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 Chapter 40 「欠席」の効用(未定稿)

40−1 すみません,欠席します


 2005年12月。
 この秋も,博物館であれこれと活動して,結構忙しかった。今月はアウトドアイベントに関しては,定例探鳥会「てがたん」のみ。夏からずっと,常時,イベントの準備を抱えているような状態が続いていたが,ここに来てやっとこ一息ついた感じだ。

 そこに,忘れかけていたものが……

 「市民スタッフ研修会」である。
 市の運用方針としても,市民スタッフ向けに研修を行い,人材育成を行うことになっているのだが,イベントが立て込んで,すっかり,御無沙汰していた。今年度の研修会は,「てがたん」の下見会も兼ね,「てがたん」開催の前の週,第一土曜日に行うことにしていたのだが,9月は鳴く虫の観察会,10月はバッタ&トンボの観察会,11月はJBFがあったので,4ヶ月ぶりに第一土曜日が空いた。

 ……がしかし,私は法事があって,どうしても出席できない。
 市民スタッフの取りまとめ役の斉藤さんに全てをお願いして,欠席。長いこと観察会やイベントに関わっていると,どうしても出られない日が,必ず発生するものである。さて,何をテーマに話し合うのか……それは斉藤さんが把握していた。5月にほとんど思いつきで作った,研修会6回分のテーマ設定が,斉藤さんの手元に残っていて,それをそのまま実行に移しているのだ。あまり深く考えずに,6回ぐらいでひととおりの話題を網羅して,ひとつのストーリーが完結するように,と例示したつもり斉藤さんにでメールを書いておいたものが,そのまま生き残っている。推敲も修正もしていないのに,そのまま使っていると言うのは,ちょっと恐縮してしまう。最初のアイデアが良かった,と言うこともあるまい。来年はもうちょっと考えて,面白い研修テーマをひねり出そう。

40−2 研修会,下見会


 そんなわけで,今回の研修テーマは,「視点を広げること」。生き物の名前を教えるだけの観察案内から,視野を広げ,生き物のつながりを見て,我孫子の自然環境を知ってもらうような方向に,広がりを持たせたい,と言うお話。「分類学」から「生態学」「環境学」への発展がテーマである。自然観察に,いろいろな視点を持つこと,と言う話題を中心に,こんな展開はどうだろうか,と言うアイデアを出し合うようなフリートークをしよう,と言う目論見。

 研修会が終わってから,斉藤さんが研修会と下見会の内容をまとめて,MLに流してくれた。欠席者の情報レベルを揃えるためにも,MLは有効だ。私も欠席者の1人だったので,大いに助かった。

 報告を見る限り,なかなか活発なアイデア交換があったようだ。「見せ方」の工夫とか,視点の切り替え方とか,ゲーム性を持った演出とか。中には,「てがたん」は鳥の話が少なすぎる,と言う意見も(…ごもっともです)。私が音頭を取らなくても順調に研修会が動くようになったのは,ありがたいことだ。私が仕切っていたら,結局は,多かれ少なかれ,私のカラーを押し付けることになってしまう。いろいろな個性,いろいろな視点のスタッフが,ごちゃごちゃとアイデアを出して,イベント活動に広がりを見せるほうが,今後のためにも,好ましいことだ。
 がしかし,ちょっと気になったのは,参加人数が少ないこと。5人ですかー。全スタッフの2割にも満たない。熱心な人とそうでない人の,温度差が広がっている感じがする。JBFのときにも,「サブ担当なら…」と言う人が多かったが,こちらも,いきなりイベントのメイン担当とか企画立案をお願いしているのではなく,自分の出来るところから始めて,少しずつ腕を磨いて欲しいと思っているのだが,それにはまず,「参加者」としてでも,イベントに参加して,経験を積むこと,イベントの雰囲気や運営の要領に慣れることが大事なのだ。研修会は,「てがたん」の下見会も兼ねているが,「本番」では出来ないような質問を投げかけたり,あれこれ観察ネタを試してみたり,お互いに情報交換をしたり,さまざまなことが出来る場である。さらにはスタッフ同士の信頼関係を強くすると言った効用もある。それは,本番の観察会では経験の出来ない,大切な資産にもなる。「てがたん」と,その下見会は,スタッフの活動拠点として,これからもじっくりと育てて,イベントの質,スタッフの質,どちらも高めるようなものにしてゆきたいと思う。

 その後,時田さん,斉藤さんと,研修会で出たアイデアの活かし方について,少々話し合った。これらを具現化するために,いろいろなスタッフに,自らの言葉で,大いに語り,実践して欲しい。とは言っても,いきなりメイン司会を担当するのは,プレッシャーに感じる人もいると思うので,まずは「てがたん」の中で,市民スタッフのアイデアを具現化した小イベントを2つぐらい実施するようなプログラムを作り,それを軸に,「今月のテーマ」を決め,開催告知にも,内容を詳しくアナウンスしてしまう。参加する側にとっても,「てがたん」で,どんなことをやるのか,はっきり見えていたほうが,内容について何も告知しないよりも,参加しやすいし,参加動機も増える。
 ……次年度からは,こんな方針で行こうか,と意見がまとまってきた。
 観察会の担い手を育てながら,観察回の幅を広げ,マンネリ化も防ぐ,良い方向が出せそうだ。

40−3 今回はサブ担当です


 さて,研修会の翌週の「てがたん」当日。
 私は研修会に出なかったことを理由に,サブ担当に下がった。
 参加者は30名ほど。開催案内が広報に出ていなかったのに,なかなかの盛況。先月作ったチラシの効果もあったようだ。

 今月の当番の学芸員は塩田さん。目立たないように手伝いながら,観察会の集団の最後尾で,全体を見渡しつつ,時間管理を行いつつ,自然解説トークはなるべく控えめにしておく。いつもメイン担当をしていると,サブに下がったときにも,つい,司会者以上に喋ってしまうのだが,今回は研修会と下見会の情報が入っていて,観察テーマも決まっているので,サブの役回りをやるのも,楽に出来た。サブ担当になると,メイン担当からは見えないものが見えてくる。司会の声の届き具合をチェックしたり,参加者の反応を後ろから観察したり。

 さて,研修会の成果は……と言いたいところなのだが,研修会に出た人が,けっこう欠席しているので,目に見えるような効果は分からなかった。まぁ,実際,1,2回の研修や観察会担当の経験で,劇的に腕前の上がる人などいない。そういう意味でも,もっと長い目で研修も考え,2,3年計画ぐらいで,人を育ててゆくのが,妥当な線だろう。

 博物館のイベント事業展開の経緯により,ここまでは事実上,私が市民スタッフを引っ張り,観察会のメイン担当も努めてきたが,これからは,少しずつ牽引力を弱め,観察会でもサブ担当に回る機会を増やし,「市民スタッフ」がチームとして力を発揮する方向に持って行くようにする計画だ。市民スタッフが,だんだんと自発的に動ける力をつけてきた。もちろん,今後,私が完全に博物館の事業から撤退するのではなく,市民スタッフの一員として,イベント事業を切り盛りするようになるだけなのだが…。

 こうして市民スタッフのシステムが軌道に乗ったら,私自身には余力が出来るはず。その余力は,「次の一手」を打つための力であり,また新たな展開を考えるための余裕なのだ。

 そろそろ,「次のこと」を考えても良い時期になってきた。

40−4 「てがたん」の「たん」って?


 「てがたん」と言う名称も,随分と定着してきた。博物館の看板イベントとしての定例探鳥会。その目標であった,「予約無しで毎月同じ第二土曜日に来れば遊べる」と言う気軽さも,博物館の周囲の自然を案内する「フィールドミュージアム化」の構想も,定例探鳥会を博物館事業の担い手を育てる「人づくり」の場として活用する計画も,それぞれ,進展している。

 先日,ふと気がついたのだが,「てがたん」のことを,「手賀沼探検隊」だと思っている人が,少なからずいるようなのだ。もちろん,当初の命名は,「手賀沼探鳥会」である。いつの間にか,「探鳥会」らしくないイベントへと進展してしまった。
 確かに,春から夏にかけての「てがたん」を経験した人なら,「これで探鳥会?」と思うような内容だったと思う。もともと夏季は鳥が少なく,また,観察しにくい季節でもあるのだが,これは,「季節に合わせた『旬』の自然を紹介する」と言う,「てがたん」の基本方針から逸脱したものではないのだ(もちろん,鳥の多い冬場は,鳥がメインの観察対象となる)。これはもちろん,「フィールドミュージアム構想」にも沿ったものであり,この地域の自然史を伝えるためにも,効果的な環境教育を実現させるためにも,「鳥」だけにこだわるのではなく,「鳥たちのすむ環境」からのアプローチが,重要な意味を持つからである。

 「探鳥会」を名乗る自然観察イベントでは,まだまだ,鳥だけをピュアに追いかけ,観察した種類数や珍しい鳥を探し出すことに楽しみを見出している集まりが多いのも事実だと思う。しかし,それが博物館の自然観察イベントとして,ふさわしいものか?と聞かれたら,私は即座に「No」と答えるし,鳥の博物館の学芸員も,同様の考えを持っている。鳥の博物館の「探鳥会」は,鳥を追い求めるだけではダメなのだ。その違いを端的に表すなら,「趣味集団」と「教育機関」の違いではないかと思う。鳥の博物館は,言うまでも無く「教育機関」。サイエンスとして「鳥学」を語る場合,生態学,環境学は外せない分野であるし,文化的側面や自然史的側面から「鳥」を捉えた場合でも,鳥を見つけて名前を言い当てるだけの「探鳥会」では,まったく不十分であることは,容易に理解できると思う。
 言い換えれば,鳥しか見ない「探鳥会」に比べ,情報量においても,学問体系的にも,一歩も二歩もリードした形の「探鳥会」が,「てがたん」なのである。春には野草の花の話題が増え,夏になれば虫の話題が多くなり,冬になると鳥を中心に展開する……こうしたスタイルになるのは,博物館の教育機能から見れば,当然の結果とも言える。夏場の「てがたん」しか知らない人は,「探鳥会」ではなく「探検隊」だと思ってしまうのも,仕方が無い。いや,むしろ,そういう理解で参加してくださる方が多いことは,「てがたん」にとっては,名誉なことでもあり,狙い通りの結果でもある。

 「探鳥会」でも「探検隊」でも,構わない。要は,この地域の自然をきちんと,分かりやすく,かつ面白く,市民に紹介することが出来ているかどうかが重要なのである。

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