SF読書録
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1995年以前 (3)

“故郷から 10000光年”ジェームズ・ティプトリー, Jr.
“神々自身”アイザック・アシモフ
“メトセラの子ら”ロバート・A・ハインライン
“愛に時間を”ロバート・A・ハインライン
“わたしはロボット”アイザック・アシモフ
“宇宙のランデヴー”アーサー・C・クラーク
“ブラッド・ミュージック”グレッグ・ベア
“アイヴォリー”マイク・レズニック
“重力の使命”ハル・クレメント
“猫のゆりかご”カート・ヴォネガット, Jr.


“故郷から 10000光年” ジェームズ・ティプトリー, Jr.(ハヤカワSF)

ティプトリーの第一短篇集です。 デビュー作、“セールスマンの誕生”も含まれています。 全部が全部ではありませんが、主なテーマは、ずばり 「望郷の想い」。 宇宙を考えると、故郷までは距離的にも時間的にも桁違いの遠さがあり得ます。 故郷には、どれだけ離れていようとも、「這ってでも」帰りたいことだってあります。 “故郷へ歩いた男”。彼はどこから歩いて帰ろうとしたのか?

他にも、ティプトリーの最高傑作とも言われる “そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた” (このタイトル、意味深です) や、 ティプトリーにしては信じ難い(?)ファンタジー“ドアたちが挨拶する男”、 じわっと恐怖が伝わる“ヴィヴィアンの安息” など名作の目白押しです。


“神々自身”アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

ある日、存在し得ない (半減期が短いのでそんなに存在しているはずがない) 同位体が発見された。 それは、どうやら物理法則のとある定数が違う並行宇宙から、 何者かがこちら側のありふれた元素 (しかし、あちら側ではやはり存在し得ない) と交換することによりもたらされたようだ。 並行宇宙からやってきた同位体は、こちらの宇宙の物理法則に馴染むにつれ、 放射線の形でエネルギーを放ち、無害な安定した元素に変わっていく。 そして、こちらにあった元素も向こうではエネルギー源になるようだ。 これで、人類とあちら側の生物はともに無害で無限のエネルギーを手に入れた!

しかし、そこには落とし穴が存在した。 それを見つけた科学者は警告を発しようと努力するが、 たっぷりとしたエネルギー源を得てしまった人々は、 それを失いたくはないがためにその警告を認めようとしない。 向こうの世界でも誰かが警告を発しようとがんばっているらしい…。 だが…。

三部構成で、第一部が地球、第二部は向こう側の世界、 第三部が月を舞台とした話となっています。 中でも、第二部の向こう側の世界の生物の話が凄いと思います。 余韻も残ります。 一気に読まずに、一部ずつ読んで楽しむとよいかもしれません。


“メトセラの子ら”ロバート・A・ハインライン (ハヤカワSF)

昔、まだ若いながらも寿命で死ぬ運命にあることを悟った男が、 長寿の研究のための財団を残した。 やがて、その財団の尽力により長寿の家系の人々が見つけ出され、 長寿の一族を形成するに至った。 その存在は世間の目からは隠されていたが、やがてばれてしまい、 彼ら (ハワード・ファミリー) は迫害を受ける身となった。 ハワード・ファミリーのひとり、 ラザルス・ロングは建造されたばかりの宇宙船を奪い、 ファミリーを引き連れて地球を脱出し、 人類初の恒星間飛行で安住の地を探そうとするが…。

この後、幾つかの物語に登場するラザルス・ロングが初登場する話です。 ラザルス・ロングは多分ハインラインが一番気に入っている理想のキャラクタでしょう。


“愛に時間を (1〜3)”ロバート・A・ハインライン (ハヤカワSF)

メトセラの子ら”の続編です。 続編といってもかなり時間が経っています。 しかし、ラザルス・ロングはまだまだ元気…かと思いきや、 いい加減疲れたからもう死んでしまおうか、と考えていたりします。 そこを無理矢理、現在のハワード・ファミリーの臨時議長 (臨時じゃない議長は当然、ラザルス) に救い出され、 ファミリーのために知恵を貸してくれと頼まれます。 あまり乗り気ではないラザルス、 「我長い人生でも体験したことのないようなことを体験させてくれること」 という交換条件を出します。 そして、ラザルスは長い人生で経験したさまざまなことを語って行く…。

臨時議長のアエラ、 そのコンピュータのミネルヴァなど味のある登場人物、 そして途中に織り込まれるラザルスの昔話が楽しめます。 「ハインライン、理想の世界を語る」という趣でもありますが。 他の短篇のキャラクタの話がちらっと出てきたりするので、 短篇集などを読んでいると、にやっと出来るところもあるでしょう。


“わたしはロボット”アイザック・アシモフ (創元SF/ハヤカワSF (ハヤカワ版は“われはロボット”))

アシモフの、ロボット (陽電子頭脳を持つロボット) に纏わる (初期の) 短篇を集めたものです。

かの有名な「ロボット工学の三原則」 (その内容は本書をお読み下さい ^^;)。 この単純な三つの原則をさまざまな状況で考察するとさまざまな物語が生まれます。 まだ喋れない、子守専用のロボット「ロビィ」から、 世界の安定と秩序に頭を痛めるロボットまで、 スーザン・キャルビン博士の案内で見ていくことが出来ます。 これより後の SF でのロボットのあり方を変えた作品群です。


“宇宙のランデヴー”アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

ある日、太陽系内に巨大な人工物体が入ってくるのが発見された。 “ラーマ”と名付けられたそれは、どうやら宇宙船のようなものらしい。 軌道を計算すると太陽を使って方向転換&加速するだけのようだが…。 通信にも応答しないし、特に乗員がいる気配はない。 地球の存在を気に掛ける風でもない。 では、ちょっと押しかけて内部を調べさせて頂きましょう…。

特に大事件が起こるわけでも (いや、ラーマがやってきたのは大事件ですが^^;)、 大発見をするわけでもなく、静かに探検は進みます。 この静かさ、いかにもクラークらしいな、と思います。 そしてこの静かさが最後の余韻を引き立てます。

続編も出てはいるのですが、この余韻を楽しみ、 そのままにしておくために読まないようにしてます (続編の評判はさほど良くないというのもありまして…)。 読んでみれば、その気持ちは理解して頂けることでしょう。


“ブラッド・ミュージック”グレッグ・ベア (ハヤカワSF)

白血球を改良し、多数集めると知性的な行動をするようにする、 という研究を行なっていた科学者が、 その研究を中止しろとの圧力を受け、 思い余ってその白血球を自分に注射し、持ち出そうとする。 しかしその白血球は科学者の思いも寄らないほどの可能性を秘めていた。 人類が人類のままでいることが危うくなるほどの。

クラークの “幼年期の終り” と比される作品。 でも個人的には “幼年期の終り” のほうが好きだなぁ。


“アイヴォリー −ある象牙の物語−”マイク・レズニック (ハヤカワSF)

史上最大の象牙、キリマンジャロ・エレファントの象牙。 銀河暦6303年、三千年以上行方知れずとなっているそれを探して欲しい、 という男が調査局にやってきた。 調査局のロハスは少ない手がかりからこの象牙の運命を辿っていく。 その運命の中、象牙の前で繰り広げられるドラマを垣間見ながら。

それぞれのドラマのいい場面が次々と繰り広げられる、 考えようによってはちょっと卑怯かもしれない^^; 物語。 でも、それでちゃんと一連の叙事詩になっていて、おおいに楽しめます。


“重力の使命”ハル・クレメント (ハヤカワSF)

とても重力の強い惑星の住人はどんな感じか? というハード SF です。

とある星系の惑星メスクリンは、巨大な、高速で回転する楕円体の惑星で、 重力は赤道付近で 3G、極地方では 700G 近くにも達する。 この極地方に着陸させた人類の無人探査機が故障して回収できなくなってしまった。 そこで、人類はこのメスクリンに住む知的生物 (極地方にも耐えられるが、 普段はもっと赤道寄りに住んでいる) に捜索、修理を依頼した。 彼らの見ている世界、文化、仕事ぶりはどんなものなのか?

当然、彼らはひらべったいです。二足歩行なんてとんでもないです。 彼らの体長は 40〜50cm ほどですが、ちょっと赤道から離れると、 わずか数cm の高さからの落下が命取りになります。 そして、あまりの重力の強さで景色も歪んでいますから…。 後は読んでのお楽しみでしょうか。


“猫のゆりかご”カート・ヴォネガット・ジュニア (ハヤカワSF)

これは何というんでしょうか。 カリブ海に浮かぶ小さな島国のヘンな宗教、ボコノン教の話というべきか、 変な氷、「アイス・ナイン」 (この辺だけ、ちょっと SF。 でも融解熱を考慮してないんで SF といいきるには遠過ぎ) に纏わる話というべきか、世界の終末の話というか。 ボコノン教の教典は、いきなり「本書には真実はいっさいない」と語り、 罪のない嘘を生きるよすがとせよ、と諭します。 独特の、滑稽な、脱力感のような雰囲気の漂うヘンな話、です。

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here