その2

 やがて混浴露天風呂には私一人しかいなくなった。
 周りは大自然だし、穂高の露天風呂に一人悠々つかっているのもまあ悪くは無い。ま、今日はこれでよしとするか、そんな思いにもなり始めていた。

 程なく一人の男性が風呂Aに入ってこようとするのが見えた。
 私はそろそろ潮時かな、と思い、露天風呂を出る準備をしようとしたところ、ふと動きが止まった。
 男性の後ろから何と女性の話声が聞こえるではないか!。しかも今度は老婆では無い、明らかに老婆では無い。まだ若々しく聞こえる女性の嬌声だ!
 どうやら親子連れのようである。先程の男性は父親のようだ。そして母親と娘二人という構成らしい。
 母親は40代位であろうか?もちろん老婆では無い。
 娘は「高校生と中学生」、あるいは「大学生と高校生」のコンビか?
 姉らしき方は20歳前後に見える。妹らしき方は10代後半か?
 いずれにしろ正真正銘の(大袈裟な・・・)若い女性であることは確かである。やったぞ!、ラッキー!

 父親は行動が早くサッサと私のいる風呂Aに入ってきた。
 当然引き続いて女性陣が入浴してくるとばかり思っていた私は、ここで本日2度目の落胆をすることになる。
 女性陣は入口A1でしばらく何ごとか話し合っていたようであったが、私の存在に気付き、それがはばかられたのか、あろうことに「風呂B」の方へ向かっていってしまったのである。そ!、そ!、そんなバカなア・・・ガクッ。

 これで風呂Aは私と父親の二人きりになってしまった。クソー!
 私は入口から一番遠い奥まった場所につかっていたので、もし彼女達が風呂Bに入ってしまったら、私のつかっている位置からでは低いところにある風呂Bの様子はほとんど見えない。風呂Bの近くまで動いていけば見えないことは無いが、さすがに父親がいる手前、そんな自由な振る舞いは出来ない。

 すぐ近くに、それもせっかくの混浴露天風呂に女性が入浴しようとしているのに、なんでこんなクソオヤジと何が楽しくて一緒に混浴露天風呂に入浴しようぞ、と反語体で怒りが込み上げてくる。チッキショー!(あれ?露天風呂を楽しみに来ただけじゃなかったの?)。


 ところが、である。なんと私がこのクソオヤジを、のちに「神」と呼ぶほどになる出来ごとが発生するのである!。


 女性陣は脱衣所Bの方へ向かい、そこでまだ着替えずにしばらく何かウダウダとしているようであった。
 すると父親がそんな女性陣に向かって、まるで私の心の声を聞き、それを代弁してくれるかのように大声で『せっかくだからこっちへきて一緒に入れよ』という意味のことを言ってくれたのである!。
 父親はなおも手招きで彼女達を呼んでいる。
 私は思わず「父、頑張れ!」と心の中で叫んだ。

 ところが女性陣がすぐに反応しなかったこともあってか父親はその後すぐ、手招きの行為を終了してしまって、再び湯につかってしまった。ありゃ?、父!・・・もっと激しく呼ばなくちゃ!・・・。
 私は図らずも女性陣の方に意識を集中していた。もう祈りにも似た気持ちになっていた。「かよわき女性どもよ、風呂A に来でぐれ〜」
 先程の父親の要請を受け、風呂Aに行くか否かの会議が女性陣の間で続けられているようであった。そして、どうやら結論が出たようである・・・。
      



 

 次の瞬間、彼女達が一旦入った脱衣所Bを出るのが見えた!。
 なんと!女性陣はこちらの風呂Aの方に向かって歩いてくるではないか!
 恥ずかしそうに下を向きながらもシズシズとこちらへやってくるではないか!
 先程の緊急会議の結果、彼女達は「風呂Aにて入浴する」、との決断を下したのである!

 「父、ヤッタゾ、オイ!」私は思わず心の中で叫ぶ。
 父親はごく普通の人の良さそうな40〜50代の中年のおじさんという感じで特に彼女達に対して威圧的な感じを持っているという風には見えない。つまり父が無理矢理呼んだという感じでは無い。あくまでも彼女達は自分達の判断でこちらの露天風呂Aに入ろうとしているのである。
 もし今入るのがためらわれるのであれば、最悪露天風呂に入る時間をずらすか、そのまま風呂Bに入ってしまうか、はたまた父を風呂Bに招くか、もし私の存在を気にする場合、こういった方策を彼女達がとることが考えられる。

 それがなんと彼女達は風呂Aに来てくれた!
 拡大解釈してしまうと、私の存在は彼女達の中で「自分の裸を見せても良い存在」と暗に承認されたということではないか!
 もう「!」がやたら増えてきた!

 


その1 へ戻る。
その3 へ。
爆笑レポートindex