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 Chapter 3 「夏休みシリーズ」第2幕(未定稿)

3−1 晩夏の「虫あそび」


 春から秋にかけては,自然観察会の「稼ぎ時」でもある。生きものの活動が盛んで,季節の変化が見やすい時期は,いろいろな観察テーマが設定出来て,さまざまな演出が出来る。もちろん,冬は冬で,カモの観察をしたり,冬芽やロゼットなどの,冬にしか出来ない観察テーマも多いのだから,基本的には観察会は「年中無休」なのだが,やはり暖かい季節のほうが,戸外で遊ぶのに向いていて,人々の目も,アウトドア活動に向けられやすい。
 特に夏休みは,子ども達を自然の中に連れ出すチャンス。まして,身近な自然で遊んで,自由研究の材料にもなる観察会があったら,夏休みの子どもの過ごし方に頭を悩ませる保護者の方にも,朗報となることは間違いない。

 ……そんなわけで,夏休みのうちに,もう1回観察会をやろう!と言うことが決まった。

 最終週は宿題の仕上げで忙しくなるだろうから,その前の週末を狙い,開催日は8月23日(土)。セミの観察会から,わずか2週間後の予定だ。セミの観察会と同時進行で準備を進める必要がある。
 さて,この時期に最も「旬」な観察テーマは,「鳴く虫」。コオロギやキリギリスの仲間の観察だ。せっかく観察するなら,声だけでは子ども達が飽きてしまうので,少し早めに集まって,明るいうちに,虫の姿も観察してみよう。データブックの日没時刻とにらめっこしながら時間設定を考え,午後4時半に観察スタート。最初は虫取りをしながら虫の姿を観察し,途中,軽食タイムを挟んで,午後6時半から虫の声の観察,と言う「2本立て」の観察会を企画した。
 参加受付は,16日から。受付期間1週間と言うのは,ちょっと短いかな……お盆の時期だし……。

3−2 どうやって,虫を見せる?


 「鳴く虫」の観察は,実は結構難しい。虫の声の聞き分けが,意外と難しいのだ。特にキリギリス類は,どれも似たようなトーンで鳴くので,面倒だ。その難しさを少しでも緩和するために考えたのが,明るいうちに,虫の姿も観察する,と言う作戦。この場合,夕方,薄暗くなって虫が見えにくくなる時間と,虫が鳴き始める時間に,少し空き時間が出来る。この時間を利用して,「軽食タイム」を作るのだが,そのときに,虫の声の録音を紹介して「予習」してもらうことにした。音源はCDを利用したり,最近ではネット上で虫の声のライブラリを公開している所もあるので,あちこちからかき集めることに。自前で録音するのはかなり大変な作業なので,こう言う部分はどうしても「他力本願」でお願いするしかない。公共サイトの音声ライブラリはありがたい存在だ。時田さんにiPod+電池で動く小型スピーカーと言う,軽量なシステムを用意してもらった。

3−3 プラスアルファの小道具

 小道具をいくらか買ってもらえることになったので,私のほうから,ひとつ,おねだりをしたものがあった。それは……
  「バットディテクター」
 「バットディテクター」って何よ?と言う方に,簡単に説明しておくと,これは超音波を人の耳で聞こえる波長に変換してくれる装置なのである。機械自体は,小型ラジオぐらいの大きさ。元々は,ガス漏れなどの検出用に使われていたシステムのようだが,コウモリの調査をしている人の間では,ほぼ必需品に近い道具だ。

 では,バットディテクターで何をしたいのか?
 もちろん,薄暮時に飛ぶアブラコウモリの声を聞くことも出来る。だが,今回はアブラコウモリの声はメインテーマではなく,虫の声にバットディテクターを使ってみよう,と言う目論見だ。
 小型のコオロギ類やキリギリス類は,人の耳に聞こえる波長の他に,かなり高い音が出ているらしい。例えば,クサキリが「ジ〜〜〜」と鳴いているとき,我々の耳に聞こえる「基本周波数」は,約16kHz。人の耳の可聴域が,おおよそ20Hz〜20kHzだから,ほぼ限界に近い音域だ(こういう高い音は,年を取ると聞こえなくなる領域でもある)。しかし,クサキリはこの16kHzの音だけを出しているのではなく,ほかの波長の音も出ている。特に強いのが,基本周波数の「倍音」に当たる波長。これはもう,人の耳では認識出来ない「超音波」の領域だ。こうした,普段は絶対に聞こえない部分の「虫の声」にもスポットを当ててみよう,と言うのが,バットディテクター購入の目論見なのだ。また,御年配の方には,カネタタキの声ぐらいの周波数でも聞き取りづらくなっている方もいるので,バットディテクターは,そう言う方の観察を助ける道具としえも使えるはずだ。

3−4 やはり下見が大切


 8月17日。虫の声の観察会まで,あと6日。明治神宮探鳥会を担当した帰り道に,下見の約束をしていた。虫の声の観察会の場合,下見については,あまり早い時期に行っても,肝心の虫が鳴いてくれないので,ギリギリまで粘っていたのだ。この日を逃すと,本番当日まで,休日は1日も無い。午前中は探鳥会で,暑い中,さんざん喋って疲れていたが,我孫子駅で時田さんにピックアップしてもらって,現地へ。

 一応,本番と同じように行動する。明るいうちに虫の姿をチェック。エンマコオロギは,まだ幼虫が多い。天気も怪しくなってきたので,早めに行動する。暗い曇り空となったので,暗くなるのも早い。虫の声の観察会は,気温や明るさに左右されるので,当日の天気について,ちょっと心配になる。……もっとも,曇って暗くなるのが早かった場合を見越して,天気による時間の変動を吸収できるように集合時刻を決めているのだから,雨が降ったり,やたら気温が下がったりしない限りは,大丈夫なのだが……。

 途中でアズマモグラの死体を見つける。本番と関係無いことなのに,つい,喜んで記録写真まで撮ってるし……。こう言う余裕があるのは,下見ならではのこと。
 虫の声のほうは,もう,十分に種類が揃っている。一度に10種類以上の虫の声が聞こえる手賀沼沿いは,豪華な「虫の音コンサート」の会場だ。しかし,初めて虫の声を観察する人に教えるには,かえって種類が多すぎることが仇になりそうな気もする。初心者は数種類も聞いたら頭がパンクしてしまう。贅沢な悩みだ。
 住宅地でも聞くことのできる,基本的な種類の虫の声を重点的に案内することにしよう。それにしても,虫の声はなかなか覚えにくいと言われるが,時田さんも数種類でギブアップしそうになっている。鳥の声の微妙な違いも分かる時田さんの耳でも,そうなのだろうか?虫の声にしても鳥の声にしても,目から入る情報や,言葉や数値に置き換えるのが容易な情報(体の大きさとか観察できる季節とか…)のほうが,頭の中で整理しやすいのは確かだ。音,匂い,触感,味などは,なかなか識別しにくかったり,人に伝えにくかったりする。言葉や数字に頼らず,もっと右脳をしっかり使えば,この辺りのスキルが進歩するだろうか?

 バットディテクターの使い心地も確認。実は午前中の探鳥会でも,マダラスズの声でチェックしていたのだが,10kHz辺りにけっこうな音量のピークがあって驚いた。この辺りの音域だと,人の耳にはあまり大きい音に聞こえていないのだろう。アブラコウモリの声は,40〜45kHzあたりで,バンバン入ってくる。しかし,あまり面白がって使って,当日に電池が切れてもまずいので,ほどほどにしておく。

 さて,これからパンフレット作成。「初めて観察する人」を基準に考える。まず,コオロギ,バッタ。キリギリスを,体型と触角の長さから,ひと目で見分ける方法。それから,主要な「鳴く虫」の画像,チェックリストなどをまとめて,A5判8ページに編集。博物館には虫の画像データは無い。学芸員の手持ちの画像にも,ほとんど無い。結局,私の手持ちの画像だけが頼りだった。来年以降のためにも,少し頑張って撮影しておかなくては。
 開催数日前にパンフレットの原稿を時田さんに送り込み,予約状況を聞いてみる。「まだ定員に達していません。」とのこと。予約開始日から開催まで1週間だしなぁ……。せっかくなので,うちの子供2名を予約に入れてもらう。夏休みの自由研究ネタに使ってくれるかどうかは分からないが…。
 時田さんは,これから参加者に配るバッヂ作り。ごくろうさま……。

 そのとき,こっそりとオプションのアイデアを話しておいた。

3−5 いざ本番! ちょっと嬉しかったこと


 いよいよ観察会当日。天候もバッチリ晴れ。少し風があるが,夕涼みにはちょうどいいだろう。
 やっとこ定員と言う予約の入り具合。あれ?虫の声は人気が無いのかなぁ……。

 集合場所は博物館の駐車場。
 ここで,ちょっと嬉しいハプニング。
 前回の「セミの羽化」観察会のときに参加してくれた子が,セミの羽化をしっかり観察して,自由研究に仕上げてくれたのを持ってきたのだ。模造紙いっぱいの写真と観察記を,他の参加者と一緒に見せてもらった。今日の観察会も,夏休みの良い思い出になるといいね。

 さて,そうこうしているうちに,時間も無くなり,慌しくスタート。今日はたっぷり時間を取っているのに,スケジュールがタイトなのだ。
 まずは駐車場の脇で「虫取り」から。最初に盛り上がるネタを1つ持ってくると,「つかみ」が良くなり,その後の観察会の進行が円滑に進む。子ども達にはペットボトルを加工して作った「リサイクル捕虫ビン」を配ってある。もちろん,この捕虫ビンは自家製。取っては観察し,観察しては逃がし,また虫取り……あっという間に時間が過ぎる。ひととおり,虫の種類が出尽くした頃を見計らって,数百m下手にある「市民農園」まで移動。移動中も,虫を取ったり,昼間に鳴く虫の声を観察したり,なかなか進まない。日没時刻頃,やっとこ市民農園に到着。ここにはベンチと小さな芝生広場があるので,休憩に使える。暗くなって,虫が鳴きだすまでの間の中途半端な時間を,軽食タイムに充てる。

3−6 長丁場はダメ


 休憩中にも,お耳拝借。ここで,用意したi-Podで,虫の声の「予習」をする。……でも,音声だけだから,小さい子どもの興味を引きにくい。小さいお子さんがギブアップした親子が,ここで先に帰ることに……。確かに,休憩時間を挟んで合計3時間半の観察は,ちょっときつい。小学校低学年の興味の持続時間を考えたら,2〜3時間程度にまとめるべきだったかも知れない。お腹も減るし……。

 とは言うものの,小学校3年生ぐらいになれば,この程度の長丁場は,興味が持続すれば,難無くこなしてくれる。虫の声の「予習」が終わったところで,ちょうどアブラコモリも飛び始めた。バットディテクターの登場だ。何も聞こえないコウモリにマイクを向けると音が拾える,不思議な体験。バットディテクターの原理を理解するには,小学校高学年ぐらいの予備知識が必要かも知れない。原理が分からなくても,コウモリの声を聞くと言う体験は,印象に残るかな。

 そのまま,バットディテクターを地上に向けると,今度はクサキリの声が聞こえてくる。クサキリは,基本周波数16kHzの,「超ソプラノ歌手」だ。32kHz辺りにも,人間の耳には絶対に聞き取れない,倍音が結構出ている。この様子を,高い音が聞き取りにくい御年配の方にも,確認してもらう。なるほど,これは高齢者のアシストにもなる。
 この市民農園には,カンタンやエンマコオロギなど,虫としては「低音」の部類に属するコオロギの声も多い。こう言う,分かりやすい声はじっくり観賞してもらい,分かりにくい声は,バットディテクターなどで,少し演出を加えることにする。
 鳥の声を覚えるとき,カタカナや言葉に置き換える「聞きなし」と言うテクニックがある。ウグイスは「ホーホケキョ」,ホトトギスは「テッペンカケタカ」,ツバメは「土食って虫食って渋〜い」と言うやつだ。虫でもこの手が使えないものか,と思ったのだが,これがなかなか難しい。せいぜい,ウマオイの「スイッチョ」ぐらいだ。

 コオロギの仲間の声をカタカナに直すと,こんな感じになる。
・エンマコオロギ→コロコロコロリー……
・ツヅレサセコオロギ→リーリーリーリー……
・オカメコオロギ→チチチチチ チチチチチ
・カンタン→ルルルルルルルルル……

……想像がつくだろうか?
実は,これはまだ識別しやすいほうなのだ。亜種によって鳴き方が違ったり,気温によって鳴き方が変わったり,近くに同じ種類のオスがいるときとメスがいるときで,鳴き方を変えるのもいる。さらに,同じようなリズムで鳴くけれど声の質が違うのが識別ポイントになるものもいる。また,環境によって「すみ分け」があるので,「こう言う環境の場所にはこんなコオロギ」と言った予備知識があったほうが,観察には有利だ。録音されたメディアで勉強するのは,限界がある。

 それに,いまどきの「鳴く虫観察会」には,強力な敵がいる。
 それは,「アオマツムシ」。他でもない,コオロギの仲間なのだが,アオマツムシは中国原産の外来昆虫で,樹上生活者。我孫子では8月下旬〜9月には,街路樹でも雑木林でも,いたるところ,アオマツムシの声が溢れている。これが,日本在来のコオロギたちの声をかき消してしまう。
 観察会の場所に,市民農園を選んだのも,木が少ないので,アオマツムシが近くで鳴かないと言う環境だったからなのだ。

3−7 予告無しのオプション


 さて,虫の声を聞きながら,博物館の駐車場に,予定通りの時刻に帰ってきた。ここで,大急ぎで観察リストをチェックして,予定よりやや早く解散。夜の観察会で,終了時刻が延びるのは良くない(まぁ,昼間の観察会だって,終了予定時刻が分からないのは良くないことなのだが,夜はなおさら,時間に正確に終わらせたい)。

 …後で観察記録をまとめたら,直翅目だけで28種類も観察していた。

 さて,ここで,秘密の「オプション観察会」をすることに。
 車のトランクから,天体望遠鏡を持ち出した。
 ……そう,ちょうど東の空に出てきた,火星を見るのだ。2003年は15年ぶりの「火星大接近」の年。あと数日で最接近となる,大きな火星が見える。

 あくまでもオプションなので,希望する人だけに残ってもらったが,半分以上の人が残っている感じだ。新聞などで,たびたび話題になっていた火星大接近だが,この日,はじめて本物の火星の存在を認識した人も少なくなかった。騒いでいる割には自分で見ようとしないのね……。
 たいして時間も無い状況。しかも,火星はまだ低空で,望遠鏡で見ると,気流の影響を受けてユラユラしている。それでも,赤くて丸い姿と,白い極冠ぐらいは分かる。即席で20分ほど「火星観望会」を行って,望遠鏡の順番待ちの人のためには,博物館常備のフィールドスコープでさそり座の星団を見せたり,星座案内をしたりしながら,流れ解散とした。

 「天体観望会」は,博物館の行事としてはリスクの高いイベントだ。曇天でもダメと言う問題,夜間であるが故の安全管理の難しさ,そして,星の解説が出来るのが私1人しかいないと言う状況では,すぐに天体観望会をセットアップできる状態ではない。他の観察会と抱き合わせで,こう言う,特別に注目を集めるような天文現象があったときに,ちょこっと御案内する程度なら,何とかなりそうだが,当面は,イベント計画に上げることは出来ないと思う。

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