上海・黄山・蘇州・杭州紀行


第3日目 黄山山上――世界自然遺産を愉しむ――




個人旅行なので時間は自由にとれる。

今日の予定は落日の眺めのよいという排雲亭(絶壁の上)から、飛来石
など西海(雲海)を見て、光明頂(1841メートル)から蓮花峰の難所を
登り、玉塀楼を経てロープウエーの玉塀駅にという計画であった。



ところが昨夜来の雨と風と濃霧で視界は不良。時々さっと霧が飛び、前方
の思わぬところや横手に、まるで東山魁夷描くような墨絵の絶景と老松が
現れる。霧の中でカメラのシャッターを押す。


まさに仙境

雲峰遥かに望むべし
異境到に縁なし
曉霧開きてまた翳り
晴嵐断ちてまた連なる     (宋、劉漑)

飛来石は大きな岩が空から落ちてきたように絶壁に立っていて、手すりが
ついているがさびてぼろぼろのところもある。
風に吹き飛ばされては絶命だ。リックサックをはずし、交代でそろそろ登
り、へっぴり腰で記念撮影。
横から見るとえぐれた岩の、よくもまああんな危ない場所に行ったことよ
という感じである。



濃霧の中から中国団体さんが現れる。中国国内は団体旅行ブームである。
(それだけ改革開放の成果がでているのであろう。)
上海テレヴィの一行という若者が、英語で何歳かと聞いてきた。
64歳というと指を立ててグレイトとにっこり。

光明頂の小さな山の宿泊所(天海招待所)で「レストランはどこか?」と
聞いたが首をふる。
案内板はあったのにと訝るが英語が通じないのだろうと、息子が中国語で
筆談。奥の方の地下にあった。
公共の設備らしく女子従業員は軍服のような制服を着ていた。彼女たちが
ゴーというすごい火力でいためた野菜たっぷりの麺が、雨風に曝された身
体に染み込むようにおいしかった。

風雨がきつくなったので険しい蓮花峰はやめて、鰲(ゴウ・大亀)魚洞と
いう岩の中の洞窟の急な石段や、百歩雲梯という絶壁を、滑らぬようにそ
ろそろと下り、玉塀楼に着く。やれやれ。
ここには黄山の名松である送客松と迎客松がある。

視界は不良であったが霧や雨の黄山もそれなりの風情があった。
玉塀駅のロープウェーは6人乗りの小さなゴンドラである。
人影は無くそのまま下山したが、山上の霧を抜けてからの下界の眺めが
素晴らしい。全長2176メートル。高低差753メートル。結構長く乗
る。

慈光閣駅につくとすかさずシロタクが声をかけてくるが、振りきるように
して、さらに渓谷沿いの誰もいない遊歩道(ここも石段)を下山。
夕刻宿舎の桃源賓館に着いた。
三ツ星のきちんとしたホテルであり、食事もおいしかった。

黄山の登山道はすべて石段か岩をけずるか、完全に舗装されており、泥道
は1センチもない。水はけもよく、靴はそれほど濡れなかった。さすがは
長城を築く国民であると、その息の長い高山の石段工事に感心した。
「人人有責」落ちるのは自己責任であろう。

                          

            黄山の伝説・歴史・文芸

第4日(8月26日) 石牌坊群を見て屯渓へ

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