PCL86 /14GW8 簡易型cspp





 ARITOs Audio Labから貴重なCSPP用

のOPTが発売になったのですが、高性能

なCSPPアンプなら既に諸先輩方により

数多く発表されているので、今回はなるべ

く簡単なアンプを目指しました。とにかく

平易で作り易いアンプとする為に、増幅部

には半導体を使わず真空管だけによる二段

増幅回路として製作しました。

 このARITOs Audio Labのトランスは、CSPP用トランスとしては小型で最大容量も7Wとなっています。

そこで出力管には入手が容易な点を考慮して複合管のPCL86/14GW8を採用する事にしました。この

球もカタログ上では10W以上得られる事になっていますが、小型複合管の場合は、なるべく軽い動作にした

方が長期安定動作に有利なので、そのような動作で使うなら今回のOPTにも適していると思います。とりあ

えずロードラインを引いてみたところ、Eb220V辺りで丁度7W程度が得られるようです。

 この方針で特性図にロードラインを引いてみたのが以下の図です。




 ただ必要な電源電圧としてはカソードバイアス分の電圧と(簡易型とする為に固定バイアスにはしない)

フルスイング時の電圧降下等を考慮して240V程度になると思います。また静電流は出力管に無理のない

範囲で多めに流しています。CSPPは高いドライブ電圧を必要とするので、バイアスが浅くなる事で少し

でもドライブ段を楽にする為です。そのドライブ段ですがCSPPでの終段の利得は2以下なので、二段ア

ンプとなるとアンプゲインのほとんどを前段で稼がねばなりません。幸いにもPCL86の三極管ユニット

は12AX7Aと同特性で、「μ」が100あり三極管としては大きな利得が得られますが、それを生かす

為にも位相反転回路はオートバランス回路か古典型位相反転回路になります。それでも得られる利得に余裕

はないので負帰還は少量しか掛けられず、負帰還による歪の減少はあまり望めないので、歪率を下げる為に

はPP上下での歪の打ち消しに期待するしかありません。と言うわけで、事前に試作機を組んでみた結果、

本機では古典型位相反転回路を採用する事としました。詳しくは次章で説明していますが、オートバランス

型の場合は、この段での歪の打ち消しが望めないからです。一方、出力段は大きなドライブ電圧を必要とす

るので、これに対応する為に前段の電源は別に高電圧電源を用意しています。

 ただ一点だけ通常の位相反転回路とは違っていて、下側はカソードパスコンを入れず軽い自己帰還が掛か

るようにし、それに合わせて下側への分圧比を上げています。上下の動作が違ってしまうのですが、この定

数でACバランスが取れてしまったので、下側のパスコンは無しとしました。

 という訳で以下のような回路になりました。





 なお本機は回路図のようにDCバランス回路がないので、球の組み合わせを変える事でDCバランスを取る

ようにして下さい。今回のOPTの各巻き線間のDCRはよく揃っているので、上下の出力管のカソード電圧

を比較する事でDCバランスのチェックが出来ます。一方、前段下側のカソードにはパスコンがなく、アース

から浮いている状態なので、球によってはハムノイズが増えてしまう事があるかも知れません。ただ、その場

合は上下の球を入れ替えれば改善します。さらに通常はヒーターの片側をアースに落とすのですが、本機では

ノイズ対策でヒーター巻き線の中点に近い6.3V端子をアースに落とすようにしています。



  製作のポイントとしては

1.既に述べていますが本機に使ったOPTはARITOs Audio Labから発売された新型トランスで、特性も良い

  ので当機の成功はこのOPTに因るところが大きいと思います。念の為に各リード線の色分けを以下に示

  しますが、これを間違えると音が出ませんので注意して配線して下さい。なお上記回路図のE端子はE1

  E2を繋いだものです。

   さらなる概要についてはARITO's Audio Labのページを参照して下さい。




2.電源回路について、ヒーター電圧と電源容量を考えると、電源トランスはどうしても春日無線の電源トラ

  ンス”KmB250F2”になってしまいます。どうも他社は14GW8に冷たいように思います。

  また高電圧回路は相変わらずの半波倍圧整流ですが、次に来る平滑抵抗で30Vもの電圧降下で平滑して

  いますので、これで問題ないです。

3.PCL86/14GW8は流通量が多く廉価に入手できると思うので、予備も含めて少し多めに入手する

  ようにして下さい。この球は三結にしてシングルで鳴らしても高いパフォーマンスを示すので、選別に漏

  れた球でも無駄になる事はないと思います。  14GW8 /PCL86三結 ミニワッター

  さらにヒーターが6.3Vの6GW8なら使える電源トランスの種類が増えるのですが、オーディオ専用

  管になるので流通量が少なく比較的高価なので、本機のように14GW8と春日の電源トランスとの組み

  合わせの方が結果的に安く出来ると思います。



諸 特 性


 最大出力は設計通りの7Wが得られま

した。高域の歪率が離れた曲線を描くの

は位相反転回路の特徴のようで、この回

路の発展形であるQUADU型アンプも

同様の特性を示すので不具合という訳で

はないようです。なお小出力側で低域が

下がり続けているのは、歪率計のノッチ

フィルターの所為と思います。


 利得 14.3 dB (5.2倍)

 NFB 3.5 dB (1.5倍)

 DF= 7.1 on-off法 /1kHz 1V

 無歪出力6.7W THD2.0%/1kHz

 最大出力7.6W THD5.0%/1kHz

 残留ノイズ 0.20mV




 次に周波数特性ですが、仕上がり利得を考えるとオーバーオールNFが少量しか掛けられなかったので

さほど広帯域とはいきませんでしたが、それでもOPTの優れた特性を反映して高域のアバレ等は皆無で

滑らかに減衰している事が目を引きます。

 最終的に10〜70kHz/−3dBの素直な特性が得られました。




 さらには高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、低帰還という事もあり負荷開放でも綺麗な

方形波を保っていて波形が乱れる事はありませんでした。このリギングの全く見られない波形にも今回のAL印

OPTの優れた特性が表れているように思います。





 最後に最大出力付近の7W時の正弦波波形をご覧頂きたいと思います。1kHzの波形はクリップを始めてい

るだけですが、10kHzの波形はさらに片側だけに段差が現れていて、高域歪率悪化の主な原因はこのクロス

オーバー歪に由来するようです。さらに当初は出力管の静電流を絞り気味だったので、もっと大きな段差が出来

ていて到底見過ごせないほどでした。そこで出力管に無理のない範囲で静電流を増やして見たところ、下のよう

に段差が小さくなったので、これで最終値としました。




 利得についてもう少し説明しますと、当機の仕上がり利得は上記のように5.2倍で最大出力となる7W出力

時に必要な入力電圧は約1.4Vとなります。これはやや低感度なセットとなっていますが、一般的な音源とな

るCDプレーヤーの出力電圧は2V程度なので、通常の使用時に不自由はないと思います。試作機でも同様でし

たが、NFを外すとどうしても音が荒くなってしまうようで、この程度の軽いNFでも音への貢献度は大きいよ

うです。そこで使い勝手との折り合いを考えて3.5 dBのNFとなりました。


 後  記

 既にCSPPアンプは何作か手掛けているのですが、今回はOPTの特性に合わせて追試も容易な簡単な回路

のアンプを目標として(本格的なCSPPアンプを目指すなら出力も10W以上欲しい)事前にバラックセット

で試作してみたのですが、最終的に選んだ回路は古典的位相反転回路でした。今日ではまず見かけない古ぼけた

回路が意外にも良い結果を出した事に、少しの驚きと、何でもやって見よう精神の大切さを感じずには居られま

せんでした。勿論、本機は性能的には本格的回路のアンプには及ばないと思いますが、試聴会に持ち込んで鳴ら

してみたところ、予想以上に善戦していました。自画自賛になりますが、普段使い程度なら過不足なく鳴ります

し、CSPP入門用アンプとしては上々の出来に仕上がったように思います。