辞書に見る誤訳


 英語など語学には辞書は必要不可欠な物といえます。辞書を使わずに英文を読む訓練など時に必要でしょうが、英語を学習するのに英和辞書を使ったことのない人などいないでありましょう。
 当然の事ながら、辞書は多くの識者の方々によって編集されています。それに文句をつけるというのもおこがましいのですが、あえて言うのなら 無理に日本語にしているために不自然な訳になっているように見られる場合が結構あるように思います。
 日本語と英語というのはその文化 あるいは基盤となる思想からして違うものです。日本語にない表現を日本語に訳そうとすれば無理があるのは当然のことですが、あえて日本語に訳した結果 本来の意味とずれて理解されている場合があるのではないでしょうか。
 辞書をひくと、重要な単語ほどいくつもの意味が羅列されています。たいていは第一義から覚え、勉強が進むとそれに続くいくつもの意味に共通するイメージを理解しようとするのではないでしょうか。単語によっては「本来の意味」が解説されていて 理解の助けになってくれる場合もありますが、そんな単語は辞書の中でもごく少数ですし 辞書によってはそういった解説が全然ないものもあります。
 そこで、単に意味が羅列されていると そのまま覚えることが多くなりがちですが、これだと英文を訳して読む場合にはある程度有効でも 自分から英語で表現しようとした場合になかなかその単語を使いこなせません。これはその単語を記号的に覚えているためにその意味を真に理解していないからではないでしょうか。
 上記の事柄は辞書に限りません。例えば英語の受験勉強の定番だった(今も?)「試験に出る英単語(通称シケ単)」というのがあります。あれなどは記号的暗記の典型だと思います。
 私自身は受験勉強の時にシケ単をやろうとして1ページで挫折しました。その理由は第一に暗記が苦痛だった。第二にすぐ忘れるからでした。余談ですが、私の古い友人は「あれやるとAで始まる単語は良く知ってるんだけど後の方になるほど知らなくなる。」と言っていました。結局私は「単語はそれだけを覚えるよりも英語の文章を読んで、その中で理解するようにしよう」と考え、単語だけの勉強というのは一切しませんでした。とはいえ、少しはしたほうがよかったのでしょうか。現在は語彙数を増やす必要性を強く感じています。
 さて、辞書の誤訳の一例ですが

・marry : 〜と結婚する(他動詞)

実際の文章では "Will you marry me?" など目的語を伴う為に「〜と」とか(他動詞)とかいった解釈がされているのでしょう。が、そもそも単語を覚える時に「これは自動詞、あれは他動詞」などという覚え方をするでしょうか。辞書の「〜と」という部分まで細かく覚えられればいいのですが、なかなか容易ではありません。
単純に marriy = 結婚する と覚えた人が「彼は彼女と結婚した」を英文にしようとすると He married with her. といった誤文が生まれることは容易に想像できます。
この場合、日本語の「結婚する」という言葉と英語の marry では言葉の本来の意味に違いがあると考えたほうがすっきりします。私は marry をあえて日本語にするとしたら「妻にする(夫にする)、妻(夫)を迎える」くらいがいいのではと思っています。
 別の例ですが「私が生まれた」の場合

I was born.

昔、何かの雑誌にあったのですが、英語を習った中学生がこの英文を見て「I was born ていうのは受動態なんだ。自分から生まれてきたんじゃないんだ。」とショックを受けた気持ちが書いてありました。日本語であえて受動態にすると「生まれさせられた」とでも言うのでしょうか。こんな言い方しませんからなんとも不自然に感じますね。
この例などは英語と日本語の思想の違いを表しているように思います。日本語ではその根本に輪廻転生の思想があり、魂がこの世に肉体を伴って現れた という意味があるのではないでしょうか(単なる私の想像ですが)。普段そんな意味を意識して「生まれた」と言う人もそういないとは思いますが。
では英語は?。多分英語では 命を授かる という意味で用いられているのでは、と思います。

 いずれにしろ辞書を利用する場合には、誤訳というのは言い過ぎかもしれませんが、そこに載っている意味が100%ではないということを心しておく必要があると思うのです。

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