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 Chapter 25 「鳥博ブランド」の醸成(未定稿)

25−1 おかえり!


 ジャパンバードフェスティバルも終わり,すっかり落ち着いた手賀沼。
 いよいよ本格的な,冬鳥の季節だ。カモもかなり増えてきた。「てがたん」も,やっと「探鳥会」らしくなってきた。

 11月の冬鳥観察は,他の月には出来ない観察が待っている。それは,「エクリプス」。エクリプスとは,元々,日食や月食などにも使われる言葉で,モノが隠れることを意味する。この時期,北から渡ってきたばかりのカモのオスは,非繁殖期の,メスそっくりの羽色をしている。オスがメスの中に隠れているのだ。これからの越冬中の時期に,繁殖期のきれいな羽に変わるのだ。
 そして,渡ってきたばかりのジョウビタキ。この時期は,まだ,なわばりがしっかり決まっていないので,あちこちで「ヒッヒッ…」と鳴き交わして,なわばりを主張する。

 手賀沼周辺の紅葉や「草紅葉」も取り混ぜ,季節感たっぷり。

25−2 無告知で40人!


 12月の「てがたん」は,なんと,参加者42人!
 実は12/1号の広報に,開催案内を出しそこなっていたので,そんなに人が集まらないだろうと読んでいたのだが……しかも,メディアの取材も入っているし……。
 このところ取材が多いのは,来たるべき「酉年」の1月に,鳥の特集やコラムを入れるためである。ちょっと面白いなと思ったのは,全国レベルの大手のメディアではなく,業界紙や地域版のメディアの取材ばかり,と言う点。博物館の来館者数や観察会の参加者を増やしたい,と言う効果を期待するなら,なまじ大きなメディアに出るよりも,効果的かも知れない。それに,博物館が「地域に根を下ろす」と言う意味でも,こうしたメディアに出ることは,歓迎できる。

 ともあれ,あまりにも参加人数が多いので,グループ分けをすることに。
 ところが,時田さんのところに,人が偏る。う〜ん……。
 このとき,学芸員は時田さんだけ。残りはボランティアスタッフ。友の会の事務局長の中野さん,「我孫子環境レンジャー」も兼任している染谷さん,そして,あやしい獣医師の私。やはり,こう言うふうに担当スタッフを並べると,時田さんが格上に見えるなぁ……。時田さんには,「格上」なりの責任で(?),大人数を引っ張ってもらうこととし,私は少人数で楽しく遊ぶことに(おいおい…)。

25−3 グループ分けの難しさ


 観察会で,参加人数が多いときには,しばしば,小グループに分けて,観察案内をする。1人で大人数に話すのは,声も届きにくいし,参加者とのコミュニケーションも取りにくい。また,万が一,事故が起こったときの対策も難しくなる。
 私は案内役1人に対して,聞き手(参加者)は10人以内が適正だと思っている。しかし現実には,案内役が足りない場面も多い,さらに,不幸にして,聞き手と案内役のそりが合わない場合もある。そんなとき,案内役が複数いれば,かなりの確率で,そのリスクを回避できる。案内役が2人いれば,どちらかが気に食わない人であったとしても,もう片方の人に救われる確率は高いが,案内役が1人だったら,逃げようが無い。そこで,

  案内役と聞き手の比率は,2:20以内

…と言う,一応の目安を考えている。
 これまでの「てがたん」の場合,参加人数も20人前後だったので,この2:20でひとかたまりに行動すれば,OKだった。しかし,40人も来ると,さすがに,声が行き届かないばかりでなく,狭い遊歩道が塞がってしまったり,観察ポイントから人が溢れてしまったり,さまざまな不都合が発生する。

 グループ分けをする場合,何を基準に分けたらいいのか。

 1)機械的に分ける。
 容易に,人数が均等に分かれるのがメリット。既に観察テーマが決まっていて,案内役による自然解説の内容に差が小さいときには,とりあえず,この方式。

 2)参加者層による分類。
 具体的には,親子連れに対するケアを手厚くするために,子ども中心のグループを作る。特に野鳥観察の場合,子どもが飽きやすく,騒がしくなることもあり,一部の大人たちに不評を買う場合があるので,この分け方を実施する場合がある。

 3)観察テーマ別に分ける。
 「てがたん」のような,ノンセクションの観察会では,「野鳥観察に重心を置くグループ」とか,「植物観察に重心を置くグループ」と言った分類をして,グループごとに個性を持たせる方法もある。

 4)好きな案内役を参加者が選ぶ。
 これはある意味,「究極のグループ分け」である。案内役は,各自,自己紹介して,今日はどんな観察案内をするのか,アピールする。そして,参加者は,自分の好みの人を選ぶ。こうすると,選択基準として,観察内容だけでなく,案内役の人柄やトークの面白さなど,総合的な力が問われる。案内役にとっては少々厳しいかも知れないが,自然解説技術の切磋琢磨に還元されるなら,この方法は決して悪いものではないし,参加者の満足度も稼ぎやすい。

 ……実際には,その場の雰囲気+観察コースのキャパシティを配慮して,グループ分けする/しないを判断することになるのだが,さすがに,4)を実施したことは,私はまだ無い。

25−4 参加者層を分析する


 ここまで順調に開催をしてきた,鳥の博物館の自然観察イベント。気がつけば,単発のイベントはほとんど満員御礼,定例探鳥会も,当初は20人前後の参加者数を想定していたが,予想以上に参加者が集まっている。
 我孫子では,いくつもの団体が,自然観察イベントを行っている。手賀沼を拠点に20年以上の実績を持つ「我孫子野鳥を守る会」や,冬季の手賀沼で月例探鳥会を続けている「野鳥の会千葉県支部」などの,「老舗」と言ってもよい探鳥会もあるし,同じ我孫子市役所内でも,手賀沼課などの企画で,以前より観察会が行われていた。鳥の博物館の単独主催による観察会シリーズは,2003年スタートだから,正直,「新参者」だ。しかし現在,私の知る限り,我孫子で一番元気で,人気のある自然観察会は,鳥の博物館の観察会だ。
 もちろん,この観察会を企画する段階で,時田さん,斉藤さんとさんざん話し合って,時には将来の夢,みたいな構想まで語りながら,それまでの私が身につけていたノウハウを投入し,徹底的にデザインしてきた観察会なのだから,上手く行く,と言う自信もあったことは確かだ。いくらかの試行錯誤はあったものの,ほとんどは,予測を超える人気と,参加者からの反応を得ることが出来て,自分でも出来過ぎではないかと思っている。いや,我孫子と言う,自然環境と住環境の調和を重視している自治体だったからこそ,成功が約束されるような下地がすでにあった,と言う面も大きいので,私や学芸員の力だけでは,ここまで一気に観察会が育つことはなかったと思う。

 それにしても,鳥の博物館の観察会の人気の高さは,何だろう?
 他の観察会との違いを考えてみよう。

・年齢構成
 特に単発の観察会では,「しらべ学習対応」「夏休みの自由研究対応」など,市内の学校の学習内容にも考慮したテーマ設定をしている上に,子ども達に人気の高い観察対象を取り入れるなど,学校教育とのリンクを考えているため,小学生以下の参加者が多い。特に虫関係の観察会では,参加者のほとんどが小学生以下の子どもと,その保護者で埋まっている。定例探鳥会の「てがたん」でも,2〜4割が親子連れだ。
 これは他の主催団体の観察会と大きく違う。現在の探鳥会は,たとえば,最も代表的な,日本野鳥の会の探鳥会でも,参加者の平均年齢は60歳を超えることも少なくない。高年齢層の趣味の場として利用されている探鳥会が多い中で,鳥の博物館の自然観察イベントに集まる顔ぶれを見れば,他の主催団体には顔を出さない人たちを掴んでいることが分かる。

・参加者の居住地
 鳥の博物館の自然観察イベントは,基本的に,我孫子市の広報にしか,開催案内を出していない。他には博物館のHPに案内が出るくらいだ。そのため,参加者の大部分が我孫子市とその周辺地域の在住,在勤の人となる。完全にローカルなイベントなのだ。我孫子市の人口は約13万人。ごく狭い範囲にしか,観察会の開催告知をしていないにもかかわらず,確実に人が集まる。「地域性」にこだわった宣伝方法が,成功している。もちろん,もともと,自然観察イベントに対する潜在需要があったことも,十分に考えられるのだが,同じ場所で開催される,他の観察会よりも「鳥の博物館主催」のイベントだけが,快調に人を集めている点も,見逃せない。

・「博物館」のネームバリュー
 では,他の観察会と,根本的に何が違うか,と言われたら,やはり,その大きな要因は「鳥の博物館」が開催していることによる,信頼度の高さにもあると思う。日本で唯一の,公営の野鳥専門博物館を持つ,市民の誇りとか,博物館の生涯教育機能に対する期待とか,博物館と言う名前の持つイメージなど,さまざまな要因があって,博物館のネームバリューとして市民に反映され,観察会の人気へと繋がった,とも考えられる。


 ある意味,「鳥の博物館」と言うのは,「ブランド」なのだ。

 例えば,同じように野鳥のことを教わるとしても,トップクラスの学者による観察案内や,名前の売れているナチュラリストの観察案内と,無名のアマチュアのボランティアによる観察案内が,同じ条件で提供されていたら,ネームバリューを取るのが人情だろう。「鳥の博物館」には,そのネームバリューが存在する(実際に観察会を動かしているのは,ネームバリューの無い人であったとしても…)。
 もちろん,内容的にも確かな,面白いものでなければ,1回参加してがっかりしておしまい,である。そういう意味でも,「博物館」と言う看板に恥じない,良質の自然観察イベントを提供する責任が,我々にはある。「鳥の博物館」の名が観察会の内容や担い手を育て,それが「鳥の博物館」の信頼度をさらに高める,と言う,良い循環が回り始めた。ここまで人気を継続してきたのも,「鳥の博物館」と言うブランドと,それを支えるスタッフと,その活動を支持する市民が,上手く噛み合っている結果なのではないかと思う。

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