PART 1 「自然観察する散歩師」誕生まで


 そもそも,何でボクがTVに出ることになったのか,ちょこっと紹介。

 ・それは1通のメールから
 ・驚くべき質の高さ
 ・その前に,クリアしなくてはならないこと
 ・兎にも角にも打ち合わせ


 それは1通のメールから

 12月のことだったと思う。見慣れない発信人からのメールを受けた。これがカノックスのWさんとの出逢いだった。内容は単刀直入。街の自然を紹介する役どころで,TVに出てくれないか,と言った趣旨のもの。ん〜?「東京うぉーきんぐまっぷ」?「カノックス」??……とりあえず,古新聞を引っ張り出して,日曜日の番組欄を確認……あ〜,この5時台の「マップ」と書かれている番組かな(早朝深夜帯の番組は,新聞では大胆に略されている)。Wさんには申し訳なかったけれど,見たこと無い……。


 マスメディアとの関わりは,これまでにゼロだったわけではない。仕事上でも,たまに取材は受ける。個人的にも,休日に自然解説案内などをしていて,その筋ではいつの間にか名前が通るようになっていたり,ネット上にHPを持ってイキモノ系の,結構正統派な情報をまとめているので,あれやこれやと,いろんな場所を経由して,年に5,6回はマスメディアからのコンタクトはある。科学番組の取材を受け,ボクの提供したネタが実際に番組のネタとして使われたりしたことも何回かある。カノックスから出演依頼メールを受ける半年ほど前にも,とある科学系エンターテイメント番組に顔出しでコメントしてくれと頼まれたこともあった(さすがに顔出しは遠慮して,その筋の大先生を紹介して逃げた)。
 まぁ,仕事以外で実際にTVに顔を出しているのは,探鳥会などの自然観察指導者として取材を受けた時と,とある年の大晦日の「紅白歌合戦」で,番組の最後のほうに双眼鏡とカウンタを持って出てきたとき位かも知れない(なぜかラジオは,なんだかんだと声を出した経験があるが…)。


 しかし今回は,名指しである。よくもまぁ,マスメディアでは無名の,ボクのような人間を捕まえて……などと思ったが,番組の内容には興味を持ったので,過去のオンエア分をいくつか送ってもらって,見てみることにした。


 驚くべき質の高さ

 2,3日して,秋に放映された番組を入れたビデオが到着。さっそく,見てみる。
 ここで,「早朝の制作費の安い(であろう)番組だから……」と気楽に考えていた先入観が,吹っ飛んだ。映像,構成,選曲など,非常に良く作り込まれた演出。テーマ曲に使っている「風をあつめて」は,その昔の「はっぴいえんど」の名曲をカバーしたもの。センスが光る。出演者は,いわゆる「芸能人」ではない。タレントのような浮いた調子は無く,かと言ってド素人とは思えない落ち着いた語り口。番組の演出に合った,良い人選だ。紹介されている内容も,ゴールデンタイムのタレントの出てくる紀行番組とは違い,ありきたりの観光案内でもない,ちょっとひねりの効いたもの。なるほど,面白い。
 なんとなく,制作者がボクを使う意図が見えてきた。自然解説者としての視点で,見落とされがちな街の自然を再発見することで,散歩に味付けをしよう,と言うことのようだ。
 しかし,15分番組とは言え,散歩師が1人で全編にわたって出演し,喋り,インタビューもする。今まで積極的にTVに顔を出すのを断っていた身としては,ちょっと不安にもなる。
 ネットでカノックスについて調べてみる。ドラマ制作が主流の会社に見えた。ドラマ屋さんが,なんでまた,こんな番組を?……


 その前に,クリアしなくてはならないこと

 実はボクの仕事場には,マスコミ対応窓口がある。プレスリリースなんかは,その窓口を必ず通し,個人に直接取材を入れてはいけないルールだ。個人的出演依頼とは言え,仕事場で問題が起こっても困る。念には念を入れ,マスコミ対応担当者全員に,これまでの経緯を説明し,判断を仰ぐ。
 その結果,「個人の能力,資質に基づいてTV出演をするのであれば,職業上の肩書きを出さないことを条件に容認」と言うところで落ち着いた。
 一歩前進。

 その後,オンエア時にどういう肩書きをテロップに出すか,結構悩んだが……


 兎にも角にも打ち合わせ

 最初のメールから1ヶ月ぐらいして,ディレクターさんと顔合わせをすることになった。とりあえず,ボクがどんなことをしていて,どんなことのできる人間か,簡単に紹介できる程度の資料を携えて,待ち合わせ。あちらはディレクターのWさんとプロデューサーのHさん。ボクの「散歩師」としての切り口に関しては,HPでおおよそのことは見当をつけてくださっていたようだ。「普段,見慣れた街でも,ちょっと視点を変えれば,いろいろな自然の秘密が詰まっている。それを見つけて解き明かしながら歩き,街を再発見しよう」と言った感じのストーリーで,「自然観察する散歩師」として番組に登場する方向で話を固めてゆく。歩く場所は,明治神宮を取り込んだ形で,代々木エリア。こちらの得意そうなエリアを選んでもらった,と言うべきか…。
 驚いたのは,歩くルートと立ち寄る場所,取材するお店ぐらいしか事前に決めていないこと。あとは,「出会い」の楽しさを,その場でどんどん撮影する。シナリオも無し。喋りにくい所は,ディレクターさんがカメラの横から質問を振り,それに答える形でコメントを引き出すと言う。意外とラフ。他の散歩師がどんな風に喋っているのか,気になって,帰宅してからビデオを見返す。
 撮影日程は,こちらが土日にしか動けないので,土日に調整してもらう。

 後日談だが,この打ち合わせ,その筋では結構有名な人に会っていたらしい。そんな業界筋のことなど,精通しているわけではないので,実のところあまり自分的には関係が無かったりする。ボクが知っているメディア関係の人といったら,科学系の人ばかりなのだ。ほかに,高校時代の同級生がジャーナリストになっているぐらい。ドラマ,バラエティ関係は,ボクにとってはいちばん遠い存在だ。
 ……まぁ,ボクのような人間は,ネームバリューや肩書きにひれ伏すタイプでも無いので,知ったところで対応が変わるわけでもないが……。ボク自身も,「先生」呼ばわりされるのが嫌いだし,肩書きにばかり目を取られるような人に対する信用度は低いので,ま,お互い様で気兼ね無く行こうと思う。


……と言うことで,撮影日記へと続く……


→ページトップへ
→サイトのトップへ