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 Chapter 2 嵐を呼ぶ第1回観察会(未定稿)

2−1 まずは,夏休み対応イベントから


 「あびこ自然観察隊」の第1回目の観察会は,セミの羽化を取り上げた。新年度からきっちりスタートを切れなかったのは惜しいが,もちろん,この観察会は,記念すべき第1回として,観察会の目的や効果を十分に考慮して決めたものだ。時期は夏休みに入ってすぐ。アブラゼミの羽化の最盛期が7月末〜8月上旬なので,この時期の土曜日に開催すれば間違いないのだが,我孫子では,この時期に花火大会が開催されるので,花火大会の予定が決まった時点で,確定する。2003年の花火大会は8/2に決まったので,観察会は8/9(土)に決定した。

 日程の決定が土壇場だったので,市の広報に開催告知が出るのが,8/1となってしまった。
 こんなギリギリの日程で,人が集まるのか?ちょっと不安になる。
 開催告知の案内は,私が草稿を書いて,時田さんに仕上げてもらった。告知メディアは市の広報のみ。「やさしい解説」「子どもから大人まで楽しめる」「しらべ学習にも対応」……そんなキーワードを並べた。ちょっと大風呂敷?……いや,その案内文が嘘にならないような内容を,これから頑張って作るのだ。


 セミの羽化の観察会は,時期さえ間違えなければ,比較的簡単でインパクトのある観察会が作れる。なにしろ,普段,遊んでいる身近な公園で,日没と共にどんどんセミの幼虫が土の中から出てくるのだから。しかし,この光景を見たことのある人は,意外と多くない。セミの幼虫が木に登ってゆくのをを見つけるだけでもエキサイティングなものなのだ。しかも,目の前で,どんどん羽化してくれる。羽化したばかりの真っ白なセミは,神秘的で,感動すら覚える。見飽きることの無い,良い観察対象だ。

 観察会の場所は,我孫子駅から徒歩8分の手賀沼公園。駅から近くて観察しやすい場所,と言う条件でのチョイス。念のため,現地の「準備室」として,公園内の生涯学習センター(アビスタ)のレクチャールームも1つ,押さえてもらう(……実はこれが,当日の観察会を救うことになった……)。
 アブラゼミの羽化は,日没頃から観察できる。夜の観察会なので,小学生以下保護者同伴。レクチャールームとスタッフの人数(担当が実質3名)の都合で,定員30名とした。

2−2 パンフレットを必ず作る


 「パンフレットを必ず作る。」……これが,「あびこ自然観察隊」を立ち上げるときに自分達に課した目標の1つである。

 なぜパンフレットなのか?

 観察会は,どうしても1対複数のやり取りになる。理想としては,案内する側1人に対して,聞き手は10人以下。出来ればすぐに顔と名前を覚えることの出来る,5人ぐらいが面白い。参加者の比率が大きくなると,目に見えて,話の伝わり方が悪くなる。参加者の満足度も下がるし,喋るほうも常時,大きな声を出さなくてはいけなかったり,あれこれ気を使ったりして体力的にもきつい。経験的には,案内役1人に対して,聞き手20人ぐらいが精一杯だ。
 1人で5〜10人ぐらいを相手にしたとしても,1人1人の予備知識の量や興味に合わせるには,工夫が必要だ。その工夫の1つが,パンフレット。パンフレットには,自然解説の補助として,観察会のアウトラインが見渡せるように工夫したり,観察ネタを1つ2つ取り上げたり,必要に応じてフィールドマナーや地図などを載せたりする。
 だが,パンフレットの役目はそれだけではない。観察会が終わってから,観察内容を復習したり記念品として残したりすることも出来る。それに,なにより,他で手に入らない,「この観察会限定」で配布される希少性があると,なおさら嬉しい。そして,担当者が作れば,より,血の通った内容になることは間違いが無い。

 「あびこ自然観察隊」のパンフレットは,もちろん,前例など無い。そこで,私の手掛けてきた観察会のパンフレットを雛形に,小学校4年生ぐらいの子が読むことを想定して文章を考え,過去に撮影したセミの画像を使い,情報量と文章量を絞り込み,画像の多いパンフレットを作ってみた。通常,パンフレットの中身は,中学1,2年生が読めるレベルを目安にする。これは新聞の科学記事なども,同様のレベル設定にしていることからも分かるように,大人でも満足できて,小学校高学年でも,少し科学に興味を持っている子なら読めると言うレベル設定なのだが,今回,小学生の参加が多いことが予想され,こちらもそれを狙ってイベント告知を打っているので,「小学4年生レベル」で作ってみた。
 開催の1週間前には,パンフレット原稿を添付したメールを時田さんに送り込み,最終チェックと印刷を,博物館でやってもらった。

 パンフレットとは別に,時田さんが缶バッジを作ってくれた。夜間の観察会なので,参加者が容易に識別できるように,名札かリボンみたいなものをつけてもらおう,と言う話をしていたのだが,それを少し発展させ,観察会オリジナルのバッジと言う形になった。
 これなら,参加者が一目でわかるし,いいお土産にもなる。ナイスなアイデアだ。

2−3 予約受付開始

 あれこれ慌しく準備をしているうちに,8月1日。予定通り,市の広報に開催案内が出た。博物館の開館時刻より,観察会の参加受付が始まる。夏休み真っ最中。どこか遠くに旅行をしている子も多いだろう。どのぐらい人が集まるかな?

  ……2,3日後,結局,ちょっと心配になって,博物館に連絡を入れてみる。斎藤さん曰く「もう定員に達していて,お断りの『ごめんなさい』をしています。」とのこと。
 やったー! 予想以上の反応。
 でも,受け付けた人数よりも,断った数のほうが多くなってくると,なんだか,申し訳ないような……。

 ともあれ,着々と準備は進んでいる。予約の人気が高いと,気が引き締まる。
 予約した参加者の半分は小学生だ。子ども達に夏休みのいい思い出と,自由研究のネタをしっかりと届けなくては。

2−4 下見は必ずする


 8月6日午後6時半。観察会首謀者3名は,夕暮れの手賀沼公園に集まった。
 アビスタの講義室の状況をちょっとチェックしてから,すぐ目の前のサクラの林へ。 ……すると,あちこちで,木の幹を登っているアブラゼミの幼虫が……30分ほどで,50匹以上確認出来た。午後7時を過ぎ,あたりが暗くなってくると,早く地上に出てきた幼虫から,どんどん羽化が始まる。あちこちで,真っ白なセミが姿をあらわす。資料用の写真を撮りつつ,生きものの「凄さ」を感じつつ,観察会の成功を確信する3人……。

 …実は,下見のほうが,余裕もあるので,いろいろと面白い観察が出来るのも事実。経験的に,本番では,下見の観察結果の半分も紹介できれば上々なのだ。下見は,下調べの意味も大きいが,観察会を作る者にとって,とても勉強になる時間でもあり,担当者同士のコミュニケーションをしっかり取る場でもあり,自然解説に自信をつけてゆく過程でもある。

 これで準備は整った。後は,観察会で,どうやって子どもたちの興味を引き出すか,メイン担当の私の能力にかかっている。

2−5 台風直撃!


 実は私は,その次の日(7日)の夕方にも,セミの羽化の観察会に出かけていた。場所は千代田区丸の内。「丸の内さえずり館」主催の観察会だが,「参加者」のつもりで申し込んでいたら,いつの間にか「手伝ってちょうだい」と言われて……。皇居の東側の緑地で,アブラゼミとミンミンゼミの羽化を観察。観察案内のほうは,お手伝いレベルなので,気楽に対応し,メインの司会者が喋らない話題を中心に,観察会の幅を広げる役に徹する。調子に乗って,星の解説も。この日は丸の内でも,3等星ぐらいまで見えて,さそり座も火星も良く見えていた。ちょっと風が強く,空気の透明度が高い夜……。

 その翌日から,天気は急に下り坂。

  台風接近!

 予報によると,金曜深夜から土曜午前にかけてが,いちばん台風が接近する。
 ……土曜日って,観察会当日!! わー!!!

 金曜夜。
 予報通り,風雨が強まってきた。昔は天気予報と言えば,外れやすいものの代名詞みたいに言われていた時代が長く続いていたが,いまどきの天気予報は「大外れ」になることは滅多に無い。こう言うときには,天気予報の精度の高さを恨めしく思うしかない。
 風の音を聞きながら,時田さんにメールを書いておく。

2−6 雨上がりの夜空に


 観察会当日の朝。
 やはり,窓の外は風雨。しかも,昨夜よりひどい。しかし,天気予報を見ると,夕方には雨が上がると言う。時間的にはギリギリだ。とりあえず博物館に電話を入れ,早めにスタンバイすることに。

 午後4時。まだ雨の残る中,観察会の小道具をデイパックに詰め込み,博物館のオフィスに到着。
 そこで見たものは,斎藤さんがあちこちに電話をしている姿。せっかく応募してくださったのだから,雨が止まなかったら,レクチャーを小一時間やって終わらせてもいいから,とりあえず開催しましょう,とのこと。もちろん,レクチャーの間に雨が止んでくれたら,観察も出来るだろうと言う目論見もあってのことだ。斉藤さんは,「開催しますから,レクチャーだけでもよろしければ,お越しください」と,予約した人たちに1軒1軒,連絡を取っているところだったのだ。頭が下がる……。

 そこで私も,1時間ぐらいの室内プログラムを,急造することにした。もともと20分ぐらいで話すことを用意していたので,話を膨らませば済むかな。時田さんが作ってくれたスライドショーをチェックして,話の展開を組み立てる。さらに,セミの標本や脱け殻,実体顕微鏡などを準備。スライドショーにはセミの鳴き声のサンプル音声も入っているので,スピーカーの準備もしなくてはいけない。

 アビスタのレクチャールームに機材を搬入する頃には,雨は小降りになっていた。


 午後6時から受付開始。斎藤さんの電話連絡が功を奏したのか,参加者の集まりは良い。雨も,傘をさすかどうか悩む程度の小降りだ。室内のセッティングを終え,開始時刻まで少し時間があったので,外に出てみる。すると,目の前のサクラの木の幹に,アブラゼミの幼虫が! さっそく1匹「誘拐」して,受け付けをしているデスクの横で,「看板娘」になってもらう(後でよく見たらオスだったけど…)。さっそく,セミの幼虫は子ども達の人気者になっている。
 これなら,予定通り,観察会が出来そうだ。

 午後6時半過ぎ,ちょっと遅れて来た人を受け付けてから,観察会スタート。司会は時田さん,講師は私,サブに斎藤さんと言う分担。レクチャーは「ショートバージョン」で済ませて,顕微鏡観察などをしてもらいつつ,雨が上がったことを確認し,外へ。

 下見をしたときに比べて,セミの羽化のペースが遅い。まだ,幹を歩いている幼虫ばかり目立つ。しかし,その数の多いこと……アビスタ前のサクラの広場だけで,100匹以上いるのではないだろうか。あちこちから「こっちにもいたよー!」と歓声が上がっている。雨上がりがやや遅れたので,それまで羽化を待っていたセミの幼虫が,一斉に上がってきたようだ。観察会終了予定時刻間際になって,やっとこ羽化が始まった。懐中電灯の光の中に,真っ白な成虫の姿が浮かび上がる。歓声が上がる。感動の瞬間だ。
 あっという間に午後8時。観察会は終わりだ。これでは十分に羽化の様子を観察する時間が取れないので,子ども達には,「1人1匹」と言う約束で,まだ幹を移動しているセミの幼虫を,家に持って帰ってもらうことにした。部屋のカーテンにセミの幼虫をとまらせ,配ったパンフレットを参考に,羽化の様子を観察してみよう,と伝えて。……もちろん,羽化したセミは外に逃がすようにお願いして……。「うまく観察できれば,一晩で夏休みの自由研究が完成するよ。今日は土曜日だし,お父さん,お母さんに夜更かしを許してもらって,じっくり観察してみてね。」
 ……こうして,楽しみな「宿題」をお土産に,観察会は終了。
 台風には気をもんだが,結果的にはほぼ予定通りのことが出来た。

 ホッとするのも束の間,2週後には,次の観察会が待っている。
 「夏休みシリーズ」第2弾は,もうひとつ,昆虫をテーマに,子供たちと遊ぶ計画だ。

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