見世物小屋(2)

 小助は身の上話をぽつりぽつりと話しだしました。
 鮭次郎から人形を買って折檻された日から、飯盛女の濃紫は小助に色目を使うようになりました。
 そして三日後の晩、ついに少年趣味の年増女郎は、小助のもとに夜這いをかけたのです。べったりと白粉を塗り、赤い肌襦袢ひとつという姿で屋根裏に忍んでいった濃紫は、すっかり綿の抜けた煎餅布団にくるまって熟睡している小助を、布団ごと抱きしめました。
 屋根裏部屋で寝ているところを、いきなり白粉臭い年増に抱きすくめられ、顔をべろべろ舐め回された小助は、びっくりしてはね起きました。しかし、それ以上に驚いたのは濃紫です。
 なにしろ、少年だとばかり思って夜這いをかけた相手が、少女だったのですから。

 濃紫にも夜這いという弱みがあるので、その晩は大騒ぎになることはなく済みました。しかし、次の日からなにかが変わりました。
 表向き小助の扱いは変わりませんでした。けれども女将と濃紫は、なにごとかひそひそと話しているのでした。そして夜になって小助が屋根裏部屋へ上がると、梯子が外され、下に降りられないようにされるのでした。
 それから数日たった夜。小助はふと目を覚まし、喉がかわいたので水を飲もうとしました。しかし梯子はありません。やむなく小助は、屋根から外に出て、梁をそろそろと伝い、下に降りました。
 外の井戸で音のしないようにこっそり水を汲み、飲んだ小助は、宿の一階にまだ灯りがついているのに気づきました。女将と濃紫は酒を呑みながら話しているらしく、ひそひそ話のつもりが、つい声が大きくなっているのでした。
「……あの子はけっこう上玉だよ。横山の飯盛宿どころじゃない。吉原にだって売れるかも……」
「こんど、江戸見物とだまして連れ出したら……」
「問題はあの恰好だね……」
「なに、ああいう陰間っぽいのが好みの客もいるよ……」
「しかし、いいのかい……預かった人のほう……」
「なに、死んだとでもごまかしゃ……」
 それだけ聞けば充分でした。小助はこっそり屋根裏に戻ると、翌日、お使いに出たときに逃げ出したのです。


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