一族が男ばかり、または女ばかりになった事はありませんか?
ダンジョン巡りの戦闘に入り始めた頃、ちょうど討伐隊が女ばかりになりました。だからというワケでは決してないのですが(単に私がダンジョン攻略が下手なだけ)、先へ進む道が見つからず2ヶ月迷っている間、彼女たちは、遠足気分できっとはしゃいで歩き回っているんだろうなぁ、と想像していました。


〜華の巻〜

 女3人寄れば、とはよく言ったものだ。
竜太はため息をついた。
大筒を担いでしんがりを守って歩いて半日、一度も敵と出会っていないのに、もう竜太はげっそりと疲れを感じていた。

「竜太兄さまぁ、そろそろお昼よぉ〜」
流名姫、光華、水焔緋、の3人の娘たちが竜太に手を振る。
「イツ花、どんなお弁当作ってくれたのかしら」
「ねぇ、流名姉さま、食料の荷がなんかいつもより大きくない?」
「えへへ〜、そうでしょう?先月の遠征の時は最後の1週間ずーっと干し飯だけで私うんざりしちゃったのよ。だから今度は日持ちのするおかずを多めに荷に入れてくれるよう頼んだのよ。」
「わーっ、さすが流名姉さま、しっかりしてるぅ」
「ねぇねぇミッちゃん、私ね、お菓子いっぱい持ってきちゃった。みんなで食べよ?」
「きゃぁっありがとう〜っ、あたしこれ好きなの〜。」

竜太はその場に座り込んで懐から出した弁当を黙って食べ始める。
「兄さま、一緒に食べましょうよ」
「うるせー、一人で食うっ」

「あーッ、私太るからイヤだって言ったのに〜脂身のお肉だー」
「私、お水汲んでくるねー」
「このお菓子ひとつしかないからジャンケンねっ」
いやもうそのかしましいこと。
竜太は一気に弁当を平らげると苦行僧のような表情でその場に横になった。



 夢を、みた。
今は亡き一族の、竜太が兄と仰いだ戦士の死の間際のやりとりを、夢で繰り返していた。
「なぁ、竜太、ウチは女系家族だな。俺が逝くとお前、男一人じゃないか。うらやましいな、ははは。」
「何言ってんだよ、いやだよ、兄さん逝かないでくれよ。」
「流名を、頼むぞ。」
「兄さん、白珠兄さん。」

「..今日からはずーっとずーっと、寝坊してていいんだよな?..」



「キャーッ」
「兄さま、兄さまぁッ」
ハッと身を起こすと、戦闘はすでに始まっていた。
「なんてこった。」
傍らに置いた大筒を取り、駆けつける。

「俺がついていながら..。」
流名姫をはじめ、娘たちに何かあったら大変だ。
「..ん?」
が、竜太はすぐには発砲せず、様子を見ることにした。

「エイッ」
最年少ながら3人の娘の中ではいちばん体格の良い水焔緋が、勇敢にも体ごとぶつかるようにして槍を繰り出してゆく。
前後2体の敵を討ち取った。
すかさず光華の薙刀がひらめいて、前列の敵をなぎ払う。
早くも残るはボスのみ。
「とぉっ」
流名姫の強力な弓がボスの息の根を止め、戦闘は終わった。

3人の武器それぞれの特徴を生かした、見事な戦いぶりだった。
竜太は娘たちを少し、見直した。

 だがそれも戦闘が終わっていつもの騒々しさが戻るまでだった。
「俺一人にした白珠兄さんを恨むよ..」
来月になったら金晶珠の娘が討伐隊に入り、代わって竜太が交神するのだが...。
「俺の子も女だったりして。」
そう思うととめどない脱力感に襲われる竜太だった。



数カ月後。
討伐隊は屋敷をあとに歩き始めていた。
「ねぇ、キンちゃん、って呼んでもういいよねー。お屋敷だとイツ花がうるさいのよねー」
「うん、ミツ姉さま。私、当主さまなんて呼ばれるのやだわ」
「いいよー、タメ口でー。ねぇ、スーちゃん。うちらずーっとそうだったもんね。」
「そうだヨー。竜子ちゃんもそうだよ、パパやイツ花の前でだけ気をつければいいんだヨ」
「うん..」

先頭を歩くのは、薙刀遣いの光華。流名姫が留守番になった今は討伐隊のリーダー格。華奢で小柄な身体つきなので薙刀の威力は今一つだが、術の能力が非常に高い。
光華の一つ年下の親友、槍遣いの水焔緋。巨漢、偉丈夫の多い家系の娘だけあって逞しい女丈夫。力は強いが性格はおっとりした大人しい娘だ。
母金晶珠が亡くなり新当主を襲名したばかりの剣士、金鋼珠。
そして竜太の娘、竜子。

「いいか、オレはお前らの強さには何の心配もしていない。歴代討伐隊でもひょっとしたら最強かもしれん。だがなっ、..聞けよっ光華っ..お前だ!年長のお前がこうだからみんながおしゃべりなんだ。..ええい、お前らの騒々しさじゃ鬼が逃げちまうだろうがぁっ、だーっ、黙って行けっ黙って戦えっ。行ってこーいっ」
竜太が髪をかきむしりながら討伐隊を送り出したのも無理ない。

「あぁーっ、忘れたぁ。」
「ミッちゃん、何忘れたの」
「雪のたすきー。」
「えーッ」
「ごめーん、もう突撃しちゃったから戻れなーい」
「えええーッ...やだヨー、ダッシュできないじゃんー」
「あたしがこまめに回復してあげるからさッ、許してっ」
「んもーっ..わかったヨー、じゃぁみんな、イツ花には内緒ね。」

そして、1ヶ月たった。

「ねー、スーちゃーん、あたしたち迷ってんじゃないのー」
「う、うんー..さっきこの柱見た気がするけど..」


「ちっとも先に進めないね..」
「このまま帰ったら全然進んでないんだもん、怒られるよー」
「じゃぁもう一ヶ月、延長しちゃおう?」
「そうだねー。みんな元気いっぱいだしね。」

彼女らが討伐を終えて帰る頃、竜太はとっくに寿命を迎えていた。








 「白の巻」を読んで下さった方は気が付かれたでしょうが、この巻は「白の巻」のすぐ後の話です。優しい父に可愛がられて育った流名姫は、年下の娘たちみんなに「流名姉さま」と慕われたようです。










関連のある他の巻:白の巻(白珠、流名姫)  弓の巻(前編・後編)(白珠、流名姫) 
黄鶴楼の巻(白珠)  人魚の巻(白珠)            

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