新穂高の至福
(混浴露天風呂体験記) 
(文中挿入の写真は本文とは一切関係有りません)

その1

 男性の夢・・・、きっとそれぞれいろいろあることと推察する。政治家になる、芸術家になる、はたまたタレントになる、等と男の夢は様々である。

 さて、男性ならばやはり女湯の番台に立ってみたい、女湯を覗いてみたい、というのも、また大きな、大変大きな夢であろう。夢であろう、などと言ってしまったが、そうじゃないぞ!と思われるお堅い方もいらっしゃると思うので、じゃあまあとりあえず裏の夢とでもしておこう。
 女湯を覗いてみたい、というのは男性誰しも思ったことが無いはずは無いはずだ。

 そんな男の裏の夢だが、これはそう簡単にかなうような代物では無い。のみならず一生かなわないかもしれない。いや、かもしれない、では無くおそらくかなわない確率が断然高い。
 そういえば最近の銭湯は番台を設置するところも無くなり、受付けと称して脱衣所の外にかつての番台にあたる場所があるので、番台の人ですら女性の裸を見るのは困難になっているはずだ。

 ところがである。そんな実にかなえづらい男の裏夢であるが、もし番台で女性の入浴を覗くというような甘っちょろいものではなく、全裸の、それも見知らぬ他人の女性と一緒に「入浴」するということが、かなってしまったら!その興奮たるや!いかばかりのものがあるか!
 やたら「!」が多くなってきたが、このようなうれしい事態が意外にあっさり私めにおこってしまったのである。英語で言うとhappened。どうだ、羨ましいだろ。
 それは憧れの銭湯でか?いや、さすがに先ほども述べたように銭湯ではこのような事態を演出するのは不可能に近い。
 ではどこか?感の良い貴兄ならお判りになったかもしれぬが、割と正々堂々と全裸の女性と時間を共有できるまことに有り難い場所が我が国日本には数多くある。そう!混浴露天風呂である(最初に見出しで言うとるぞ)。



 私は以前勤務していた会社の寮の同僚達と新穂高に来ていた。
 夜は夕飯の後、宴会になり、ひとしきり盛り上がったところで、同期のT氏を伴い露天風呂に入ることにした。
 宿泊している某ホテルは結構造りもきれいでいい感じのホテルであったが、なんとホテルの正面にそのホテル所有の混浴露天風呂があるという。
 私はもちろん何かを期待してこの混浴露天風呂に入ろうとしていたわけでは無く、ただ純粋に露天風呂で旅の情緒を味わいたかっただけだった、ということを己の名誉にかけて、ここで明言しておく、コホン・・・;。ただ何となく「今日は何かいいことがあるかも知れない」という予感も、あったにはあったことは、一応正直に白状しておく。

 我々が入った当時は夜九時を過ぎた頃だったが、もう時間も遅くなってきていたのか、風呂は人影がなく静まりかえっていた。寮の他の連中は夕食に前後して既にこの露天風呂に入っていたようだ。もちろん彼等から嬉しいハプニングがあったという報告は聞いていない。


<図1>


 

 何はともあれ、早速露天風呂へと向かう。
 今後話がしやすいように、露天風呂の見取り図を挙げておく(<図1>)。大分前のことなので記憶違いがあるかもしれぬが、大体こんなようではあった。

 図を見ていただければわかるが、二つの湯が隣接している。両方とも我々が泊まったホテルのものらしい。
 「風呂A」「風呂B」の間にはしきりはなく風呂の岩があるだけであるが、「風呂B」の方が「風呂A」よりも低い位置に造られていて、事実上しきりのようになっている。

 我々はとりあえず、「脱衣所A1」を経由し、メインと思われる「風呂A」に入ることにした。
 「風呂A」は照明も明るく広い。

 その日は日曜で翌日は月曜ということもあり宿泊客も少ないこともあって(我々は団体だったけど)もうこの時間露天風呂には誰も入浴していなかった。折しも小雨がぱらつきだし、どうも誰かが入ってくる感じでもなくなった。ま、いいかと、とりあえず湯につかる。

 湯舟につかりながら、私はふとある考えが頭に浮かんだ。「もし、今、女性客が露天風呂に入りに来た時に、こちらの風呂Aは広く明るいし、何より我々がいるから、こちらは敬遠し風呂Bに行くのではないか?」と。「風呂B」は湯の量も少なく、ひっそりとしている反面、静かなので女性は入り易い雰囲気が無いこともない。
 私はなぜか体が自然に「風呂B」の方へ向いているのがわかった。しかしここで自らの名誉の為断わっておくが、あくまでもいろいろな風呂を楽しみたいという願いがあって移動したのであって、決してやましい考えがあった訳では無い・・・コホン・・・;。

 風呂Bは先程述べたように段差があるような低い位置にあるので、Aから直接行くのはちょっとむずかしい。もし普通に行くとしたら一旦風呂Aを出て「入口B」より入っていくのが普通だ。しかし私は面倒くさいので、一気に「風呂B」へ直接飛び下りることにした(そこまでやるか!)。
 同僚のT氏は相変わらず「風呂A」につかっている。私は一人静かに女性の到来を待つことに、・・・イヤ違った、風呂Bの風情を楽しむことにした。するとまもなく、私の先程の考えが、まさに適中する時がやってきたのである!・・・ある意味で・・・。

 なんと、「入口B」の方から女性の話声が聞こえてくる、「早速来やがったか!、ラッキー!」心の中で思わずガッツポーズ!。一気に期待が高まる。
が、しかしその話声のトーンがどうも低い。何かしわがれているようでもある。様子が変だ・・・。
 期待は徐々に不安に変わっていく・・・

 と思う内に脱衣所Bから、登場したのはあろうことか、二人の老婆であった。
 何十年か前に女性としての盛りを迎え、そしてそれがとうの昔に過ぎ去ってしまったであろう老婆が現れたのである。
 フワフワフワフワフワ(ドシbララbソ下降音階)〜〜、ガクッ。

 しかも老婆達はまさに着替えようとした時に、私の存在を発見し、こちらに向かって何ごとかをわめいているようである。よく聞き取れなかったので、こちらは丸腰で少々恥ずかしかったが、近付いていくと、どうやら『我々は女性二人だけで入浴を楽しみたい。貴君は若い上に男性であるから、遠慮して広い風呂Aにて入浴をすべきである』というような意味のことを、言っているらしかった。
 私はスゴスゴと先程飛び下りてきた風呂B の岩場をよじ登って風呂Aへと戻った。チェ、カッコわる〜!。

 その後もう一人老婆が風呂Bに入っていったようである。計3人の一応女性が風呂Bに立て続けに入浴しに来た。
 その間風呂Aには他の女性客はもちろん男性客の到来も無かったようだ。
 どうやら私の「女性は「風呂B」へ行く」という考えは一応当たったようではあるが、老婆達に追い出され、もう今さら風呂Bには行きづらくなってしまった。

 そうこうする内に小一時間程時間がたってしまった。同僚のT氏は、もう限界らしく、先に出るということになった。私もそろそろあきらめようか・・・いや違った、ではなく・・・露天風呂の満喫を終了しようかとも思ったが、何か心に引っ掛かるものを感じ、まだしばらく入浴をつづけることにした。
 小雨は強くなるということは無かったが、まだパラパラと顔に当たっている・・・。

 


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