ここから山口線というのに乗って、詩人中原中也の郷里、湯田温泉まで行くことになっている。
パソコンソフトのシミュレーションでは、ここで山口線の乗り換えにかなり時間があることになっていたが、時刻表を見るとあと5分ほどで出るちょうど良いのがある。
てなわけで、一旦改札を出てしまったので、慌ててまた切符を買い電車に乗り込む。230円ナリ。

 山口線のホームに行くと、それまでの「新幹線的雰囲気」とうって変わって、実に地方味を帯びた、田舎じみた、それでいてどこか異郷の地という感じがしてきた。山口線は2両編成程の列車が運行する単線で、ローカル色がつよーい線である。
のりこむと、いよいよ本格的に旅にきたのだ、という気になってくる。「そうそう、これだよ!これですよ!」。僕も新幹線ではいろいろと疲労感が強かったが、ここに来てスーパーサイヤ人(例えちょっと古いか)になったように元気モードになる。
車内は今のところは、ガラガラで、地元の下校時の学生らしき、少年少女がポツリポツリ乗っているのみである。

 毎度のことではあるが、僕は結構浮いている。いや、かなり浮いてる。
「おめ、何しに来ただ」と言われそうである。
乗客と年齢も違うし、大体なぜか僕のようにウォークマンをしている人間がいない。
そういえば今回の旅でウォークマンをしている人間にほとんど出会わなかった。
西のほうでは、はやってないのかな?ウォークマン。んなこたないか。

 僕って、いつでもどこでも異邦人。
「ちょっとー、ふりむいて〜、みただけのいほーじーんー」
心の中で、久保田早紀の異邦人の一節をくちづさむ。
ま、一人旅の場合、自分が異邦人であることを、良く十分に認識し、それに慣れ、それを逆に楽しむように心がけねばいけない。そこからまず全てが始まるのじゃ(また、偉そうに・・・)。
「異邦人」などと言うと、ちょっと重々しいので、フランス流に「エトランゼ」(「ラン」は「ホ(がら)ン」みたいに発音)、などと言うと、ちょっとかっこいいでしょ。
こうして、モテナイ独身エトランゼ(エトホンジェ)は、一路今回最初の宿泊地である湯田温泉までめざすのであった。

 列車は最初は空いていたが、上郷なる駅から地元の中学生が大挙して乗ってきた。
一応本格的な下校ラッシュのようである。なかにはちょっとガラの悪そうな少年もチラホラ見受けられるが、少年達はモテナイ独身エトランゼには全く興味は示していないようである。
少女達ももちろんいる。ルーズソックスを履いていて、パッと見は都会の子と、さほど区別はつかない。
ここは昔は長州と呼ばれていた地であるが、もうこの手の文化の伝来は、そんなに時間はかからないのだということを実感する。

 20分程で、湯田温泉に到着。
ホームが一つに、こじんまりした駅舎がポツンとあるだけの、もう十分田舎の駅である。
 

 ところが、着くと切符売場に若者が行列を作っていた。
田舎の駅の光景にしては、ちょっと違和感がある賑やかな光景である。
これはあとで判明したことであるが、どうやら夕方に運転するSLに乗るための指定席券を購入する者の列だったらしい。ちなみに僕も明日このSLに乗車する予定になっていて切符は購入済みだ。SLは日に1往復、乗車には指定券が必要。

 パソコンのシミュレーションが、変にはずれてくれたおかげで、予定より大分早い到着である。
明日行おうと思っていた、中原中也記念館へ行く時間がこれから作れそうである。

まあ、宿側は早く着く分には全然文句は言わないので、とりあえず先にチェックインしようとホテルをめざす。なにしろ荷物がね、いつも重いのよ、僕の場合。

駅前には店が2件程、なぜかタクシーは5、6台はいる。やはり温泉街の最寄りの駅だからであろうか。

 本当駅前は静かである。
中原中也の作品「頑是ない歌」の有名な冒頭のフレーズが自然に浮かんでくる。

   思へば遠くへきたもんだ
   十二の冬のあの夕べ
   港の空に鳴り響いた
   汽笛の湯気は今いづこ
   ・・・

 実際の温泉街と繁華街は駅から更に10〜15分くらい行ったところである。
駅から10分くらい行くと、国道9号線があり、そのすぐ向こうが温泉街である。
国道近辺はそれなりに開けていて、地方の通常の都市の近郊の様相を呈している。

 今回宿泊させてもらう「KIRAKU」は温泉街の中にある。
温泉街とはいっても、伊豆あたりの温泉街とはまた、だいぶ雰囲気が違う。
住宅地に、旅館やホテルがポツポツと点在しているような感じである。
しかもどれも立派で新しそうであり、鄙びた温泉地という感じでは無い。
「KIRAKU」も元は旅館だったそうであるが、改装して近代的なビジネスホテル風に生まれ変わったそうである。しかもシングルユーザーメインというポリシーらしく、部屋のほとんどがシングルだそうだ。こういうところはモテナイ独身エトランゼには嬉しい。
一人でも堂々と胸を張って泊まれる。「オレ達のために、建ててくれたんだもんねココ」などと思いつつチェックイン。このホテルには、当然ながら温泉の大浴場もあるそうだ。ま、それは後でゆっくりつかるとして、早速部屋に荷物を置いて外出の準備をする。

 中原中也記念館の位置をたいして確認もせず、出てきてしまった。
途中それらしき商店の立ち並ぶ通りがあり、ここっぽいなと直感的に思ったが、なんとなく駅からすぐというイメージがあったので、どんどん駅の方へ向かう。
これが結局最初の直感で良かったのである。

 駅の近辺に行くほど、田舎じみた感じになり、道もくねった袋小路的道が増える。
これでモテナイ独身エトランゼは、すっかり道に迷ってしまった。
静かな田舎の住宅街をウロウロと歩き回る。
見ようによっては大変怪しく無くもない。
モテナイ独身エトランゼの一人旅は常に、誤解を受けやすい状況が待っているのである。
心してかからねば。

 見知らぬ街を歩き回るのは結構好きなのであるが、そうこうしている内に、時間が押してきてしまい、こりゃいかんと思い、とにかく駅前に近辺案内の立て看板があったのを思いだし、何はともあれ、駅、駅と線路をめざして進む。

SLが来たらしく、遠くで汽笛の音が情緒たっぷりに響く。

 ようやく駅に到着。看板を確認する。どうやら最初の直感が当たっていたのがわかる。
やっぱ直感だね!直感!
結局また最初に駅に降りついた時通った道をまたも辿っていく。
 

続く。

●上記レポートを読む場合の推奨BGM
                  キリンジ:「甘やかな身体」(「ペーパードライヴァーズミュージック」収録) 


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