晴耕庵の談話室

NO.84



標題:貴族制度と叙勲のタイトルについて

QUESTION

2003/6/15

ロンドン憶良様


ご無沙汰しております。K.T.と申します。
(談話室71回に掲載いただいています)

サー・ポール・マッカートニーの結婚に関するコラムに、「MBE」「SIR」
にかかるご説明がありますね。
このあたりも、日本人にとって理解しづらい制度のひとつかと思います
が、貴族とは?爵位とは?タイトルとは?・・・と疑問はつきません。
例えば、貴族はDukeだとかEarlなどの称号をもつ方なのでしょうが、
「Knight」は貴族ではないのでしょうか?

その他にも、xBE(GBE、KBE、CBE、OBE、MBE)とはどのような
ものなのでしょうか?
たとえば、これらを「タイトル」として使うことはできるのでしょうか?

第71回(英連邦)をこの目で見たいなあと思っていましたので、今夏
こそチャネル諸島巡りをと思っていたところのSARS騒ぎ。
アジア系への風当たりが冷たいとの話も聞きましたので、残念ながら
延期します。

英連邦といえばアセンションとセントヘレナは憧れの地。
勤め人の小生にとって、実現不可能なものでしたが、2003年から
英本土より空軍機にてアセンションへ行かれるみたいです。
そこからRMS.セントヘレナにてセントヘレナ、再びアセンションに戻
り、再度空軍機にて英本土へ戻ると、最短9日間の旅だそうです。
ロンドン憶良さまは行かれたことありますか?

                            K.T.


ANSWER

2003/6/17

K.T.さん

お久しぶりです。
おかげで英連邦についても、少しは日本の方々に理解されて来ている
と思います。
昨年鎌倉での4回のセミナーでも、最終回で『英連邦』を解説しました。

ご質問の貴族制度や叙勲について詳しくは知りませんが、私は次の
ように把握しています。

1 貴族制度

 貴族の肩書も、ノルマンコンクェストの結果、ウィリアム公によって
 イングランドに持ち込まれました。

(1)貴族の範囲

  広義の貴族(aristocracy)
  王により与えられた称号の保持者全員。すなわち世襲貴族と一代貴族
 (life peerage)の双方を含みます。

  狭義の貴族(nobility)
  世襲貴族  ただし准男爵(Baronet)を除く、公侯伯子男の5爵位

(2)爵位の序列

 (世襲貴族)
 公爵(Duke)
 侯爵(Marquis)
 伯爵(Earl)
(フランスではcomte(Count)伯爵夫人は英国でEarlessでなくCountess)
 子爵(viscount)
 男爵(Baron)
 准男爵(Baronet)

(一代貴族)
 騎士(Knight ) 国家への功績により受勲、受勲後はクリスチャンネーム
 の前に「Sir」をつける
(法官貴族)
 Law Lords 英国の上院は最高裁判所の役割も果している

日本は英国を真似て、明治維新政府は公家や藩主、あるいは薩長の
武士、将官、大商人等に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の肩書きを
与え、貴族制度を作りました。英国の上院を真似して貴族院も作りま
した。

しかし第二次大戦の敗戦で米占領軍は貴族制度を廃止し、貴族院も
なくなり、米国型の二院制(参議院と衆議院)になりました。
日本には准男爵、騎士、法官貴族という概念は導入されませんでした。

(3)取得方法による分類

 王族貴族(王室の血統による貴族、ケント公やヨーク公など)
 封建貴族(王族ではないが領地支配と忠誠の対価に爵位を与え
      られた貴族)
 称号貴族(領地支配権はなく国家への功績等により与えられた貴族)

 世襲の可否による分類
 世襲貴族
 一代貴族

2 叙勲とタイトル

 ナイト爵は受勲の内容によりランクがあります。

(1)主な勲章

 ガーター勲章 Order of the Garter
 シスル勲章 Order of the Thistle(シスル薊はスコットランドの国花)
 聖パトリック勲章 Order of the St.Patrick
(聖パトリックはアイルランドの守護聖人)
 バース勲章 Order of the Bath
 聖マイケル・聖ジョージ勲章 Order of the St.Michael and St.George
 英帝国勲章 Order of the British Empire
 メリット勲章 Order of Merit
 コンパニオン・オブ・オナー勲章 Order of the Companion of Honour
 ロイヤル・ヴィクトリア勲章 Royal Victorian Order
 帝国功績勲章 Imperial Service Order
 など

  (2)タイトル

 叙勲者の身分は、略称で一目瞭然です。この略称は対外的に使用
 されます。
 日本の叙勲者が対外的に使用しないのとは対照的です。それだけ
 叙勲は個個人のプライド(国家に対する貢献)が懸っているものでし
 ょう。

ご質問あったタイトルの明細は次の通りです。

 G.B.E. Knight (or Dame)Grand Cross of the Order of the British Empire
 K.B.E. Knight Commander of the Order of the British Empire
 C.B.E. Commander of the Order of the British Empire
 O.B.E. Officer of the Order of the British Empire
 M.B.E. Member of the Order of the British Empire

(3)具体的使用例

 私が参加した1973年の第26回International Banking Summer School
(国際銀行夏季学校)(オックスフォード大クライスト・チャーチ・コレッジ)
 でのFairwell Dinnnerでハイテーブル(High Table)の着席名簿に、来賓
 の一人に「騎士」爵の方がいました。
 Sir Jhon Thompson,K.B.E.,T.D.,F.I.B.
 H.M.Lord Lieutenant of Oxfordshire
 と印刷されていました。

 トムソン卿が騎士の叙勲者であるので、オックスフォード州副知事の
 肩書きの前に貴族の称号Lordがつけられています。
 K.B.E.直訳すれば英帝国騎士指揮官勲章を受勲していますので、指
 揮官としてかなりの軍功があったのでしょう。
 因みにT.D.はTerritorial Decoration(地方勲章受勲)F.I.BはFellow of
 Institute of Banker(銀行協会会友)の略称です。
 英国では銀行家の地位は結構高いのです。

3 貴族の責務「ノーブレス オブリージュ」

 貴族制度が残っているUKや、貴族制度が廃止されている欧州各国
 では「ノーブレス オブリージュ」(仏 noblesse'oblige')というエリートの
 不文律があります。英語化していますが、「高貴な身分には義務が伴
 なう」ということです。

 貴族や高い地位にある者は、裕福な生活をエンジョイする反面、国家
 や社会への奉仕など、個々人により様々な責務を果さねばならぬとい
 うことです。
 戦争の場合には、貴族は指揮官として率先垂範、貴族の将校の死亡
 率は兵士に比して抜群に高いといわれています。

 日本では階級制度はなくなりましたが、同時に「高い身分の者が無責
 任になった」ような気がしています。
 日本には「ノーブレス オブリージュ」という規範は根付かなかったよう
 です。

 明治政府は貴族制度を形式だけ移入し、「ノーブレス オブリージュ」
 という規範は学ばなかったようです。
 戦後教育でも「権利」は教えても「責務obligation」は教えなかったツケ
 が、今社会の指導者のモラル・ハザードを生んでいると思います。


英連邦諸国への旅

 残念ながら大西洋の孤島アセンションやセントヘレナには行っていま
 せん。
 もし英連邦諸国を旅されましたら、どうぞ談話室に便りを寄せてください。

                             ロンドン憶良

THANKS

2003/6/17


分かりやすいご説明ありがとうございました。
以前に友人(MANX)に聞いてもよく理解できなかったものですから・・・

                            K.T.



世襲貴族議員を廃止した英国上院
やっと開いた落下傘(ノーブレス・オブリージについて)
ハイ・テーブル

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