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 Chapter 33 大賑わい!手賀沼公園(未定稿)

33−1 3度目の夏,3度目の「セミ」


 7月の「てがたん」が終わると,もう夏休みは目前。今年も,「セミの羽化」観察会の時期がやってきた。毎年,大人気の観察会だ。会場も,アビスタと手賀沼公園で,昨年同様。アビスタのレクチャールームで30分ほど解説をしてから,公園に飛び出して,実際に羽化の様子を眺めると言う段取りだ。
 我孫子では毎年,この時期に,花火大会がある。セミの羽化の観察適期は7月最終週か8月第1週ぐらい。この時期で,花火大会の無い週末を,観察会の日に充てる。つまり,花火大会の日程が決まらないと,観察会の予定が決まらないのだ。観光協会が早く予定を教えてくれないと,結構あせる。

 6月に入った頃,花火大会の日程が8月6日(土)に決まった。今年の観察会は,7月30日(土)で決まりだ。

33−2 マンネリ化対策


 この観察会の企画も3回目。「慣れ」も出てきて,段取りは良くなっているが,「マンネリ」と言う問題も,のしかかってくる。まぁ,参加する側に,セミの羽化の観察が初めて,と言う人も,まだ多いので,多少のマンネリは許されると思う。しかも今年は,教える側に,市民スタッフが増員されているので,スタッフ側にも,この観察会が初めての人が多い。
 マンネリを嫌い,どんどん企画を変えてゆくのもひとつの方法だ。しかし,「変わらないもの」があっても良いのではないかと,最近,思うようになっている。観察会を通して,参加してくださった人たちに伝えたいものの本質は,そんなに変わることが無い。その「本質的な部分」については,むしろ,変えてはいけないのではないだろうか? 確かに,上手く伝えるために,さまざまなアプローチを考えたり,面白い演出を考えたりすることは多い。特に子どもたちを相手にする場合,飽きさせないことにも,かなり気を遣って,プログラムを工夫する。その一方,「面白さ」を追求するあまり,きちんと伝えたかったことが,いつの間にか二の次,後回しになってしまう心配もある。私を含め,博物館のスタッフは,「芸人」ではない。それに,博物館は教育機関である。笑いを取るのは,興味を引くための演出であって,それが目的になってはいけない。
 もちろん,毎年,全く同じ話題では,確実に先細りになってしまう。毎年,セミの羽化をメインテーマにしながらも,細かいサブテーマについては,少しずつ変えるようにして,毎年,新しい話題を入れるような努力も必要だ。1年目は,「我孫子にはどんなセミがいるか」と言う話題から導入した。2年目には,「完全変態と不完全変態」に着目し,ぬけがらでセミの種類を見分ける方法などを紹介した。

 来年以降もこの企画は続く予定だ。いかにマンネリ化を避けるか,一番伝えたいことは何か?……この自問自答は,毎年続けられることになるだろう。

33−3 マンネリ脱却のための,意外な演出


 さて,同じ企画で3年目となる今回は,実態顕微鏡でセミのぬけがらを観察したり,我孫子ではほとんど見られないクマゼミの話題を大きく取り上げ,「もし,クマゼミの声を聞いたら,博物館に報告してください。」と言う,双方向性を意識した話も計画した。資料として,大阪の友人から,クマゼミの成虫とぬけがらの標本も送ってもらった。

 ……しかし,待てよ……

 我孫子での観察会の前日の7月29日,私は松戸市青少年会館で,セミの観察会の講師をしていた(実は,27日夜に我孫子の下見会,28日夜には松戸で下見をしているので,夜にセミを求めて出歩くのが4日続いている……)。
 松戸の観察会では,どんな人が集まってくるか分からなかったので,「つかみ」の小イベントとして,「セミの基礎クイズ」と言うのを試みた。これを思いついたのが下見の後だったので,紙に大きな字で問題と選択肢だけ印刷し,観察会に持ち込んだ。


 「さぁ,これからセミの羽化を観察しに行きますが,暗くなってセミの幼虫が出てくる前に,ちょっとだけ,セミのお勉強をしておきましょう。」

 「まず,みなさん,セミについて,どのぐらい知っているでしょうか?簡単なクイズを用意しましたので,答えてみてください!」

Q1 セミが鳴くのは,オス・メスどっち?
 ・オス ・メス ・オスメス両方

Q2 セミはどこに卵をうむ?
 ・木の幹や枝 ・土の上 ・土の中

Q3 セミと同じように,「さなぎ」の無い虫は?
 ・カブトムシ ・バッタ ・トンボ ・アリ


 1問ずつ,選択肢ごとに手を挙げてもらって,簡単な解説を加えた。
 意外だったのは,いちばん簡単な問題だと思って用意していたQ1でも,3割ぐらいの人が誤答したこと。正解は「オス」だ。生きものの好きな人なら,まず,間違えることは無いと思っていたのだが,「メス」「オスメス両方」を選んでいた人が,子どもたちだけではなく,一緒に来ている保護者にも多かったのだ。公募参加型の観察会では,それなりに興味を持っている人が集まっているはずなのだが,それでも,この誤答率と言うのは,正直,予想外の結果だった。
 Q2はさらに正答率が悪く,正解の「木の幹や枝」を選んだ人のほうが少なかった。Q3は,「アリ」で迷った人が多かった。正解は,バッタとトンボがセミと同じ「不完全変態」である。カブトムシもアリも,土の中でさなぎを作るので,さなぎを見るチャンスは少ない。面白かったのは,子どもたちは「カブトムシ」に「さなぎ」があることを,良く知っていたこと。明かに親より正答率が高い。さすが,子どもに人気の高い昆虫である。


 この経験で,私は確信した。
 基礎的なことを,きちんと押さえておかなくてはいけない。

 今の観察会にしても,子ども向けの科学知識の本にしても,変わったこと,目新しいことに,つい,目が行ってしまう。言うなれば,「トリビア」指向。基礎知識が抜け落ちている可能性は,じゅうぶんにある。
 確かに,「トリビア」的な知識は面白いし,知識欲も刺激する。しかし,それは基礎知識がきちんとしていることが前提だ。基本的なことを知らないで,「例外」みたいなことばかり知っていても,役に立たない。

 そこで,前日の3問に加え,「トリビア」的な質問も取り混ぜ,以下のような質問を作り,アビスタでのレクチャーの「前振り」に使うことにした。

Q4 日本には何種類ぐらいのセミがいる?
 ・10種類ぐらい ・20種類ぐらい ・30種類ぐらい

Q5 セミと同じ仲間の虫はどれ?
 ・ゴキブリ ・カメムシ ・コオロギ ・ミズカマキリ

Q6 天然記念物になっているセミは?
 ・アブラゼミ ・ミンミンゼミ ・クマゼミ


 ……お分かりになるだろうか。
 「常識」の範疇を超える質問もあるが,実は,子ども向けの科学知識の本に載っている程度の知識である。あえて回答と解説は省略するので,興味を持ったら,ぜひ,自分で調べていただきたい。

 この「クイズ」で参加者を引き込んでから,スライドショーと顕微鏡観察をして,夕闇の中,手賀沼公園に観察に出て行った。

33−4 増殖する参加者


 この観察会,結果的には,鳥の博物館主催の観察会史上最高の参加人数を記録した。
 ……実は,何人参加したのか,把握出来なくなっていた。

 観察会の予約開始が7月16日。我孫子市の広報に告知が出た日からだ。過去2回,夜間の観察会,と言うこともあり,予約定員を30名に抑えていたのだが,今回は,告知時点で,アビスタのレクチャールームの椅子の数(=46脚)だけの定員を設定していた。毎回,予約数よりも満員でお断わりする数のほうが上回る状態だったのを考え,時田さんが判断したものだ。……でも,それって,スタッフの座る場所は無いし,顕微鏡を置く場所も無いじゃないですかー……と文句を言っても,後の祭り。今回は市民スタッフも担当に加わっているので,キャパシティ的には,多少の予約定員増は可能だったが,せめて,40人ぐらいに抑えてもらわないと,観察会の質を下げる結果になりかねない。
 しかし,予約の出足は良く,例年通り,あっという間に予約は埋まってしまった。さらに,レクチャールームの容量を越える参加希望が,続々と……。そこで,苦肉の策として,「6時半からのレクチャーは満員ですが,野外観察だけなら,7時頃にアビスタをスタートしますので,そこで合流することは可能です。」と言う案内を出していたのだ。この話を私が聞いた時には,既にかなりの「途中参加」を容認していたらしい。
 レクチャーを終えて外に出ると,そこには人,人,人……。合計70人ぐらいまでは数えたが,誰が参加者なのか,夕闇の中ではほとんど見当がつかない。さらに,観察中には,たまたま公園をお散歩していた人なども加わるので(…これは想定の範囲内なのだが),あちこちの木に,人だかりが出来ている。それでも,参加者数よりも多い数の,セミの幼虫が出てきてくれたので,予定通り,子ども限定で紙コップを渡し,「1人1匹」の約束で,幼虫の「お持ち帰り」をしてもらった。帰宅してから,部屋でじっくりと羽化を観察してもらうためだ。……がしかし,その,お持ち帰り用の紙コップも品切れ!……余裕を見て40個用意していたのに……。私が持っていた,予備の10数個も出したが,それでも足りない。レクチャールームには子どもは20数名だったはず。気がつくと,コップを2個持っている子がいたり,御年配の人にも,コップを持った人がちらほら……聞くと,「孫のために持って帰るんだ!」……だそうで……。

 収集がつかない。

 なんとなく流れ解散となり,最後の挨拶をする頃には,元の人数ぐらいに戻っていた。観察会自体は,楽しんでもらえたようで,それだけでも救いになる。
 挨拶を終えて,後片付け。
 あれだけの騒動の後でも,公園内では,まだ100匹ぐらいのセミの幼虫が,懸命に羽化中だ。もし,こんな状態で,セミの数が少なかったら,一体,どうなっていただろう……。

 教訓。観察会の定員設定には,理由がある。むやみに増やすべきではない。
 もし,来年もこのような人気を集めるようなら,例えば,今までセミの羽化観察会に参加したことの無い人を優先的に受け付ける等の対策が出来ないものだろうか。

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