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 Chapter 13 快走!「てがたん」(未定稿)

13−1 天気も快調,観察も快調


 さて,「てがたん」のほうは,その後どうなったか。
 好天も手伝い,5月,6月と,順調に回を重ねて行くことが出来た。まぁ,最初のうちは,かなり気合いも入っている。嫌でも第二土曜日が拘束されるのだから,学芸員にとっては負担増のはずであるが,新規事業展開でもあることだし,私から見ても,張り切って飛ばしている感じ。いや,飛ばし過ぎかも。
 なにしろ,受付のときに,前もってサンプリングしておいた,御近所の生き物をいくつか展示し,これからの観察への期待を高めると言う,手間のかかる,心憎い演出までやっている。受付から観察開始までの待ち時間を飽きさせない,良いアイデアだ(実際,この「待ち時間の自然解説」は,その後もずっと続けられている)。観察会の開始前から,スタッフと参加者のコミュニケーションが取れるのもいい。

 マンネリ化予防策も万全だ。同じ場所で繰り返し観察しても,飽きさせない工夫は,定例イベントには必須のものだ。5月は私のアイデアで,「ロングタンポポ選手権」(ネーミングがひどいけど……)。やることは簡単。タンポポの長い花茎を探してもらうだけ。ところが,「優勝」を狙うと,意外と難しい。タンポポは,花が終わると一旦,茎が横倒しになり,種子の成熟と共に,ぐいっと立ち上がる。しかも,花のときよりも高く,高く……。タンポポの種は風に乗って飛んでゆくので,高く伸びて風に乗りやすいようにする,自然の知恵なのだ。これを覚えて,どんな場所に生えているタンポポが,茎を長く伸ばすか,考えながら,探してゆく。遊びながら,自然のしくみが理解できると言うわけ。どうせ種を飛ばして枯れる直前の茎なので,生態系へのインパクトも小さい。この程度の採集行為は,全く問題無いので,どんどん取ってきてもらって,長さを測る。
 最初は50cm前後で争っていたが,最終的には,全長77cmの花茎まで見つかった。探せばあるもんだ。優勝者は小学生。ささやかなお土産を渡して,拍手。
 巻尺1本用意すれば遊べる,ちょっとしたお楽しみだ。

13−2 「探鳥会」でも観察対象はノンセクション


 定例の自然観察イベントのメリットの1つは,季節の変化が見やすいことだと思う。同じ場所を毎月歩いても,季節が変わり,出会う生き物の顔ぶれも,咲いている花も,どんどん変わってゆく。こうした季節感を大切にして,季節に合わせた「旬」の自然を紹介するのが,「てがたん」の,ひとつの大きな流れとして展開してゆければ,と思う。これはもちろん,斉藤さんの「博物館周辺をフィールドミュージアムにしてしまおう」と言う構想とも,良くフィットする。主催する側としては,最初の1年は,まず,観察データの蓄積が,ひとつの大きな課題となるだろう。もちろん,公開イベントである以上は,参加者が毎月飽きずに楽しめるようなノウハウを身につけることも,意識して行わなければならないが…。

 5月は花も多いが,虫も多くなってくる。空にはツバメが飛び,鳥たちもそろそろ繁殖期。欲張れば,丸1日使っても,案内しきれないほどのネタがある。この中から,毎年,少しずつ違った話題を「今月のテーマ」として取り上げ,それに加え,歩きながら目に入ったもの,参加者の興味を引いたものを,あれこれと紹介してゆくことにする。
 もちろん,こちらが予定していたテーマから外れてしまう展開になるかも知れない。でも,観察会は,人と自然との対話,人と人との対話の中でストーリーが進行するもの。アドリブを恐れてはいけないし,アドリブのほうがメインだと思ったほうがいい。むしろ,一方的にこちらから喋るより,参加者の発言であちこちと話が広がるほうが楽しいし,こちらも楽だ。

 6月の「てがたん」では,水生植物園のハナショウブの見学も取り入れ,水生植物園近くの田んぼでホウネンエビを始め,水生生物を眺めたり,梅雨時の「水」をキーワードにしたストーリーを展開。虫も多くなり,子どもたちの興味を引くものがたっぷり見つかる。やっぱり,子どもには遠くの鳥より,手のひらの上に乗る虫のほうが,魅力的なのだ。どうせ夏は鳥が少ない。オオヨシキリの声をBGMに,チョウやトンボ,さらにはクモの仲間も観察。コガネグモの姿は,クモ嫌いな人には恐怖でしかないが,そうではない人には,なかなか芸術的に見える色合い。しかも,網にはX字型の「かくれ帯」を持ち,不思議さ倍増だ。先入観を持たないで,しげしげと眺めると,意外に嫌悪感が湧かないものだし,なにより,案内役がこういうのを喜んで観察しているのだから,嫌われ者のクモでも,少しは味方になってくれる人が増えるかも知れない。

13−3 「てがたんレポート」の魅力


 ぼちぼち7月……と言う頃,博物館から1通の封書が届いた。
 中身は,「てがたんレポート」と題した,定例探鳥会の観察記録。A4両面カラー印刷の,立派なものだ。観察したもののリストと,参加人数,担当者,観察コースの地図に,どこで何を見たのか,写真を貼り込んであって,「てがたん」当日に配布したパンフレットより充実している。
 ははぁ,これが,斉藤さんが言っていた構想の一環なのか。なかなか良いアイデアだ。観察会に参加しても,どんなものを観察したか,なんて,すぐに忘れてしまうもの。それを見事にフォローして,もう一回参加してみようか,と言う意欲を刺激する。

 「てがたん」参加後は博物館に無料で入れて,さらに,後日,きれいなレポートまで届く……公営の博物館で,こんなアフターケアの良い観察会は,他には無いと思う。

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