見世物小屋(3)

「おまえ、女の子だったのか……」
 鮭次郎はあきれたように小助を見直しました。
「はい」
 小助は正座して答えました。
「さて、どうするか……」
 鮭次郎は腕を組みました。
「ここに隠れていても、そのうち捜しにくるだろう。なんとかしてこの街を出なきゃならんが、たぶん街道にも手が回ってるだろう。うまいこと隠れて出る手が……」
 鮭次郎は煙管に火をつけ、ゆっくりと煙を吸い込みました。その煙を大きく吐き出すと、煙管をぽんと叩きつけ、「よし」とひとりごちました。
「親爺に頼もう。あした行こう。今夜はゆっくりと寝ろ」

 翌朝早く、まだ人影のないうちに、鮭次郎は小助をつれて出ました。
 ふたりは街道からお寺にむかいました。お寺の参道には色とりどりの幟が立てられています。「生人形花魁道中」「遊女高尾艶麗化粧姿」「身投三人娘因果応報」「女土左衛門無惨至極」などという文字が、ぶっとく書かれています。
 境内にはよしず張りの大きな建物が作られ、看板には大きく「生人形」と書いてありました。そのかたわらの看板には、極彩色の下手な絵で、けばけばしく飾り立てた女郎、湯上がりの半裸姿で紅をさす女、腹がふくれあがった水死人などが描かれ、その下には、
「本朝唯一無二の生人形。畏くも京洛にて尊貴の御上覧を仰いだのち、江戸へ戻る途中、絶対に本日のみ開催。婦人と子供の入場を禁ず」
 と、ありました。
 鮭次郎はその横にある、みすぼらしい小屋に近づくと、
「親爺、いるか」
 と叫びました。
「なんだ鮭次か。朝っぱらからなんだ」
 出てきたのは、ぼさぼさの白髪と白黒半分の無精髭で顔を覆われ、作務衣のようなものを着込んだ、小柄な老人でした。
「俺の親爺、生人形造りの名人こと、常太郎だ」


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