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 Chapter 6 新たな展開(未定稿)

6−1 ちょびっと遠征,冬の雑木林


 11月。
 日本最大の野鳥関係イベントである「ジャパンバードフェスティバル」も終わり,なんとなく一段落した感じ。博物館の入館者も,心なしか少なめ。

 観察会事業が始まってから,初めての冬を迎えようとしていた。
 ぼちぼち,冬の観察会の準備をスタートさせなくては。

 今回の観察会は「冬の雑木林で遊ぼう!」。一見,生き物が少なくて面白く無さそうな冬の雑木林を,自然ネタの遊び場にしてしまおうと言う構想。
 しかも,「あびこ自然観察隊」初の,市外遠征だ。
 市外と言っても,手賀沼の向こう側にある「千葉県立手賀の丘少年自然の家」との共催で,少年自然の家周辺と,隣接する「手賀の丘公園」を舞台に,冬の雑木林の遊び方を紹介しようと言うもの。実は,時田さんは手賀の丘少年自然の家の運営に口を出せる立場にいて,コネクションが太い。今回の観察会も,時田さんの人脈に拠るところが大きい。
 少年自然の家は,県の施設。県の財政難や施設の利用率の低下を受けて,2003年現在,県内に10数ヶ所ある県立少年自然の家も,施設の古いものなどを中心に,何ヶ所かは廃止が決まっていた。手賀の丘はまだ施設が新しいのだが,今後の活動状況,利用状況によっては,予断を許さない。我孫子の鳥の博物館と共催して事業を起こせば,我孫子からの利用者拡大にも繋がる。この観察会の共催は,少年自然の家の生き残りを模索する意味も含まれているようだ。もちろん,我々にとっても,観察会のフィールドが広がることは歓迎だし,新たな自然観察会の担い手との繋がりも出来ることが期待できる。

 こちらは過去3回,順調に観察会を開催している。手賀沼抜きには我孫子の自然は語れない。共催が上手く行けば,今後,あまり労力を割かずに,新しい展開も期待できる。それに,たまには手賀沼を反対から見てみるのも良いのではなかろうか。

6−2 下見は平日に


 先方の担当者の都合で,打合せや下見は平日になる。勤め人の身としてはきつい。勤務時間内に業務として動ける時田さんに頼る部分が増えそうだ。
 とは言うものの,現地を全く見ないで観察会は開けない。それに,担当者同士の顔合わせをしておかないと,意思疎通もままならない。……そんなこんなで,12月に入ってから,平日の午後に時間を作って,顔合わせ,打ち合わせ,下見を一気に済ますことにする。細かい調整は時田さん任せ。例によって,時田,斉藤,小泉の「鳥博観察会三人組」で,手賀の丘少年自然の家へ。今回は,企画立案も自然解説もこちらで担当するので,挨拶してから,ざっと話をまとめ,使えそうな資料を頂いてから,下見作業に入る。日没が午後4時半頃なので,あっという間に日が傾いてくる。
 頂いた資料は,樹木の名前当てクイズ。都内のいくつかの公園にある「グリーンアドベンチャー」と同じ趣旨のものだ。但し,こちらは手作り感たっぷりで,地域性の高い内容で,面白い。小学生にはちょっと難しいかも…。クイズの紙を見ながら,樹木の様子をチェック。意外と常緑樹が多い。いちばん多いのは,植林されたスギかも知れない。杉林は暗くて,生き物の種類が少ないから,観察会としては,ちょっと厳しい。カシの仲間も結構ある。東京の山手線の西側で育った私にとっては,雑木林のデフォルトは,コナラ,クヌギなどの落葉樹が中心の,明るい林だ。子供の頃に遊んだ雑木林と,かなりイメージが違う。もっとも,茨城ではアカマツ主体の雑木林も経験しているので,それよりは,「デフォルト値」に近いかな。……こんなところで,地域の植生の微妙な違いを,しみじみと感じてしまった。
 それにしても,この「雑木林」,私にとっては,ちょっと慣れるのに時間が必要かも知れない。

 それでも,斜面あり,水辺あり,植生の違うエリアもあれこれあって,楽しめそうだ。
 落葉樹の多いエリアもあり,地面もあまり踏み固められていない。ここを歩く人は少ないのかな。……ふと思いつき,腐葉土を少しひっくり返してみると……いました!カブトムシの幼虫。自然観察に慣れてくると,カブトムシの居そうな場所は,大体見当がつく。だけど,これを観察会の「本番」でやったら,収拾がつかなくなるから,幼虫を1匹だけサンプリングし,時田さんに預かってもらって,「本番」の観察会のときに,これをお見せするような形にしよう。

 今回,季節的に観察対象が少なく,ゆっくり時間が取れるので,時間をかけて遊ぶネタを用意した。
 まず,樹皮の「拓本」取り。本格的な拓本の技法で,木の幹の模様を写し取るのだ。樹木を観察するとき,樹皮は種を同定するときの良い手がかりになる。しかも,冬に落葉してしまう木では,葉の特徴が分からなくなるので,なおさら樹皮の注目度は高くなる。樹皮を剥ぎ取って標本にするのは困難なので,「拓本」の出番となった。用意するものは,濡れたタオルと乾いたタオル,丈夫な和紙か半紙(本格的にやるなら画仙紙が良い),拓本用の油性の墨,墨を叩き込むための「たんぽ」……これだけだから,持ち運びも楽だ。時田さん,斎藤さんは拓本初体験。本番では「教える側」の人だから,本番で失敗して恥ずかしい思いをしない程度に,練習しておく。
 それから,風が強くてどうしても拓本取りがが難しいときの保険の意味も含めて,「森のネイルサロン」と言うネタも準備した。これは材料も現地調達。ムクノキの落ち葉とシラカシの葉を利用する。ムクノキの葉の表面にはケイ酸塩のザラザラがついている。これは非常に目の細かいサンドペーパーのような効果があるので,これを使って爪を磨く。ムクノキの葉をヤスリに使うのは,昔からの知恵だ。トクサで同じようなことをした経験のある読者もいると思う。そして,シラカシの葉。シラカシの葉の裏は,パラフィンが多く,これを使って,ムクノキの葉で滑らかに磨き出した爪に,艶を出す。つやつやの爪が出来上がった。「これは女性や子どもに受けそうなネタだね」……などと,爪を磨いてニヤニヤ談笑する男3人組……怪しい光景だなぁ……。

 手賀の丘公園には,バーベキューの可能な広場があり,土日には大いに賑わう。しかし,その広場と,フィールドアスレチックのあるエリアを外すと,とても静かな森だ。この森の利用者には,「自然に親しむ」と称して,大きな車で公園に乗り付け,バーベキューをして帰るだけ,と言う人が,実は圧倒的に多い。これを「自然に親しむ」と言ってもいいのだろうか?単に外で肉焼いて食べるだけのことで,自然のこと,森に生きる生き物のことには何も興味が向けられていないような気がするのだが……。

6−3 単調な観察を単調にさせない

 12月20日。いよいよ本番当日。
 今回は,少年自然の家のバスで,鳥の博物館と手賀の丘の間を送迎する。バスの定員が40名なので,募集定員30名+スタッフ,と言う予定だったが,結局,30名を超える参加申込があったので,バスに乗り切れなくなったスタッフは,博物館の車で移動。担当者が1人もバスに同乗しないのはまずいので,私が「添乗員」としてバスに乗り,バスの移動中から,観察会トークを展開。これから始まる観察会に,期待を持たせつつ,15分ほどで到着。これも観察会の質を高める演出の1つだ。

 手賀の丘少年自然の家,鳥の博物館双方のスタッフが軽く挨拶して,観察会スタート。
 参加者の1人が,いきなりヤマカマス(ウスタビガの繭)を見つけ,さっそく観察。ガの繭とは思えない造形と色に,しばし感心。下見のときに,全く気づかなかった。目の数が多いと,いろいろ見つかるなぁ……。
 期せずして,ヤマカマスが良い「つかみ」となったので,自然観察トークも順調。腐葉土の下には,この秋に落ちたコナラのドングリが,もう芽を出している。シラカシのドングリが,翌年の初夏まで発芽しないのと対照的だ。わずかに残るムラサキシキブの実を見たり,ホオノキの大きな落ち葉と松葉で,キツネのお面を作ってみたり,「自然遊び」と「自然観察」が,程良くミックスして出てくる。暗くて生き物が少なくてつまらないかな,と思ったスギの植林帯では,キイロテントウの越冬が見つかった。探せば,自然観察ネタはどこにでもあるものだ。
 池にはカワセミも出るのだが,今日は不在。その代わり,池の近くの斜面でシロハラがゆっくり観察できた。シジュウカラとコゲラの「混群」に出会う。春から夏の繁殖期には見られない,冬ならではの,鳥の行動だ。さらに,カケスの羽も拾った。この森では,ときどき,猛禽に襲われる鳥がいるようだが,カケスも,その犠牲となって羽が残っていた。襲ったのはオオタカかな?

 さて,11時も回り,ひととおり観察し終えて飽きてきた頃,「森のネイルサロン」開店!時田さんの美容指導,雰囲気が全然似合わないけど,そこが面白い。マニキュアをつけていた人は,残念ながら遊べなかったけど,子供たちにはだいたい,体験してもらえた。
 その次は,樹皮の拓本。これはまず,私が1回デモンストレーションして,それぞれ,思い思いに木を選んでもらって,作業開始。拓本の道具は5セット用意したが,順番待ちになってしまう場面も。ちょっと足りなかったかな(実は墨が1500円するので,予算的に数多く用意出来なかったし,1セットで何枚も拓本が作れるので,あまり沢山買っても,もったいない)。サクラの樹皮が,いちばん模様が分かりやすいようだ。スギやアカマツにチャレンジした人も……。

 簡単に観察したもののおさらいをして,観察会終了。
 「調査」ではないのだから,「おさらい」「まとめ」の類は,子どもたちが飽きない程度に,済ませてしまう。もちろん,次回開催のために,観察記録は,後でまとめておくのだが。

 帰りのバスが13時出発なので,少年自然の家の芝生広場でお弁当。この観察会シリーズで,本格的にお弁当を広げたのは,初めてだ。バスの都合が無ければ,半日で済ますところだったのだが……。

6−4 コンパクト&インパクト


 お弁当を用意する,しないの違いは,観察会への参加しやすさに,かなり影響すると思う。8月の「鳴く虫観察会」の「軽食をお持ちください」ですら,参加応募の出足に影響したのだから。やはり,お弁当を用意するとなると,それなりに気合いを入れて準備しなくてはならないから,お弁当を持つに値するような内容を提供することを考えるべきだが,出来ればお弁当無しで,気軽に参加出来たほうが,ベターである。鳥の博物館の観察会は,多くの市民にとっては,家の近所で開催されているイベントなのだから,わざわざ弁当持ちで行くよりは,半日以内の予定で気軽に遊べるほうが良い。観察会のために,わざわざ半日以上のお時間を拝借するのも,心苦しい。

 観察会は,いろんなものをだらだら紹介するよりは,メリハリやインパクトがあったほうがいい。1つだけでもいいから,強く印象に残るものを参加者の心の中に持って帰って欲しい。そのほうが,自然体験が記憶に残りやすいし,好印象を与えることが出来るので,また参加して,「今度は何をするの?」と言う期待も膨らむ。むやみに観察対象や「自然観察ネタ」を欲張らないほうが,好結果を生む。
 鳥の博物館の観察会は,特に,「ご近所」で行っている観察会なので,出来るだけ「コンパクト&インパクト」で行きたい。
 もちろん,他の自然観察会であっても,この「コンパクト&インパクト」は,半日〜日帰りの自然観察イベントのセオリーだと思う。

6−5 共催への道


 さて,この観察会を契機に,鳥の博物館と手賀の丘少年自然の家との共催観察会の話が,現実味を持ってきた。こちらの担当窓口は時田さんなので,私は直接関わっていないため,詳細は省略するが,ともかく,年度末までには,「共催観察会6回,主担当は3回ずつ配分」と言う取り決めをするに至った。
 もう少し,手賀の丘周辺のフィールドの様子も見て,自然環境を把握しておかなくては。
 これは私にとっても,ひとつの宿題だ。

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