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 Chapter 32 市民スタッフ,観察会初参戦(未定稿)

32−1 模様替え


 市民スタッフの顔合わせの前に,以前より計画されていたことを,バタバタと実行に移すことになった。それは,

 館内の部屋の配置換え。

 今まで,「模様替えをやろう!」と言う話は何回か聞いていたが,結構大変そうなのと,学芸員が多忙で折り合いがつかなかった等々の理由により,予定が延びていたのだが,ついに2005年5月の大型連休後に実行された……と言っても,平日のことだったので,私は手伝っていないが……。
 これまで実験卓2つに顕微鏡などを置き,壁側の大きな棚に材料を山積みしていた「体験学習室」を,稼働率の低い「ホール」のほうに引っ越して,ホールのほうに体験学習室機能を持たせ,レクチャーがあるときは机を寄せて椅子を並べてレクチャールームに切り替えるようにした。部屋の名称は「多目的ホール」。30人ぐらいで同時に座って,科学工作などが出来るようになった。
 元・体験学習室のほうは,「博物館友の会」と「市民スタッフ」の共用室となり,友の回の活動や会合,市民スタッフ研修などに利用することになった。多目的ホールで科学実験などをやるときの,準備室みたいな使い方も出来る。もちろん,会議などが何も無いときは,一般公開している。「多目的溜まり場」と言ったイメージだ。

32−2 「多目的ホール」初イベント?


 さて,物理的にも,「市民スタッフ」の集まれる場所が出来たところで,第1回目の,市民スタッフの顔合わせ(=説明会)を行った。場所は多目的ホール。ひょっとして,多目的ホールの借り切りイベントの第一号?
 いざ,集まってみると,見覚えのある顔もちらほら。既に「てがたん」の常連さんになっている人や,「友の会」のメンバーの人も混じっている。しかし,初めて見る顔のほうが多い。平均年齢も,「友の会」より10歳以上若いと思う。
 館長の挨拶の後は,斉藤さんの説明。今回,私は裏方だ。市民スタッフとしての第1回目の活動は,「てがたん」の下見+勉強会。このときには,私が喋る。

32−3 「てがたん」下見会


 7月第1土曜日。今年度第1回目……と言うよりも,初めての「市民スタッフ研修」の日を迎えた。今年度は,観察会作りについて,6回に分けて,話題提供をして話し合う。但し,室内で話し合うのは,朝9時半から10時までの30分間だけ。10時から,翌週の「てがたん」と同じスケジュールで,下見をするのだ。提供する話題は,「観察会で伝えたいこと」「子どもと観察会」「フィールドマナー」「安全対策」など,毎回1テーマずつ。10分ぐらい,私が体験したり他の観察会指導者から聞いた事例を紹介し,残りの20分は,それについてのフリートークと言う,ラフなスタイルだ。手抜きレクチャー?……いや,「自主性重視」のセッティングと言うことで……。

 10時からは外に出て下見会。下見会と言っても,ほとんど,通常の観察会みたいなものだ。この季節に「旬」なものをチェックして,観察テーマに設定したり,各自が興味を引いたポイントを押さえ,それを翌週の「本番」で「ネタ」として使ってもらうのだ。自然解説は,何でもかんでも網羅した知識が必要に思えるが,実はそうでもない。自分が観察し,発見し,面白いと思ったこと,感動したことなどを,素直に伝えれば,立派な観察案内になる。そのための下見である。2時間の下見で,コース内の全ての生き物の名前を網羅する,なんて言う芸当は,出来るわけが無い。たとえ,私が抜群の記憶力を持っていて,見つけた生き物の名前を全部覚えたとしても,それをそのまま喋ることは,絶対にしないと思う。生き物の名前を教えることだけが,観察会の目的ではない。むしろ,名前よりも伝えたい事項のほうが,ずっと沢山ある。
 6月の「てがたん」では,水生生物の豊富な水田を眺めたが,この環境を代表する生き物を何点か押さえ,周囲の環境も眺め,「生きものの多い田んぼ」がどんな意味を持つのか,解き明かしてゆくような方向でストーリーを広げていった。ホウネンエビの観察は,良いエピソードになったし,タニシを触ってみたり,オモダカの根を見たり,さまざまなストーリーの発展があった。7月になれば,また別の物語が見つかるはずだ。

 ひととおり観察を終えてから,「どんなテーマがこの季節にふさわしいだろう?」と話し合ってみた。オヨシキリのさえずり,トンボ,抱卵中のキジバト,コガネグモ,ツユクサ……さまざまな話題が上がってきた。いくつかの話題をパンフレットに収録することにして,そこから先は,各人の下見の経験を生かし,自由にストーリーを展開してもらう。もちろん,誰もが同じ内容の解説をする必要はない。教える側の各人の興味と個性を活かし,自分だけの「自然発見ものがたり」を作って欲しい。それは,解説する側にも,解説を聞く側にも言えることだと思う。

32−4 夏の「てがたん」は楽しい


 「市民スタッフ研修」で下見を行ってから1週間。いよいよ,市民スタッフが本格的に観察会デビューをする。
 幸い,雨も降らず,無事に開催することとなった。既に,受付作業も市民スタッフが担当し,てきぱきと動いている。これまでの観察会より人手が十分にあるので,気分的にも楽だし,物理的にもかなり楽だ。

 10時。いつものように,博物館の駐車場に移動して,最初の挨拶。このときの司会だけは学芸員がやると言うお約束だが,ざーっとスタッフの自己紹介が終われば,いつも通りの自然観察だ。鳥の博物館主催の観察会が初経験のスタッフも多いので,とりあえずは,大部分の市民スタッフはサブ担当として観察会の集団の中に散らばる。参加者とのコミュニケーションが大事なのだ。自然観察会が持っている,個人での自然観察では得られない魅力の1つは,間違いなく,人と人とのコミュニケーションなのだ。この経験だけは,どんなに丁寧に「下見会」をやっても,絶対に不可能だ。観察会では,観察経験や,観察して得られた感動を,人と共有すると言う楽しみも大きいが,これも,下見会と「本番」ではまったく違う。こうした経験を積むほど,「知識」だけでは自然観察案内が出来ないことが,だんだん理解できるようになる。そして,それが自然観察会の最大の魅力でもあることを……。

 7月の手賀沼は,鳥の種類こそ多くないが,さまざまな生き物に出会えるチャンスがある。そして,盛夏直前と言う,季節感を掴みやすい時期。普段,見過ごしがちな,小さな虫や花にも,たっぷりと時間をかけて観察し,かれらの生きる姿から紡ぎ出される,命の物語を,ひとつひとつ,確かめてゆく。
 いろいろな生き物がいて,それが互いに,大なり小なり,関わりを持ちながら,生きている。そんな,壮大なドラマの,ほんの一部でも感じ取ることが出来れば,夏の自然観察会は,ぐんと楽しくなる。その道案内をするのが,我々,自然解説する者の役目だ。主役はあくまでも自然。物言わぬ生き物たちの物語を,人の言葉に翻訳して伝える,通訳兼ガイドみたいなものだ。

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