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 Chapter 45 晴れたり曇ったり,そして時々大雨(未定稿)

45−1 室内展示と連動する観察会


 この春から夏の企画展は,我孫子の公園緑地4ヶ所をピックアップし,その自然と,観察された野鳥を紹介するもの。思い切り身近な企画だ。市民のための,身近な自然の再発見に繋がることを期待したい。
 そして,せっかくの地域密着型企画なのだから,これとタイアップして,観察会が出来ないものかと考えていた。場所はもちろん,企画展で紹介している公園緑地。4ヶ所すべて開催するのはちょっと難しい。既に観察会や室内イベントの予定も数多く決まっている。せめて,面積の広い緑地2ヶ所ぐらいは,観察会を開催したいと思ったのだが……結局,日程の調整がつかずスタッフ集めも難航し,1ヶ所だけの開催になってしまったのだが……。

 その,貴重な1回が,船戸の森の観察会。夏休みにはイベント目白押しなので,6月末に投入。
 6月16日の広報に案内を出し,参加申し込みを待つ……がしかし,申し込みの出足が悪い……。

45−2 企画倒れか?宣伝不足か?


 6月24日,土曜日。無事に雨も降らず,そこそこのコンディションで,開催日を迎えた。
 結局,観察会参加者は,内輪のスタッフの飛び入りを除くと,3人。観察会事業を始めてからの最低記録。
 参加人数が少ないこともあって,たっぷり濃厚な観察をすることが可能となったが,実は博物館のイベントで,船戸エリアを案内するのは初めて。下見やコース設定,テーマ設定など,参加者からは見えない下準備の部分に,かなり手間が掛かっている。

 駅から街の緑を眺めながら現地へ。緑地の入口には7世紀の古墳がある。船戸の緑地は,手賀沼の斜面林から台地の上まで続く雑木林。この地域の原風景に近い自然だ。斜面の上と下で,植生の変化もわかりやすく,季節的に植物や昆虫の観察には事欠かない。斜面の下には湧き水がしみ出している。中身の濃い,満足度の高い観察会ではあった。

 しかし,ここまで不人気なのは,観察会事業を始めてから,今までに無かったことだ。
 企画展連動の観察会……アイデアは良かったのだが,どうしてこんな結果になってしまったのだろう?

1)身近すぎる……わざわざ観察会に参加する必要性を感じない(電話予約制だったのもネック)
2)梅雨時……天候が不安定で予定が立てにくい。
3)「市民スタッフイベント」の看板……博物館の正規のイベントよりも「格落ち」感があるのは否めない。


 天気の問題はともかくとして,1)と3)の問題は,もう少し工夫の余地がある部分だ。
 博物館が観察案内をすることの「プレミアム性」を,もっとアピールする工夫は無かったのか。もっと良い宣伝方法は無かったのか。反省するべき点は多い。少なくとも,企画展の設計段階から,観察会をセットでプロデュースすべきだったと思う。思いつきで後からイベント企画をねじ込むよりは,確実に有利だろう。
 今回の観察会は,観察会としては初めて,「市民スタッフイベント」と言う肩書きがイベントタイトルの頭についていたのだが,これの影響はどうだろうか。野外イベントでも室内イベントでも,「市民スタッフイベント」と言う看板を強調するのは,どうかな,と思う。学芸員の組織定員が限られている以上,今後,市民スタッフを拡充し,市民スタッフが主体となってイベント運営をしてゆく方向に向かうのは必至。そうなったときに,博物館のスタッフの起案による「博物館主催イベント」と市民スタッフ主導の博物館イベント(=市民スタッフイベント)を,市民へアナウンスする段階で,色分けしてみせる必要はあるのだろうか。役所的区分はさておき,受益者であるイベントに参加する市民には,喋る人の肩書きよりも,イベントの内容を見て選んでもらったほうが有益であり,変なバイアスが掛からなくて済むのではなかろうか。学芸員が企画しても,市民スタッフが企画しても,看板は「博物館主催イベント」であれば,それで良いのでは?(内部的には別に処理する必要があったとしても…)

 もちろん,私も現状の市民スタッフの内容に満足しているわけではない。こういうボランティア集団を作ると,アクティブな人は全体の10〜20%程度しか得られないのが相場だ。母集団30人弱,常時実動するアクティブなメンバーが数人と言うのは,どう見ても人数不足。学芸員より「格落ち」すると言われたら,あまり反論できない面もある。今後,市民スタッフの質,量,両面での補強は必須であろう。個人的希望としては,観察会担当,室内イベント担当,調査協力担当など,各分野に20名ずつ位の,アクティブなスタッフのプールがあって,イベントのあるときは,常時5〜10人ぐらいのスタッフが動けるような形が欲しい。「市民スタッフ制度」では,アクティビティの高い人も低い人も集まるので,母集団としては,少なくとも合計100人ぐらいの市民スタッフのプールが必要だと思う。また,「即戦力」となる人材を得るのは難しい。「人材育成」が基本である。スタッフ内での知識や技術の伝承,勉強会などのスキルアップ作業も,当然,必要になってくる。こういうことも学芸員主導ではなく,スタッフ内での取り決めで自主的に運用されるようになれば,学芸員はスーパーバイザー役をするだけで済むようになる。今の組織定員で,博物館の事業拡大を目指すなら,このような方法しかない。

 そのための布石としても,「市民スタッフイベント」と言う名称の扱いを再検討願いたいところである。博物館側の提案によるイベントであっても,市民スタッフイベントであっても,実質的には中身は一緒なのだから。

45−3 都合により2日連続


 さて,船戸で樹木や野鳥の観察と共に「閑古鳥」の観察をしてしまった観察会の翌日は,室内イベント。
 これも私の企画(良くやるよなぁ…)。
 テーマは,「300年前の顕微鏡のレプリカを作って,観察をする」……レーベンフックの単玉顕微鏡の工作だ。このネタは,あちこちで行われているので,特に珍しいものではないが,ペンダント形に顕微鏡をデザインし,簡単に作れるキットにした点がミソ。しかも,レンズは光学ガラスを使った本格派なので,他所の科学教室で提供されるものとは,見え味が全然違う。やはり観察道具作りは「使ってナンボ」のものである。工作時間は最短で済ませ,観察に時間を割こうと言う作戦。ちょうど,手賀沼で再発見された水草「ガシャモク」を増やして,昔の手賀沼の環境を復活させようと,「ガシャモクの里親制度」が始まったところなので,ガシャモクの葉のプレパラートを準備してもらった。このほか,ゲッケイジュの葉の裏の気孔をレプリカ法で採取した標本や,花粉を何種類か準備した。観察対象もばっちり揃った。

45−4 大人気の陰で…


 イベント当日。スタート時刻の10分前に,もう,会場の席が埋まっていた……何だこの人気は?
 そして,この様子を見ながら少し不安に感じていたことが,実際に起こってしまった。

 イベントタイムが始まると,親が子供を席に座らせ,キットを手に入れ,工作が終わると,さっさと帰ってゆく……誰も観察しようと言う子がいない……いや,正確には,親が子供をダシにして,顕微鏡を手に入れた時点で,子供を追い立てて帰ってしまったのだ。
 使い方の「実習」もしないで持ち帰って,活用してくれるとも思えない。結局は何も使われずに死蔵するんだろうな。良くても,「夏休みの工作」として学校に提出するぐらいだろう。

 博物館のイベントに限らず,科学イベント全般に言えることだが,持ち帰ることの出来る「おみやげ」(…しかも,出来ればなるべく高価なもの)が手に入り,「おみやげ」入手のために要する手間が少ないイベントに人気が集中する。「青少年のための科学の祭典」を見ていても,その傾向は明らかだ。特に,親が小さな子どもを連れている場合,「おみやげ」だけが目的になっている親も少なくない。この様子を見る限り,明らかにサイエンス・リテラシーの足りないのは親のほうである。わざわざ科学イベントに来て,子供の科学への興味を遮断するようなことをしているのだから,出展者も子ども達も浮かばれない。

 そんな親に「理科離れ」云々と言われたくはないのだが,そういう親に限って,自分のことは棚に上げて,口うるさいのだから,始末が悪い……。

 イベントの質を向上させたい気持ちもあるが,こういう落とし穴もあるのだ。
 金と手間をかけずに効果の高いイベントを作るのが理想なのだが,なかなか上手く行くものでもない。予算が足りないと多大なる手間とアイデアが要求されるし,予算があっても,それを活かしきるのは難しい。
 また,いちど上手く行ったネタは,あちこちのイベントで真似される。それ自体は「普及」と言う意味では成功なのだが,あっという間に「定番」の実験として多くの人の知るところとなり,急激に新鮮味が落ちて不人気になったりする例もある。「スライム作り」などの実験は,その典型だ。また,人のアイデアを丸々コピーして演じてしまう人も少なくないので,アイデアのプライオリティについても考えさせられる面がある。私は「定番」と呼ばれる実験には,必ず自分のアイデアを加味して,オリジナリティを出すようにしているのだが,そのような努力をする人は多くない。

「普及」は推進したいが,それをめぐるトラブルも多く,ちょっとジレンマだ。

 いろいろ工夫して,たっぷり準備にお金や手間をかけたイベントに限って,落とし穴が大きくなるような気がしてならない。
 どこかに良い妥協点は無いものか……。

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