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 Chapter 39 市民スタッフ,
     ジャパンバードフェスティバルに乗り込む!
(未定稿)

39−1 ありそうで無かった観察会


 いま,日本で一番大きな,野鳥関係のイベントと言ったら,間違いなく「ジャパンバードフェスティバル」(JBF)だろう。JBFは,2001年より,我孫子市を会場に開催されている,野鳥と自然に関わる人たちが集まる,全国規模のイベントである。我孫子では,それ以前より,バードカービングの全国大会が行われていて,我孫子市自体も,山階鳥類研究所を誘致し,「鳥の博物館」を作り,「人と鳥が共存するまち作り」を進めてきた背景もあり,その延長線上に,JBFの開催がある。
 JBFでは,主催者主導のイベントのほか,野鳥や自然保護に関わる団体……野鳥の会などの財団法人から,地域のNPO,任意団体など,さまざまな団体のブース出展や展示会,イベント等が行われるのはもちろん,野鳥や環境問題に取り組む自治体,野鳥観察ツアーを開催する旅行会社,双眼鏡やアウトドア用品などの野鳥観察用品を扱う会社,野鳥,自然関係の本を扱う出版社など,さまざまな組織が出展する。来訪者数も非常に多く,初年度は38000人,2004年には55000人を数えた。

 もちろん,鳥の博物館は,「参加団体」ではなく,「主催者」のほうに名を連ねている。

 ところが,意外な話だが,JBFには自然観察イベントがほとんど無い。2004年の実績では,手賀沼に船を出して観察する「船上バードウォッチング」と,手賀沼親水広場の展望台からの定点観察の2つで,どちらも観察案内は「我孫子野鳥を守る会」の担当。後発の「東京バードフェスティバル」(2003年スタート,会場は東京港野鳥公園)では,さまざまな人がさまざまなテーマで,1〜2時間の観察会を提供していて,参加整理券がすぐに無くなってしまうほどの人気ぶりだ。我孫子は東京港野鳥公園より広い会場が使えて,東京港よりもバラエティに富んだ自然環境にも恵まれている。なのに,この土地の自然環境をしっかり案内する観察会が,JBF会期中に行われたことが無かったのだ。

 JBF会場は,手賀沼と言う,水鳥のオアシスの目の前。会場に立ち,手賀沼の水面を背にすると,会場のすぐ北側に緑濃い斜面林が続いているのが見渡せる。手賀沼の水面−水辺の田んぼや草地−斜面林と言う,我孫子の自然環境を特徴付けている自然環境が,JBFのメイン会場の周囲に揃っている。これだけの自然豊かな場所で開催され,遠くからわざわざ我孫子を訪れる人も少なくないと言うJBFで,我孫子の自然を案内していないなんて,もったいない!

 鳥の博物館の観察会事業を始める前から,「JBFで自然観察会をやって欲しい!」と言う希望は持っていた。しかし,現実には,担い手がいない……博物館のスタッフは,主催者として,シンポジウムや講演会など,大きなイベントの担当を抱えていて,JBF会期中には,博物館に学芸員がいなくなってしまうほどの忙しさだ。観察会をやりたければ,自分達で動かすしかない。今年は「市民スタッフ」が居るので,市民スタッフが何人か集まれば,観察会が実現するのではなかろうか。

 暖めていた企画を,動かし始めた。

39−2 企画出遅れ


 「観察会をやる!」とは言っても,参加者が集まる保証は無い。スタッフが集まるかどうかも,分からない。

 JBFの3ヶ月前。8月には,学芸員と市民スタッフ向けのメーリングリストで「観察会」の提案を始めた。
 始動して2ヶ月しか経っていない市民スタッフは,やはり反応が悪い。「てがたん」などに,まめに出ている人は,「面白そう!手伝います!」と返事をくれたが,まだまだ,チームワークが固まっている状態ではないようだ。

 イベントの位置付けも,少々悩んだ。「市民スタッフの主催の自主イベント」と言うのもおかしい。なぜなら,「市民スタッフ」は,博物館の活動の支援のためのボランティア集団であり,市民スタッフの活動の場は,博物館の事業の範囲内であるから,たとえ市民スタッフが主導してイベント企画を立てたとしても,その開催の主体は,あくでも博物館である。学芸員ともあれこれ相談して考えた結果,「鳥の博物館主催のJBF協賛イベント」として,市民スタッフが主体的に運営する,と言う形にまとめた。出展ブースは,観察会の参加受付の場所さえ確保されていればOKなので,親水広場に出展する予定の,鳥の博物館と博物館友の会が合同で使用するテントの一部を借りることで決着。イベント名も,「てがたんin JBF2005」として,「博物館周囲の,旬な自然を案内する」と言う,いつもの「てがたん」のコンセプトを継承。市民スタッフにとっても,「てがたん」のスタイルが,いちばん慣れているので,手を出しやすいはずだ。観察コースも「てがたん」と同じ。開催時刻も「てがたん」と同じ10時〜12時にした。
 但し,JBFは11/5(土),6(日)の2日間開催なので,両日とも同様の内容で,各日1回ずつ,合計2回の開催とした。

 あとはスタッフの確保だ。

 スタッフの募集は,市民スタッフ取りまとめ役の斉藤さんにお願いすることにした。私から言うよりは効果があるだろうし,既に「博物館主催イベント」扱いになっているのだし……。メールで連絡の取れない人も何人かいるので,文書で企画書やスケジュール表を送ってもらう。企画書の中身は私が作っているのだから,事実上,斉藤さんの名前だけ借りたようなものだが……。

 10月に入ったところで,やっとこ,開催できそうな人数のスタッフが固まった。
 これで開催の目処が立った……と思ったら,出展締め切りは9月だった……

 どうする?

39−3 不利な場所


 幸いなことに,博物館はJBFの主催団体の1つ。斉藤さんが,準備委員会担当。斉藤さんに準備委員会の状況を教えてもらいつつ,「てがたんin JBF2005」開催の可能性を探った。最終的には,斉藤さんの努力により,「JBF協賛イベント」の位置を確保してもらった。最悪でも,博物館独自開催のイベントとして,博物館玄関前発着で,観察会をやってしまおうかと思っていたので,ひと安心。これで,問題無くJBF会場のブースに,「参加受付」を出すことが出来る。

 開催期日が迫ってくると,参加予定スタッフの人数も,少しずつ増えてきた。
 「サブ担当なら……」と言う人も多い。それは想定通りだ。大イベントの中で,いきなりメイン司会を任せられたら,誰だってビビるだろう。それよりも,市民スタッフが,単なる「事業下請け」で,学芸員の指示待ちでしか動けない集団になるよりは,自らの発意で,これまでには無かった新しい博物館の活動を創り出してゆくスタイルを提案したかったのだ。そして,大きなイベントを体験することは,担当したスタッフ一人一人のの自信に繋がる。
 正直なところ,内々には,市民スタッフを育てることを念頭に置いて,このイベントを企画しているのだった。


 開催1週間前。
 JBFの公式パンフレットが出来た。
 「てがたんin JBF2005」の記載は,何とか間に合った。
 しかし,当初の素案で出していた情報がそのまま出てしまい,受付場所と受付開始時刻の訂正が間に合わなかった。仕方が無い。当日,張り紙をして対応できる範囲のことなので,とりあえずはOK。

 しかし,心配な点も見つかった。
 JBFはおもに,我孫子駅に近い「手賀沼公園」と,鳥の博物館の前の「手賀沼親水広場」の2会場に,出展ブースが別れて配置される。今年は手賀沼公園の再整備が終わったこともあり,これまで手賀沼親水広場のほうに配置されていたブースの一部が手賀沼公園に移り,手賀沼親水広場のほうは,出展数がめっきり減ってしまった。鳥の博物館のブースは,その,手賀沼親水広場会場の,行政関係のブースの列の,いちばん端のテント……博物館には近いが,参加する側から見れば,いちばん遠い場所だ。

 う〜む……これで大丈夫なんだろうか?

39−4 準備作業


 JBF開催1週間前までに,やっておかなくてはいけないことがいくつかあった。
 学芸員が他のイベントの準備で多忙なこともあり,博物館のイベントでありながら,市民スタッフが中心になって切り盛りすることになっているので,準備作業も,こちらでどんどん進めてしまう。
 企画書やスタッフ向けのスケジュール表はもちろんのことだが,「てがたんin JBF2005」の本番で参加者に配るものを準備しなくてはいけない。今回,準備したのは,「てがたんin JBF2005」専用の観察パンフレット。「専用」と言っても,いつもの「てがたん」のパンフレットの雰囲気を損なわないように考えつつ,初めて我孫子を訪れる人のために,地図と,博物館周辺の自然環境の紹介を中心にまとめ上げた。もうひとつ,参加者に配布するものとして,缶バッジを作った。これは,観察会参加者と,そうでない人を区別するためのアイテムでもある。1日目の参加者にはオオバンのバッジ,2日目の参加者にはコウノトリのバッジを配る。

 さらに,出展の出遅れを少しでも取り戻すために,「てがたんin JBF2005」の宣伝用チラシを作った。その勢いで,「鳥の博物館の自然観察会」と言うチラシも……。これは,「てがたん」と単発イベントの宣伝用で,JBF開催後にも使える。
 この2つのチラシは,とりあえず,博物館入り口脇に置いてもらうことにした。

39−5 企画倒れか?


 JBF当日。
 天気予報では,日曜の午後から雨。天気との勝負も必要になりそうだ。
 とりあえず,土曜日は晴れた。

 JBF公式パンフレットの受付開始時刻が訂正出来なかったので,朝9時前から準備開始。斉藤さんから,いつもの「てがたん」の道具を受け取り,今回限定のアイテムを加え,親水広場のブースに運ぶ。斉藤さん曰く,今回のJBFのために,鳥の博物館の幟を作った,と言うことで,博物館前と親水広場の博物館ブースに,1本ずつ,オオバンの幟が立つことに……。
 受付時刻の変更は,9時→9時30分と,30分遅くなるだけなので,早く来てしまった人には,その場で「ごめんなさい」をして,時間まで,他のブースを回ってきてもらう。

 ……しかし,出足が悪いな。
 土曜の朝だから人出が少ないのは確かだが,第2土曜の「てがたん」よりも少ない。
 宣伝不足か,「観察会」そのものがJBFにそぐわないのか……。

 10数人集まったところで出発予定時刻の午前10時。
 受付担当スタッフを1人残して,残りのスタッフ数名と共に,観察会をスタート。
 受付を残すのは,多少の遅刻者を受け入れるためでもある。

 ……ところが実際には,「てがたん」の開催時間を「10時〜12時,受付は9時から」と告知したため,「12時まで参加できる」と思って,11時半ぐらいにブースに問い合わせに来る人もいた。観察会の終了時刻を明示するための記載が,裏目に出たようだ。観察会に慣れている人なら,「10時スタート,12時終了」と読んでくれるが,観察会と言うものを知らない人にとっては,不親切だった。
 慣れていない人への配慮が足りない。反省……。

 さて,観察会のほうは,いつもの「てがたん」と同じコースで,この時期の「旬」の自然を探すスタイル。少しだけ,我孫子の自然や,この場所の景観の成り立ちなどに触れ,遠方から参加している人に,我孫子の自然像を知ってもらうための解説を加えた。
 気温も上がり,チョウも多く,最後のほうにはナガコガネグモがハネナガヒシバッタをハンティングする様子も観察できた。網を揺らして糸を絡め,糸をたぐって獲物を引き寄せ,一気にグルグル巻きに……1,2分の出来事だったが,ダイナミックな自然の営みを感じてもらえた。


 結局,2日間で参加者は20数名。
 いつもの「てがたん」の半分程度だった。
 例年,JBFの来訪者は日曜のほうが多いのだが,日曜日の天気が悪かったのが,かなり災いしてしまった。

 「てがたんin JBF2005」は,イベントとしては,中途半端なことになってしまった。参加者が少なかったのは,企画の出遅れやさまざまな悪条件もあったので,仕方の無い部分もあるが,次年度にはもう少し,じっくり企画を練って,挽回したい。次年度には,「てがたんin JBF2005」を経験した市民スタッフが,積極的に企画段階から参加してくれると思う。
 なによりの収穫は,学芸員抜きの「自主運営」が出来たことだ。しかも,参加者が少なかったことは,観察会の内容的には,質を高める結果となった。もし,50人も参加者が来ていたら,経験の浅いスタッフには,かなり厳しかったと思う。参加人数が少なかったことが,結果的にスタッフの精神的余裕を生み,担当スタッフの誰もが,参加者との対話や観察案内を,自分達も一緒に楽しみながら,笑顔で取り組んでゆくことが出来たのが,なによりだ。

 内々に目論んでいた,市民スタッフに自主性と自信を持ってもらおうと言う目標は,じゅうぶんに達成されたと思う。
 これから少しずつ,市民スタッフの主導によるイベントの企画運営が出来るような方向に向かってゆくことが出来れば,と期待する。そうなれば,学芸員主導のイベント企画では思いつかなかったような企画が増えて,博物館の提供するイベントが,ぐっと多彩なものになってゆくだろう。

 市民スタッフ一人一人の発意を活かすように,イベントの作り方も,工夫してゆかなくてはいけない。

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