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 Chapter 31 「市民スタッフ」登場!(未定稿)

31−1 「市民スタッフ」への期待


 2005年5月。
 いよいよ,鳥の博物館の「市民スタッフ」の採用が決定した。
 「市民スタッフ」とは,28−2にも書いた通り,我孫子市が,市の業務の一部を市民に担ってもらう,有償ボランティア制度のことである。市としては,経費節減も期待できるし,人材の有効活用という意味もあるだろうし,市民の,我孫子への愛着心を育てる効果もあるだろう。市民側から見れば,市の業務の片棒を担ぐことで,行政の様子を垣間見たり,市民と市民のつながりを作ったりすることも出来る。有償とは言うものの,基本は半日500円,1日1000円であるから,小遣い稼ぎにもならない。昼食代と交通費を出したら,赤字になる可能性もある。本当に,「無いよりマシ」と言う程度の額だ。
 それでも,博物館の仕事の手伝いが出来る,と言うことで,採用予定数の20名を上回る,28名の応募があった。その中には私も含まれるのだが……。結局,あえて選考をせず,28名全員を採用することとなった。
 博物館としても,多くの人に手伝ってもらえることは良いことだし,応募した市民にとっても,博物館の活動に参加できると言う期待が高い。杓子定規に8人だけ切り落とすようなことをしなかったのは,正解だと思う。

 ともあれ,意欲的な市民28名を得た博物館。この人材をどう活用するのか?

31−2 「市民スタッフ」の可能性


 私は,市民スタッフ制度には,これまで実現していなかったことへの展開を考えていた。
 具体的には,

「人作り」の体制を整える
「市民が市民に伝える」スタイルを確立する。


 この2点を重視していた。
 単に人手不足を補うための戦力補充ではない。必要な人材は,作るのだ。たとえ,どんな資格があっても,専門的知識が豊富でも,それを博物館が使える形にしなければ,博物館としては,何も役に立たない。また,技術的,知識的に優れた人ならば,単に,頼まれた仕事をこなすだけのスタッフよりも,博物館の活動に対して,どんどん新しい提案をしたくなるだろう。そうしたアイデアが具体化してゆくようなシステムが出来れば,博物館の活動にも広がりが出る。これまで学芸員だけでは出来なかった,新しいことが,次々と実現出来る可能性を持っているのだ。もちろん,そのためには,現在の博物館のシステムや活動方針を理解していることが前提だ。最初は既存の活動の手伝いから始める。そして,意欲と企画力さえあれば,市民スタッフ主導で,新たなイベントや展示,研究調査事業などを展開することも出来るように,早いうちから体制を整えておきたいところだ。

 既に観察会事業は,企画運営の,かなりの部分を私が引き受けている。体験学習室イベントも含め,「市民スタッフ」が最も参入しやすい枠組みだ。市民スタッフの活躍の場は,まず,ここから始めるのが妥当だろう。観察会のノウハウや,人にものを伝える楽しみを,実践しながら覚え,博物館の活動に馴染んでもらい,近い将来には,市民スタッフ主導で,新たな市民向けのイベントを増やし,来館者とのインターフェースを拡大してゆく。さらには,今後,新たな市民スタッフが登録された際には,「先輩」となる市民スタッフは,それまでのノウハウを伝承する役目も担う。そうやって,市民スタッフが新たな市民スタッフを育て,拡大再生産するようになれば,「市民スタッフ」の活動に弾みがつくばかりでなく,実際に動いている市民スタッフも,自分たちのやっていることが,どんどん面白くなってくると思う。

 現在の風潮として,どうしても,「ボランティア」は,正規に資格や仕事を持っている人よりも「格落ち」と見られる傾向がある。これまでの「博物館ボランティア」と言う肩書きと,「鳥の博物館 市民スタッフ」と言う肩書きを比べてみて,どうだろう? 後者の名前のほうが,信頼度が高く聞こえる人も少なくないと思う。もちろん,信頼なりの責任も発生するのではあるが,これまでの「ボランティア」では得られなかった信頼が得られる可能性も高い。「市民が市民に伝える」と言う体制を作るためには,この「信頼度」も,ひとつの重要なポイントになってゆくことと思う。


 今の学芸員の人数では,活動に限界がある。既に限界に近いところまで来ていると思う。市民スタッフが学芸員に近い活動,いや,学芸員と同等かそれ以上の活動をすることで,初めて,現状を超える発展性が約束される,と思ったほうが良いのかも知れない。
 こうした形で,多くの人が博物館に出入りし,博物館の事業の片棒を担ぐようになれば,本当の意味での「市民のための博物館」と言えるようになるのではないだろうか。


 いつまでも私が,イベント企画や観察会の司会をしているのも,あまり良いとは思わない。実際私は,2004年の1年間だけで,仕事が休みの土日祝日に担当した,観察会や科学イベントなどの数は,40本ほどになっている。1年に週末は52回しか無い。ぼちぼち後継者を作って手放すべき時期だ。
 ……もっとも,今のイベント企画を誰かにバトンタッチしたとしても,余裕の出来た時間には,また次のことに手を出しているのだろうけど。

31−3 「市民スタッフ研修」


 「市民スタッフ」と言っても,さまざまな人が集まっている。下は中学生から,上は定年後世代まで,本当にバラバラだ。もちろん,市民スタッフとして何をやりたいのか,一人一人,違った目標を持って集まっている。それに,各人がどんな技能や能力があり,何に一番興味を持っているのか,見えていないと,そう簡単に人を動かすことは出来ない。
 そこで,市民スタッフの取りまとめ役となった斉藤さんに,「何が出来る」「何がやりたい」と言った基礎的な情報について,アンケートを回して,各人の意向を確認しつつ「人材バンク」化してもらい,その上で,博物館に集まって説明会を開き,研修会(勉強会)へと繋いでゆくことにした。市の運用方針でも,市民スタッフには研修を行うことになっているようだが,まぁ,誰が考えても,いきなり市役所の仕事が出来るような即戦力など,望むべくも無いのは明白なことだ。
 ただ,いつまでも「勉強」するのではなく,勉強しながら,スタッフとして,観察会などに,どんどん参入してもらうような道筋を考えている。応募したときの意欲が低下しないよう,気持ちが熱いうちに,どんどん進めてしまおう,と言う目論見でもある。それに,「実践」は,何よりも増して実力がつく。

 まずは,既に走っている,観察会事業や体験学習室イベントなどの,来館者とのインターフェース部分から,取り組み始めることにした。ゼロから仕事を起動するより,実績のある事業に合流する形のほうが,着手しやすいのは当然のことだ。それを想定して,観察会事業の運営スタイルを予めデザインしていたのだし……。
 そのための「研修会」を設定し,これまでに蓄積した観察会運営のノウハウを,スタッフ内に共有してもらいつつ,新たなアイデアも出し合いながら,より良き観察会作りを目指そう,と言うことにした。研修会の設定日は,「てがたん」の1週間前で,他のイベントが入っていないとき。年度末までに6回設定できた。研修と言っても,一方的に教えるのではなく,毎回違ったテーマを設定して話題を提供し,それに関する意見交換のような勉強会を行った後,野外に出て下見をする,と言うもの。観察案内は,観察経験があってこそ,勉強したノウハウが活きてくるので,「研修会」の時間の半分以上は,「てがたん」のフィールドで過ごすようにした。

 「てがたん」を運用する立場から見れば,研修会+下見会のために,これまでよりも2時間半ほど多く,「てがたん」のセットアップに必要な時間使うことになるし,研修会での話題提供者は,そのための準備も別に必要となる。実質的には,「てがたん」を作るのに使う時間が,前年度よりも余計にかかってしまっている。しかし,これを省力化することは出来ない。ちょっと大変になってしまったけど,とりあえず1年,頑張ってみる予定だ。研修や実践を1年ぐらいやって経験を積んだら,今度は,その人が,次の新しい市民スタッフにノウハウを伝える番だ。そうやって,ノウハウを継承させつつ充実させ,担い手を次々と増やしてゆくような,良い循環が形成されれば,これ以上仕事がきつくなることは無いはずだ。そうなってくれることを期待したい。

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