SF読書録
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2002年 下半期

“エンディミオンの覚醒” ダン・シモンズ
“ムジカ・マキーナ” 高野 史緒
“言の葉の樹” アーシュラ・K・ル・グィン
“折紙宇宙船の伝説” 矢野 徹
“戦乱の大地” デイヴィッド・ブリン
“たんぽぽ娘” ロバート・F・ヤング
“人狼原理” クリフォード・D・シマック
“人間以上” シオドア・スタージョン
“宇宙兵ブルース” ハリイ・ハリスン
“最果ての銀河船団” ヴァーナー・ヴィンジ


“エンディミオンの覚醒 (上・下)” ダン・シモンズ (ハヤカワSF)

このコーナー 250作品目のこの作品は、 言うまでもなく “エンディミオン” の続編、 “ハイペリオン” から始まる、古今東西数々の物語を取り込んだ壮大な叙事詩の締めくくりです。 前作で <地球> へ辿り着いたロール・エンディミオンとアイネイアーは…。 そしてパクスや <コア> との戦いの行方は?

デ・ソヤ神父大佐あらためデ・ソヤ神父をはじめとした前作のキャラクターたちもよりいきいきと登場しますし、 ネメスさんは増えてますし (黄金パターンの一つですねえ^^)、 対するシュライクも何かパワーアップしているように思えます。 さらには“ハイペリオン”へと繋がっていく部分も…。

謎はほとんど明かされ物語は大団円を迎えたとはいえ、 その後どうなったのか不明な部分もあるし、 辻褄的に「?」な部分があるのは気になるところ。 ですが、まさに問答無用、「約束」の結末まで一気に突き進めます。

それにしても、にぶい主人公というのは、 作家にとって好都合ですねえ^^;。 “たんぽぽ娘”なんかもそうですけど。 (12/31)


“ムジカ・マキーナ” 高野 史緒 (ハヤカワJA)

19世紀終盤のヨーロッパに理想の音楽を追求する音楽家たちがいた。 一方、ウィーンでは些細な音楽ですら強力な快感に変える、 <魔笛> と呼ばれる麻薬が出回っていた。 その出元は謎の技術で画期的な音楽を提供する舞踊場らしい。 それら二つの結びつきの秘密は、 巻き込まれた音楽家たちを破滅に導いていく…。

19世紀ヨーロッパに現代風ジャンキーの世界を組み合わせた世界で話は進みます。 そしてその外側をくるむような感じで、 “永遠なる天空の調” のような話が存在します。 SF的観点から見ると、19世紀に安易にオーバーテクノロジー (& オーバーカルチャー?) を持ち込んでいる感じもありますが、まずまず面白いと思います。 数々の現代的技術を持ち込んでいることがミスリーディングを誘うようになっているところは、 なかなか良いです (無理があるといえばありますが)。 デビュー作だそうで、そのせいもあってか、 荒削りに思える部分は他にもいろいろとありますが楽しめました。 (12/13)


“言の葉の樹” アーシュラ・K・ル・グィン (ハヤカワSF)

エクーメンとの接触後、惑星アカの政府は、 象形文字で書かれた書物を始めとして、 古くから伝わる文化をことごとく捨て去ろうとしていた。 一方、エクーメンの観察員としてアカにやってきたサティは、 この惑星独自の文化を調査しようとしていた。 そして、密かに保持されている <語り> の文化に触れていく…。

“ハイニッシュ・ユニヴァース”ものの長編で、 “闇の左手” の姉妹編と言ってもよさそうな話です (雪山を行くあたりで特にそういう感覚がひしひしと… ^^;)。 “闇の左手”と違って、 権某術数が繰り広げられたり捕まって投獄されたりという大ごとはありませんが…。 <語り> の文化が (押しつけがましくなく) しっかり語られている感じです。 (11/20)


“折紙宇宙船の伝説” 矢野 徹 (ハヤカワJA)

うら寂れた山奥の隠れ里のような小さな村に、 お仙という気のふれた女がいた。 彼女は時折、紙飛行機を飛ばす。 不思議なことに、その紙飛行機はどこまでも飛び続ける…。

海外SFの翻訳や、“ウィザードリィ日記”で知られる矢野氏の長編SFです。 上述のような話から始まり、村の童謡や伝説に隠された秘密がだんだん明らかに… という話かと思ったのに違いました^^;。 途中までは、けっこう良い感じの話かと思ったのですが…。 これだと、安っぽいB級SF的設定 (書かれた時代を割り引いてもちょっと安易だと思う) + 妄想の世界、というところかなぁ。 辻褄あってないところがいろいろとあるし…。 (11/2)


“戦乱の大地” デイヴィッド・ブリン (ハヤカワSF)

変革への序章” に続く、“知性化の嵐”シリーズ第二部です。 前回はちらっと登場するだけだった <ストリーカー> とその乗組員のイルカたちがついに本格的に登場します。 そして、 “スタータイド・ライジング” でキスラップを脱出した後の苦難も語られます。 “知性化戦争” に関することも一言だけ語られます^^;。 ということで今回のあらすじを。

さて、ローセンの陰謀を食い止めた潜伏6種族だが、 そこに現れたのは冷酷非情で知られる列強種族、ジョファー。 彼らは潜伏6種族が <ストリーカー> とコンタクトをとっているものと思っており、 圧倒的な力を背景に圧力を掛けてくる…。 前回と同様に6種族の奇襲は実るのか? キスラップのときと同様に <ストリーカー> は見事逃げおおせるのか? そして、ジージョにはいったいどれだけの秘密があるのか?

まだまだ次への謎を多く残したまま、第二部は終わります。 もうちょっとヒントを出してくれてもいいのになあ、という気もします。 第三部“Heaven's Reach”も早く翻訳してほしいですね。 それにしてもローテクな武器による奇襲や陽動に弱過ぎな銀河列強種族たちです^^;。 (10/22)


“たんぽぽ娘” ロバート・F・ヤング

「一冊」ではなく、 文春文庫の“アンソロジー 人間の情景 6 奇妙なはなし” でこの一篇だけ読んだのですが、 名作として知られる短篇ですので…。

ストーリーは敢えて書きませんけれど、 ああ、なんてべたな話なんでしょう^^;。 この場合、悪い意味ではありません。 誰かが書いたことがあるからこそべたなのであって、 この時代に、しかも斜に構えたり奇をてらったりとひねくれるとこなく、 思いっきりストレートに書かれたところがよいんですね。 いかにもロバート・F・ヤング、という感じです。 できれば中学生や高校生の頃に読んでおきたい、 読み継がれるべき一篇だと思います。 (10/20)
[→
復刊ドットコム “たんぽぽ娘”]


“人狼原理” クリフォード・D・シマック (ハヤカワSF)

宇宙に植民する際に、どこかの惑星を「地球化」するのは非常にコストがかかる。 そこで、逆に人間をその惑星に合うように生物工学を用いて作り変えて植民しよう…。 当然、こうした考え方には反発も強い。 作り変えられた人々は、人間と呼べるのか? この方針の是非を問う審理が行なわれようとしている頃、 一人の男が宇宙で漂流しているのを発見された。 彼が大勢を決める鍵となるのか?

ストーリーだけ見ると、緊迫感溢れる話だったとしても不思議はないのですが (タイトルだけ見ると、壮絶な話だったとしても不思議はない^^;)、 シマックらしい、どこか長閑な感じも漂う世界の話です。 発見された男の正体と立場、が焦点となります。 正体はまあ (読者には) すぐに明らかになりますが、 立場はどうなるのか? 結構ストレートな話ですが、長過ぎもせず、悪くはないです。 (9/28)


“人間以上” シオドア・スタージョン (ハヤカワSF)

白痴の青年、喋れない双子の少女、生意気な少女、 蒙古病の赤ん坊。 世間からはみ出した彼らはそれぞれに超能力の持ち主だった。 彼らが集まり、それぞれが全体の中の役割に納まったとき、 それは人間を凌駕する集団になる…。

同じスタージョンの “夢みる宝石” と似たような雰囲気の話です。 終盤で、登場人物の一人が真相の大部分を主人公に説明する辺りなんか特に^^;。 三部構成で、連続した話ではありますが各部がそれぞれまとまっていて、 単独でも読める感じです (もともとは第二部が短篇として発表されたらしい)。 第二部、第三部はちょっとサスペンス仕立てになっていて面白いです。 (9/9)


“宇宙兵ブルース” ハリイ・ハリスン (ハヤカワSF)

とある辺鄙な惑星で農業を営んでいたビルは、 (強引に) 軍隊に入れられてしまった。 ときは、トカゲ型の異星人、チンガーとの戦争の真最中だったのだ。 戦況は思わしくなく、訓練中のビルたちまでが駆り出される始末。 どうなることやら…。 そんなめちゃくちゃな状況の中、ビルは、英雄になったり、 脱走者と見なされたり、革命に参加させられたり…。 まったく、どうなることやら…。

風刺的な喜劇です。 ハインラインの “宇宙の戦士” のパロディでもあります。 バランスを取るために、両方読んだほうがよいかもしれません^^;。 ホールドマンの “終りなき戦い” とはまた違った意味で、“宇宙の戦士”の逆をいった話です。 ハインラインはこれを読んだらどういう反応を示したのでしょう? ^^;; (7/20)


“最果ての銀河船団 (上・下)” ヴァーナー・ヴィンジ (創元SF)

250年のうち35年だけ明るく輝き、後はとても暗い状態にあるという、 常識はずれの奇妙な恒星、オンオフ星。 さらに驚いたことに、その星を巡る惑星に非人類の知的生命がいるらしい…。 彼らとその惑星に莫大な利益の可能性を見たチェンホーの商船団がオンオフ星へと向かったが、 そこには同時にエマージェントとなのる他の人類の船団もやってきた。 彼らは衝突し、双方とも被害は大きく、星間航行は不可能になってしまった。 生き延びるためには、非人類知的生命の進歩を待つしかない。 そして、エマージェントに制圧されたチェンホーの中には、 逆襲を期して長い雌伏のときを耐えしのぶ男がいた…。

遠き神々の炎” と同じ作者の長編で、解説を読むまでは気づきませんでしたが、 同じ宇宙を舞台にした話だそうです (“遠き神々の炎”の世界が、 遙か未来にあたる)。 さらには双方に登場する人物がいるというのは…さすがにわかりませんでした^^;。 後でまた“遠き神々の炎”を見なければ…。 でも、ストーリーとしては双方にとくに関係はなさそうです。

非人類知的生命の発展を支えるシャケナーの天才ぶりと、 最後に明かされる作戦成功の真相がちょっと都合よすぎかな、 という気もします。 一冊1,260円もする^^;厚い文庫本の上下巻の長い長い雌伏の後ですから、 「逆襲」のシーンでもうちょっと「伝説の男」に活躍してほしかったかな、 とも思います。 (7/4)

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