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 Chapter 35 試行錯誤の「鳴く虫」観察会(未定稿)

35−1 やっぱり大人向き?


 8月に入ると,博物館の前の,手賀沼親水広場でも,夕方になると,あちこちから虫の声が聞こえてくるようになる。秋の鳴く虫の季節の幕開けだ。虫の声の観察会も,これで3回目となる。最初の年は夏休み後半の土曜日に開催したが,2004年,2005年と続けて,9月第1土曜日の開催とした。「鳴く虫」観察会の設定日は,毎年悩む。虫の声の「旬」を狙うのが,観察会作りのセオリーなのだが,虫の声の「旬」は長い。いや,もう少し正確に言えば,「主役」が少しずつ交代しながら,8月半ばから10月上旬まで,観察が楽しめる。この期間中なら,どこで設定しても大丈夫なのだ。具体的な日程の選定となると,他のイベントや担当スタッフの都合なども影響してくるが,私の好みとしては,8月末から9月上旬の時期が,開催しやすいと考えている。ウマオイやヒメギスなどのキリギリス類には,暑い時期だけ鳴いて,涼しくなるとさっぱり鳴かなくなる種類がある。もちろん,クビキリギスみたいに,晩秋にやっと成虫になるのもいるが,多くの種類を聞きたいなら,やや早めの時期で,蒸し暑い夜が良い。それに,人気の高い「カンタン」が良く鳴く時期,と言う理由もあって,毎年,この時期の開催を推している。
 但し,アオマツムシの大合唱のために,小さな声の虫は,聞き取りにくくなる場合もあるが。

 8月中に開催すれば,夏休みの自由研究ネタにも使ってもらえる,と言う期待もある。しかし,この「鳴く虫」観察会に限って言えば,他の観察会よりも,大人の参加が多い。夜間の観察であること,声だけの観察であることなどの理由で,子どもを参加させるには不利な条件も多い。そんな経験から,あえて夏休み中に開催しなくても大丈夫,と言う読みなのである。
 さらに今年は,市民スタッフの勉強会を兼ねた下見会を,どうしてもやりたかったので,8月最後の週末を下見会に充て,本番は9月第1週と言うスケジュールが確定した。
 この時期,我孫子では,20種類を越える直翅目(コオロギやキリギリスなどの仲間)が観察できる。下見会で急に勉強したところで,いきなり全部覚えられるものではない。虫の勉強は,各自,少しずつやってもらうことにして,観察会の段取りや,夜の手賀沼沿いの雰囲気を確かめてもらうことを優先した。

 さて,予約状況を見ると,開催数日前まで,定員に達していなかったし,子どもの参加も3割程度だった(それでも,他の主催団体が羨むほど,子どもの参加が多いのだが)。子どもが少なめで,予約の出足が鈍いところまで,例年通りだ。それでも,開催当日までには予約定員が埋まってしまった。

35−2 部屋で見せて,鳴かせて…


 開催時間は前年踏襲。午後6時スタートで,虫の声の音声データを使って,30分ぐらい,スライドショー+声の予習をして,博物館前に出て,「本物」の声を探す。
 スタッフの集合は午後5時。参加者の受付開始は5時45分だが,その前に,ひと仕事ある。前もって,博物館駐車場脇の土手や休耕田で,虫のサンプリングをしておくのだ。暗くなってからの観察なので,そのときに虫の姿を観察するのは非常に難しい。室内でレクチャーする時間や,開始前の待ち時間に,実際に鳴く虫の姿を見てもらおうと言う段取りだ。今年は市民スタッフがいるので,人手も多く,あっと言う間に10種類ぐらいの虫が捕まった。それを種類ごとに分け,観察しやすいように透明プラスチックの箱に入れ,付箋紙で名札をつける。
 さて,多目的ホールに連れて来られた虫たち。テーブルの上に観察箱をしばらく置いておいたら,さっそく,エンマコオロギが鳴き出した。羽をちょこっと持ち上げて,小刻みに震わせる。コオロギが鳴いている様子を見るのが初めての人も多かったようだ。静かにじーっと観察していて,コオロギが鳴き出すと,小さな歓声が聞こえてきた。スライドショーで説明をしている間も,CDから流れる虫の声に混じって,「本物」の生の声も一緒に聞こえていた。

35−3 「実物」の魅力


 午後6時半。外もだいぶ暗くなってきた。いよいよ,野外での観察の始まりだ。
 まずは,博物館の脇のエゴノキで,カネタタキの声から。
 ……ところが,さっそく,問題発生。
 カネタタキの声を聞き取れない人が結構多いのだ。カネタタキは高い音で,しかも,あまり大きな声ではない。聞き方のコツを教えたら,聞き取れた人が増えてきたが,年配の方は高音が聞き取りにくい。加齢性のものは,どんなに優秀な自然解説者でも,どうすることも出来ない。
 土手沿いに出ると,今度はシバスズ。これはカネタタキよりさらに高い声だ。そこで,バットディテクターを使ってみる。10kHzあたりに,強い音が出ている。バットディテクターを通して聞く音は,本来の音色ではないのだが,声のパターンを確認するのには十分に役立つ。高い音を出していて,パターンに特徴のある,ウマオイや,セスジツユムシなどは,バットディテクターを介して,高音の聞き取れなかった人にも確認してもらうことが出来た。
 もちろん,時折上空を飛ぶアブラコウモリの声も,バットディテクターを駆使して,しっかり紹介した。本来の使い道も紹介しておかないと……。

 虫の声の観察会をすると,虫の声は識別が難しい,と良く言われる。普段,聞き慣れていなかったり,高音が聞き取りにくかったり,と言う理由も大きいと思う。身近に鳴いている虫も多いのだが,普段の生活では,気にも留めなかった,とおっしゃる人も少なくない。我孫子の住宅地なら,博物館周辺で聞こえる種類の半分以上は,自宅から聞けるはずだ。虫の声に親しむには,まず,家の周りで鳴いている虫に興味を持つところから始めることをお勧めしたい。この観察会でも,オカメコオロギやツヅレサセコオロギ,エンマコオロギ,アオマツムシなど,「家の周りで鳴いている虫」を,なるべく丁寧に紹介することにした。特にエンマコオロギは覚えやすい声だと思う。エンマコオロギは,近くにメスがいるとき,ライバルのオスがいるとき,独りでいるときなど,場面によって鳴き方を少しずつ変えるので,鳴き声で,声の主の置かれている状況が,ある程度想像がつく。鳴き声自体も,ビブラートの効いた艶やかな声で,なかなか魅力的だ。世の中には,カンタンの声を珍重される方も多いが,個人的には,エンマコオロギの魅力を推したいところだ。エンマコオロギは日本最大級のコオロギでもあり,姿も大変立派なものだ。ただ,これをゴキブリと勘違いする人が多いのには,ちょっと困った。秋の鳴く虫たちは,身近にいるのに,今では,遠い存在なのだ。遠い昔から,虫の声を愛で,歌に詠み,江戸時代には既に「虫売り」がスズムシやキリギリスを売り,唱歌「虫の声」は,ほとんど誰でも歌える,と言う日本人。その,虫の声と親しく付き合ってきた文化も,少しずつ風化を始めているような気がする。

 さて,人気ナンバーワンのカンタンだが,博物館の周りには,たくさん鳴いている。実はありふれた虫なのだ。東京では,お食事や宿泊とセットになった,「カンタンの声を聞く会」などもあり,わざわざ数千円の投資をしてカンタンを聞きに行く人もいるが,カンタンは都心でも,探せば結構生息している。
 カンタンにはひとつ,若い人にはわからない魅力がある。それは,カンタンは,コオロギの仲間としては珍しいほど,高い音を出していないので,高齢になっても,若い頃と変わらない聞こえ方をするのだ。ウグイスの声が聞こえる聴力なら,余裕で聞き取れる。ご年配の方も納得,の美声なのである。
 しかも,今回,ラッキーなことに,カンタンの姿を見つけることが出来た。白っぽい,コオロギとしては華奢な体つき。多くのコオロギは,地上生活なので,黒っぽい色をしているのだが,カンタンは草の上などにいることが多く,体の色も,それに合わせた,淡い色だ。夕方のサンプリングでも,カンタンは捕まえることが出来なかったので,ほとんどの人が,カンタンの姿を初めて見ることとなった。

 さすが,「鳴く虫の女王」……って,鳴いているのはオスなんですが……。


 博物館に戻り,ざっとおさらいをして解散。
 解散後,参加された人から,夏休み中に開催して欲しい,との声を複数聞いた。夏休みのほうが,親としては参加しやすい,とのこと。
 うーん,やはり夏休みの最終週のほうが良かったのかな。これは来年の宿題としよう。


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