お砂の発案で、小助は女の子の変装をすることになりました。いや、もともと女の子ですから、女の子の恰好に戻る、というほうが正確でしょう。
お砂が持ってきた女の子の衣装を見て、鮭次郎と常太郎は目をむきました。
「おいおい、なんだこの着物は」
「なんでも南蛮で、公家とか大名とかの屋敷に仕える、はした女の着物だそうよ」
「なんだってこんなところにひらひらがついてるんだ」
「よくわかんないけど、裳のかわりじゃない?」
「こんな変なひらひら兜をかぶるのか」
「被衣のかわりかしらね」
「まあいいや。とにかく着せてもらいな」
「なに言ってんのよ」
お砂は鮭次郎の意見を一蹴しました。
「まず身体をきれいにして、髪を結って、化粧をするのが先よ。あんたら男は出てっておくれ」
やがて出てきた小助を見て、ふたりはまた目をむきました。
「ま、馬子にも衣装とはよく言ったもんだ」
「親爺、失敬だぞ。しかしよくもまあ、ここまで」
「びっくりしたなあ、もう」
身体をたんねんにぬぐって汚れを落とし、顔に薄くおしろいを塗り、唇に淡く紅を落とし、短い髪にかもじを足して振り分け髪に仕立て、黒い繻子の地に白い紗のひらひらがついた南蛮衣装で身を包んだ小助は、まるで南蛮のお姫様のように見えました。
「まあ、あたしの着付けがいいのもあるけど、この娘の地がいいのよ」
恥ずかしがって隠れようとする小助をしっかり掴まえ、お砂は誇るのでした。
「こそこそ隠れるより、堂々と出てったほうが、いっそ気づかれないものよ」
というお砂の主張で、小助は見世物行列の先頭に立つことになりました。
派手に飾りつけた籠や馬車などの行列の先頭で、駱駝に乗った南蛮少女姿の小助が、群がる見物人に引き札をばらまくのです。
「これならまず、誰もあの小僧とは気づくまい」
「まあ、そうだな」
行列の後尾の荷車の中で、親子はそう話すのでした。