SF読書録
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1998年 上半期

“エンダーのゲーム” オースン・スコット・カード
“第二の接触” マイク・レズニック
“断絶への航海” ジェームズ・P・ホーガン
“都市” クリフォード・D・シマック
“銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ” 大原まり子
“旅立つ船” アン・マキャフリー & マーセデス・ラッキー
“世界の果てまで何マイル” テリー・ビッスン
“メイキング・オブ・2001年宇宙の旅” ジェローム・アジェル 編
“ゴールド −黄金−” アイザック・アシモフ
“魔法の猫” ジャック・ダン & ガードナー・ドゾワ 編
“ナイトサイド・シティ” ローレンス・ワット=エヴァンズ
“獣の数字” ロバート・A・ハインライン
“バーチャライズド・マン” チャールズ・プラット
“時間飛行士へのささやかな贈物” フィリップ・K・ディック


“エンダーのゲーム” オースン・スコット・カード (ハヤカワSF)

地球は異星人の侵攻を二度に渡りかろうじて撃退した。 三度目の侵攻に備え、「極めて優秀な司令官」 を育てるためにバトルスクールが設立され、 優秀な子供たちが模擬戦闘に明け暮れていた。 その中でも唯一の本命と目されるエンダーは、 突き放され、あらゆる苛酷な環境を与えられる。 エンダーは潰されてしまうのか、それとも「極めて優秀な司令官」 となり人類を救うことが出来るのか?

無伴奏ソナタ” に収録されているカードのデビュー作の同名の短篇をもとに書かれた長編。 短篇では掘り下げられていなかった部分を補った感じで、 また、エンダーの兄弟を登場させることにより、 エンダーのキャラクターを深くしています。 エンダーはやっぱり可哀想なのですが、短篇版よりは遙かに救われてます。 (6/27)


“第二の接触” マイク・レズニック (ハヤカワSF)

深宇宙での異星人とのファーストコンタクトは、 原因不明の交戦により、双方の宇宙艦が消滅して終った。 二十数年後、地球の宇宙軍の軍艦の艦長が二人の部下を射殺した。 しかし、彼は無罪を主張した。 何故なら、二人の部下は異星人だったからだ、と。 この艦長の裁判の弁護人を押しつけられたベッカーは、 当然そんなことは信じない。 だが、裁判の準備のための調査を始めてみると何かがおかしい。 背後には何か陰謀が隠されているのだろうか?

陰謀の割には話が単純なので気軽に読める、 軽いのりのエンターテイメント。 エンターテイメントと割り切らないと、 ちょっと話が都合よく進み過ぎの感もあります。 (6/18)


“断絶への航海” ジェームズ・P・ホーガン (ハヤカワSF)

近未来、地球は戦乱の世と化し、第三次世界大戦が勃発し終焉するも、 復興した国々はまた互いに争おうとしていた。 そこに大戦前に打ち上げられた宇宙開拓船「クヮン・イン」 (観音だそうな) から、アルファ・ケンタウリ系に植民に適した惑星「ケイロン」を見つけ、 植民を開始したとの知らせが入った。 それを受け、大規模な移民船がケイロンヘ向かうが、 船からの通信に対するケイロン側からの受け答えは何か勝手が違う。 地球の流儀とケイロンの流儀が出会うとき、いったい何が起こるのか?

インフィニティ・リミテッド” へ至る道はこの辺からあったのか^^;、という感じでした。 最後はお約束のドンパチです (ホーガンって結構このパターン多いぞ)。 お約束といえば、もう一つ、気合いの入った空想物理理論ですが、 やっぱりいいですねー。 これでこそホーガン。

原題“Voyage from Yesteryear” を“断絶への航海” と訳したのはなかなか見事ではありますが、ちょっと意味を掴みづらかったです。 (6/9)


“都市” クリフォード・D・シマック (ハヤカワSF)

1953年度国際幻想文学賞授賞の古典的名作。 今から 10000 年以上経った未来、地球の主役は犬になっていた。 まず、都市が消え、やがて人間はどこかよその世界へ去り、 そして人間の残したものもどこかへと消えていたのだ。 犬たちの、「人間の思い出」も消されたはずであった。 しかし、人間が言葉の能力を与え、 独自の世界を築くようにと託された犬たちの間には、 「人間」の伝説が神話のごとく残っていた。 犬の子孫たちは「人間は実在したのか?」を侃侃諤諤する。 これは、その一連の物語たる伝説を集めた書物である…。

人類の命運などで納得のいかない^^;点もありますが、 全体としてよくまとまった、よいお話だと思います。 犬たちの中ではエベンザーが一番可愛いかな。 犬好きな人にお薦めの本かもしれません。 (5/30)

ワンポイント

気持ち良く(?)眠ってたところを起こされて訊かれる質問がそれかいっ! ^^;;;


“銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ” 大原まり子 (ハヤカワJA)

このページでは (レイ・ブラッドベリ原作の萩尾望都の漫画宮沢賢治を除くと) 初めての日本人作家による本。 たまには日本人のも読んでみようかと思って、 あまり期待せずに読んでみました。 で、感想は…やっぱり、いまいち。 SF っぽいロケーションやガジェットは幾つか出てくるんだけれども、 詰めもなく、それが単に飾り (それもそれぞれが独立した飾り) だけに留まっているような感じで、 全体としての SF らしさはほとんど感じられませんでした。 センス・オブ・ワンダーも欠けているような。 アイデアは結構よいものもあると思うのですが、その先が無い気がするのです。 この本は短篇集ですが、 メインの登場人物の性格がほとんど似通っているのも気になるところです。 (5/19)


“旅立つ船” アン・マキャフリー & マーセデス・ラッキー (創元SF)

名作“歌う船” の世界での物語、 第二弾です。 正確な年代は判りませんが、船の番号から推測するに多分「歌う船」 ヘルヴァの時代から数十年経った頃でしょう。 昔は生まれてすぐに入らなければ不可能だった殻人プログラムに、 突然謎の病に襲われ全身が麻痺してしまったとても利発な 7才の少女が再起を懸けて入ります。 自分が病に襲われた地、謎の古代遺跡の源流を辿りたいという夢と、 いつの日か自力で原因を突き止めようという決心とを秘めて、 彼女は頭脳船に生まれ変わり、そして心強い相棒を得ます。

歌う船” のインパクト、 密度にはかないませんし、話の作りとしてもやや単純 (あと前半に比べて後半が雑な気がする) ですが、 この世界の魅力は溢れ出ている感じがします。 しかし、何はともあれ技術の進歩とは凄いものです^^;。 (5/15)

ワンポイント

おーい、疫病の話も忘れるんじゃないぞー。


“世界の果てまで何マイル” テリー・ビッスン (ハヤカワSF)

赤い惑星への航海” を書いたテリー・ビッスンのファンタジー。 アメリカの田舎で修理工として暮らす、 時の果てから来た魔法使い、トーキング・マン。 一人娘と暮らしていたが、ある日、謎の女に襲われ、そして失踪してしまった。 残された娘と、失踪のとばっちりで車を奪われた学生とでトーキング・ マンの行方を追い始めるが、 それは世界の果てへの長い長いドライブの始まりだった…。

いわゆるロード・ムービーのようなお話です。 こういうのって、出てくる土地に馴染みがあればもっと楽しめるんだろうなぁ。 “赤い惑星への航海” と同じで、 細かなところも気が利いていて、話としてもなかなか面白いけれども、 「おお、これは」という感じはそれほどしませんでした。

冒頭の節はなかなか格好良いです。 読み終ってからもう一回見直すと、意味もよく解ります。 (5/8)


“メイキング・オブ・2001年宇宙の旅” ジェローム・アジェル 編 (ソニー・マガジンズ)

言わずと知れた SF 映画の金字塔、スタンリー・キューブリック監督の “2001年宇宙の旅” (小説版の紹介はこちら) に関するさまざまな資料、論評を集めた本。 原著は映画公開の2年後、1970年に出版されて評判が良いので、 いつかは原著でもいいから読もう、と思っていたのですがようやく邦訳されました。 映画と同じように(?)、 一見不愛想にいろいろなものが詰め込んである感じがするかもしれませんが、 映画を観て、この本を見てからもう一度観ると、また違った発見ができそうです。

ところで、どうでもいいけどこの本、誤植が多いぞ。 特にダッシュが長音記号になってたりするのは出版物としてかなり恥ずかしいぞ。 (5/3)


“ゴールド −黄金−” アイザック・アシモフ (早川書房)

アシモフが亡くなる直前に書いた短篇小説の数々 (“ファウンデーションの誕生” が遺稿かと思っていましたが、あちらは「最後の長編」のようです) と、 雑誌やアンソロジーの巻頭言として書かれたエッセイからなる作品集です。 短篇にはショートショートもあります。 そうそう、おまけ(?)として “アザゼル” シリーズの話も一篇、読めます(^_^)。

いずれもアシモフらしく面白いのですが、 この本の中で光輝いているのは何といっても、 “キャル” と表題作“ゴールド −黄金−” でしょう。 この二作品とあともう一つの作品では、 アシモフが作家としての自分の分身を作中に登場させています。 “キャル” は作家になりたいロボットの話です。 というと“聖者の行進” 所収の“バイセンテニアル・マン” を思い浮かべますが、ちょっと違います。 “ゴールド −黄金−” は、一見、映像化不可能に見える SF 作品 (この作品、個人的には大好きなのですが、 周りにそれに同調してくれる人がいない…) を、 コンピュータを駆使した映像ドラマ (コンピュ・ドラマ) で映像化を実現させようとする話で、 アシモフ本人の夢が語られている感じがします。 これはまさに黄金なる夢、こんなコンピュ・ドラマができたらそれは アシモフにとっても、SF ファンにとっても、いやきっと人類にとっても 黄金なる遺産と言えそうです。

エッセイにはアシモフの他の作品が登場しますし、 短篇でも、他の作品を知っているとより楽しめるものもあります。 できれば、アシモフの作品を幾つか読んでから読んだほうがよいでしょう。 アシモフの作品をたっぷり読んできた人は、当然、これも読むべきです。 (4/23)


“魔法の猫” ジャック・ダン & ガードナー・ドゾワ 編 (扶桑社ミステリー)

“猫” が中心を占める話を集めたアンソロジー。 SF、ファンタジー、ホラー (スティーヴン・キング作も!) など 17 篇が収録されています。 恐い猫、頑張る猫、可哀想な猫などが登場します。 僕は別に猫好きでも何でもないですが、やはり犬ではこうはいかないだろうなぁ、 という気はします。 「“猫” という文字を見るのも嫌」という人でなければお勧めできそうです。

SF は、有名なコードウェイナー・スミスの“鼠と竜のゲーム” をはじめとした 4篇ほど(ル・グィンのはカウントしようかどうしようか)。 シルヴァーバーグ&ギャレットの SF ミステリ“ささやかな知恵” もなかなか面白いです。 (でもこの短篇の原題の“A Little Intelligence” って“ささやかな知恵” と訳すとちょっと違うよなぁ^^;)

SF というよりファンタジーの作品ですがフリッツ・ライバーの “跳躍者の時空” も凄いです。 (4/15)


“ナイトサイド・シティ” ローレンス・ワット=エヴァンズ (ハヤカワSF)

惑星エピメテウスは発見当初、潮汐平衡で自転が止まっていると思われていた。 そして、人々は放射線の降り注ぐ昼側を避け、夜側に街「ナイトサイド・シティ」 を作った。 だが、エピメテウスはまだごく僅かずつ自転していた。 「ナイトサイド・シティ」はやがて日の出を迎えるのだ。 夜が明けてしまえばもう街では暮らせないし、もはや街に何の価値もない。 街の人々は皆それを知っている。

それなのに、街で最初に陽を浴びるスラム街の土地を買い占めている奴がいる。 いったい誰が何のために? 立ち退かされようとしているスラム街の住民から依頼を受けた探偵、 カーライル・シンが調べていくうちに判明したのは…。

SF ハードボイルドです。 僕は普通のハードボイルドは読んだことはないので、 ハードボイルドとしての出来がどうなのかはよく判りませんが、 SF としては充分なできでしょう。 充分に楽しめました。 サイバーパンクっぽいガジェットが出てきながらも、 ほとんどそっち方面には走らないところもよいです。 (2/19)


“獣の数字 (1〜3)” ロバート・A・ハインライン (ハヤカワSF)

空間も時間も宇宙さえも自由に行き来できる装置を発明した科学者。 そのせいで彼は異星人に命を狙われ、車は爆破されるし隠れ家は核爆撃される。 もはやこの宇宙は安住の地ではない、と家族とともに「安住の地」 を探して多元宇宙をさまよう。

主要人物は “愛に時間を” 的ないい人かつとても優秀な人たちで、 追われている立場とはいえ非常にのんびりと話は進みます。 で、第三部以降はぶっ飛んだ話になっていきます。 というわけで、ストーリーを期待して読んではいけません。 “愛に時間を” (この“獣の数字” は、最低限 “愛に時間を” を読んでから読むべきでしょう) などの作品や雰囲気が好きな人が楽しめるエンターテイメントです。 (2/11)


“バーチャライズド・マン” チャールズ・プラット (ハヤカワSF)

うーん、読み終って不愉快に思ったのは久々だなぁ。 以下、ややネタばらしを含みますのでご注意下さい。 前半 (第一部) はけっこう面白く読めたんですが、ゴットバウムやフレンチの 絵に描いたようなマッドサイエンティストぶりが気に掛かります。 で、後半はそのマッドサイエンティストが自分の支配する身勝手な帝国を 結局作ってしまってそれで世の中薔薇色さ、というだけだし…。 自分をバーチャル化することの是非はともかく、あんな世界、絶対にやだぞ。 (1/23)


“時間飛行士へのささやかな贈物” フィリップ・K・ディック (ハヤカワSF)

ディックの短篇集です。 人間とは何か、人間らしさとは何か、人間ではないとはどういうことか、 というのが根幹にあるテーマのようです。 収録作品の中では“自動工場” と“ベニー・セモリがいなかったら” が気に入っています。 表題作は「タイトルからはもうちょっと心暖まる話を期待したのにー」 という感じでした^^; (1/17)

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here